本記事では、コンサルタントへ転職したいと考えている方に向けて、フェルミ推定の概要とコンサルティング業界で重要視される理由を解説します。
既存のデータを最大限に活用し、問題解決を目指すフェルミ推定のスキルが身に付いていれば、面接時に論理的思考力の高さをアピールできます。対象に応じたフェルミ推定の使い分け、具体的な例題も紹介しているので、ぜひ参考にしてみてください。
フェルミ推定とは

フェルミ推定は、詳細なデータや情報が欠けた状況で概算値を導き出す際に用いる手法です。
入手できた情報や既知の事実を基に、複雑な問題を小さな要素に分解し、それぞれの要素に関する推論を立ててから統合して、概算値を求めます。
例えば、新しい経営企画や戦略を立てる際は、市場規模の予測や不確実性の管理が求められます。このような場面では、基本的なデータで素早く概算値を計算できるフェルミ推定が有効です。
また、コンサルティング会社などの採用面接では、論理的思考力や問題解決能力を評価するためにフェルミ推定を活用するケースが少なくありません。特に、既知の情報で問題解決を目指すコンサルティング業界では、フェルミ推定のスキルが重要視されています。
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コンサル業界におけるフェルミ推定の例題

さまざまな分野で応用できるフェルミ推定は、合理的な意思決定を求められる場面でよく活用されています。例題を見て、理解を深めましょう。
例題1.ラーメン屋の市場規模
市場規模の概算値を把握したい場合は、日本の総人口をひとつの基準として考える方法があります。
日本の総人口に対してラーメンを食べる人の割合、1人あたりの消費頻度、1回あたりに支払う平均額について、それぞれ具体的な数値を仮定した上で計算を行います。
市場規模を推定する際は、仮定を明確にすることと論理的に計算を進めていくことが重要です。
例題2. 喫茶店1店舗における売上推定
喫茶店1店舗における1日の売上を推定する際は、レジの1時間あたりのキャパシティ(最大対応客数)やレジの稼働率、営業時間、客数、平均単価などを考慮します。加えて、店舗の立地や客層、ピーク時間帯なども含めて推論や仮定を立てることが重要です。
例えば、1日の営業時間を基に来店客数を考えてみましょう。
開店から昼頃にかけて徐々に混雑し、昼頃から夕方にかけピークが続き、夕方以降は徐々にピークアウトしていくと推論を立てた場合、時間帯を3つに分けてからそれぞれの稼働率を設定すると、推定の精度が向上します。
例題3. 日本の電信柱の数
日本の電信柱の数を推定する際は、国土面積と電柱の密度を用います。これらの要素を考慮した上で、実際の数値に近づけるためには、人口密度や地形といった要因も含めて仮定することが重要です。
例えば日本の場合、国土面積の多くを山岳地帯が占めています。平地に電柱が設置されているという現実的な条件を含めて推定すると、より正確な数値を導き出せます。
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フェルミ推定の基本的な解答方法・やり方

例題1で挙げた「ラーメン屋の市場規模」を例に、フェルミ推定の解答方法・やり方をステップ別に解説します。
ステップ1.問題を分解する
解決したい問題を明確にし、その問題を基本的な要素に分解するステップです。複雑な問題を小さく分解すると、各要素に対する理解がより深まるため、問題の本質を把握しやすくなります。
ラーメン屋の市場規模を考える際の問題の定義と、分解した要素は下記のとおりです。
日本のラーメン屋の市場規模(年間売上高)を推定する
a.日本の総人口
b.日本の総人口に対してラーメンを食べる人の割合
c.1人あたりの平均的なラーメン屋での消費頻度
d.来店1回あたりの平均価格
見積もりの精度を向上させるためには、複雑な問題を分解して簡素化し、個別で数値を求める必要があります。
ステップ2.戦略を設定する
次に、解決したい問題の性質が、人口ベースのアプローチと面積ベースのアプローチのどちらに適しているか判断します。
ラーメン屋の市場規模を見積もる場合は、来店者の推定が重要であるため、人口ベースのアプローチが適しています。
人口ベースのアプローチは、商品・サービスの需要予測や消費行動の推定に有効です。
一方、面積ベースのアプローチは、道路や電信柱といったインフラの配置や農地をはじめとした土地利用に関する見積もりに適しています。
ステップ3.論点を構造化する
戦略に基づき、問題に対して影響力の大きい論点を特定して推論の流れを組み立て、計算式を考えましょう。重要な要素を明確にすることで、より具体的な情報を基に推定できます。
例えば、「ラーメン屋の市場規模(年間売上高)=年間のべ来店回数×平均客単価」と設定します。
ステップ4.計算して結果を導出する
構造化した論点に基づいて要素ごとに仮定した数値を当てはめ、計算します。
このステップでは、計算を容易にするための工夫が必要です。例えば、日本の総人口は1億2,300万人(2024年時点)ですが、計算に用いる場合は1億人として計算すると、計算を簡略化できます。
a.日本の総人口:約1億人
b.日本の総人口に対してラーメンを食べる人の割合:75%と仮定
c.1人あたりの平均的なラーメン屋での消費頻度:月に2回と仮定
d.来店1回あたりの平均価格:900円と仮定
結果を求めるために必要な計算は、以下のとおりです。
ラーメンを食べる人の数 | 日本の総人口(a)に対する、ラーメンを食べる人の割合(b)から計算 | 1億×0.75=7,500万人 |
年間総来店回数 | ラーメンを食べる人の平均来店頻度(c)から計算 | 7,500万人×2回×12か月=18億回 |
ラーメン屋の市場規模 (年間売上高) | 年間総来店回数と平均客単価(d)から計算 | 18億×900円=1兆6,200億円 |
フェルミ推定では、仮定を明確にしてから論理的に計算を進めていくのがポイントです。最終的な結果を導き出したら、その妥当性を検討し、必要に応じて修正を加えます。
参照元:総務省統計局人口推計
フェルミ推定の種類

フェルミ推定には、いくつかの種類があります。
対象の特性や目的、利用できる情報やデータに応じて、フェルミ推定を適切に使い分けられるよう、それぞれの特徴を理解しておきましょう。
マクロ売上推定
大規模なデータを扱う際に適したマクロ売上推定は、市場全体の売上を推定する際に用いる手法です。
例えば、日本全体のラーメン市場の売上を推定したいとき、日本の総人口、ラーメンを食べる平均消費頻度、平均単価といった要素を基に計算を行うと、おおよその市場規模を算出できます。
マクロ売上推定を用いれば、ターゲット市場全体の規模や需要を予測でき、新規事業の可能性を探れます。
競合他社の市場シェアや売上も推測できるため、自社の競争力を客観的に評価して、戦略を最適化することも可能です。さらに、ユーザーのタイプをライトユーザーとヘビーユーザーに分類すると、より正確に市場規模を推定できます。
ミクロ売上推定
特定の店舗やエリアの売上を把握したいときに適した手法です。小規模な単位で売上を推定する場合には、個別のデータを基に計算を行うミクロ売上推定が適しています。
例えば、あるカフェの1日の売上を推定する際には、座席数・客単価・回転率・営業時間などの要素を考慮して計算します。時間帯ごとの特性を考慮して、推定の精度を向上させることもできます。
ミクロ売上推定は、新規出店の可能性を検討する際や、既存店舗の業績改善を図る際に有効です。
個数推定(所有物・非所有物)
個数推定は、対象物の数量を推定する際に用いる方法です。推定の対象やアプローチの違いによって、所有物と非所有物に分類されます。
所有物の個数推定は、消費行動や市場分析を行う際に適した手法です。個人または組織が所有する具体的な物品を対象とし、所有者を基準に推定する点が特徴です。
一方、非所有物の個数推定は、インフラの整備や資源の管理などに活用されます。特定の場所または状況にある対象物の数量を推定する際に用いるため「どこにあるか」という観点から考えるのが特徴です。
フェルミ推定がコンサル業界の面接で重視される理由

フェルミ推定とは、複雑な問題を小さく分解し、限られた情報から合理的な推定を導くための手法です。
コンサル業界の面接では、フェルミ推定の問題を出されることがあります。フェルミ推定が重視されている理由を知りましょう。
論理的思考力の高さを確認できる
フェルミ推定は、論理的思考力を評価する際に有用です。
論理的思考力とは、「なぜ・どうして」といった理由を徹底的に考える力です。コンサルティングの現場では、クライアント自身が課題の背景や、根本的な理由を把握できていないケースも少なくありません。そのような状況で徹底的に課題の理由を考え、具体的な解決法を見出す論理的思考力は、コンサルタントにとって欠かせない能力のひとつです。
実際にコンサルタントの業務では、市場規模の推定、新規事業のチャンスや可能性を調べる際に、フェルミ推定を使う機会が多くあります。
採用面接では、正解を導き出すことよりも、一般的な知識を用いて推定した数値を、いかに論理的に説明できるかといった点を重視する傾向があります。
限られた情報や時間内で合理的な見積もりを行う能力が問われるため、コンサルタントにとってフェルミ推定のスキルは非常に重要です。
コミュニケーションスキルを把握できる
面接官は問題をどのように解決するか、その過程を分かりやすく説明できるかという視点で、コミュニケーション能力をチェックします。
実際のコンサルティング業務では、課題解決に向けて取り組む中で、クライアントとの対話や複雑な情報の伝達が求められる場面も少なくありません。そのため、建設的に対話できる能力が必要です。
問題の聞き取りから施策の提案や実行に至るまで、双方の認識がずれないようスムーズにコミュニケーションを取らなければならないため、そのスキルを確認する意味で、フェルミ推定が重要視されています。
発想の柔軟性を確かめられる
応募者がどのような視点や発想を持っているか、問題解決に向けて柔軟に取り組めるかを評価する目的でも、フェルミ推定が用いられます。
コンサルタントとして活躍するには、柔軟な発想や創造力が必要となるため、新しいアプローチを提案できるかどうかも評価のポイントとなります。
フェルミ推定を通してさまざまな状況に対応できる能力を示せば、不確実な環境に対する適応能力をアピールできるはずです。
フェルミ推定が「役に立たない」「くだらない」は本当?

さまざまな理由から面接で重視されているフェルミ推定ですが、主に採用担当者から「役に立たない」「くだらない」などの声も上がっているようです。
もともとフェルミ推定は、突拍子もないことを聞かれた際に、どう答えるかという対応力を見るために始まったとされています。
しかし、フェルミ推定の問題が広く知られるようになると、多くの対策本が販売され、応募者が十分に対策できるようになってしまいました。その結果、本来の目的である「突拍子もない質問への対応力」を測れなくなったことが、役に立たないと言われる理由だと考えられます。
日本では、コンサルティングや投資銀行などの企業を中心にフェルミ推定が取り入れられています。一方、率先して導入していた一部の大手グローバル企業の中には、選考におけるフェルミ推定の導入を取り止めた企業もあります。
実際にGoogleは、面接におけるフェルミ推定の活用を取り止めました。フェルミ推定が得意だからといって、入社後のパフォーマンスが必ずしも高いわけではないと分かったためです。
ただし、フェルミ推定に価値がないわけではありません。フェルミ推定の本質的な価値は、依然として存在します。
フェルミ推定は、ビジネスの現場で求められる、不完全な情報から概算値を求める能力の強化に有効です。一概にフェルミ推定が「役に立たない」「くだらない」とは言えません。
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まとめ
フェルミ推定は、限られたデータや情報を基に概算値を導き出す手法であり、対象の規模や目的によって、マクロ売上推定、ミクロ売上推定、個数推定(所有物・非所有物)を使い分けます。
論理的思考力やコミュニケーションスキル、発想の柔軟性を測れるため、コンサルティング会社などの採用面接ではフェルミ推定の問題が出されることもあります。
近年、フェルミ推定が役に立たないという声も耳にしますが、コンサルティング業界はもちろん、ビジネス全般において、不完全な情報から概算を導き出す能力は重要です。コンサルティング業界への転職を目指す方にとって、フェルミ推定のスキルは大きな強みとなるはずです。