副業の労務管理や運用 ~労働保険・社会保険・税務・健康管理に関する運用~

2025年現在、副業はもはや単なる「個人の自由」や「許可・不許可」といった問題の枠を超え、企業の人的資本経営やキャリア自律支援において欠かせない戦略的な要素となっています。

来たる2027年の労働基準法改正は、企業がこの変化を単なる規制への対応として捉えるのではなく、自社の成長を加速させる最大の機会として活用するための大きな転換点となるでしょう。

本コラム特集では、未来志向の副業制度を構築し、企業と個人双方の可能性を最大限に引き出すための具体的なステップを解説します。

まずは、副業をめぐる社会的な現状や、企業が直面するメリットとリスクを体系的に整理し、戦略的な副業推進の必要性について掘り下げていきます。

 

副業の労務的な運用について、労働時間管理以外の点についても制度整備が進んでいます。平成30年1月に厚生労働省から発表され、令和2年9月に大幅改訂された「副業・兼業の促進に関するガイドライン」(以下「副業ガイドライン」)(*1)においても、「その他の制度」として今後の整備の方向性が示されています。

また、2025年1月に公表された労働基準関係法制研究会報告書(*2)は、2027年4月をめどに労働基準法改正により副業における割増賃金の通算廃止が検討されており、これが実現すれば副業・兼業の普及がさらに加速することが期待されます。

労務関係の運用には、労災申請時の副業を含めた申請、社会保険の二以上事業所勤務の運用、雇用保険のマルチジョブホルダー制度(*3)など、特殊な運用がさまざまに存在します。これらは例外的な運用とされていることが多く、通常とは異なる様式での申請や付加的な手続きを要する場合があります。事前によく確認し、間違いのない運用を行うことが重要です。

労働保険(労災保険・雇用保険)の運用

労災保険の複数事業場適用

労災保険法は2020年9月に改正施行されました。従来は、本業と副業の両方で労災保険に加入していても、いずれかの会社で労災事故が起こった場合、その会社の労災保険のみが適用となり、労災補償額が実態に比して低くなる問題がありました。改正により、労働災害が起きていない事業場の労災保険も合算で適用されることになりました。また、労災認定の判断においても、複数の事業場における業務の負荷を総合的に評価することとされています。

労災保険料の支払いは年に一度の精算を行い、一括または分割で支払う運用は変わりませんが、労災保険の申請時には、複数事業場での就労状況を反映した申請を行う必要があります。申請様式も複数就業者用のものが用意されており、適切な様式を使用することが求められます。

雇用保険の原則と例外

雇用保険は、生計を維持するに必要な主たる賃金を受ける会社で加入します。つまり賃金が多い本業の会社1社でしか加入できないのが原則です。副業先では雇用保険に加入しないため保険料負担はなく、本業の会社でのみ雇用保険料が継続して発生します。本業を退職して失業給付等を受給する場合、給付額は本業の会社の賃金をもとに算出されます。副業をしている場合、失業認定との関係で注意が必要です。

ただし重要な例外があります。2022年1月1日より施行された改正により、65歳以上で週合計の労働時間が20時間以上の従業員について、本人の申し出に基づいて雇用保険が適用される「マルチジョブホルダー制度」(*3)が創設されました。要件は以下のとおりです。

1. 各事業所における1週間の所定労働時間が20時間未満であること
2.  2つ以上の事業主の適用事業に雇用される65歳以上の者であること
3.  1週間の所定労働時間の合計が20時間以上であること

この制度は、高年齢者の雇用保障や支援を厚くし、高齢者の副業および社会参加を推進する目的で創設されました。高年齢者雇用安定法の改正では、企業が高齢者の多様な働き方の選択肢を用意することが求められており、創意工夫を生かした働き方を促進する制度整備が進んでいます。

社会保険(健康保険・厚生年金保険)の運用

社会保険については二以上事業所勤務の運用が主なポイントです。従来は、副業者が会社役員を兼務する場合などを除き、二以上事業所の運用はあまり生じませんでした。しかし、短時間労働者への適用拡大により、この運用が重要性を増しています。

副業先で社会保険の被保険者要件を満たす場合、副業先でも社会保険に加入する必要があります。被保険者要件は以下のいずれかです。

【要件①】
1日または1週の所定労働時間および1カ月の所定労働日数が一般社員のおおむね4分の3以上

【要件②】以下の全てを満たす場合
・週の所定労働時間が20時間以上
・雇用期間が2カ月超見込まれる
・月額賃金が88,000円以上
・特定適用事業所に勤務(従業員数51人以上の企業。2024年10月から適用)

副業の場合、要件①の4分の3以上を複数の会社で満たすことはほぼないため、要件②を満たす場合に副業先も社会保険の適用対象となります。なお、2024年10月からは従業員数51人以上の企業が特定適用事業所となっており、今後さらに適用範囲の拡大が決定しています。以下の通りです。

施行時期 企業規模要件※
2027年10月~ 従業員数36人以上
2029年10月~ 従業員数21人以上
2032年10月~ 従業員数11人以上
2035年10月~ 従業員数1人以上

複数の事業所で社会保険に加入する場合、所定の手続き(二以上事業所勤務届の提出)により、二重加入することになります。保険料は、本業と副業から得られる賃金の合計額をもとに、各事業所の賃金比率で案分して支払います。例えば、本業が月額20万円、副業が16万円の場合、合計36万円を基準に標準報酬月額が決定され、保険料は賃金比率に応じて本業5:副業4の割合で案分されます。

健康保険証(マイナ保険証に2025年12月から一本化されます)は2事業所において発行されることはなく、「健康保険・厚生年金保険 所属選択・二以上事業所勤務届」で選択した本業の健康保険証を継続して利用します。また、傷病手当金の支給を受ける場合、それぞれの会社の報酬月額の合算値に基づいて支給されます。

二以上事業所勤務の手続きは現在では例外的な運用とされていますが、適用拡大により該当者が増加していきます。従業員の健康保険や年金に直接影響するため、よく確認して間違いのない手続きを行うことが必要です。

税務の運用

源泉徴収の計算には「甲欄」と「乙欄」の2つがあります。年末調整は「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出した会社(本業)で行う必要があり、この申告書は1カ所にしか提出できません。したがって、副業により2カ所以上から給与が支給される場合でも、副業先には同申告書を提出しません。

本業の会社では毎月の給料の源泉徴収額を源泉徴収税額表の「甲欄」で計算します。一方、副業の会社は年末調整を行わないため、毎月の給与の源泉徴収額を「乙欄」で計算します。乙欄は、複数所得がある場合に甲欄だけでは税額が不足するため、やや高い税率で源泉徴収する仕組みです。

副業収入が年間20万円以下の場合は確定申告する必要はありませんが、副業先で高い税率で源泉徴収されているため、確定申告をすると税金が還付される可能性があります。また、副業収入が年間20万円を超える場合は、年末調整の他に確定申告が必要となるため注意が必要です。

健康管理の考え方とルール

副業では、時間外労働が発生しやすく、総労働時間が長時間化する傾向があるため、健康管理が極めて重要です。2027年4月から労働基準法改正により割増賃金の通算が不要となる見込みですが、労働者の健康確保のための労働時間管理としての通算は引き続き必要とされています。企業が行うべき健康管理措置として、副業ガイドラインでは以下が例示されています。

・従業員に対し、心身の不調があれば都度相談を受けることを伝える
・副業・兼業の状況も踏まえ、必要に応じ法律を超える健康確保措置を実施する
・自社での労務と副業先での労務の兼ね合いの中で、時間外・休日労働の免除や抑制を行う

これらの措置は労働者の健康確保に不可欠であり、従業員から情報提供がなされやすい環境を整備することが重要です。通常の健康診断を行う義務がある従業員は、無期契約または有期契約でも4分の3以上働く者とされていますが、副業を行っている従業員の場合、それぞれの企業でこの要件充足を判断し、それぞれに義務が発生します。法令上の要件とは別に、副業者に対しては通常以上の健康配慮を行うことが望ましいと言えます。

副業における運用の注意点と今後の展望

以上、副業を行う従業員の労務上の運用についてまとめました。副業の場合、労働時間管理においても従業員からの自己申告を要する運用となっており、今回見た労務運用においても、従業員が正確に副業の状況を申告することで成り立つ手続きが多く存在します。

2027年4月に予定される労働基準法改正により、副業における割増賃金の通算が不要となる見込みですが、これは企業の事務負担を軽減するものであり、労働者の健康確保という本質的責任は何ら変わりません。むしろ、割増賃金計算という事務作業から解放される代わりに、企業はより本質的な労働者の健康管理に注力することが求められます。

副業を認める企業では、従業員との信頼関係をもとに正確な情報を取得できる状態にすることが極めて重要です。副業・兼業は、労働者のキャリア自律を支援し、企業にとっても優秀な人材の確保や新たな知見の獲得につながる重要な施策です。適切な労務管理を通じて、労働者と企業の双方にとって有益な副業・兼業の環境を整備していくことが期待されます。

*1 副業・兼業の促進に関するガイドライン
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf
*2 労働基準関係法制研究会報告書
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/001370269.pdf
*3 マルチジョブホルダー制度とは
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000136389_00001.html

<連載コラム>
第1回:副業制度の考え方
第2回:副業申請制度の考え方/作り方
第3回:諸外国の副業制度の実態
第4回:副業の労働時間通算制度
第5回:副業の社会保障制度等 ★今回