
Microsoft Copilot Studioの導入を検討する中で、「ローカル環境で完結して使えないか」「オンプレのデータだけは外に出さずに使えないか」と考える情報システム部門の担当者は少なくないと考えられます。社内のセキュリティ部門やコンプライアンス部門から、クラウドへのデータ送信について確認を求められ、正確な回答を用意できずに悩むケースもあります。
本記事では、Microsoft Copilot Studioがローカル環境で使えるのかという結論から、オンプレミスのデータやローカルLLM(自己ホスト型のAIモデル)との接続可否、データの保存場所・処理リージョン、導入形態の比較、そして陥りやすい失敗とその対策までを解説します。
読み終える頃には、Copilot Studioの実態を正確に把握し、社内のセキュリティ部門・コンプライアンス部門への説明や、導入判断の材料として活用できる状態になります。
Microsoft Copilot Studioとは
Microsoft Copilot Studioは、プログラミングの知識がなくても、対話型のAIエージェント(会話を通じて問い合わせに答えたり、業務の一次対応を行うAIの仕組み)を作成・公開できる、Microsoftが提供するクラウドベースのローコード開発ツールです。Webブラウザから専用のポータルにアクセスして利用する、Microsoft 365やAzureのクラウド基盤上で提供されるサービスであり、この前提が次章で解説する「ローカルで使えるか」という疑問に直結します。
出典:Microsoft Learn「Copilot Studio の概要」
Microsoft Copilot Studioはローカル環境で使えるか|クラウドサービスとしての実態
「ローカル」という言葉には、大きく分けて2つの意味が含まれます。1つは、Copilot Studio自体を自社PCやオンプレサーバーだけで完結して使えるかという点。もう1つは、社内(オンプレミス)にあるデータや、自社で運用しているAIモデルと接続できるかという点です。以下でそれぞれの実態を順に確認します。
Copilot Studio自体の提供形態|クラウド上で動作するサービス
結論から言うと、Copilot Studioは自社PCやオンプレサーバーに単体でインストールして完結利用するようなツールではありません。Webブラウザから「copilotstudio.microsoft.com」にアクセスして使うスタンドアロンのWebアプリとして提供されており、利用にはインターネット接続が前提となります。完全に切り離されたオフライン環境での動作は想定されていません。

似た名前の「GitHub Copilot」には、ローカルで動くAIモデルとの連携を扱う場面がありますが、本記事で扱う「Microsoft Copilot Studio」は、社内業務向けのAIエージェントを構築するための別のサービスです。検索する際に混同しないよう注意が必要です。
出典:Microsoft Learn「Copilot Studio の概要」
オンプレミスのデータソースへの接続(オンプレミスデータゲートウェイ)
Copilot Studio自体はクラウドサービスですが、オンプレミスデータゲートウェイと呼ばれる仕組みを使うことで、社内のファイルサーバーや基幹システムなど、オンプレミスにあるデータソースと安全に接続できます。
このゲートウェイは、社内のローカルサーバーにインストールして動かすソフトウェアです。Azure Service Busという通信技術を使い、ゲートウェイ側からクラウド側へ接続を確立する仕組みになっているため、社内ネットワーク側で新たに外部からの受信用ポートを開放する必要はありません。データソースへの接続に使う認証情報も、暗号化されたうえでクラウド側に保管され、データへのアクセス時にゲートウェイを動かしているサーバー上でのみ復号される設計です。
なお、コネクタを通じてMicrosoft以外の外部データソースと接続することもできますが、その場合はデータの取り扱いに関する責任がエージェントの作成者側に移る点に注意が必要です。
出典:Microsoft Learn「オンプレミス ゲートウェイについて」/Microsoft Learn「エージェントの機能を拡張する」/Microsoft Learn「Copilot Studio での地理的データ所在地」
ローカルLLM(自己ホスト型モデル)との接続可否
Copilot Studioで構築するエージェントは、応答の組み立て方(どのように考え、どう答えるか)を決める「実行基盤(ハーネス)」という仕組みの上で動作します。ハーネスには「GitHub Copilotハーネス」「標準ハーネス」「Copilotチャットハーネス」の3種類があり、いずれもMicrosoftが提供するものです。ここでの「GitHub Copilotハーネス」は、コード編集支援ツールのGitHub Copilotそのものではなく、Copilot Studio内部で使われる実行基盤の名称である点に注意してください。公式ドキュメント上、これら3つのハーネス以外に、任意の自己ホスト型モデル(ローカルLLM)へ標準機能で差し替えて使う方法は確認できません。
そのため、自社で運用している独自のAIモデルをCopilot Studioの標準機能に組み込む用途は、現時点では想定されていないと考えられます。対応範囲は今後変わる可能性もあるため、独自モデルとの連携を検討する場合は、自社の要件と最新の公式情報を照らし合わせて確認する必要があります。また、仮に何らかの形で自社モデルとの連携を実現する場合は、そのモデルに関するセキュリティ管理の責任が自社側に移る可能性がある点も、あわせて考慮しておく必要があります。
出典:Microsoft Learn「ハーネスを選びましょう」
Microsoft Copilot Studioのデータ保存場所と越境移転|データ主権の観点
「ローカルで完結できないなら、データはどこで処理されるのか」は、セキュリティ・コンプライアンス部門にとって重要な次の論点です。
生成AI機能のデータ処理リージョン
Copilot Studioに保存される顧客データそのものは、契約時に選んだAzureの地理的リージョン内に保存されます。日本のテナントの場合、データは東日本(東京・埼玉)または西日本(大阪)のAzureデータセンターに保存される仕組みです。
ただし、生成AI機能の処理は、通常のデータ保存とは別枠で扱われる点に注意が必要です。日本のテナントでは、生成AI機能を支えるAzure OpenAI Serviceが米国リージョンでホストされる構成になっており、地域間のデータ移動を許可する設定を有効にすると、AIへの入力(プロンプト)や出力(応答)が米国側で処理される場合があります。
出典:Microsoft Learn「Copilot Studio のデータ保存場所」/Microsoft Learn「Copilot Studio での地理的データ所在地」/Microsoft Learn「コパイロット、AIエージェント、および生成AI機能のために、リージョン間でデータを移動する」
越境移転を抑える設定と確認方法
テナント管理者は、Power Platform管理センターの環境設定から「リージョン間でデータを移動する」というチェックボックスを確認・変更できます。この設定を有効にしない場合、データはリージョン外に送信されなくなります。ただし、日本や韓国、ブラジルなど一部の国・地域のテナントでは、生成AI機能を支えるAzure OpenAI Serviceがリージョン内でホストされる選択肢自体が用意されておらず、この設定を有効にしないと生成AI機能の多くがそもそも動作しない仕組みになっています。つまり日本テナントの場合、実質的にこの設定を有効化することが前提になっているケースが多いと考えられます。
なお、Microsoftはこのデータ移動の過程で、入力・出力データのログ記録や保持を行わないとしています。とはいえ、最終的にどこまでの越境移転を許容できるかは業種や取り扱うデータの機密度によって異なるため、自社のコンプライアンス部門・法務と確認しながら判断することが重要です。
出典:Microsoft Learn「コパイロット、AIエージェント、および生成AI機能のために、リージョン間でデータを移動する」/Microsoft Learn「米国以外での Copilot Studio の生成 AI 機能のデータ移動の構成」
Microsoft Copilot Studioの導入形態の比較|クラウド完結・オンプレデータ接続・ローカルLLM接続
ここまでの内容を踏まえると、「ローカル」という言葉が指しうる構成は、大きく3つのパターンに整理できます。自社のニーズがどれに当てはまるかを確認してみてください。
3つの構成パターンの向き・不向き
パターン①は、追加設定なしでそのまま使うクラウド完結型です。最も手軽に始められますが、データの保存・処理はクラウド上で行われます。パターン②は、Copilot Studio自体はクラウドサービスとして使いながら、オンプレミスデータゲートウェイを介して社内データソースだけを安全に連携するオンプレデータ接続型です。社内データを外部に出さずに活用したいというニーズに応えられます。パターン③は、自社ホストのAIモデルとの連携を検討するローカルLLM接続型ですが、前章のとおり標準機能での対応は公式に確認できておらず、検討する場合は個別に技術要件を精査する必要がある構成です。
| 項目 | 提供形態 | データの扱い | 向く企業 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| クラウド完結型 | 追加設定不要の標準利用 | クラウド上で保存・処理 | すぐに試作を始めたい企業 | データ処理リージョンの確認が必要 |
| オンプレデータ接続型 | オンプレミスデータゲートウェイ経由で連携 | 社内データソースは接続時のみ参照 | 社内データを外部に出したくない企業 | ゲートウェイの設置・運用体制が必要 |
| ローカルLLM接続型(参考) | 標準機能としての対応は公式に確認できず | 自社モデル側の要件に依存 | -(標準機能としての選択肢ではない) | 個別の技術要件精査と最新の公式情報の確認が前提 |
Microsoft Copilot Studioをローカル/オンプレ活用する際の失敗要因と対策
「ローカルでできる」と誤解したまま導入・設計を進めると、後から手戻りが生じやすくなります。ここでは代表的な3つの失敗要因と、その対策を紹介します。
クラウド前提を共有しないままの導入判断
症状:オンプレ完結を期待して社内稟議を通したものの、実際はクラウドサービスだと後から判明し、セキュリティ部門への再説明・再承認が必要になるケースがあります。
原因の多くは、導入検討の初期段階で「Copilot Studioはクラウドサービスである」という前提を関係部門に共有していないことにあります。
対策:検討を始める時点で、本記事で示した実態(クラウド上で動作し、オンプレはあくまでデータ接続のみ対応する構成であること)をセキュリティ・コンプライアンス部門と共有し、前提をそろえてから稟議を進めることが重要です。
オンプレミスデータゲートウェイの設定・ネットワーク要件の見落とし
症状:オンプレのデータソースを接続しようとしたところ、ゲートウェイの設定や認証情報の管理に想定以上の時間がかかるケースがあります。
原因として、情報システム部門との連携なしに、業務部門だけで導入を進めようとしていることが挙げられます。
対策:ゲートウェイの導入・運用は情報システム部門と役割分担を先に決め、必要な要件を事前に確認しておくことが有効です。
データ処理リージョンの確認漏れによるコンプライアンス上の懸念
症状:導入後のセキュリティ確認の段階になって、生成AI機能のデータ処理リージョンが自社の基準に適合しているか判断できず、追加の確認作業が発生するケースがあります。
原因は、コストや機能面にばかり注目し、データ処理リージョンの確認を後回しにしてしまうことです。
対策:前章で紹介した設定確認を、導入検討の初期段階で済ませておくことが望ましいと考えられます。
| 失敗要因 | リスク | 対策 |
|---|---|---|
| クラウド前提を共有しないままの導入判断 | セキュリティ部門の再承認で稟議が長期化 | 検討初期にクラウド前提を関係部門と共有する |
| オンプレミスデータゲートウェイの設定・ネットワーク要件の見落とし | 接続作業が想定以上に長引く | 情報システム部門と役割分担を先に決めておく |
| データ処理リージョンの確認漏れ | コンプライアンス基準への適合が事後に判明する | 検討初期にデータ移動設定を確認しておく |
Microsoft Copilot Studioの導入支援は「フリーコンサルタント.jp」へご相談ください
Copilot Studioがクラウドサービスであり、オンプレ接続やデータ処理リージョンといった論点まで正確に理解できても、「自社のどこまでを許容できるか」「セキュリティ部門にどう説明するか」を一人で判断するのは容易ではないと考えられます。特に、データの機密度に応じた許容範囲の線引きや、オンプレミスデータゲートウェイの設計、社内のどの部門が推進を担うかといった論点は、専門知見がないまま自社だけで整理しきるのが難しいケースも多いと考えられます。
導入を検討する際は、①自社データの機密度とデータ処理リージョンの許容範囲の整理、②オンプレデータ接続が必要な範囲の見極め、③セキュリティ・コンプライアンス部門への説明材料の準備、④推進体制の役割分担という4つの論点を、着手前に整理しておくことが重要です。ここを自社の担当者だけで抱え込むと、専門知識を持つ人材の確保に時間がかかり、検討が長期化する可能性があります。
フリーコンサルタント.jpでは、事業会社やコンサルティングファームでの実務経験を持つプロ人材を、必要な期間だけ活用できます。上流のセキュリティ・データ要件の整理から、AIエージェントの構築・システム連携の設計、社内担当者へのノウハウ移転までを一気通貫で伴走支援できる点が特長です。Copilot Studioの導入を検討する段階から、外部の専門知見を取り入れる選択肢として、ぜひご相談ください。
フリーコンサルタント.jpによるAI導入支援の事例
フリーコンサルタント.jpでは、Copilot Studioのようなツール単体の導入に限らず、AI・DX活用の推進そのものを支援した実績があります。ここでは、社内に専門人材が不足していた企業の支援事例を紹介します。
事例①|大手飲食業界企業:需要予測・発注レコメンドAIの開発支援
200店舗以上・400品目の発注業務を店舗担当者の経験と勘に頼っており、業務が属人化していた企業の事例です。データサイエンティストなどのAI活用の経験者が社内に不足し、AIの本格運用に向けたデータ活用の進め方が分からない状態でした。
| 当時の課題 | ・データサイエンティスト・データアナリスト人材が社内に不足 ・店舗ごとの需要予測を複数人が同じ精度で行うことが困難 ・発注業務が現場の勘に依存し、担当者の休暇・退職で業務が滞るリスクを抱えていた |
|---|---|
| 実施したこと | ・店舗ごとの特徴を踏まえた変数を定義し、データを整理 ・PoC(概念実証)を経て、店舗ごとに高い精度で需要予測ができるAIモデルを構築・運用 |
需要予測AIの活用により発注業務の多くを自動化し、店舗担当者が接客などの対応に時間を割けるようになりました。
事例②|大手通信キャリア企業:デジタル活用推進に向けたCoE組織の立ち上げ支援
業務効率化を目的に、複数部門の知見を集約する専門組織(CoE=Center of Excellence)の立ち上げを決めたものの、組織立ち上げの推進とデジタル技術活用の両方を担える人材が社内に不足していた企業の事例です。セキュリティ・データガバナンスの体制を含め、ゼロから運用の仕組みを構築する必要がありました。
| 当時の課題 | ・デジタル領域の知見と組織立ち上げ経験を併せ持つ人材が社内に不足 ・業務効率化ツールの開発・運用体制をゼロから構築する必要があった |
|---|---|
| 実施したこと | ・CoE組織の立ち上げから全体設計・運用構築・実運用までを一気通貫で伴走支援 ・事業部門への課題ヒアリングをもとにしたツール開発の仕組みを構築し、プロパー社員が自走できる体制へ知見を移転 |
CoE組織の立ち上げと運用の安定化により、業務工数の削減とプロパー社員が主体的に運用できる体制の構築を実現し、外部人材への依存から段階的に脱却しました。
まとめ
Microsoft Copilot Studio自体はクラウド上で動作するサービスであり、自社PCやオンプレサーバーに単体でインストールして完結利用するものではありません。一方で、オンプレミスデータゲートウェイを使えば社内データソースとの安全な連携は可能であり、ローカルLLMとの標準的な接続方法は公式には確認できないというのが実態です。
導入を判断する際は、データがどこで保存・処理されるのか、越境移転の許容範囲はどこまでかを事前に整理し、セキュリティ・コンプライアンス部門と前提をそろえたうえで進めることが、後から手戻りを起こさないための鍵になると考えられます。








