新たなものづくりを目指し外部人材を活用!京都で70年続く老舗メーカーの挑戦

関西巻取箔工業株式会社(KANMAKI Co.,Ltd.)
1952年に京都で創業。印刷業界で使用される特殊素材「顔料箔」開発のパイオニアとして、自動車や家電、化粧品、食品など幅広い分野に製品を提供する。2019年経済産業省「始動 Next Innovator」ピッチコンテストで最優秀賞を受賞。2021年経済産業省「はばたく中小企業・小規模事業者300」に選出される。

地方企業にとって大きな課題となっている人手不足。社員を採用したいものの、コストが出せずに悩む経営者も多いのではないでしょうか。こうした中、外部の副業人材を活用して新たな事業の展開につなげているのが、京都で70年以上続く「顔料箔」メーカーの関西巻取箔工業株式会社(以下、KANMAKI)です。

印刷・塗装の業界で使われる特殊素材「顔料箔」開発のパイオニアである同社の製品は、自動車部品や家電製品など幅広い分野に採用されています。

同社の取締役COOを務める久保昇平さんは「メーカーとしてものづくりに集中していればいい時代もありましたが、今は違います。そこで社内リソースのみで進めることが難しかった広報やマーケティングの分野に、外部のプロフェッショナル人材に活路を見出し自社でできるようになりました。」と語ります。今回は、久保さんに外部人材活用による成果や成功のポイントを伺いました。

メンバーを固定するとできることが限られる。新しいことをするために外部人材が出入りする組織を目指した。

外部人材を活用しようと思われた背景を教えていただけますか?

久保昇平さん(以下、敬称略):われわれの業界では、営業を販売代理店さんへお任せするのが一般的でした。メーカーである僕らは、ある程度ものづくりに集中できていたんです。ところが最近は状況が変わり、特にコロナ禍をきっかけに海外拠点をクローズする代理店が出てきて、海外展開が厳しい状況になっています。

こうなると、商品を知ってもらうために、僕らが動く必要が出てきます。しかし地方の中小メーカーでは、こうした業務を社内こなすのは難しく、新たに正社員を採用するコストもなかなか出せません。

そこで思いついたのが外部人材です。実は以前から、社員が10人程度でも50人ぐらい出入りするような会社にしたいと思っていました。

例えば僕らの扱う「顔料箔」は色を表現するものなので、デザインと密接な関わりがあります。とはいえデザイナーなどのクリエイターも、当然ながら人によってそれぞれ得意・不得意があります。ですからメンバーを常に固定するのではなく、プロジェクトごとに外部の方を集めるほうが、よりよいものが提案できると考えていました。

以前から外部人材の活用を検討していたとのことですが、何かきっかけがあったのでしょうか?

久保:僕は25歳まで演劇の脚本・演出家をしていて、自分の劇団を持っていました。当時はコアメンバーもいましたが、公演の度に他の劇団から役者をスカウトしていたんです。やはり同じメンバーだけでは、表現できる作品が限られてしまいますから。

これと同じことを今の仕事でするなら、まさに外部人材はぴったりだと思いました。ちょうどコロナ禍でオンライン会議によるリモートワークが普及してきたことも、追い風になりました。

外部人材の選考で大切にしたのは、自分の直感とエージェントとの信頼関係。

外部人材の募集から採用までの流れについて、教えていただけますか?

久保:最初は地元のWebメディアに求人を載せましたが、これだけではどうしても「待ち」になります。もっと能動的な採用活動がしたいと思って自治体へ相談したところ、みらいワークスを含めた外部のプロフェッショナル人材を扱うエージェントを数社紹介していただきました。

最初は、大手の人材派遣会社さん経由で採用しました。ただ大手ということで何かと制約がありましたし、コストも今思えば高かったですね。その後みらいワークスにご相談して、3名の外部人材の方を採用することができました。

この時はあまり職種を絞らず、広めに「創業70年、京都のモノづくり企業の三代目が挑む新規事業のCXO」というかたちで募集をかけました。私たちに、どのくらい興味を持ってもらえるかまず知りたいと思ったからです。

その結果68名も応募があり、正直驚きました。みらいワークスの担当者に思わず「こんなに多いと選べません」と言ってしまったくらいです。その後担当者と相談して、やはり今は情報発信の部分が喫緊の課題でしたので、広報の方を1名採用しました。

70名近くの中から1名に絞るのは大変だったと思います。どのように選考したのでしょうか?

久保:採用した方は、今は本業として企業で広報をされていますが、採用した当時はフリーランスでした。プロフィールを見ると、NPOに入っていたり、自治体の支援に関わったりと、ずっと地方創生に関わっていらっしゃいました。お金になりにくい地方創生をフリーランスとしてやってきたということは、それだけ強い思い入れがあるということです。そういう熱意にとても惹かれました。実は面接したのは、この方だけだったんですよ。

面接した結果、イメージと違うという心配はありませんでしたか?

久保:書類を見れば、その人が本気かどうかはわかります。これは僕がかつて脚本の仕事をしていたからかもしれません。本気の人が書くものには、熱量がありますから。書類を見て「この人と話してみたいな」とか「この人なら面白いことできそうだな」という自分の直感は、それなりに信じています。

また今回は、みらいワークスの担当者を全面的に信頼していました。しっかりコミュニケーションを取ってこちらの意向を伝えていましたし、そこをくみ取って熱意を持って取り組んでくださいました。この人と一緒に選考すれば、まず間違いないだろうと思っていました。

こちらの目指すものや熱量を伝えて、エージェントといい関係を築く。これは外部人材を採用する初期段階で、大事なポイントだと思います。

外部人材を活用するには、まず自分が新しいことをインプットする時間が必要。

現在、どのような外部人材の方を採用していますか?

久保:Skill Shiftでは3名採用しています。まず先ほどお話した広報の方には、プレスリリースやメディア対応のほか、情報サイトの立ち上げなども支援していただいています。

あとはWebマーケティングの方と、去年8月から社内にsalesforceのMA(マーケティングオートメーション)を導入したのでMAに詳しい方を採用しました。

外部人材の方々とコミュニケーションする上で、意識していることはありますか?

久保:短期間で結果を求めるのではなく、長期的な視点を持つことを意識しています。自分が知らない分野にチャレンジするわけですから、プロである外部人材の方々とうまくコミュニケーションを取るには、やはり時間がかかります。こちらが何をしたいかを伝えるには、まず僕自身が新しいことをインプットする時間が必要ですから。

わからない分野だから専門の人に全部任せるという発想では、うまく行かないと思います。「こういうことはできますか?」というように、こちらが能動的に相手のスキルを引き出す必要があります。

また「この仕事が外部人材の方にとってどういうメリットがあるか?」という視点も必要だと思います。そこで、いかに僕らのやっていることが面白いか理解してもらうため、オンラインのみではなく、実際にお会いする機会を作ったり、市場調査に同行してもらうなどコミュニケーションを深めるようにしました。

久保さんにとって、外部人材はどんな存在ですか?

久保:ブレーンですね。手としての動きを求めるというより、クリエイティブな部分を担ってもらう存在です。外部人材の方々はプロですし、限られた時間で動いていただくので、補助的な役割をお願いするだけではもったいない。

方針や戦略の策定を外部人材の方と一緒に練り上げて、実際に手を動かすところを弊社スタッフにも助けてもらう。こういう流れにしていきたいですね。スタッフたちも戦略を理解しながら動いていくことで、外部人材の方がいない場面でも、自分で判断し、運用できる場面も増えてきているように感じます。

スタッフの方々は、外部人材を活用することに対してどんな反応でしたか?

久保:やったことのないことを教えてくれる人が来るという感じで、安心感があったのではないかと思います。とはいえやはり社外の方ですから、最初はお互いに探り合いながらコミュニケーションをとっていました。

個人の成長と組織の成長を両立できるのが、外部人材の大きなメリット。

外部人材の方を活用していて、どのようなメリットを感じましたか?

久保:会社は、お客さまはもちろん、市場や時代から求められる組織の成長スピードと私を含めた社内の個人の成長スピードが、必ずしも比例しません。会社が成長するにつれて、個人より組織に求められるスピードの方が早くなり、難易度も上がってきます。

例えば社内で広報をやりたいという人がいても、社内にノウハウがなければすぐにはできるようにはなりません。個人の成長スピードを待っていると、会社が要求されているレベルに到達するまでタイムラグができてしまいます。

そうなると、経営者としては組織の成長を優先せざるを得ません。とはいえ専門的な人材をどんどん採用すると、以前からいたスタッフや現場の空気感が損なわれたりすることがあります。それはそれで会社の文化が壊れてしまう恐れがあります。

そういう意味で、個人の成長と組織の成長を両立できないかなと悩んでいました。今はこの課題の解決策のひとつが、外部人材だと思っています。すでにプロである外部人材を活用すれば、組織として求められるスキルをすぐに得られる。一方で外部人材を入れることで、社内スタッフの育成にもつながります。

個人の成長と組織の成長、いいとこ取りできるのが外部人材だと思います。

今後、他の分野でも外部人材を活用したいとお考えですか?

久保:今後はさらに営業を強化したいと考えています。現在は僕が営業をほとんど担っていますので、きめ細かくお客さまにフォローアップするところまでなかなか手が回りません。都市部にいる外部人材の方なら、そのあたりのサポートや都市部での新しい販路開拓なども、お願いできるのではと考えています。

70年以上続く伝統を守りつつ、新しいことにもどんどん挑戦する。こういう姿勢が新しいものづくりにつながると考えています。