SNS・オウンドメディア運用に特化した専門チームをつくるに伴い、株式会社D2C dotは2018年10月1日、沖縄にサテライトオフィスを開設した。沖縄をローコストセンターと捉えず、クリエイティブの発信拠点の1つとして、そしてアジアの玄関として世界をも視野に入れるD2C dot沖縄拠点。
はたして、なぜD2C dotは沖縄という地を選んだのか、そして今後沖縄オフィスではどのようなことを行っていくのか。沖縄オフィス開設に携わったD2C dot取締役・守谷啓介氏、コーポレート室・中山学氏、プロデューサー・山下紘史氏に伺った。
働く場所の選択肢を増やす――沖縄は今後、「アジアの玄関」となる大切な拠点へ
ーー なぜ今回、サテライトオフィスを新たに開設するに至ったのでしょうか?
中山:ひとつは「採用面」によるところがあります。様々な企業の人事担当者も感じているところだと思うんですが、東京での採用が難しくなってきている、という実感があるんですね。
これはもう、別の拠点を構えて、その土地で採用をしていかないと厳しいな、という判断がありました。

中山学 氏
守谷:あとは、「視野を広げたい」という考えもありました。我々はデジタルマーケティング領域の事業をやっていますが、やはり今だと東京が中心ですし、直感的にイメージする消費者も東京、広げてもその近郊までだと思うんですよね。
しかし、東京近郊と言えど日本の一部でしかありませんから、東京とは別の生活圏、別の産業のある土地にもアプローチしたいと考えたときに、東京にだけだど触れる情報に偏りがあるので、今後視野を拡げるべきかなという、漠然と考えはありました。
中山:そして、社員は退職するまでD2C dotという会社に身を置いて人生を送られるわけなので、会社として “選択肢” を持っておくのが大事だと思っているんですね。働き方という面でも、働く時間の選択肢も用意していますし、そこに働く場所の選択肢が加わるのは大切だと思っていました。

沖縄オフィスの様子
ーー サテライトオフィスをつくる場所として、なぜ「沖縄」だったのでしょうか?
中山:沖縄以外も、いろいろなところを検討しました。たとえば、東北地方。特に仙台は、東北6県から人が集まりますし、大学や専門学校なども多いので、いいなと。またD2Cグループとしてはすでに宮崎オフィスもあるので、宮崎も検討はしていました。
魅力的な候補地はいくつもあったんですが、ブランド力、出生率、採用環境、パートナー企業、D2C dotが目指す方向性と合致した環境、というところから沖縄を選択しました。
単純に私だけではなく社内の声を聴いても、割と多くのメンバーが「沖縄が好き」というのもあります(笑)。
守谷:そして、地方に目を向けたときに、我々とその土地の方々がメリットを共有できるのが一番いい状態だと思っています。そんな中、沖縄はITに力を入れようとしていて、クリエイティブ人材もいるものの、現状ではクオリティの高い仕事が沖縄に行き届いていないと感じました。
そこで、学んだことを活かせる場所をD2C dotが提供することによって、メリットを共有できるのが沖縄でした。
山下:僕は守谷、中山よりも沖縄が好きで、もう大好き(笑)。でも沖縄って雇用状況、教育状況をみたときに、やっぱり東京を見て仕事をしているわけですよ。しかし東京は今後確実にシュリンクしていくわけで、それであれば沖縄が目を向けるべきはアジアなんですよ。
そして10年、20年経ったときに、沖縄がアジアと仕事をするには今から準備していかなければいけない。10年後に「いまからどうしよう」じゃ遅いんですよね。
D2Cグループとしてもインバウンド・ アウトバウンドに力を入れている現在、僕たちの沖縄オフィスが拠点になっていたら最高じゃないですか。
「沖縄は東京のローコストセンター」という考えは変えなければいけない

山下紘史 氏
ーー 人件費を抑えるために沖縄にオフィスを構える企業も多いと思うのですが、D2C dotではどうお考えですか?
山下:僕の嫁が沖縄出身の人なんですね。それで親戚や友だちも多いのですが、沖縄がローコストセンターになっている、というのを肌で痛感していて、雇用形態も派遣、契約社員、バイトが多い。
さらに賃金格差だけでなく、情報格差もある。現地の学生とお会いして話す機会がありましたが、Web業界におけるディレクターやプロデューサーという職を知らないし、イメージがないんですよ。
そういったものを変えるためにも我々が沖縄に拠点をかまえて、専門学校や大学と一緒にやっていくことで、ディレクター、プロデューサーといったIT業界の専門ポジションに対する考え方を変えていくべきだと思っています。
守谷:D2C dotとしても東京と沖縄は上下関係ではなく、同列のイメージを持っていきたいと思っていて。そのため、直近ではメンバーを10名くらいまで増える予定ですが、すべて正社員雇用。そして東京から管理者を送って、というのをやらず、すべて沖縄で採用したメンバーでチームを運営をしていきます。
そうすることで、現地の方々に主体的に動いてほしいなと思っているんですね。
山下:実際に沖縄に行ってみると、前向きに何かしなくちゃ!と立ち上がっている若者もいるんですよ。そういった同じ想いを持った人たちと一緒になって、ポジティブな話題を伝える側になりたいし、なろうと思いました。
「県外に出るのに片道1万円」東京にいたら考えられない情報の壁を埋めていく

取締役・守谷啓介氏
―― 実際にプロジェクトが始まったのはいつ頃からでしたか?
守谷:2017年の秋頃からです。最初の半年間はなぜ地方オフィスをつくる必要があるのか、何をするのか、どのような人材を集めるのかなどをまとめ、温めていた期間でした。
四栗が先頭だってそれらをひとつずつ丁寧に、着実に検討を進め、幹部で話し合いながら実現に至りました。
山下:最初に3人で沖縄に行ったのは、2018年の5月でしたよね。そのときは知り合いのツテを頼りに人に会ったり、問い合わせてお会いしたり、県庁や専門学校を回ったり、タイムスケジュールパツパツで行きました。
中山:やはり地方に展開するとなると地縁がある、ないでは大きく違います。幸い、代表の四栗や山下が繋がりを持っており、多くの方に助けていただくことができたので、スムーズにオフィス開設まで進めることができました。本当に人のご縁に恵まれたなと思います。
―― 実際に沖縄に行かれて、感じたことは何かありますか?
山下:沖縄って南国特有のゆるやかで仕事に対して大雑把な人が多い、という風に思うかもしれませんが、実際はめちゃくちゃ勤勉な人だらけ。実際に会うと、すごいイメージが変わると思いますよ。
中山:僕は本プロジェクトを通じてはじめて沖縄に行ったのですが、「自然とそこに行ったら楽しくなれる場所」だなと感じました。
そして、家族からも「沖縄いいね」と言ってもらえるのは、働く側からしたら嬉しいですよね。過去に海外拠点の設立などにも携わったときには、やはり海外のイメージから家族からはとても心配されましたが、沖縄オフィスに関しては、家族からも応援してもらえるのがありがたいです。
あとは、食が合う。晩御飯に行ったあと、さらにシメで沖縄のステーキ屋に行って300g食べました。夜中3時までやってるので、肉好きの僕にはたまらない(笑)。
―― 現地に行ってみて、ここが課題だなと思ったことはありますか?
山下:やはり、「島」だということが壁かなと感じましたね。県外に出たことがないです、という人が多いんですよ。東京の人間からしたら、電車で500円とかで県外に出れますけど、沖縄の人たちはLCCで安くなったと言っても片道1万円はかかりますからね。
なので、どうしてもリアルな情報が入ってこないし、情報を掴みにいきづらい。
だからこそ、D2C dotとしては、東京の出来る人たちを沖縄に連れて行って、どれだけリアルなクリエイティブ話を伝えられるかが重要で。それは大それたセミナーという形式に限らず、企業や現地の専門学校、なんなら高校や中学校とかに連れて行って、情報を届けていきたいですね。
クリエイターにとって可能性に満ちた沖縄の「これから感」とは
―― 沖縄という土地は、クリエイターにとってどんな場所だとお考えですか?
山下:気候が良くて生活しやすいし、もちろんインターネット環境も整っているから、クリエイターにとっては過ごしやすい場所だと思います。
また東京と違って、日常にクリエイティブが少ないというのは、クリエイターにとっては逆にチャンスだなと思っていて。たとえば、電車もモノレールの「ゆいレール」1本だけですし、看板もビルに直書きされていたりする。でも東京であれば、電車に中吊り広告もそうだし、街なかの広告も頻繁に入れ替わって、日々クリエイティブに触れる機会が多いんですよね。
電車の中吊り広告だって、東京であれば数千万円かかるのが、沖縄では下手したら数十万かからないわけですよ。
そういった沖縄の「これから感」が逆にいいなと。ゼロからクリエイティブにチャレンジできる土壌があるので、クリエイターにとってはとても可能性に満ちた場所だと思っています。
―― 最後に、今後の展望について教えてください。
守谷:まずは沖縄を拠点にWebメディアやSNSの運用、解析まわりから進めていき、少しずつ幅を広げていこうと思っています。そして、いまは東京側がクライアントに近いポジションにいますけど、これからは沖縄でもクライアントに近い企画・制作といった領域をできるようにすることが次のフェーズです。
また、現地にいる同じ業界の方たちとも連携を取っていき、お互いの技術を高められるような発展をしていきたいと考えています。そして近い将来、D2C dotの沖縄オフィスがアジアの玄関となるように動いていきたいですね。
中山:東京から沖縄へ移住したい、戻りたいという方もそうですし、逆に沖縄から東京で働きたい!という人を受け入れられる受け皿を用意し、D2C dotとして「働く場所」の選択肢をしっかりとつくっていきたいなと考えています。
山下:5年、10年と経ったときに、「D2C dotが沖縄に来たときから、なんか潮目が変わったよね」と言われるように動いていきたいですね。そして、そのときに関わったメンバーと「あのとき、頑張ってスタートさせられてよかったな」と、うまい酒を飲めたらいいな。