後編:「人手不足に悩む地方の中小企業こそ、副業人材がブレイクスルーになる」小田原箱根会議所が目指す新たな地域活性化策とは

小田原箱根商工会議所 会頭
鈴木 悌介 氏
1955年神奈川県小田原市にてかまぼこ屋の次男として生まれる。上智大学経済学部卒。1981年から1991まで米国にて、スリミ、かまぼこの普及のため現地法人の立ち上げと経営にあたる。帰国後は家業である鈴廣の経営に参画。現在は鈴廣かまぼこグループの代表取締役副社長を務める。2013年より小田原箱根商工会議所の会頭、2023年より鈴廣の取締役相談役を務め、地域活性化に取り組む。

◆小田原箱根商工会議所◆
神奈川県小田原市と箱根町、2つの行政区にまたがる商工会議所。地域産業の振興と活気あるまちづくりを推進する。会員企業数は約3,300社、約8割を小規模事業者が占める。
役職は、インタビュー実施当時のものです。

都市部の副業人材を活用して、広報などさまざまな成果があったという小田原箱根商工会議所。今後は小田原市内の中小企業にも副業人材を活用してもらおうと、自治体である小田原市と一体となり、新たな取り組み(※)を進めています。

「今後は地方の中小企業もグローバル化を目指していきます。都市部の副業人材から刺激を受けることで、新たな挑戦がしやすくなるのでは」と語るのは、小田原商工会議所の取締役相談役を務める鈴木悌介さん。小田原市を代表する老舗企業の副社長を務める鈴木さんは、かつてアメリカで現地法人の経営に携わった経験をお持ちです。

後編では、「地方の中小企業が外部人材を活用するメリット」について、鈴木さんとみらいワークス代表の岡本が対談しました。

前編はこちら
https://mirai-works.co.jp/media-career/interview/interview-odawarahakone-shokoukai1/

対談動画はこちら(小田原箱根商工会議所)
https://www.odawara-cci.or.jp/information/skillshift-cci.html

※小田原市・小田原箱根商工会議所・みらいワークスの提携についてはこちら
https://mirai-works.co.jp/news/news9729/

日本経済を支えているのは、実は地方の中小企業たち

鈴木さん(以下、敬称略):小田原箱根商工会議所として副業人材を活用してみて、あらためてミッションを明確にすることが重要だと感じました。

今後は地域の中小企業にも、副業人材の活用を推進していきたいと考えています。実は我々の商工会議所の会員企業には、2世、3世の経営者も多くいます。ですから、彼らが先代から引き継いだミッション、ビジョンをしっかり自分のものとして認識すること。これが、副業人材の活用に欠かせないと感じています。

岡本:2代目や3代目の方は、代々その地域経済を担っている方々ですよね。そういった会社に応募する副業人材の方は、やはり「地域に貢献したい」という想いを持つ方が多いと思います。

私自身、日本を元気にしたい、そのためには地域の活性化が欠かせないという想いでみらいワークスを立ち上げました。そう思ったきっかけは、日本のGDPについて知ったことです。日本のGDPは、首都圏や名古屋圏・大阪圏という大都市圏が占めていると思い込んでいましたが、実際には38%しかありませんでした。つまり日本のGDPを支えているのは地域経済なんですよね。ですから地域の2代目、3代目という地域経済を担う方を、都会のプロ人材が副業などの形で支援する。日本を元気にするために、一緒に頑張っていこうというイメージです。

都市部のプロ人材にとっても、地域での副業は従来の仕事と全く違う経験です。違う環境で新しい経験ができるから、プロ人材も成長できる。そういう意味でWin-Winな関係だと思います。

鈴木:確かにGDPもそうですし、地域の中小企業は企業数も働く人の数も多いですから、地域が担うものは大きいですね。我々のような地域の中小企業の経営者は「この地域を支えていく」という自負を持っています。その部分をストレートに、わかりやすく副業人材の方たちにお伝えできたら、きっといい方に出会えるのではないかとあらためて感じました。

岡本:「自分たちが地域を支えている」と言えることは、すごくかっこいいと思います。都心の大企業で働く人たちには絶対にない感覚です。私も全国の地域の中小企業の方々とお話しする機会は多いのですが、まさに皆さん、地域を支えていらっしゃいます。その会社がなくなってしまったら、雇用も含め地域経済に大きな影響が出てしまいます。

地域を支える中小企業を応援できるのは、プロ人材にとっても大きな機会です。地域の5年後や10年後を想像しながら仕事をする。これは大企業で歯車的に働いている中では、経験できません。

さらに副業人材から見れば、第2、第3のふるさとができるという感覚もあります。副業をきっかけに地域に定期的に通うようになり、地域のいいところを見つけられる方も実際にすごく多いですね。気づいたら地域に愛着がわいて、時には家族を連れていくなんてこともよくあります。地域に関わっていく人をどんどん増やせる可能性があるのも、副業人材を活用する大きなメリットだと思います。

地元にいるとその良さに気づけないこともある。だからこそ外部の視点が大切

鈴木:私事ですが、若い頃に10年ほどアメリカにいて、現地で会社を作ったこともあります。その時海外から日本を見るチャンスがありまして、岡本社長とは20歳ぐらい違うと思いますが、同じように日本の良さは地域にあると感じました。

当時は戦後間もない頃で、何とか日本が経済復興しなければならない、アメリカに追いつかなければいけないという時代でした。ですから効率性を重視していて、例えば給食も当時は日本中で同じものを食べていたんです。まとめて作って送ったほうが効率いいですから。地産地消なんて言っていられない時代でした。

でもアメリカに行ってあらためて外から日本を見た時、日本が持つ最大のアセットは、やはり地域だと感じました。日本には豊かな自然と歴史、文化を持つ個性豊かな地域がたくさんある。これが日本の本来の姿であり、魅力ではないかと。

大都市の人材を地域の中小企業につなぐというのは、中小企業の経営の課題解決だけではなく、大げさかもしれませんが日本の課題解決にもつながるのかもしれません。

岡本:時代は違っても、同じ想いを感じていたわけですね。私自身も起業する前に47都道府県を全部回ったことがありまして、その時日本各地に素晴らしいものがたくさんあることを知りました。

地方に行けば行くほど、独自の文化が強く残っています。その一方で、経済的に地方が廃れていく姿も目の当たりにして、このままだと日本の良さがどんどん消えていくのではないかと感じました。もっと日本の良さを生かしながら、経済を発展できないだろうかと考え、これが起業につながっています。

外から見ると良さがわかるという意味では、地域にいるとその地域の良さに実は気づいていないこともあると思います。例えば都市部の人から見るとすごく面白いと思うものが、地域にいる方や自治体の方から「これのどこがいいの?」と言われてしまうことは、よくあります。

ですから新商品の開発や新しいアイデアを出す時、地域の方だけではなく外部の視点を入れることでブレイクスルーすることも多いのではないでしょうか。都心のプロ人材と一緒にやることで、地域からも新しいアイデアがどんどん出てくると思っています。

地域の中小企業がグローバル化を目指す時にも、副業人材は大きな力になる

鈴木:そういうやり方なら、世界で売れるものが、小田原の企業が持っている色々な知恵と素材で作れるかもしれません。

岡本:日本で当たり前だと思うことが、海外の人にとってはすごいこともありますよね。例えば数年前に海外へ行ったとき、向こうの方と「今は中東の勢いがすごいですよね」みたいな話になりました。その時に相手から「ドバイも室内スキー場を作って確かにすごいけれど、日本人は30年以上前に室内スキー場を作ったじゃないか。日本の技術がどれだけ世界の先を行っていたか、わかっている?」と言われ、衝撃を受けました。

鈴木:将来的には地域の中小企業もグローバル化を目指していくと思います。そういう時にはやはりプロの方々に支援していただく必要があると感じます。

岡本:経営者の方々は、やりたいことがあっても「人がいない」という理由で諦めていたことがきっとあると思います。ぜひそれを棚卸ししていただきたいですね。その上で経営者様のやりたいことや想いをプロ人材の方に熱く語っていただければ、きっと応えてくれる方が見つかると思います。

中小企業の方々が「これをやりたい」と思った時、すぐ人材に出会えるプラットフォームでありたいと思っています。地域の中小企業が持つ可能性は本当に大きいので、これからも地域の方々と一緒に取り組んでいきたいですね。

鈴木:我々もこの地域をこれからも大切にして、次の世代に残していきたいと考えています。そのためにも、新しい人材として都市部の副業人材の方々には大きな期待を寄せています。