地域の中小企業にとって、人材不足はつねに経営課題の中心にあります。とくに専門性の高い人材の確保は難しく、DXや新規事業といったテーマに取り組もうとしても、社内だけでは限界があるケースも少なくありません。そうしたなかで注目されているのが、プロボノ・副業といった形で関わる外部人材の活用です。
宮城県気仙沼市で水産加工業を営むハチヨウでは、プロボノや副業人材と共創の関係性を築きつつDXや新規事業創出を進めています。ハチヨウ・取締役常務の清水健佑さんにプロボノ・副業人材をどのように受け入れ、企業変革につなげているのか、企業と人材の双方に価値を生み出すコツを聞きました。
「埋もれた人財」から始まった改革
「私たちの事業の動向と町の活気は比例関係にある」と、清水さんは言います。祖父が1972年に創業し父が代表取締役社長を務めるハチヨウは、いか塩辛やめかぶなどが主力商品で、気仙沼市の前浜で水揚げされるものを原料の一部として加工しているからです。
「町の元気がなくなっていくなか、企業経営だけ考えればいいわけではないと学生のころから思っていました。私だけでなく、地元企業の跡取りたちは、自分が経営者になったらどういった町にしたいかをセットで考えているように感じますね」
清水さんは慶應義塾大学大学院政策メディア研究科に在学中から6年間、有限責任監査法人トーマツで自治体の計画策定や業務改善などコンサルティングを経験。東日本大震災から10年目の2020年に地元である気仙沼市に戻り八葉水産(現、ハチヨウ)に入社しました。入社して最初に取り組んだのは、人材の配置転換でした。
「イカ処理のやり方に始まり、水産業界のこともオフィスのどこに何があるかも従業員の方々についても知らないことだらけ。まずは全社員との面談の機会をつくり、話を聞くことから始めました。すると、退職する直前の台湾出身の高度人材の方がいました。中国語、英語、日本語を話せて、ゲーム会社でソフトウエア管理を行っていた経験がある。そういった経歴の方が現場で箱詰め作業をしていました」
元々は海外営業担当として採用した高度人材は、コロナ禍によって海外営業の機会を奪われ、現場作業に従事していました。清水さんは、その人材の話を聞いてすぐに自分の席の横にその人材の席を移し、ITプロジェクトのチームとして活動を始めました。今はその高度人材がセキュリティー関連のソフトウエア管理、基盤システムの保守などハチヨウのDX推進を担っています。
社内リソースだけでの限界
埋もれていた人材を生かすことで進み始めた改革。その後、清水さんはWi-Fi整備、PCの刷新、システム導入、業務プロセスの見直しなど、多数のプロジェクトを主導しました。
「当初は、配置転換によって現場の人が減るのは困るといった声もありましたが、私が自ら動き、働く時間や手間を減らしていきました。私が現場に関わって変化が見える、生産性が上がるということが体感として伝わっていくと同時に、働く環境の改善を進めていこうという雰囲気が現場に芽生えていきました。」
調達方法の見直しによって経費を約3割削減。アイドリングタイムを調整することで生産量を40%増加させる一方で年間の休日を15日増やし、入社から3年で生産性を大きく向上させた清水さん。ここで新たな壁に直面します。既存のパッケージシステムでは限界が見えてきたのです。
「最適化されたシステム構築が必要だという段階になり、ノーコードツールを使って自らやろうとしましたが、時間が取れず実装できませんでした。SIer企業に委託することを考えましたがコストに見合わない。そこで出会ったのがプロボノ人材でした」
プロボノから副業、段階的に深まる関係性
ITエンジニアとしてコンサルティングスキルを伸ばしたいと考えている人に、ハチヨウを「フィールドとして提供」。報酬は金銭ではなく気仙沼特産のサンマやカツオ、塩辛やめかぶの自社製品などとしました。この仕組みにより、本業では副業が制限されている人材も参加しやすくなります。結果として、大手企業のエンジニアやコンサルタントなど、高度なスキルを持つ人材がプロジェクトに参画しました。
「自分のスキルを試したい、生かしたいという意欲の高い方が集まってくれます。金銭が介在しない分、お互い人間性を重視した付き合いになっている気がしますね。冬はスキー旅行に行くなど、仕事を超えた関係が築かれています」
ハチヨウでは、いきなり有償契約するのではなく、まずプロボノとして関係を築く。お互いを理解した上で副業契約に移行するケースが多いといいます。プロボノで縁を結んだITエンジニアも、今は副業でDXを推進する立場です。 このプロセスにより、「ミスマッチを防ぎつつ信頼関係をベースにした協働が可能になる」と清水さんは考えます。
「進めたいプロジェクトがどのくらいの期間必要で、どのくらいの難易度かはやってみないとわかりません。だからこそ、ゆるやかな関係でスタートする。 契約や納期に縛られすぎない柔軟な関係性が、結果として持続的なプロジェクト推進を可能にしています」
外部人材はコストではなく価値創出パートナー
外部人材の活用は、単なるリソース補完にとどまりません。新規事業にも大きな影響を与えています。ハチヨウでは現在、ウイスキー事業や新商品の開発にも取り組んでいます。こうした領域では、ブランディングやマーケティングなど、社内にない専門性が求められます。
「メーカーとして、衛生管理と調理加工については高い技術がある。これにどうやって付加価値をつけ、市場につなげるか。外部人材の方とともに考えています」
業務改善とともにハチヨウの大きな課題の1つが、遊休状態にある工場設備の活用です。工場の稼働率を上げるといっても、国内人口が減少し市場が縮小していくなかで従来商品のみでスケールアップするのは難しい。海外の市場への展開といっても水産加工品は、日本の食文化そのもので、海外展開するには文化の浸透が必要となり長期的な取り組みが必要になります。 そこで清水さんは、事業の成長のために「食卓を豊かにする商品」を新たに開発し、事業の多角化を図ることにしました。
「ハチヨウは“めかぶ屋”でも“塩辛屋”でもなく、高い安全性をもって商品を食卓に届けることがコアコンピタンス。高い能力をもつ排水処理設備や自動充填ラインを備えた工場は私たちの強みの1つです。新規事業を考えるときも、食卓を豊かにするということを中核に置いて、自社の強みをどう生かすかをつねに考えています。そこで行き着いたアイデアの1つが、ウイスキー事業でした。ワカメ漁に使っていた木造船の廃船を貯蔵だるにアップサイクルして、独自の風味をもつお酒をつくる……。私自身もそうですが、お酒好きのさまざまな業界の人が関わってくれてプロジェクトが進んでいます」
外部人材との共創を新たな起点とし、ハチヨウは成長を続けています。