プロダクトアウト、マーケットイン、なんとなく理解したような気になっていませんか?
プロダクトアウトとマーケットインの考え方は、商品開発にとって非常に重要です。しっかり理解しておかないと、失敗に終わり多大な損失につながる可能性もあるでしょう。
本記事では、下記についてご紹介します。
自社に適している戦略がどちらなのか理解できる内容となっているため、商品開発の経験が浅い方はぜひ最後までご覧ください。
■目次
1.プロダクトアウトとマーケットインの違い
プロダクトアウトとマーケットインでは、戦略の方向性に違いがあります。
簡単にまとめると、以下の通りです。
商品開発の出発点が企業側にあるか、消費者側にあるかで訴求ポイントが大きく変わるため、戦略の方向性を決定する上で重要な要因と言えます。ただし、商品を投下するマーケットやターゲット層、自社を取り巻く環境などによっては一概にどちらの戦略が正しいかは判断できません。
重要なことは「消費者に需要のある価値が提供できるかどうか」です。そのため、場合によっては、両方の考え方を取り入れた戦略も必要になるでしょう。ここからは、プロダクトアウト、マーケットインの特徴をご紹介します。
プロダクトアウトとは
プロダクトアウトとは、自社の強みやノウハウを活かした「企業が作りたい、売りたい商品を販売する戦略」を指します。企業側の考え方や独自性が色濃く反映されるため、他社との差別化を図るには最適な手法です。
また、未開発の市場に価値を提供することで、潜在的なニーズを掘り起こすこともできます。言い換えれば「良い商品であれば売れる」時代にマッチした戦略と言えるでしょう。
成功した事例としては、iPhone、ウォークマン、ポケモンGOなど、発売当初は今までに無い商品性やサービスとして好評を得ました。
プロダクトアウトの流れ
プロダクトアウトを実践するには、下記の手順で行います。
- 目標、ビジョンの策定
- 自社の強みやノウハウを活かした商品開発
- アーリーアダプター(※1)の発見
- MVP(※2)を作成し、仮説検証
- 商品サービスのリリース
- フィードバックによる改善
※1:アーリーアダプターとは、早い段階で商品を積極的に試してくれる消費者のこと。
※2:MVPとは、最小限の機能性や特徴を持つ製品のこと。
しかし、現代では「良いものが売れる」時代から、消費者ニーズを網羅したマーケットインの「売れるものを作る」考え方に変わってきております。
マーケットインとは
マーケットインとは「消費者ニーズを重視した商品を開発し販売する戦略」を指し、現代における主流のマーケティング手法です。アンケート調査やSNSの口コミなどを通じ、消費者が求めているものを開発し提供することで、リピーターの獲得を目指します。
言い換えれば「売れるものを作る」ことに商品開発の軸を置いており、プロダクトアウトとは真逆の考え方と言えるでしょう。
成功事例としては、ライザップ、USJ、ロボット掃除機など、消費者の日頃から困っている課題を解決する商品性やサービスという共通点があります。
マーケットインの流れ
マーケットインを実践するには、下記の手順で行います。
- 市場分析を行い、消費者ニーズや課題を把握
- ターゲット層を明確化
- 消費者ニーズや課題を解決する商品開発
- 消費者との対話によるフィードバック
SNSが発展した現代においては、商品の優劣が口コミを通じて明確になってしまうため、いかに消費者ニーズを満たした商品開発ができるかが鍵になるでしょう。
2.プロダクトアウトとマーケットインはどう使い分けるべき?
プロダクトアウトとマーケットインでどちらを使うべきかは、狙うターゲット層によります。
マーケットインはすでに需要が確定しており、一定数ニーズがある顕在層向けですが、プロダクトアウトはユーザーがまだ気づいていない需要に対しアプローチするため、潜在層向けと言えます。
つまり、自社の強みを活かし、新たな需要にアプローチする場合はプロダクトアウト、確実に売れる商品を作りたいならマーケットインを活用すると良いでしょう。
3.プロダクトアウトの3つのメリット
前述した通り、プロダクトアウトは「企業が作りたい、売りたい商品を販売する戦略」を掲げているため、企業側主体のメリットが考えられます。
以上の3つのメリットをご紹介します。
1.自社の強みを盛り込んだ製品を作り、他社との差別化ができる
自社が保有する技術やノウハウは、他社が一長一短に会得できるものではありません。その強みを盛り込んだ製品を作ることで、差別化を図れるメリットがあります。独自性や独創性が高ければ高いほど、他社が追随することが難しくなるため、ブルーオーシャンを独占できる可能性もあるでしょう。
さらに、商品イメージが市場に定着すれば、商品=企業をイメージできる状態になることも予想できます。ブランディング戦略が成功することで、より安定した売り上げを確保できると考えられます。
2.爆発的な売上をもたらす可能性がある
プロダクトアウトの戦略では、これまでに無い画期的な製品を作りだし、爆発的な売上をもたらす可能性があります。消費者ニーズをもとにしていないため、固定概念に囚われない考え方がヒット商品を作り出す理由と言えるでしょう。
しかし、ヒットするかどうかは商品を投入してみないとわからないため、商品が全く売れないなどリスクがあることは考慮する必要があります。
3.低コストで製品開発ができる
製品開発には多くの予算を必要とするイメージが根強いですが、プロダクトアウトにより作る製品は、これまでに培ってきた技術やノウハウをそのまま活かせるので、低コストに抑えることが可能です。
たとえば、製品開発にあたって新規設備を導入したり、専門部署を立ち上げたりする必要はありません。また、過去の経験則があるため市場調査も最低限で済むことも利点のひとつです。
開発につぎ込む予算が限られている企業にとっては、有効な戦略と言えるでしょう。
4.プロダクトアウトの2つのデメリット
続いては、プロダクトアウトの2つのデメリットをご紹介します。
良い点ばかりではなく、デメリットを把握することも重要です。
1.消費者ニーズに適さず、売れない場合がある
プロダクトアウトは、企業側の方針に合致した商品や作りたい商品を作る考え方のため、市場調査をしない、行ったとしても調査の範囲はマーケットインよりも格段に浅いことが一般的です。そのため、消費者ニーズに適さず、売れない場合もあることを想定しておきましょう。当然ながら、製品開発や販売に関わるコストの回収は難しくなり、企業が抱える損失は計り知れません。
売れない場合は、戦略の見直しを検討する必要があります。
2.製品の改善に大きなコストが必要となる
製品が売れない場合はすぐに撤退するのではなく、原因を分析して製品の改善を図る必要があります。しかし、原因の分析には多くの時間とコストがかかります。たとえば、消費者ニーズの把握や販売戦略の見直しが必要となり、これらの追加作業により、企業に軽くはない負担を与える可能性もあります。
また、改善にコストがかかりすぎる、盛り返しが不可能と判断される場合は、撤退も視野に入れる必要性がでてくるでしょう。
5.マーケットインの2つのメリット
マーケットインは「消費者ニーズを重視した商品を開発し販売する戦略」であり、一定のニーズがある商品を開発するため、メリットも多々あります。
ここでは、3つのメリットを紹介します。
1.売れる可能性の高い製品を生み出せる
マーケットインは、事前に市場調査を行い、消費者ニーズを把握した状態で商品開発ができるため、売れる可能性のある製品を生み出せる確立が高まります。
消費者が欲しいものをピンポイントで開発、提供することで、企業への信頼度はさらに増し、次回以降の新製品への期待感もアップするでしょう。その結果、リピーターが増加し、安定的な収益や企業のブランティング向上に一役買うことができます。
2.売上の予測が立てやすい
マーケットインは、市場調査により売上の見込みが立てやすいというメリットがあります。さらに、売上予測を立てることで以下のようなメリットが考えられます。
在庫の過不足を防止
過剰在庫による資金繰りの悪化やコストの増加、在庫不足による販売機会の損失や顧客満足の低下などを防止できます。
予算配分を最適化
一定の売上が予想できる商品へ予算を割り当てることで、さらに売上アップを期待できます。限られたリソースを最大限に活かすためには、予算配分の最適化は欠かせません。
適正人員の振り分け
予測の精度が高いほど適正な人員を投入できるため、コストの抑制につながります。また、売上が望める事業へ人員を振り分け、不採算部門を縮小することで更なる人件費の削減に効果的です。
上記のとおり、売上予測を立てられることにより、予算も見積ることができるため、人員の振り分けや商品開発におけるコストの計算にも役立ちます。また、在庫の過不足を防げるため、販売機会の損失を防ぐことにも大いに役立つでしょう。
プロダクトアウトと比較して、売上予測が事前に把握できるのは、新製品開発にとってはプラスの効果が大きいと言えます。
3.開発目標が設定しやすい
マーケットインの3つ目のメリットは、開発目標が設定しやすいことです。消費者の声を聞かない状態で開発目標を立てようとすると、企業の理想に傾注した目標や実現が難しい目標になる可能性があります。しかし、マーケットインでは市場調査により分かった消費者が求めている商品を開発するため、どのような商品を開発すれば良いのか目標も立てやすいです。製品のスペックや価格帯など、開発までのスケジュール設定までスムーズに行えるため、比較的短期間で商品の開発、販売が可能となるでしょう。
なお、目標達成を過度に意識することで、あらかじめ低い目標にしてしまう可能性も否定できません。その場合、収益化の機会損失を生み、企業の成長を妨げてしまうこともあるでしょう。マーケットインにより適切な開発目標を設定することで、開発から販売までの具体的な戦略を立てやすくなります。
6.マーケットインの2つのデメリット
消費者ニーズを事前に把握できることで得られるメリットに対して、消費者ニーズを知っているからこそ起こりうるデメリットもあります。
デメリットを事前に知った上で、マーケットインを導入してみましょう。
1.他社と製品の特徴が似通ってしまう場合がある
マーケットインは、消費者ニーズをもとに商品開発を行うため、革新的な製品を生み出すことは難しく、競合他社と製品がバッティングし、大きな利益が見込めない場合があります。市場が既にレッドオーシャン化しており、価格競争にさらされることも予想されるでしょう。
また、マーケットインにより開発された商品は、競合他社と商品の特徴が似通ってしまうこともあります。これは、他社が比較的容易に模倣できるとも言えるため、ある程度の利益が挙げられても、今後も安定してその利益を継続できるわけではありません。そのため、他社と販売戦略やプロモーションにおいて差別化を図るなど、常に競合を意識した施策を実施していくことが必要となります。
2.自社の強みを活かせない場合がある
マーケットインでは、これまでの経験則やノウハウなど、自社が保有している強みを活かせない場合があります。なぜなら、市場調査による消費者ニーズを反映させるマーケットインの考え方では、自社の強みとマッチしない可能性があるからです。
これまでに培ってきた企業イメージとは異なる戦略を迫られるケースも考えられることから、消費者ニーズを優先させるのか、企業の強みを活かした戦略を優先するのか慎重な検討が必要でしょう。
7.プロダクトアウトの成功事例
過去の成功事例を見てみると、プロダクトアウトに基づいた考え方により、後世に残るような大ヒット商品が生まれています。
ここからは、プロダクトアウトの成功事例を3つご紹介します。
いずれも皆さんが一度は目にしたことのある商品やサービスばかりなため、ぜひ一度チェックしてみてください。
1.iPhone
プロダクトアウトの成功例として最も有名なのがiPhoneです。iPhoneが誕生する前の携帯電話市場は、ボタンを操作して電話やメール、アプリなどを利用する旧型の携帯電話が主流でした。
しかし、それを覆したのが、2007年当時AppleのCEOを務めていたスティーブ・ジョブズです。これまでの携帯電話と違い、直接画面を指で触ることで操作するタッチパネルを採用しました。
その結果、操作性は格段に上昇し、携帯電話市場をあっという間に席巻し、2023年には世界のスマホ市場で世界No1※の市場シェアを獲得しています。
また、Appleが行うプロモーションにおいても、これまでの常識とは異なる戦略が行われています。それは、新製品のリリースまでは外部に情報が漏れないよう情報管理を徹底し、リリース時のイベントでは企業のトップが、メディアを通じてトップセールス(宣伝販売活動)を行うというものです。あえて情報管理を徹底することで情報に対する興味をひき、そのうえで世界敵に有名な経営者が大々的に宣伝する、これによりAppleは多くの消費者やメディアの関心を集めています。
その結果、現在までに多くのユーザーを抱える人気商品へと成長しています。
※Appleは2023年のスマートフォン市場で過去最高の市場シェアを獲得しトップの座を獲得
2.ウォークマン
1970年代は、ステレオ型のテープレコーダーを家庭で使用するのが普通とされていました。誰もがテープレコーダーを持ち運んで音楽を聞くなど考えもしない時代に、SONYが発表した「ウォークマン」は革新的な製品として一大ブームを起こします。
商品のコンセプトは「音楽を携帯し気軽に楽しむ」という新しいもので、手のひらサイズで歩きながら音楽を聞けることに、当時の若者は熱狂し、瞬く間に売上を伸ばしました。
また、販売戦略でも当初は「ウォークマン」の呼び名が、国外では悪い印象を与える意味ととらえられるため「Free Style(フリー スタイル)」の商品名で発売されていました。
しかし、国内、国外ともにウォークマンに統一する戦略へ転換することで、全世界的なヒット商品へと駆け上がりました。製品のコンセプトや販売戦略で、プロダクトアウトを採用した成功事例と言えます。
3.ポケモンGO
ポケモンGOとは、2016年にリリースされた位置情報アプリゲームです。GPS情報を活用して現実世界と仮想現実を融合させ、実際に歩きながらポケモンをゲットできるゲームです。
これまでのゲームは、家でしか行えないことで「健康に悪い」というイメージがありました。しかし、ポケモンGOは歩きながらゲームができるため、運動不足の解消にもつながると、多くの世代にヒットしたのです。
また、操作性が簡単でゲーム初心者でも楽しむことができる点や、地域限定のポケモンが全国各地に出現するイベントなどにより、これまでゲームに親しんで来なかった層からも人気を集めています。今までにない斬新なコンセプトがヒットした事例です。
8.マーケットインの成功事例
マーケットインは、消費者ニーズに対応した商品開発が特徴と言えます。これからご紹介する3つの事例は、消費者が一度は悩んだことのある悩みやこんなものが欲しかったと言えるサービスになっています。
いずれのサービスも各業界のトップランナーとして定着しているものですので、ぜひ参考にしてください。
1.ライザップ
ダイエットに挑戦して、挫折した経験がある人も多いのではないでしょうか。ライザップは、ダイエットを失敗した方のニーズを追求し「体を作る運動と食事」を徹底的に管理する戦略をとっています。
特筆すべき点は2つです。1つ目は、従来の有酸素運動は行わず無酸素運動により筋力量を増し、基礎代謝力を向上させて体重を落とすことです。
そして2つ目は、糖質制限した食事内容を毎日トレーナーに提出する食事管理です。以上を徹底することで、2ヶ月という短期間で結果にコミットすることを目指しています。
マーケットインの戦略は大きな反響を呼び、事業を開始して3年で売上100億円を突破、名実ともに「ダイエット=ライザップ」と言えるほどに成長しました。
2.USJ
USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)は、ハリウッド映画の作品をもとにテーマパーク化したアミューズメントテーマパークです。オープン当初は、多くのお客さんを集めましたが、翌年以降は集客が伸び悩み、2004年には経営破綻状態となっていました。
そこで、USJのV字回復を導いた森岡毅氏が改革を行うために重視したのが「消費者視点」です。改革を行う中で、森岡氏は「来場者が喜ぶもの」と「提供者の視点で来場者が喜ぶと想定しているもの」が違うことに気づいたのです。
森岡氏は、その間違いが起こった原因が、クリエイティブ部が主導で企画や制作を行う仕組みにあると考え、主導権をマーケティング部へ移譲する形へと変更しました。
まず初めにマーケティング部による消費者ニーズの汲み取りや、プロジェクト内容の作成を行う流れにし、制作フェーズにもマーケティングが介入することで、消費者ニーズと制作側の意図に相違がないか確認する導線を作ったのです。
その結果打ち出されたのが、国内のアニメ作品とのコラボやハリーポッターエリアなどの導入です。この施策は見事に功を成し、2010年には750万人だった来場者数が、2015年には1400万人を達成するというV字回復を遂げています。
3.ロボット掃除機
消費者ニーズをうまくキャッチし、大ヒットしたのが「ロボット掃除機」です。その背景には、時代の移り変わりにより共働きの世帯が増え、掃除できる時間帯が限られている点にあります。
販売当初は評価が低く売れ行きが良くありませんでしたが、誰もいない時間帯に自動で掃除してくれる機能性が少しずつ評価され、2020年の掃除機市場のロボット掃除機のシェアは約14.2%にも成長しました。
価格が高く良いものだけが売れるのではなく、時間短縮を目的とした便利なものに焦点をあてたマーケットインの戦略がハマった成功事例と言えるでしょう。
9.プロダクトアウトもマーケットインも『消費者ニーズ』が重要
現代においてプロダクトアウトは古いとされており、マーケットインの戦略を重視する傾向にあるものの、一概にどちらが良くてどちらが悪いとは言い切れません。実際にマーケットインの戦略を採用した失敗例も多数あります。
たとえば、導入直後は大きな反響を呼んだセグウェイ(立ち乗り式自動2輪車)や次世代規格として期待されたHD DVDなど、今となっては見る影もありません。戦略自体に優劣はなく、市場環境や消費者のニーズにより選択すべき戦略は変わります。
また、これからの時代はプロダクトアウトとマーケットインをミックスした戦略が鍵を握ります。両方の戦略の良いとこ取りをすることで、ユーザーの満足度を満たしつつ、リスクを最小限に抑える方法が主流になる可能性もあるでしょう。
どの戦略を選択するにせよ、共通して言えるのは「消費者ニーズ」が重要ということです。各戦略のメリットを理解し、消費者、企業にとってベストな選択をしましょう。
10.まとめ
本記事では、プロダクトアウトとマーケットインの概要やメリット、デメリットについてご紹介しました。
どちらの戦略も市場環境や消費者のニーズを的確に把握できなければ、高い効果を期待することは難しいかもしれません。場合によっては、戦略をミックスして活用することも選択肢のひとつです。
重要なことはどちらの戦略にするかではなく「消費者が望む価値提供ができるか」にかかっています。商品開発に関わる方は、自社に適した戦略を探してみて下さい。
もし、なかなか戦略が見つからない場合、外部のプロにアドバイスをもらうことも必要になります。
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(株式会社みらいワークス Freeconsultant.jp編集部)