
新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけにリモートワークが普及し、近年ではクラウドサービスやSaaSを活用する企業が急増しました。
一方、従来のVPNや「社内ネットワークは安全」という前提で構築された境界型セキュリティでは、急増するアクセスを支えきれなくなりつつあります。
VPN機器の帯域不足や認証情報の窃取による不正アクセスなど、さまざまな課題も顕在化してきました。
こうした背景から注目されているのが、社内外のアクセスを厳格に検証する「ゼロトラスト」の考え方です。
本記事では、ゼロトラストの基本概念をはじめ、従来のVPNや境界型セキュリティとの違い、注目される背景など、幅広く解説します。
自社が今取り組むべき最初のセキュリティアクションを知りたい方は、ぜひご参考ください。
ゼロトラストとは?
「ゼロトラスト(Zero Trust=何も信頼しない)」とは「社内ネットワークは安全、社外は危険」という境界を設けるのをやめる考え方です。
社内外を問わずすべてのアクセス要求を厳格に検証し、信頼できるかどうかを都度判断する、セキュリティに対する新しい考え方として話題になりました。
ゼロトラストと境界型セキュリティの違い
境界型セキュリティとは「社内ネットワークは安全、インターネットなどの社外ネットワークは危険」という前提のもと、両者の間に明確な境界を設けて守るセキュリティの考え方です。
具体的には、社内LANとインターネットの間にファイアウォールを設置し、外部からの不正アクセスを防ぎます。そして、一度社内ネットワークの内側に入ったユーザーや端末は、基本的に信頼できるものとして扱うのが特徴です。

リモートワークで広く利用されてきたVPNも、この考え方をベースにした代表的な仕組みと考えられます。
一方、ゼロトラストでは「信頼できるネットワークは存在しない」という考え方が前提にあります。アクセス元が社内であっても自動的に信用することはなく「誰が」「どのデバイスから」「何にアクセスしようとしているのか」を毎回確認し、その都度アクセスの可否を判断するのが特徴です。
両者の違いをまとめると、以下のようになります。
| 項目 | 境界型セキュリティ(VPNなど) | ゼロトラスト・セキュリティ |
|---|---|---|
| 考え方 | 内側は安全、外側は危険。 | 内側も外側もすべて信用しない。 |
| アクセスの判定 | 「どこから接続しているか(場所)」を重視。 | 「誰が、どの端末で、何にアクセスしようとしているか」を都度検証。 |
| 入った後の権限 | 基本的に社内ネットワーク全体を見にいける。 | 必要な最小限のファイルやアプリにしか触らせない。 |
つまり、境界型セキュリティが「ネットワークを守る」ことを重視しているのに対し、ゼロトラストは「ユーザー・端末・アクセス先を継続的に検証する」ことを重視している点が大きな違いです。
ゼロトラストが必要とされる3つの背景
リモートワークの普及やクラウドサービスの利用拡大により、企業を取り巻くIT環境は大きく変化しているのが現状です。
- サイバー攻撃の高度化
- ハイブリッドワーク・テレワークの普及
- クラウドサービス(SaaS)利用の急増
①サイバー攻撃の高度化
サイバー攻撃はますます巧妙化・高度化していて、従来の境界型セキュリティだけでは十分に防御できないケースが増えています。
特に増加しているのが、VPN機器やリモートアクセス機器の脆弱性、漏えいした認証情報などを悪用して社内ネットワークへ侵入し、その後ランサムウェアを展開する攻撃です。警察庁の「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、ランサムウェア被害における主な侵入経路としてVPN機器が全体の6割以上を占めていることがわかりました。
このような状況では「社内に入った通信は基本的に信頼する」という境界型防御の考え方そのもの、大きなセキュリティリスクになります。

攻撃者にとっては、一度境界を突破できればその後は比較的容易に社内システムへ横展開できてしまうためです。
ゼロトラストでは、このリスクを最小限に抑えるため「最小権限の原則(Least Privilege)」を前提としています。具体的には、ユーザーやデバイスごとにアクセスできるシステムやデータを細かく制御し、必要最小限の権限のみを付与するのがポイントです。
また、アクセス時には継続的な認証・検証を行うため、仮に1つのアカウントや1台の端末が侵害された場合でも被害をネットワーク全体へ拡大させにくくなります。万が一ランサムウェア感染や情報漏えいが発生しても影響を抑えられるため、迅速な封じ込めや事業継続につなげることが可能です。
②ハイブリッドワーク・テレワークの普及
コロナ禍をきっかけに、ハイブリッドワークやテレワークが急速に普及し、自宅、コワーキングスペース、外出先などオフィス以外の場所から業務を行うことが一般的になりました。
しかし、従来のVPNを経由して社内ネットワークへ接続する境界型セキュリティでは、以下のようなさまざまな課題に対応しきれません。
- 利用者の増加に伴うVPN機器の帯域不足
- 通信遅延
- 認証情報の窃取による不正アクセスリスク
ゼロトラストでは、アクセス元が社内か社外かではなく「誰が」「どの端末から」「どのシステムへ」アクセスしようとしているのかを都度検証します。その結果、社員は自宅や外出先からでもオフィスVPN回線の詰まりを気にすることなく、安全にクラウドサービスや業務システムへアクセスできるようになるのです。

セキュリティを強化しながら利便性も向上できるため、場所に縛られない働き方を支える基盤としてゼロトラストへの注目度が高まっています。
③クラウドサービス(SaaS)利用の急増
近年、クラウドサービス(SaaS)を業務で活用する企業が急増しています。メール送信、ファイル共有、顧客管理など、多くの業務システムがクラウドへ移行したことで企業のIT環境は大きく変化しました。
SaaSは社内ネットワークを経由せず、インターネットから直接クラウドサービスへ接続されるシステムです。その結果、従来のように社内ゲートウェイやファイアウォールだけで通信を管理できなくなり、利用状況の把握やアクセス制御が十分ではない状態に陥りました。
ゼロトラストでは、IDaaS(Identity as a Service)による統合認証、多要素認証(MFA)、CASB(Cloud Access Security Broker)によって利用状況を可視化し、アクセス制御と組み合わせることで、クラウドサービス利用時のセキュリティを強化することができます。「特定の端末からのみアクセスを許可する」「海外からのアクセスを制限する」「機密データのダウンロードを禁止する」などの細かなポリシー設定も実現するのがポイントです。

クラウド活用が企業競争力を左右する時代において、ゼロトラストは利便性とセキュリティを両立し、ビジネススピードを維持・向上させる重要な基盤となっています。
ゼロトラストの主要要素5つと関連ソリューション
独立行政法人情報処理推進機構(IPA) 産業サイバーセキュリティセンターでは、ゼロトラストを実現するためには複数のセキュリティ機能を連携させることが重要だとしています。
- ID 統制
- デバイス統制・保護
- ネットワークセキュリティ
- データ漏洩防⽌
- ログの収集・分析
①ID 統制
ゼロトラストでは「社内からのアクセスだから安全」と判断することはありません。重要なのは「誰が」「どの端末から」「どのリソースへ」アクセスしようとしているのか都度正確に識別し、認証・認可を行うことです。
もしID管理が適切に行われていなければ、退職者のアカウントが削除されずに残っていたり、不要な権限が付与されたままになったりする可能性があります。

退職者アカウントを悪用され、機密ファイルの閲覧や情報の持ち出しが発生するケースも考えられます。
また、近年ではMicrosoft 365、Google Workspace、Salesforceなど、多数のSaaSを利用する企業が増加しています。サービスごとに個別のID・パスワードを管理していると、アカウントの発行・削除・権限変更の作業が煩雑になり、管理者の負担が大きくなってしまうのが課題です。そのため、ゼロトラストではIDを可能な限り一元管理し、統制された状態を維持することが重要とされています。
ID統制を実現する代表的なソリューションとして挙げられるのが「IDaaS(Identity as a Service)」です。IDaaSとは、クラウド上で認証・認可を一元管理するサービスを指します。
主な機能は以下のとおりです。
| IDaaSの機能 | 概要 | 導入するメリット |
|---|---|---|
| ID管理 | ユーザーアカウントの作成・変更・削除を一元管理する | 入社・異動・退職時の運用負荷を削減し、アカウントの削除漏れを防止できる |
| シングルサインオン(SSO) | 一度の認証で複数のクラウドサービスへログインできる仕組み | パスワード管理負荷を軽減し、利便性を向上できる |
| 多要素認証(MFA) | パスワードに加え、生体認証や認証アプリなど複数要素で本人確認を行う | 認証情報の漏えいによる不正アクセスを防止できる |
| アクセスコントロール | ユーザーや端末、場所などの条件に応じてアクセス可否を制御する | リスクの高いアクセスを自動的に遮断できる |
| ログ管理・監査 | 誰がいつ、どのサービスへアクセスしたかを記録する | 不審なアクセスの早期発見や監査対応を実現する |
ゼロトラストでは、ネットワークよりも「ID」がセキュリティの中心になります。どれほど高度なセキュリティ製品を導入しても「誰がアクセスしているのか」を正しく把握・管理できなければ、十分な効果は期待できません。
まずはID管理の一元化を進めることから検討してみましょう。
②デバイス統制・保護
近年はテレワークやハイブリッドワークの普及により、社員が自宅や外出先からノートPCやスマートフォンを利用して業務を行うことが一般的になりました。その結果、デバイスが社内ネットワークの外部で利用される機会が増え、マルウェア感染、不正アクセス、紛失・盗難による情報漏えいなどのリスクが高まっています。
ゼロトラストによる対策をする場合、組織で利用しているデバイスを正確に把握し、適切に管理・保護できる環境を整備することが重要です。例えば「最新のセキュリティパッチが適用されているか」「ウイルス対策ソフトが正常に稼働しているか」など端末の状態を確認したうえで、アクセス可否を判断します。
デバイス統制・保護を実現する主なソリューションとして挙げられるのが、MDM、EPP、EDRです。
MDM
MDMは、PCやスマートフォン、タブレットなどのデバイスを一元管理するためのソリューションです。
| MDMの機能 | 内容 |
|---|---|
| デバイス機能制限 | USB利用禁止、スクリーンショット制限、パスワード設定強制など |
| デバイス紛失時の対応 | リモートロック、リモートワイプによる情報漏えい防止 |
| ポリシー・アプリの一括配布 | セキュリティ設定や業務アプリを一括で配布・更新 |
| IDaaSとの連携 | 管理対象端末のみクラウドサービスへのアクセスを許可 |
例えば、社員が会社支給PCを紛失した場合でも、遠隔からデータを削除できるため、情報漏えいリスクを大幅に低減できます。
EPPは、マルウェアやランサムウェアなどの脅威から端末を保護することが可能です。従来のアンチウイルス製品を進化させたものであり、既知の脅威だけでなく、不審な挙動も検知・遮断します。
| EPPの機能 | 内容 |
|---|---|
| マルウェア検知・遮断 | ウイルスやランサムウェアの実行を防止 |
| 振る舞い検知 | 不審なプロセスや異常なファイル操作を検知 |
| Web・メール保護 | 悪意あるサイトや添付ファイルへのアクセスを防止 |
EPPは「侵入させない」ことを目的としたソリューションなのに対し、EDRは「侵入されることを前提」とし、侵害後の検知・対応を行うソリューションです。

近年のサイバー攻撃は高度化しており、すべての攻撃を事前に防ぐことは困難になりました。
そのため、侵入後にいかに早く異常を発見し、被害を最小限に抑えるかが重要になっています。
EDR
EDRでは、サイバー攻撃を受けた端末を自動で検知します。
| EDRの機能 | 内容 |
|---|---|
| ログ監視機能 | プロセスや通信履歴を継続的に収集・分析 |
| デバイス攻撃への対処 | 感染端末の隔離や不正プロセスの停止 |
| IDaaSとの連携 | 不審な端末からのアクセス時にアカウント停止や追加認証を実施 |
例えば、ある端末でランサムウェアの疑いがある挙動を検知した場合、EDRが自動的に端末をネットワークから切り離し、被害の横展開を防ぐことができます。
ID統制とデバイス統制を組み合わせ、仮に認証情報が漏えいしても不正アクセスや被害拡大のリスクを予防できる体制を作りましょう。
③ネットワークセキュリティ
多くの企業では、社外から社内システムへアクセスするためにVPNを利用しています。しかし近年では、VPN機器の脆弱性や認証情報の漏えいを悪用したサイバー攻撃が増加しており、VPN経由で社内ネットワークへ侵入されるケースが後を絶ちません。
また、クラウドサービスの利用拡大に伴い、近年では「ローカルブレイクアウト」を採用する企業も増えています。

ローカルブレイクアウトとは、社内ネットワークのゲートウェイやVPNを経由せず、利用者の端末から直接インターネットやSaaSへ接続する仕組みです。
Microsoft 365やGoogle Workspaceなどへのアクセス速度を向上できる一方、従来の社内ゲートウェイによるセキュリティ対策が効かなくなるため、直接インターネットへ向かう通信に対しても新たなセキュリティ対策が求められます。
ネットワークセキュリティを実現する代表的なソリューションとして挙げられるのが、IAPとSWGです。
IAP
IAPは、ユーザーIDやデバイスの状態に応じて、アプリケーション単位でアクセスを制御するソリューションです。従来のVPNのようにネットワーク全体への接続を許可するのではなく「このユーザーはこのアプリケーションのみ利用可能」という形で、最小権限のアクセスを実現します。
| IAPの機能 | 内容 |
|---|---|
| アプリケーション単位の接続制御 | 必要なシステムのみにアクセスを限定 |
| ID・デバイス情報による認可 | ユーザーや端末状態に応じてアクセス可否を判断 |
| IDaaSとの連携 | SSOやMFAと連携し、認証を強化 |
| アクセスログ取得 | 誰がどのアプリへアクセスしたかを可視化 |
SWG
SWGは、ユーザーがインターネットへアクセスする際の通信を監視・制御するソリューションです。
ローカルブレイクアウト環境では通信が直接SaaSへ向かうため、従来の社内プロキシやファイアウォールだけでは十分な対策ができません。SWGは、そのようなインターネット通信をクラウド上で保護する役割を担います。
| SWGの機能 | 内容 |
|---|---|
| 悪性Webコンテンツへのアクセス制限 | フィッシングサイトや危険なサイトへの接続をブロック |
| SSL復号機能 | 暗号化通信を解析し、脅威を検知 |
| マルウェア検出 | ダウンロードファイルや通信内容を検査 |
| シャドーITの可視化・制限 | 未承認SaaSの利用状況を把握し、利用を制御 |
| テナント識別 | 個人用アカウントと会社テナントを区別して制御 |
VPNだけに依存したセキュリティ対策では、クラウド利用が前提となった現在の働き方に対応することが難しくなっています。
IAPやSWGを活用して、安全性と利便性を両立したネットワーク環境を構築することが、ゼロトラスト実現の重要なポイントです。
④データ漏洩防⽌
ゼロトラストでは、ネットワークやデバイスだけでなく「データそのもの」を保護対象と考えます。つまり、社内に保存されているファイル、メール、クラウド上のデータなど、あらゆる情報資産を重要なリソースとして捉え、適切に保護することが重要です。

近年では、サイバー攻撃による情報窃取だけでなく、内部不正や人的ミスによる情報漏えいも大きな経営リスクとなっています。
データ漏洩防止を実現する代表的なソリューションとして挙げられるのが、DLPとIRMです。
DLP
DLPは、機密情報の不正な取り扱いや持ち出しを防止するためのソリューションです。データの内容を自動的に判定し、機密情報が外部へ送信されそうになった場合に、警告やブロックを行います。
| DLPの機能 | 内容 |
|---|---|
| 機密情報の自動検知 | 個人情報、マイナンバー、顧客データなどを識別 |
| メール送信制御 | 機密ファイルの誤送信や外部送信を防止 |
| クラウドアップロード制御 | 個人ストレージへのアップロードを制限 |
| USB・印刷制御 | 外部媒体への持ち出しや印刷を制御 |
| ログ取得・監査 | 誰がどのデータを扱ったかを可視化 |
IRM
IRMは、ファイルやメールそのものに暗号化や利用権限を付与し、データが社外へ持ち出された場合でも閲覧や利用を制限するソリューションです。データそのものを保護することで、被害を最小限に抑えます。
| IRMの機能 | 内容 |
|---|---|
| ファイル・メールの暗号化 | 許可されたユーザーのみ閲覧可能 |
| 閲覧権限の設定 | 特定ユーザー・部署のみアクセスを許可 |
| 編集・コピー制御 | コピー、貼り付け、印刷、保存を制限 |
| 有効期限設定 | 一定期間後に自動的に閲覧不可にする |
| アクセスログ取得 | 誰がいつ閲覧したかを確認可能 |
DLPによって情報の持ち出しを防止し、万が一持ち出された場合でもIRMによってデータ自体を保護することで、多層的なデータ保護を実現できます。
⑤ログの収集・分析
ゼロトラストでは「侵入されないこと」を前提とするのではなく「侵入される可能性がある」ことを前提に対策を講じます。つまり、万が一不正アクセスやマルウェア感染が発生した場合にいち早く異常を検知し、被害を最小限に抑える仕組みが欠かせません。そこで必要になるのが、社内IT環境を構成するさまざまな機器からログを収集・分析する仕組みです。
ログの収集・分析を実現する代表的なソリューションとして、SIEMがあります。
SIEMは、社内のあらゆる機器やサービスからログを収集・分析し、セキュリティインシデントを早期に検知するためのソリューションです。単純にログを保存するだけではなく、複数のログを相関分析し、攻撃の兆候を可視化できます。
| SIEMの機能 | 内容 |
|---|---|
| ログの一元集約 | サーバー、ネットワーク機器、IDaaS、EDR、SaaSなどのログを収集 |
| ダッシュボードによる可視化 | セキュリティ状況をリアルタイムで確認 |
| 相関分析 | 複数のログを組み合わせて異常を検知 |
| アラート通知 | 不審な挙動を検知した際に管理者へ通知 |
| インシデント調査支援 | 攻撃経路や影響範囲の特定を支援 |
| レポート作成 | 監査対応や経営層への報告資料として活用 |
また、EDRやIDaaSと連携することで、以下のような自動対応も実現します。
- 不正ログインを検知した際に自動でアカウントを停止する
- 感染が疑われる端末をネットワークから隔離する
- 高リスクユーザーへ追加認証を要求する
継続的なログ分析によって自社の弱点や攻撃傾向を把握できるため、恒久的なセキュリティ改善にもつなげやすくなります。
ゼロトラスト導入に伴う2つのデメリットと対策
ゼロトラストはリモートワークやクラウド活用が進む現代において有効なセキュリティモデルですが、導入すればすぐに効果を得られるものではありません。
以下では、ゼロトラスト導入時に押さえておきたい代表的な2つのデメリットと、それぞれの対策について解説します。
- 導入費用や運用保守コストが増加する
- 従業員のサインイン回数の増加による利便性の低下
①導入費用や運用保守コストが増加する
ゼロトラストを実現するためには、IDaaS、EDR、SASE、SIEMなど、複数のセキュリティソリューションを組み合わせる必要があります。ゼロトラスト関連製品の多くはクラウドサービスとして提供されており、ユーザー数に応じたライセンス費用が継続的に発生する点がデメリットです。

導入する製品が増えるほどランニングコストも増加し「想定以上に費用がかかる」と感じる企業も少なくありません。
コスト面が課題になりそうであれば、すべてを一気に導入するのではなく、優先度の高い領域から段階的に整備していくことも検討しましょう。
例えば、すでにMicrosoft 365を利用している企業であれば、E3やE5プランに含まれるMicrosoft Entra ID(旧Azure AD)の多要素認証、条件付きアクセス、Microsoft Defenderなどの機能を活用できます。まずは多要素認証(MFA)とID管理から導入し、次にデバイス管理やEDRを整備する、などステップ式で進める方法もあります。
段階的に導入を進めることで、初期投資を抑えながら無理なくゼロトラスト環境を構築できます。
②従業員のサインイン回数の増加による利便性の低下
ゼロトラストではすべてのアクセスを都度検証することが基本となるため、従来の環境と比べてサインインや認証を求められる機会が増えます。

業務システムへアクセスするたびにパスワードの入力を求められたり、多要素認証(MFA)による認証コード入力が必要になったりすることもあります。
結果、従業員から「ログイン作業ばかりで業務が進まない」「利便性が低下した」などの不満が生じる恐れがあります。
有効な対策として挙げられるのが、シングルサインオン(SSO)の導入です。シングルサインオン(SSO)とは、一度のログイン・認証で複数のシステムやクラウドサービスへアクセスできる仕組みのことを指します。一度ログインするだけで複数の業務システムやSaaSへアクセスできるようになり、認証回数を大幅に削減できるのがメリットです。
また、すべてのアクセスに対して一律に厳しい認証を要求するのではなく、コンテキストベースでの認証を取り入れる方法もあります。
- 管理対象の社用PCからのアクセスは追加認証を省略する
- 信頼されたオフィスネットワークからのアクセス時は認証要件を緩和する
- 海外からのアクセスや深夜帯のアクセス時のみ多要素認証を要求する
- 未管理端末や初めて利用する端末からのアクセス時のみ追加認証を実施する
上記のような形で、アクセスするユーザーの状況やリスクに応じて認証レベルを動的に変更することで、不要な工数を減らすことができます。「必要なときに必要な認証を求める」仕組みを構築し、セキュリティと業務効率を両立させることが重要です。
ゼロトラストに移行するための手順
ゼロトラストは、特定の製品を導入すればすぐに実現できるものではありません。
以下では、既存環境から無理なくゼロトラストへ移行するための基本的な手順について解説します。
- ID・デバイス統制の確立
- ネットワークセキュリティの強化
- データ保護・ログ分析の強化
①ID・デバイス統制の確立
ゼロトラストでは「誰が(ID)」「どの端末から(デバイス)」アクセスしているのかを常に検証することが大前提となります。この基盤が整備されていなければ、どれだけ高度なネットワークセキュリティを導入しても十分な効果を発揮できません。
まずはIDaaSを導入し、社員のIDを一元管理できる環境を整備しましょう。あわせて、シングルサインオン(SSO)と多要素認証(MFA)を導入することで、パスワードの使い回しや認証情報の漏えいによるなりすましリスクを大幅に低減することが可能です。
次に、MDMを活用して業務で利用しているPCやスマートフォンを台帳管理し、どの端末が組織で利用されているのかを正確に把握できる状態を構築します。さらにEPPやEDRを導入し、マルウェア対策や侵害検知を行うことで端末の安全性を確保できるのがポイントです。

ID・デバイス統制は比較的効果を実感しやすい領域でもあります。
IDの統合管理によって入社・異動・退職時のアカウント管理負荷を軽減できるほか、SSOによって社員のログインの手間も大幅に削減できます。
ID・デバイス統制はゼロトラスト全体の土台となる重要なステップです。まずはこの領域から着手することで、その後のネットワークやデータ保護施策もスムーズに進めやすくなります。
②ネットワークセキュリティの強化
IDとデバイスの統制が確立できたら、次に取り組むべきなのがネットワークセキュリティの強化です。

まずは、VPNの代替としてIAP(Identity-Aware Proxy)の導入を検討してください。
IAPはVPNのように社内ネットワーク全体への接続を許可するのではなく、ユーザーや端末の状態を都度確認し、アプリケーション単位でアクセスを制御できます。
次にSWG(Secure Web Gateway)を導入し、ローカルブレイクアウト環境におけるセキュリティを強化しましょう。SWGを活用することで、悪質なWebサイトへのアクセス制限やマルウェア対策、シャドーITの可視化・制御が可能です。社内外を問わず快適に業務システムやSaaSを利用できるようになり、社員の生産性向上にもつながると考えられます。
③データ保護・ログ分析の強化
ID・デバイス・ネットワークの基盤が整ったら、最後に取り組むべきなのがデータ保護とログ分析の強化です。
DLPやSIEMは高度な運用や継続的なチューニングが必要となるため、基盤が整っていない状態で導入すると、誤検知の増加や運用負荷の増大につながるリスクがあります。

ゼロトラストでは最終フェーズでデータ保護とログ分析を強化することが一般的です。
まずはDLPやIRMを導入し、万が一サイバー攻撃による侵入や内部不正が発生した場合でも、機密データの不正な持ち出しや閲覧を防げる仕組みを構築しましょう。データの暗号化やアクセス権限の細かな設定により、情報漏えいリスクを最小限に抑えることができます。
次にSIEMを導入し、IDaaS、EDR、SWGなど各種ソリューションのログを一元的に集約・分析しましょう。複数のログを相関分析することで、不正アクセスや異常な挙動を早期に検知できるようになり、迅速なインシデント対応や恒久的な再発防止策の検討ができるようになります。
この段階まで進めることで、ゼロトラストの5つの要素を相互に連携させることが可能です。高度なセキュリティガバナンスと、継続的な監視・改善体制を同時に実現できます。
ゼロトラストを成功に導く運用における3つのポイント
ゼロトラストは、一度導入すれば終わりではありません。サイバー攻撃の手法、働き方、利用するクラウドサービスは常に変化しているため、継続的な運用・改善を前提とした取り組みが求められます。
- 一次切り分け手順の確立
- セキュリティポリシーの段階的調整
- 従業員へ向けた説明会の実施
①一次切り分け手順の確立
ゼロトラスト環境ではIDaaS、EDR、SASE、クラウドサービスなど複数のシステムが相互に連携して動作するため、障害発生時の原因特定が従来よりも複雑になります。社員から「ログインできない」「特定のファイルにアクセスできない」などの問い合わせがあった場合、原因がネットワーク回線の問題なのか、IDaaSの認証エラーなのか、EDRによる端末隔離なのかを即座に判断することは容易ではありません。

結果的に障害対応が特定の担当者へ属人化してしまい、対応の長期化や運用負荷の増加につながる可能性があります。
こうした事態を防ぐためには、事前に「一次切り分け手順」を整備しておくことが重要です。
- ログインエラーが発生した場合はIDaaSの認証ログを確認する
- 社内システムのみ利用できない場合はネットワークやIAPの状態を確認する
- 端末だけ通信できない場合はEDRによる隔離有無を確認する
上記のようにエラー内容ごとの確認手順をフローチャート化し、運用担当者間で共有しておくことで、迅速な原因特定と復旧対応が実現できます。
②セキュリティポリシーの段階的調整
ゼロトラストでは、最初から厳格なアクセス制御や認証ルールを適用すれば良いというわけではありません。導入初期からすべてのアクセスに多要素認証を要求したり、アクセス権限を過度に制限したりすると現場の業務効率が大きく低下し、従業員から反発を受ける可能性があります。

最悪の場合、例外運用が増えたりルールそのものが形骸化したりして、プロジェクトが頓挫してしまうケースがあるので注意しましょう。
まずはログ収集や可視化を中心に進め「どのようなアクセスが行われているのか」「どのような挙動がリスクになり得るのか」を把握することが重要です。そのうえで、実際の業務への影響を確認しながら、以下のようなポリシーを強化しましょう。
- 高リスクなアクセスのみ多要素認証を要求する
- 機密システムから優先的にアクセス制御を強化する
- 段階的にアクセス権限を最小化していく
ゼロトラストを成功させるためには、セキュリティ強化と業務の利便性を両立させながら、自社に最適なポリシーへ継続的に調整・最適化していくことが重要です。
③従業員へ向けた説明会の実施
ゼロトラストを成功させるためには、従業員の理解と協力を得ることが欠かせません。特に、多要素認証(MFA)の導入やアクセスルールの変更は、従業員にとって一時的に「ログインの手間が増える」「今まで通り使えなくなる」と感じられます。

十分な説明がないまま導入を進めると、不満や反発につながるかもしれません。
また、利便性の低下を避けようとして個人向けクラウドサービスの利用やアカウントの共有といったシャドーITが発生し、かえってセキュリティリスクを高めてしまうケースも多いので注意しましょう。
導入前には従業員向けの説明会や周知活動を実施し「なぜゼロトラストが必要なのか」を丁寧に説明することが重要です。以下のような従業員側のメリットもあわせて伝えることで、理解を得やすくなります。
- シングルサインオン(SSO)により、一度のログインで複数のSaaSを利用できる
- パスワードを何個も管理する必要がなくなる
- VPN接続なしでも快適に業務システムへアクセスできる
- オフィス・自宅・外出先を問わず安全に働けるようになる
利便性向上の効果を具体的に説明することで、従業員の理解を得ていきましょう。
ゼロトラストの導入なら「フリーコンサルタント.jp」へご相談ください
ゼロトラストは、単に製品を導入すれば実現できるものではありません。自社のIT環境や業務フローを整理したうえで、ID管理、デバイス管理、ネットワーク、データ保護、ログ監視を段階的に整備していく必要があります。
しかし「何から着手すべきかわからない」「既存のVPN環境からどう移行すればよいのか判断できない」「セキュリティ人材が不足しており、推進できない」という悩みを抱える企業も少なくありません。特に中堅企業では、限られた予算や人的リソースの中でセキュリティ強化と業務効率化を両立させることが求められるため、自社だけで最適なロードマップを策定することが難しいケースも考えられます。
「フリーコンサルタント.jp」では、ゼロトラストやSASE、クラウドセキュリティに精通したプロフェッショナル人材をご紹介しています。
- ゼロトラスト導入に向けた現状調査・アセスメント
- IDaaS、EDR、SASEなどの製品選定支援
- ロードマップ策定・PoC支援
- 要件定義・導入プロジェクト推進
- 運用設計・社内教育・定着支援
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豊富な知見を持つ専門家とともに、自社に最適なゼロトラスト環境の実現を支援します。
フリーコンサルタント.jpによるゼロトラストの導入事例2つ
どのような課題を抱え、どのようなアプローチで解決したのかを参考に、自社の導入イメージを具体化してみてください。
- 大手ITメーカー
- 大手人材サービス
①大手ITメーカー
大手メーカーでは、ISO規格の改定に伴い、社内のISMS規定を全面的に見直すプロジェクトが発足しましたが、従来の境界型セキュリティを前提としたルールではクラウド利用やテレワークが定着した現在の業務環境に対応しきれないことが課題となっていました。

ゼロトラストセキュリティの考え方を取り入れた規定整備を検討しましたが、社内メンバーだけでは最新のセキュリティ動向や第三者視点を踏まえた検討ができない状況にありました。
そこで「フリーコンサルタント.jp」を通じて、ISMSおよびゼロトラスト領域に知見を持つプロフェッショナル人材が参画しました。第三者の客観的な視点から現状分析を実施し、ISO規格改定への対応だけでなく、中長期的な運用を見据えたISMS規定の再設計を支援しています。
- ゼロトラストの考え方を踏まえたISMS規定の見直し
- 現行運用の課題抽出と改善提案
- 社内の運用体制・役割分担の再整理
- 社員向け教育・啓発施策の企画支援
- 内部監査部門へのノウハウ移転
上記を実施した結果、社内だけでは気付きにくい課題やリスクを洗い出し、客観性の高いISMS規定の策定に成功しています。また、規定整備にとどまらず、運用体制や社員教育の仕組みづくりまで支援したことで、継続的に改善を進められる土台を構築できました。
さらに、内部監査担当者へのノウハウ移転も進めたことで、今後のISO規格改定やISMS見直しにおいても、自社主体で対応できる体制の実現につながっています。
②大手人材サービス
大手人材サービスでは、組織統合に伴い、各社が個別に構築・運用してきたネットワークおよびシステム環境を統一することになりました。単純な環境統合ではなく、自社のビジネスや将来的なゼロトラスト化を見据えたインフラ基盤の再設計が急務となっていましたが、リソースが限られており、社員と同じ目線で課題の整理や要件定義が行える人材がいませんでした。
そこで「フリーコンサルタント.jp」では、ネットワーク・セキュリティ領域に豊富な知見を持つプロフェッショナル人材をご紹介しています。社員に代わる専門人材としてプロジェクトへ深く入り込み、ネットワーク統合とセキュリティ強化を両立するための支援を実施しました。
- 各社ネットワーク環境・システム構成の現状分析
- 統合に向けた要件定義およびアーキテクチャ設計支援
- ゼロトラストを見据えたセキュリティ方針の策定
- 関係部署との調整・プロジェクト推進支援
- 新技術・ソリューションの調査およびPoC支援
- 社内メンバーへの知見共有・スキル移転
上記の結果、ネットワーク統合に向けた要件定義や関係部署との調整を迅速に進められました。リソースが限られる中でも、各部門を巻き込みながら現状課題の整理や将来を見据えたシステム設計に成功しています。

セキュリティ強化が求められるインフラ環境において、喫緊の課題解決につながりました。
さらに、専門知識やノウハウを社内へ展開したことで、メンバーのスキル向上にも寄与したことも特徴です。プロジェクト終了後も自走できる組織体制の構築につながり、中長期的なインフラ・セキュリティ戦略を推進するための基盤整備を実現しました。
まとめ
ゼロトラストは「何も信頼しない」を前提に、社内外を問わずすべてのアクセスを都度検証するセキュリティの考え方です。ID管理やデバイス管理、ネットワーク制御、データ保護、ログ分析を組み合わせることで、クラウド時代に適した柔軟かつ強固なセキュリティ環境を実現できます。
一方で、ゼロトラストは特定の製品を導入するだけで実現できるものではありません。自社のIT環境や業務フローに合わせて、どこから着手するべきかを見極めながら、段階的に導入を進めることが重要です。
「フリーコンサルタント.jp」では、ゼロトラスト、SASE、クラウドセキュリティに精通したプロフェッショナル人材をご紹介しています。ゼロトラストへの移行を検討している企業様は、ぜひ「フリーコンサルタント.jp」へご相談ください。

豊富な知見を持つ専門家とともに、自社に最適なセキュリティ基盤の構築を実現しましょう。






