多くの企業で従業員の「キャリア自律」に向けた制度や研修の導入が進んでいます。しかし、社内という閉じた環境で研修を受けたことで、かえって「自社以外で通用するスキルがあるのか」と悩みを深めてしまう従業員も少なくありません。
株式会社みらいワークスは、大企業勤務の会社員が「これからのキャリア」や「新しい働き方」について気軽に情報交換ができるサードプレイス(社外交流会)として「みらいBAR」を主催・運営しています。2025年2月のスタートから1年が経過し、参加者同士が継続的につながり、刺激を与え合う社外コミュニティーとして定着しつつあります。
2026年5月15日の「みらいBAR」には50代を迎えた会社員の2人が登壇し、サードプレイスでの対話を通じ、自らリスキリングや副業へと踏み出したプロセスを語りました。本レポートでは、社員を社外コミュニティーへ送り出す意義を、登壇者の本音から検証します。
キャリア研修が逆効果に? シニア層が抱く「切り捨てられる」不安
大手電機メーカーに勤務する川内信吉氏は、営業一筋35年のベテランです。2023年に会社がジョブ型雇用(JD制度)を導入したことで 、大きな葛藤が生まれました。
川内氏: 「新しい人事制度をパッと聞いた限りでは、私の中ではもう切り捨てられるようなイメージだったんですね。会社からは、そうではないという説明を受けましたが、それから人生設計の研修を受けても気持ちは『どん底』状態で、迷いに迷っているような期間がありました」
「上司の背中押し」と「社外のロールモデル」による覚醒
川内氏が「どん底」から脱したきっかけは、上司の理解を得て参加した2日間の越境体験プログラム「B-SPARK」と、その後の「みらいBAR」での出会いでした。
川内氏: 「しがらみがなく、素で話ができる場に出たことが、私の可能性を開いてくれました。当時の上司がちょっと背中を押してくれましたが、自分でもこの年齢としては大胆だったなと思います」
川内氏は現在の担当業務である防災BPOプロジェクトを通じ、災害時における行政の対応(公助)の限界を感じ、地元地域で住民が助け合う「共助」の仕組みを作りたいという問題意識を抱いていました。そうした中で、社外の場で、すでに副業を始めている同世代からの後押しや、同じ営業職でありながらキャリアコンサルタントとして副業に挑戦しているロールモデルと出会いが転機になりました。対話を重ねる中で、川内氏は自身の進むべき道として「キャリアコンサルタント×防災」を見いだし、わずか2週間のうちに養成講座に申し込みました。
川内氏: 「こんなに真剣に勉強するのは久しぶりです。いろいろ覚えるべきこともあり、確かに難しいですが、全てが新しいことで楽しいという面と半分半分で、前向きに捉えています」
現在は、営業経験や防災BPOの仕事、キャリアコンサルタントの資格を掛け合わせ、地域防災の仕組みをつくる構造設計者として地元に貢献するというビジョンを掲げ、受講を進めています。
「あがき」から始まった社外活動。知見を生かした多彩な実践
もう一人の登壇者、大手造園建設会社の田中洋一郎氏は、幅広い職務を経験したゼネラリストです。管理職移行に伴う処遇の変化や、社内評価に対する悩みを抱え、約10年前から社外に目を向けてきました。田中氏は自身の取り組みを、自らの価値を確かめ、高めるための「社外活動」と定義しています。
田中氏: 「きっかけはキラキラした挑戦というよりは『あがき』でしたが、会社で思うように評価されなくても世の中では役に立てるんだな、と感じられるようになりました」
田中氏は、造園や土木に関する専門知識を生かし、国家資格の参考書執筆や地方企業の業務マニュアル作成といったライター活動を継続してきました。さらに2017年からは、国内外の複数のマッチングサービスを通じ、「スポットコンサル」として多様なアドバイザー活動を展開しています。国内外のマッチングサービスを通して、専門領域の分野についてアドバイス。平均して週1〜5件ほど対応するほか、勉強会の講師を務めることもあるそうです。こうした外部での活動は、自身をアップデートする機会になったと田中氏は振り返ります。
田中氏: 「知っているということよりも、相手に役立つ形で引き出せるかが重要で、その点は非常に勉強になりました。自分自身の中に眠っている知見が呼び覚まされたり、トレンドや情勢を調べ直したりして、知識を更新する機会になっています」
また、みらいワークスの副業マッチングサービス『Skill Shift』を通じ、四国の企業のサポーターとなることで、地域貢献も実践しています。
田中氏: 「専門領域で、お役に立てそうなご依頼が見つかったので応募しました。ホームページに掲載する技術情報の整理など、4ステップぐらいの特別計画を立てており、今のところ順調に推移しています」
シニアの自律を助ける「受け身ベース」のネットワーク構築
田中氏は、主体的な行動が苦手な層でも始められる、現実的なキャリア戦略を推奨しています。自分から人脈を広げようと無理をするのではなく、培った経験を言語化し、外部から見つけてもらえる「環境作り」が有効であるといいます。
田中氏:「ネットワークを広げていくと、思いもしない出会いがあります。私はビジネス系SNSのLinkedIn(リンクドイン)などを利用していますが、基本的に受け身で、自分からつながりを申請したことはありません。それでもプロフィールを詳細に記載することで、1000人以上の方とつながることができました。40代、50代になれば、それぞれに面白いキャリアエピソードがあると思いますので、それをきちんと搭載すると、向こうから興味を持っていただける環境を作ることができます 」
両氏のアプローチや進行状況は異なりますが、社外の場を活用したことで、自身のキャリアに対する当事者意識が大きく変化していることがうかがえます。
まとめ:社外コミュニティーを活用する3つの意義
登壇した両氏の事例から、人事・研修担当者が社員を「みらいBAR」のような社外コミュニティーへ送り出す意義として、以下の3点が挙げられます。
・社内研修の補完: 「年齢による順番待ち」という義務感から離れ、外部の刺激を通じて自発的にリスキリングを選択する契機となります。
・自己理解の深化: 会社の看板を外した対話により、自社内では気づきにくかった自身の「強み」を客観的に再定義できます。
・一歩を踏み出しやすい環境づくり: 企業がアナウンスを行うことは、現場の上司が社外活動を後押ししやすくなる環境づくりにもつながります。
従業員が「残りのキャリアをどう使うか」という本質的な問いに自発的に向き合い始めることは、中長期的な組織の活性化においても有効なアプローチの一つといえるでしょう。