2023年に設立されたDXアーキテクト株式会社。マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」に関わる事業や、マイナンバーカードを使った本人確認システムの構築、これらに関連するコンサルティングなどを手掛けている。
設立して間もない同社をどのように成長させようと考えているのか。社会課題にどう切り込もうとしているのか。さらには、どんな仲間と一緒にこれらの目標を成し遂げようとしているのか。DXアーキテクト 代表取締役の松本理氏に聞いた。
松本 理(まつもと・おさむ)
兵庫県淡路島出身。高等専門学校を卒業後、上京しIT企業に入社。約10年間、官公庁が用いるシステム保守のリーダーを務めるなど、IT技術者としての経験を積む。その後、マイナンバーカードを扱うマイナンバー事業部へ異動。技術者ではなくコンサルタントとして約3年間従事した後、独立。
マイナンバーカードの肝である本人確認システムを、正しい知識をもって広げたい
——DXアーキテクトの事業内容を教えてください。
マイナンバーカードの利用を想定した関連システムの導入や構築を支援する事業を展開しています。医療機関や薬局への導入が進む「オンライン資格確認等システム」の開発や導入、運用を支援するコンサルティング事業を主に手掛けています。そのほか、マイナンバーカードを使った本人確認システムの構築や導入も支援しています。
オンライン資格確認等システムとは、医療機関などを受診する方々の保険資格情報、薬剤情報や特定健診情報をオンラインで確認するシステムです。マイナンバーカードを使って受付をすると、患者の保険資格とその有効性が瞬時に確認できます。また、本人の承諾を得ると、医師や薬剤師などの有資格者が患者の診療・薬剤・検診情報にアクセスできるようになります。質の高い医療サービスを提供する手段として、政府が医療機関や薬局に導入を促しているのが現在の状況です。
マイナンバーカードは普及しつつあるものの、実際に活用されるシーンはまだ少ないのが現状です。マイナンバーカード1枚で多くの情報を取得できる利便性が、情報漏洩のリスクを増大させるといった声も少なくありません。そこで当社は、マイナンバーカードを活用したシステム導入に踏み出せない医療機関などに対し、システム運営主体の立場から、マイナンバーカードへの疑念を払しょくする取り組みに注力しています。その上で顧客の要望を満たすシステムとなるよう改善提案を行っています。ユーザーの不安を解消し、システムを安全に利用できる環境を整えるのが当社の役割だと考えます。
——最近はオンラインで利用者の本人確認を済ませたい企業が増えていると感じます。そういったシーンでもマイナンバーカードの活用が期待できるのでしょうか。
はい。当社にも、「eKYC(electronic Know Your Customer)」と呼ぶオンラインによる本人確認の仕組みを使ったシステム導入を検討する企業からの問い合わせが増えています。もっともeKYCを使ったシステムの中には、免許証などの顔写真が付いた本人確認書類とユーザーが自身の顔を撮影した画像を照らし合わせ、企業側が目視で比較審査するものが少なくありません。こうした仕組みでは、ユーザーは情報を入力する手間がかかりますし、審査を終えるまでの時間も要しかねません。企業も精緻な本人確認書類の偽造を見破れませんし、審査に人的コストがかかります。
そこで当社では、マイナンバーカードのICチップを読み込み、暗証番号を入力するだけで本人確認が完了するシステムを提案しています。ユーザーは面倒な手続きを簡略化でき、企業も審査時の手間を省けます。今後はマイナンバーカードの活用を前提とした、eKYCより高い利便性を備えたシステムがさまざまなシーンで利用されるのではと考えます。
——マイナンバーカードを用いた本人確認システムの導入を成功に導く秘訣はどこにあると考えますか。
マイナンバーカードを活用するには、マイナンバーカードの仕組みや機能、個人情報を利用する際に知っておくべき番号法などの幅広い知識が求められます。しかし、マイナンバーカードについて知見のある人材を一企業で確保するのは難しく、これらの状況がマイナンバーカード活用を阻害する要因となっています。
当社はマイナンバーカードの活用を促進する官公庁のDX案件に多数携わっており、知見やノウハウを蓄積しています。これらを活かしたコンサルティング経験も豊富です。こうした過去の実績や経験から、マイナンバーカードを効果的に活用する勘所を押さえているのが成功に導く秘訣といえるかもしれません。
一方、システム導入を成功に導く上で何より大切なのは、顧客の声に耳を傾けることではないかと考えます。マイナンバーカードに関する知見さえあれば、システムを構築することは十分可能です。しかし、構築したシステムが顧客のために役立つかどうかは別問題です。システム導入の目的や背景、期待する効果、運用上の懸念など、顧客の意図を十分汲み取ったシステムを構築しない限り、成功とは言えません。システム導入による業務の効率化や生産性向上といった目的をただ果たすのではなく、使う人に寄り添った仕組みや環境を整備することに目を向けるべきだと考えます。こうした意識を常に持ち、顧客の課題と徹底的に向き合う姿勢こそ、当社のシステム導入プロジェクトが成功する秘訣となっているのではないでしょうか。なお、当社の社名「DXアーキテクト」は、IT導入の支援だけではなくコンサルティングを融合すべきという考え方に由来します。企業のDXを実現するには、システムを導入したりデジタルを駆使したりするだけでは不十分です。「自社をこう変えたい」「自社のこんな強みを打ち出したい」などの理想を具現化することこそ重要です。当社はそれらの要望をシステムに反映し、顧客が描く未来に近づけるような支援をしたいと思っています。こうした役割を担う「設計士(アーキテクト)」集団になりたいという希望を込め、「DXアーキテクト」と名付けました。
失敗を恐れない組織風土を
——御社ではどのような人材を求めていますか。
設立してまだ1年ほどの会社で、社員は私しかいません。そのため、まずは主軸となる幹部を担っていただける方を求めています。一方で、新人を育てる土壌づくりも欠かせません。コンサルティング経験の有無は問わず、20代から30代などの若い世代も積極的に募りたいと考えています。
——どういったスキルやマインドを持っている方と働きたいですか。
第一に、マイナンバーカードを用いたサービスの普及に興味や関心のある方が挙げられます。当社の事業内容に興味を持つ方であれば、経験の有無は必ずしも問いません。
加えて「泥臭い」という言葉が似合うひたむきな人も、当社に適しています。ITは変化の激しい領域であるため、業務では未知のことや自分の知見では分からないことによく直面します。このとき、分からないことを良しとせず、一から理解を深めて仮説を立てられるような方も求めています。
顧客と向き合い続けるコンサルタントは、常にアドバイスや提言を求められます。しかし中には、正解のない問いに対し、アドバイスしなければならないこともあります。このようなときこそ、複数の事実から仮説を導き出す力が求められます。分からないことを放置すれば、事実に基づく仮説を立てられません。何が正しいのかの検証すら実施できません。泥臭さやひたむきさは、事実を愚直に知ろうとするために必要な姿勢だと考えます。
——醸成したい企業風土はありますか。
失敗を恐れない企業風土を醸成したいと考えています。経験が乏しい若い世代の場合、経験が浅ければ浅いほど失敗を過度に恐れがちです。しかし、若い世代だからこそ失敗が許されるのです。若い世代が失敗を恐れずに挑戦したり、全社で失敗を許容したりする風土を醸成できればと思います。
コンサルタントは仕事柄、仮説を立案することがよくありますが、その仮説がいつも正しいとは限りません。この間違いを失敗で片づけず、次の仮説立案に役立てるべきだと考えます。このように失敗から目を背けず、そこで得られた糧や教訓を全社に共有する風土も築ければと思います。
超スマート社会の実現に不可欠な「信用性」
——松本さんのこれまでの経歴と、創業に至った経緯を教えてください。
淡路島出身で高等専門学校へ進んだ後、東京のIT企業に入社して10年ほど勤めました。入社後はIT技術が発達しているインドで半年間研修を受けたほか、官公庁が使用するシステムの保守を統括するなど、IT技術者としての知見や経験を蓄積していきました。
その後、マイナンバーカードを軸にした公共事業に関わるマイナンバー事業部に異動します。ここで初めてコンサルタントとして勤務し、最終的にはコンサルタントのリーダーとして3年ほど従事しました。
——未経験からコンサルタントとなり、以前の職務内容とギャップを感じましたか。
華々しい響きを持つコンサルタントという職業に最初は胸を躍らせましたが、業務に慣れるまでは苦労の毎日でした。コンサルタントは、答えのない問いに対して自らが考えて解を用意するのが仕事です。自ら問いを出さなければいけないシーンも多々あります。そういったコンサルタント特有の働き方にギャップを感じたことは多くありました。
——起業に至ったきっかけを教えてください。
慣れないコンサルティング業務を2年ほど続け、ある仕事をやり遂げた際に、大きな自信や手応えを感じました。私のことを厳しく評価していた方からも認められるようになったのです。このとき、どんな困難も一から取り組んで乗り越えられるのではないかという可能性に気付いたのです。
そんな折、当時在籍していた先輩社員から「きっとマイナンバーカードの時代が来る。自分で会社を起こすのも1つの手だ」と言われました。先輩社員がポツリとつぶやいた一言でしたが、その言葉に背中を押され起業に踏み切りました。
——DXアーキテクトという会社を今後、どのように成長させていきたいと考えますか。
国を挙げて進めているDX化の波は今後ますます大きくなり、あらゆるものがインターネットとつながる超スマート社会がいずれ実現するでしょう。そのような社会でもっとも重要となるのが「信用」です。インターネット上では、顔の見えない相手とのやり取りが当たり前です。こうした人たちと商取引することも珍しくありません。しかし、これらの当たり前の中に悪意ある第三者が介入し、詐欺や情報漏えいなどの問題を引き起こしているのも事実です。超スマート社会では、いかに相手を信用するか、いかに自分を信用してもらうかの重要性がこれまで以上に増します。当社は超スマート社会の到来に向けて、信用を確実に得るための仕組みづくりに貢献できればと考えます。
この仕組みづくりの一翼を担うのが、マイナンバーカードのICチップに搭載された情報を活用する公的個人認証です。現時点では十分普及していないものの、今後は官公庁だけでなく民間企業にも浸透することが見込まれます。このとき、公的個人認証の仕組みを使って誰もが安全に取り引きできるシステムをつくることこそ、当社の使命です。マイナンバーカードによる「信用」がインターネット上の取り引きで使われる未来には、きっと成長し続ける当社があると信じています。成長した姿に少しでも近づけるよう、まずは一歩ずつ顧客のDX推進を後押ししていくことができればと思います。
DXアーキテクト株式会社 企業情報
会社名 | DXアーキテクト株式会社 |
代表者 | 代表取締役 松本 理 |
所在地 | 東京都葛飾区細田三丁目6番13-302号 |
資本金 | 100万円 |
事業内容 | コンピューターソフトウェアの開発及び各種通信情報システムの導入に関するコンサルティング業務 等 |
設立 | 2023年9月 |
主な取引先 | バリューコンサルティング株式会社 株式会社ジャパンコミュニケーション |
主な取引銀行 | みずほ銀行 |