デジタルもアナログも「すべてできる」ではなく「すべて尖る」。そんな ”全方位的クリエイティブ集団” を目指している、国内外のアワードを数多く受賞している株式会社スタジオディテイルズ(以下、STUDIO DETAILS)。
東京のWeb制作界隈でも名高い同社だが、2017年に東京オフィスを開設しつつ、実は名古屋に本社を構えている。そんなSTUDIO DETAILSに設立初期の2011年に入社し、現在はエンジニア兼マネージャーを務める辻良平氏。
実は入社当時はデザイナーだったという辻氏は、どのようにエンジニアとしてのキャリアをスタートし、海外アワードを受賞するようなスキルを得ていったのか。
そのキャリア遍歴には、Webクリエイターのスキルアップやキャリアを考えるためのヒントも多く存在する。数年で転職をするクリエイターが多いWeb業界で、STUDIO DETAILS勤続8年となる辻氏に話を伺った。
デザイナーとして入社半年後「センスないから、エンジニアやってみない?」未経験からの転身
―― 辻さんのこれまでのキャリア遍歴を教えてください。
大学が工業系だったこともあり、新卒で就職した名古屋の会社では板金設計の部署で働いていました。しかしリーマンショックが起きて、社員の半分がリストラされることになったんですね。そのタイミングで僕自身も「転職したい、なんなら職種も変えたい」と思い、業界全体の勢いを感じていたIT業界で働いてみたいと思うようになって。
そこから社会人向けのスクールに半年通って0からWebデザインを学び、クラスメイトづてで知り合った方から「STUDIO DETAILSという会社があるよ」と教えてもらったのをキッカケに、2011年にSTUDIO DETAILSに入社しました。
当時のSTUDIO DETAILSは、ちょうど入れ替わりのタイミングでもあり5人の組織でした。僕ははじめデザイナーとして入社したのですが、半年ほど経ってエンジニアが退職してしまい、誰もいなくなってしまって。副代表の服部に「デザインのセンスないよね、エンジニアやってみない?」と言われて、手探りながらエンジニアになりました(笑)。
エンジニアとして様々な案件に携わり経験を重ね、2017年にマネージャー職にも就きました。名古屋チーム全体のマネジメントを行い、メンバー育成や採用領域も担当しています。マネージャーとなったのが東京オフィスを開設したタイミングでもあるので、定期的に東京にも足を運び、拠点間を繋ぐ動きもしています。
―― 急にエンジニアとしてのキャリアをスタートさせることに抵抗はなかったですか?
マークアップは好きでしたし、業界のことがよくわからなかったので、「あっ、はい。わかりました」くらいの感覚でした。その後も職種の枠に囚われずいろいろなことを担当させてもらった8年間だったのですが、いつも「やってみない?」と誘われて、とりあえずやってみるという感じで。
というのも、自分だと間違った選択をしがちなんです。デザインができないのに、デザイナーになりたいと思ったり(笑)。なので、いい具合に使われているなと思いつつ、僕も会社を使っている。エンジニアになったのは大きな転機だったなと思いますし、いまではさらにマネジメントも任せてもらっている。自分自身のキャリアを振り返ってみると、常に会社と一緒に成長してきたなと感じています。
トップクリエイターとの仕事から技術を盗む。スキルアップの転職は必要ない
――業界的には数年で転職を繰り返すクリエイターも多い中、辻さんがSTUDIO DETAILSにい続ける理由はなんでしょう?
転職を考えたことはありますが、そのタイミングを見計らったように、ちょうど飴が与えられるんですよ(笑)。
入社して4年目くらいのときも、転職のことが頭をチラついていたときにいきなり京都出向の話があがったんです。京都の株式会社エックスポイントワンをグループ会社として迎え入れたのですが、そこには京大出身の優秀なフロントエンドエンジニアがいる魅力的な環境がありました。僕自身が京都に住んでみたかったこともあり、話が上がってから1週間ほどで、トントン拍子に京都出向が決まりました。
実際、京都出向を通じてマークアップエンジニアではなくフロントエンドエンジニアとして名乗れるようになった実感がありました。自分自身のスキルの幅が広がる機会を用意してくれていると言うか。気づいたら、転職のことは考えなくなっていました。
―― 同じ環境にい続けることで、スキルアップの限界を感じることはないですか?
普通だと「自分のスキルを伸ばしたいから」という理由で転職を考えたりするのかもしれませんが、 “環境を変えてスキルアップしよう” といった発想がそもそもありませんでした。なぜなら、STUDIO DETAILSでは外部のトップクリエイターの方々とご一緒する仕事を積極的に設けているので、働きながらスタンスや技術を盗み、成長する機会がたくさんあるんですよね。
たとえば、ドローンメーカーのACSLの案件ではホムンクルスの荒井さんとお仕事をご一緒させていただいたのですが、その時に初めてクリエイティブフロントエンドエンジニアの存在を知りました。同じフロントエンドの開発に関わるエンジニアでも、ここまで仕事の取り組み方が違うのかと衝撃を受けて。
まず、エンジニアからデザイナーへの求める精度が荒井さんは非常に高い。表現の部分について、エンジニアからデザイナーに指示するというやり方を初めて実践で体感しました。
さらに荒井さんの案件に対する姿勢、責任を持つ範囲、判断の仕方がすべて僕と違ったんです。荒井さんと一緒に仕事をしたことで、フロントエンドエンジニアが出せる価値はもっと広いんだと知ることができ、自分のスキルの幅を広げるキッカケとなりました。
また、以前『WebGL 総本山』の杉本さんが主催するWebGLスクールに通ったんです。トップクリエイターの方々が講師を務めていて、技術的な面はもちろん、意見をくださる外部の方々や同じ視座のクリエイターと出会えたのが大きかったです。
当時、結婚したばかりで家庭も仕事も忙しいタイミングでしたが、東京の名だたるクリエイターの人たちと知り合う機会にもなり、名古屋から勢いよく飛び込んで良かったなと思います。
毎回無我夢中に挑戦し続ける。パフォーマンスを出せなければ次はない
―― 辻さんにとって、転機となった案件はありますか?
2016年に担当した枕のキタムラ “colon” の案件です。この案件では、服部から「AWWWARDSというのがあるらしいよ。1回でいいから取ってみたいんだよね」と言われて担当することになったのですが、その話があがったのが納品直前のタイミング(笑)。
デザイナーとともに合宿状態で取り組み、3日間でなんとか形にしたものの、バグも多いし精度も悪い状態で……。クライアントに時間をいただきデバッグとブラッシュアップをやりこみ、話が上がってから1週間でリリース。さすがに心が折れそうになりました。
しかし、デザイナーとずっとコミュニケーションを取り、デザインしながら実装もしていくというフローは初めてだったため、とても楽しくもありました。さらに結果的にはAWWWARDSの他、FWAやThe Webby Awards、CSS Design Awardsなど多くの賞を受賞することができ、東京界隈の有名な制作会社の方からもコメントをもらえるなど、STUDIO DETAILSが注目されるキッカケとなりました。怒涛のブラッシュアップを経て良いものになった自負はありますが、あのタイミングでよくこんなリスクをとったなと。STUDIO DETAILSの懐の広さというか、チャレンジ精神を感じた案件でもありました。
STUDIO DETAILSはいまでも突然、とんでもない目標を立てたりするので、どんな無茶振りがくるんだろうかと身構えることも(笑)。でも、こういった案件を乗り越えると、メンバーみんなのクリエイティブに対する基準値もあがり、ステップアップも実感できます。ただ、そこで満足していたらダメで。
実は、会社を代表するようなレベルの挑戦案件にアサインされなかった時期もあって……悔しい思いをすることもありました。いまでも最高のパフォーマンスを出さないと、次のチャレンジにアサインされないと思っているので、毎回無我夢中で取り組んでいます。
―― 辻さんはSTUDIO DETAILSのどんなところに魅力を感じていますか?
ひとつは、単純にSTUDIO DETAILSのデザイナーがつくりだすデザインがすごく好きなんです。僕が言うのもなんですが、STUDIO DETAILSのデザイナーは守備範囲が広くレベルも高い。フロントエンドエンジニアとして、彼らのデザインを形にできるというのは、とても喜びを感じています。
つぎに、STUDIO DETAILSはいい意味で「わがまま」なところが魅力かなと。クライアントの言う通りのものをつくるのではなく、期待を越えるアウトプットをしたいと常に思っています。
たとえば上述のACSLの案件では3D空間でドローン操作を体感できるWebコンテンツを用意しましたが、そもそもクライアントのオーダーにはなかった企画でした。
でも「ACSLが目指す世界を視覚的に伝えるために作りましょう」と提案し、BtoBのコーポレートサイトにも関わらず実現。リリース後も「反響が良かった」とクライアントからはポジティブなご意見をいただけて嬉しかったですね。
以前に代表の海部から「自分にどう負荷をかけていくかを考えろ」という言葉をもらったのですが、毎回の案件で何かしらのチャレンジが入っていないと良いものは生まれないと考えています。
そのため、どの案件でも常に新しいことを取り入れることを意識していますし、フロントエンドエンジニアとしてデザイナーがつくりたいと思っているもののさらに上を目指していくことが理想だなと。
トップクリエイターとの協業で学べる機会も多いので、技術もまだまだ追求したいですね。いいアウトプットによって、一緒に仕事をして良かったと言ってもらいたいですし、認めてもらえるようレベルを高めていきたい。また、新しいクリエイターに一緒にやりたいとも思ってもらえるよう、現状に甘んじることなく、常に新しい分野や難しい技術にチャレンジしていきたいです。
チームとしての精度を高め、Webの最前線でチャレンジし続けたい
―― 現在、マネージャーとしてチームを引っ張っていく存在となり、意識していることや目標はありますか?
これまで素晴らしい制作会社のクリエイターと自分を比較して、いつもヘコんで悔しい思いをしつつ、「彼らに近づきたい」という思いが常にありました。でも、制作はチームプレイ。トップクリエイターも一人で全て作るわけでなく、会社やチームでいいアウトプットをしています。
いま自分のキャリアを振り返ると、会社と一緒に自分自身も成長してきたなと思うんです。今後は個人としてだけではなく会社、チームとしての精度を高めていきたい。これだけクリエイティブに対して前のめりで懐の広い会社ですから、メンバーにもっとチャレンジを促して、みんなで成長できる組織になっていきたいですね。
また、僕がもらったような成長の機会を、若いメンバーにも与えられるマネージャーでありたいと思います。
―― 最後に、辻さんの今後の展望を教えてください。
やりたいことだらけです。もっと経営陣から信頼されるマネージャーになり、マネジメントする範囲を広げていきたいですし、エンジニア領域だけでなくさらに広い領域に関わって自分自身ができることを増やし、キャリアの可能性も広げていきたいとも思っています。
またSTUDIO DETAILSを成長させていくためにも、メンバーの育成にも力を入れていきたい。
だけど、自ら手を動かしてつくりたい、という思いも強くて。やはり、つくっていることが一番楽しいし、好きなんですね。これからも常に時代の先を見て、Webの最前線でチャレンジし続けていきたいなと思っています。