「プロジェクト憲章って何を書けばいいの?」「プロジェクト憲章を作成する意味はあるの?」そう思う方もいるかもしれません。
実は、プロジェクト憲章は、プロジェクトの目的、範囲、ステークホルダーなどを明確にし、新規プロジェクトの成功確率を高める重要文書です。
本記事では、プロジェクト憲章の概要や必要性、そして作成する際に記載すべき7つの重要項目について詳しく解説します。
これからプロジェクトを立ち上げる予定のプロジェクトマネージャーの方は、ぜひ参考にしてください。
また、新規プロジェクトの進め方がわからないと悩んでいる方は以下を参考ください。
1.プロジェクト憲章(プロジェクトチャーター)の定義と役割について
プロジェクト憲章とは、プロジェクトの基本的な枠組みを定義する重要な文書です。
プロジェクトの目的、範囲、目標、主要な関係者など、プロジェクトの全体像が記載されており、関係者全体が共通認識を持つようにさせる役割を果たします。
以下では、プロジェクト憲章の主な役割7つをご紹介します。
①プロジェクトが正式な承認受けた証拠となる
プロジェクト憲章は、組織や経営陣からプロジェクトの正式な承認を受けた証拠となります。プロジェクトマネージャーやチームは、プロジェクトを推進するためのリソースを利用し、活動を開始する権限が正式に与えられます。
②プロジェクトの目的と範囲を明確化する
プロジェクト憲章には、プロジェクトの最終目標やその達成に必要な具体的な活動が記載されています。これにより、プロジェクトチーム全体が共通の目的に向かって一致団結し、プロジェクトの境界線が明確にされることで、範囲の拡大(スコープ・クリープ)を防ぐことができます。
③ステークホルダーの合意形成に使われる
プロジェクト憲章は、プロジェクトに関わる全てのステークホルダーとの間で合意を形成するための基盤です。プロジェクトの目標や期待、制約条件が明確にされることで、関係者間の誤解や期待値のずれを事前にしっかりと予防します。
④関係者の役割と責任を定義する
プロジェクト憲章では、プロジェクトマネージャーをはじめ、各メンバーやその他関係者の役割と責任が明確に定義されます。これにより、誰がどの業務を担当し、どのように連携すべきかが明確になり、チーム全体の効率的な運営が促進されます。
⑤適切にリソース割り当てをする
プロジェクト憲章は、プロジェクトの遂行に必要なリソース(人員、資金、設備など)を公式に割り当てるための基盤となります。記載内容に従ってプロジェクトが必要とするリソースが確保され、計画通りに進められる環境が整うのです。
⑥事前にリスクや制約条件を認識する
プロジェクト憲章には、プロジェクトに関連する主要なリスクや制約条件が記載されることが多く、これによりプロジェクトチームはリスクに対する予防措置を計画し、問題が発生した場合の対応策を準備することができます。
⑦成功基準を設定する
プロジェクト憲章は、プロジェクトが成功したかどうかを評価するための基準を明確にします。この評価基準があることで、プロジェクト完了時にどの程度期待に応えたか、成果を客観的に判断できるようになります。
上記のように、プロジェクト憲章は単なる実施内容の概要をまとめたドキュメントではなく、プロジェクトの成功に向けた全体の青写真として機能し、プロジェクト全体の一貫性と方向性を確保するための重要な役割を果たすのです。
2.プロジェクト憲章と混同しやすい関連文書の役割比較
プロジェクトを行うにあたって、他にもよく利用する用語があり違いを混同しやすいため、以下ではプロジェクト憲章と他の関連文書との違いを詳しく見ていきましょう。
- プロジェクト憲章とプロジェクト計画の違い
- プロジェクト憲章とプロジェクト要旨の違い
- プロジェクト憲章とビジネスケースの違い
プロジェクト憲章、プロジェクト計画、プロジェクト要旨、ビジネスケースの違いを以下の表にまとめました。
項目 | プロジェクト憲章 | プロジェクト計画 | デメリットプロジェクト趣旨 | ビジネスケース |
---|---|---|---|---|
目的 | プロジェクトの承認を得る | プロジェクトの実行計画を詳細化する | プロジェクト計画の要点を簡潔にまとめる | プロジェクトの正当性を示す |
作成タイミング | プロジェクト開始前 | プロジェクト憲章承認後 | プロジェクト計画作成後</td> | プロジェクト提案時 |
内容の詳細さ | 概要レベル | 詳細レベル | 概要レベル | 中程度の詳細さ |
主な記載項目 | 目的 スコープ ステークホルダー スケジュール |
スケジュール リソース リスク管理な |
目標 主要マイルストーン 予算概要 |
問題分析 コスト便益分析 代替案 |
主な対象者 | 管理職 スポンサー |
プロジェクトチーム 関係者 |
プロジェクトチーム 関係者 |
意思決定者 投資家 |
分量 | 1〜数ページ | 数十ページ以上の場合も | 1〜2ページ程度 | 数ページ〜数十ページ | 承認の必要性 | 必要 | 通常不要 (情報共有が目的 |
不要 | 必要 |
3.プロジェクト憲章とプロジェクト計画の違い
プロジェクト憲章は、プロジェクトの基本的な方向性を示す概要文書です。
一方、プロジェクト計画は、プロジェクト憲章にもとづいて作成される詳細な実行計画を指します。
プロジェクト憲章がプロジェクトの「なぜ」と「何を」を定義するのに対し、プロジェクト計画は「どのように」を詳細に記述します。
4.プロジェクト憲章とプロジェクト要旨の違い
プロジェクト憲章は、プロジェクトの詳細な枠組みを定義する公式文書です。
対して、プロジェクト要旨は、プロジェクトの概要を簡潔にまとめた短い文書を指します。
プロジェクト憲章が法的な拘束力を持つ場合があるのに対し、プロジェクト要旨は通常、情報共有のための内部文書として扱われます。
また、プロジェクト憲章には予算やリソースの詳細が含まれますが、プロジェクト要旨にはそこまでの詳細情報は含まれないのが一般的です。
プロジェクト要旨は、プロジェクト憲章の内容を簡潔に伝えるためのツールとして活用されるのが多いでしょう。
5.プロジェクト憲章とビジネスケースの違い
プロジェクト憲章は、承認されたプロジェクトの実行に向けた基本文書です。
一方、ビジネスケースは、プロジェクトの実行可否を判断するための分析文書です。
ビジネスケースがプロジェクトの経済的な実現可能性を評価するのに対し、プロジェクト憲章は既に承認された方針にもとづいて作成されます。
また、ビジネスケースは複数の選択肢を比較検討する内容がありますが、プロジェクト憲章は選択された一つの方向性に焦点を当てます。
ビジネスケースで承認されたプロジェクトの概要が、プロジェクト憲章として詳細に定義される流れです。
6.プロジェクト憲章の合意形成が必要な「関係者」とは?
プロジェクト憲章は関係者間の認識すり合わせや、合意形成を促す役割を果たし、その「関係者」は多方面に渡って存在します。
プロジェクトチーム
まず、プロジェクトチームのメンバーにとってプロジェクト憲章は不可欠です。彼らはプロジェクト全体の目的やビジョン、スコープ、役割、責任、納期、リスクについて明確に理解する必要があります。これにより、各メンバーは自身の役割がプロジェクト全体にどう影響するかを把握し、協力しながら作業を進められます。
利害関係者やプロジェクトの影響を受ける人
次に、利害関係者やプロジェクトの影響を受ける社内外の人々も、プロジェクト憲章を必要とするでしょう。
これらの関係者は、プロジェクトの進行状況や方針を理解し、プロジェクトが自分たちの業務にどのような影響をもたらすのか、事前に把握することが必要です。
プロジェクトを支援するスポンサー
プロジェクトのリソースを提供するスポンサーにとっても、プロジェクト憲章は重要です。スポンサーはプロジェクトが目標を達成するために必要なリソースを提供する立場にあるため、プロジェクトの進行状況を正しく評価しなければなりません。
特に目的、成果物、納期、リスク、期待などには細心の注意を払って目を通します。
プロジェクト管理チーム
最後に、プロジェクト管理チームもプロジェクト憲章を活用します。このチームは憲章に基づいてプロジェクト計画を策定し、進行を管理します。憲章があることで、チームはプロジェクトの方向性や基本的な枠組みを理解し、効果的にプロジェクトを運営できます。
これらの関係者すべてにとって、プロジェクト憲章はプロジェクトの成功に向けた共通の指針となります。
7.プロジェクト憲章が必要な理由
プロジェクト憲章は、プロジェクトの成功に不可欠な基礎文書として機能します。
この文書は、プロジェクトの方向性を明確にし、関係者間の共通理解を促進する、重要な役割を担います。
以下では、プロジェクト憲章が必要とされる主な理由を詳しく解説していきます。
上記の要素を理解すると、プロジェクト憲章の重要性がより明確になるでしょう。
詳細な方向性の擦り合わせ
プロジェクト憲章は、プロジェクトの詳細な方向性を関係者間で擦り合わせる機会を提供します。
この文書を作成する過程で、プロジェクトの目的や目標、期待される成果について話し合いがおこなわれます。
話し合いの場を設けることで、プロジェクトに関わる全ての人が同じビジョンを共有し、目標に向かって進められるでしょう。
また、方向性の擦り合わせは、プロジェクトの初期段階でおこなうと、後々の大きな軌道修正を防ぐことにもつながります。
プロジェクトの方向性の定義は、チームの一体感が生まれ、作業がはかどるでしょう。
コミュニケーションの促進
プロジェクト憲章は、プロジェクト関係者間のコミュニケーションを促進する重要なツールとなります。
重要情報の共有は、チームメンバー間の認識の齟齬を減らし、協働を促進させるでしょう。
また、プロジェクト憲章は、新しいメンバーがプロジェクトの概要を理解するためにも機能します。
定期的にプロジェクト憲章を参照すると、プロジェクトの方向性を常に確認し、ブレのない進行が可能になるでしょう。
リスクの把握と管理
プロジェクト憲章の作成過程で、プロジェクトに潜在するリスクを早期に把握できます。
リスクの特定は、プロジェクトの成功に大きな影響を与える重要な作業です。
認識したリスクとその対応策を記載し、プロジェクト全体でリスク管理の意識を高められます。
早期のリスク把握により、問題が大きくなる前の対処が可能になり、プロジェクトの成功確率が高められます。
リスク管理の徹底は、予期せぬ事態にも柔軟に対応できるでしょう。
8.プロジェクト憲章に記載する7つの項目
①プロジェクトの目的と目標の明確化
プロジェクトの目的と目標は、プロジェクト憲章の重要な要素の一つです。
目的は、プロジェクトが何を達成しようとしているのかを大局的に示すものです。
一方、目標は、その目的を達成するための具体的で測定可能な指標を指します。
目的と目標の明確化は、プロジェクトの方向性が定まり、チームの意識が統一できます。また、明確にすることで、プロジェクトの成功基準を設定でき、進捗の評価も容易になるでしょう。
②スコープの定義
スコープの定義は、プロジェクトで実施する作業の範囲と、作成する成果物を明確にします。
スコープには、プロジェクトでおこなう業務だけでなく、おこなわない業務も明記が重要です。
明確なスコープ定義により、不必要な作業を防ぎ、リソースの効率的な活用が可能になります。
また、スコープの変更が必要になった場合も、この定義を基準にして判断がきます。
スコープの明確化は、プロジェクトの境界線が引かれ、管理がしやすくなるのです。
③成果物と納品期限の設定
成果物と納品期限の明確な設定は、プロジェクトの進捗を可視化し、遅延のリスクを軽減できます。
成果物は、プロジェクトの結果として生み出される具体的な製品やサービスを指します。
各成果物に対して、明確な納品期限の設定が重要です。
また、これらの情報は、ステークホルダーの期待値を適切に管理するためにも重要です。
成果物と納品期限の設定は、プロジェクトの具体的な道筋を示す役割を果たします。
④予算・リソース
プロジェクトの予算とリソースは、プロジェクトの実行可能性を左右する重要な要素です。
予算には、プロジェクトの遂行に必要な金銭的な資源の総額を記載します。
リソースには、人材、設備、材料など、プロジェクトに必要な全ての資源を含みます。
予算とリソースを明確にしておくと、プロジェクトの制約条件が明らかになり、現実的な計画立案が可能になるでしょう。また、プロジェクトの進行中に発生する変更要求を評価する際の基準にもなります。
⑤時間枠またはマイルストーン
プロジェクトの時間枠とマイルストーンは、プロジェクトの進行を管理するための重要な指標です。
時間枠は、プロジェクト全体の開始日と終了日を示します。
マイルストーンは、プロジェクト内の重要な中間目標や節目を指します。
プロジェクトの進捗を正確に管理し、遅延のリスクを早期に発見できるでしょう。
また、マイルストーンは、チームのモチベーション維持や、ステークホルダーへの報告の機会としても機能します。
⑥チームの役割と責任範囲
プロジェクトチームの役割と責任範囲を明確にするのは、プロジェクト運営に不可欠です。
各チームメンバーの役割、責任、権限を明確に定義すると、作業の重複や漏れを防げます。
また、チームメンバー間のコミュニケーションを円滑にし、協働を促進します。
責任範囲が明確になると、各メンバーが自身の役割を理解し、主体的に行動ができるでしょう。
チームの構成や役割の変更が生じた場合も、この情報をもとに調整をおこなえます。
⑦主要なステークホルダー
主要なステークホルダーの特定と記載は、プロジェクトの成功に大きく影響します。
ステークホルダーには、プロジェクトスポンサー、顧客、エンドユーザー、協力会社などが含まれます。
各ステークホルダーの役割、影響力、期待を明確にすると、コミュニケーションを取る際に戦略を立てておこなえます。
また、ステークホルダー間の利害関係の把握は、潜在的な問題を事前に予測し、対策を打てるでしょう。主要なステークホルダーを明確にすると、プロジェクトの方向性を常に確認し、調整もできるでしょう。
9.まとめ
本記事では、プロジェクト憲章の重要性と構成要素を解説しました。
プロジェクト憲章とは、プロジェクトの目的、範囲、目標、主要な関係者、リソース、リスクなどを定義する基本的な文書です。プロジェクト憲章には、プロジェクトが正式に承認された証拠となる役割があり、これによってプロジェクトチームはリソースを使用して活動を開始する権限が与えられます。
また、プロジェクトの目的と範囲を明確にし、関係者全体の合意を形成する基盤ともなります。さらに、プロジェクトに関連するリスクを事前に把握し、成功基準を設定することで、プロジェクト完了時の成果を客観的に評価するための基準を提供します。
プロジェクト憲章は、プロジェクト計画やビジネスケースなどの他の文書と異なり、プロジェクトの全体像を示し、関係者間の共通理解を促進する重要な役割を果たします。
そのため正しいプロジェクト憲章の作成と活用により、新規プロジェクトの成功率を高められます。
だた、新規プロジェクトの進め方が変わらないという方もいるでしょう。
そんな方は、新規事業立ち上げのプロ人材が教える“もう迷わない”新規事業の進め方をご参考ください。
(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)