
山口県は2026年7月16日~18日、ANAあきんど株式会社(以下「ANAあきんど」)とみらいワークスと共同で地域課題解決をテーマにした実践型プログラムを開催しました。山口県長門市の俵山温泉を舞台に、参加企業が3日間にわたって温泉地ならではの課題解決に挑みました。
山口県とANAあきんどは現在、山口型ワーケーションの推進として関係人口創出に向けた取り組みを進めています。その一環として、みらいワークスと「山口県の地域事業共創プログラム」を推進しています。このプログラムは山口県の企業や人と都市部の企業や人を結びつけ、双方にメリットのある事業を立ち上げることで関係人口の拡大を図るものです。
2026年度の第1弾は、都市部の企業が俵山温泉の課題解決策を考え、プレゼン大会で地域の事業者へ提案するもので、俵山温泉を舞台に開催されました。事業プランの提案を通じて、新たなビジネスチャンスがうまれます。
本プログラムは都市部に拠点を構える企業と地域をつなげられるのが特徴で、エントリーした企業や参加者、地域それぞれにメリットが見込まれます。エントリーした企業はリアルな地域課題解決に取り組み、自社の新規事業や販路につながるだけでなく、 自社単独では得られない現場のニーズや課題解決を通して、新たなビジネスモデルの構築や地方創生に貢献する企業価値の向上を図ることができます。 参加者にとっては自らのスキルを地域課題解決に生かすことで、キャリアの自律や事業構想力を磨けるのが利点です。地域にとっては、企業が持つ専門的な知見を課題解決に生かせ、県外企業との共創による関係人口拡大も見込めます。
本プログラムを運営するみらいワークス ソーシャル・デザイン部の佐竹謙一氏は、「プログラムに参加した企業の役割は単なる外部からの提案者にとどまらない。自分事として地域の課題に真剣に向き合えるのが本プログラムの特徴であり醍醐味だ」と強調しました。
ANAあきんど 地域創生部 地域振興チームの宮川愛実氏は、「地元のさまざまな事業者と課題に向き合うことができるのが本プログラムです。私たちの強みは、現地に根ざして人と人をつなぐことです。キーパーソンや地域の受け入れ体制を見極めて双方をつなぎ、私たちが去った後も地域にプログラムの仕組みや関係性が残るような、持続可能な体制を構築していきたいと考えています」と話しました。
山口県総合企画部 中山間・地域振興課の渡邊太郎氏は、「私たちの部署では移住促進に取り組んでいますが、移住そのもののハードルは高く、一足飛びに実現するのは困難です。そのため、まずは関係人口を創出し、山口県に関わっていただく方を増やすことから始めています。このプログラムは、首都圏で多様な知見を持つ方々と地域をつなぎ、双方にとってメリットのある関係を築く場です。参加者には課題解決を通じて業務へ還元してもらい、地域は外部の知見を活性化につなげる。こうした循環が、地域活性化や関係人口の拡大につながると考えています」と述べました。

地域との対話から見えた俵山温泉の課題
今回のプログラムには、ANAシステムズ株式会社やテルモ株式会社などから6名が参加し、初日に温泉街散策等で現状を把握し、2日目には空き旅館への訪問やビジネスプランの策定を行い、3日目のプレゼン大会に臨みました。
舞台となった俵山温泉(山口県長門市)は、約1200人(約500世帯)が暮らす県内陸部にある温泉地。近年は湯治客や観光客の減少、空き旅館の増加、高齢化や後継者不足などの課題が顕在化していました。
そこでプログラムの初日は、オリエンテーションと温泉街の散策を実施。温泉施設や商店街、空き旅館などの現状把握に努めました。夜の懇親会では地元住民や複数の事業者と交流し、参加者からは「空き旅館が増えているリアルを感じた」「活気ある温泉街を作りたい総意がある一方で、複雑な現状を受け止める必要がある」といった率直な気づきが聞かれました。
2日目は、実際にいくつかの空き旅館を訪問し、現地でしか分からない課題や状況を肌で感じた上で、ビジネスプランを整理しました。また、地元の事業者とのディスカッションも実施され、参加した地元事業者からは「これまでも地域振興に取り組んできたが継続的な取り組みに昇華させられなかった。現状を打破する事業プランに期待したい」との声が上がりました。地元の事業者とさまざまな意見やフィードバックを参考に、アイデアのブラッシュアップを重ねました。

都市部の企業と地域が本気でぶつかり合った白熱のプレゼン大会
3日目は、企業の参加者6名が事業プランを発表するプレゼン大会を実施。各自15分間の持ち時間を使い、考え抜いた事業プランを発表しました。その中から、3名のプランを紹介します。
ANAシステムズ株式会社 緒方成菜氏:交流拠点「ゆあがりラウンジ」の提案
緒方氏は、「人との交流」に着目し、観光客と地元住民が気軽に対話できる交流拠点「ゆあがりラウンジ」の設置を提案しました。
「観光客が地元住民との交流を通じて俵山温泉の現状を知ることで、「自分には何ができるのか」を考える契機になる。この事業プランを実現し、俵山温泉に関心を寄せる関係人口を一人でも増やしたい」(緒方氏)と意図を説明しました。
テルモ株式会社 後藤留理子氏:健康を可視化する「健康ステーション」と企業向けウェルビーイングの提案
後藤氏は「新・湯治」をコンセプトに、働く女性をターゲットにした企業研修施策や、血圧計設置による健康データの可視化を通じたウェルビーイング施策を提案。
「現地の人々に触れ、心身が整う体験をしました。この経験を働く女性にも届けたいですが、個人ではハードルが高いため企業の研修先として利用する仕掛けを考えます。リスキリングなどの学びと温泉を掛け合わせ、都市部との健康の循環を作っていきたい。」(後藤氏)と語りました。
ANAシステムズ株式会社 三谷聡氏:メンタルヘルスケア事業と「恩送り」のエコシステムの提案
三谷氏は、肩書を捨てて自分を取り戻せる湯治場の魅力を生かし、企業の休職予防(未病ケア)や復職支援(復職ケア)を行うメンタルヘルスプログラムと「恩送り」の循環構造を提示しました。
「俵山温泉には社会から切り離されて自分を見つめ直せる時間がある。一度きりで終わらせず、健康を取り戻した人が相談役として戻ってくる『恩送り』の循環を作りたい。本来の自分を取り戻せるこの場所で、地域の方々と共に新しいモデルを実現していきたい」(三谷氏)と話しました。

机上の空論ではなく当事者としてつかみ取った地域課題の解決法
参加者6名によるプレゼン後は、地元の事業者などで構成する審査員がそれぞれの事業プランを評価。独自性や実現可能性、面白さ、地域課題を的確に捉えているかなどの基準に照らして採点し、優れた事業プランを発表しました。その結果、総得点が最も高かったのは、三谷氏が提案したメンタルヘルスプログラムを軸とした事業提案でした。
三谷氏の事業プランを評価した審査員の中には、「3週間程度の湯治で仕事復帰したという成功事例を作れば、他の企業への波及効果を見込める。湯治文化の再興にもなる」や、「行政や地域の医療機関と連携し、企業が安心して社員を預ける体制を明確に示すべき」などの意見がありました。
3日間のプログラムを振り返り、参加者は何を感じたのか。三谷氏は、「俵山温泉の現状や課題の認識は人それぞれだったのが印象的で、現場で直接話を聞かなければ理解できないことが少なくなかった。地域に住む人の熱量や思い、本気度に直接触れない限り、地域の課題を解決できないと感じた」と、現場で受けた印象を語りました。
後藤氏は、「現場が抱える課題や本質的なニーズは、現場でしか見つけられないことが分かった。地域の課題と向き合うなら、現場に赴いて当事者として体感することが大切。この思いを多くの人にぜひ知ってもらいたい」と話しました。
緒方氏は、自分事として向き合うことの大切さに気付けたといいます。「自分事として考えられるようにするには、自分が俵山温泉に住むことを想像し、地元住民の立場で事業プランを俯瞰(ふかん)することで、柔軟で実現可能な事業プランを描けるようになる。3日間を通してこうした気付きを得られたのは、何より代えがたい経験だった」と述べました。
なお、地域課題の解決に挑むこのプログラムは、今年度、山口県内3カ所で実施します。俵山温泉で開催した今回のプログラムは第1弾で、第2弾は山口県萩市で2026年10月15日~17日、第3弾は山口県周防大島町で2027年1月28日~30日に開催する予定です。現地に足を運び、地域の課題解決に挑戦したい企業のエントリーも受付中です。