「新規事業開発の『経験』をどう捉えるか」調査を実施、経験を可視化し次代の事業開発に活かす仕組み作りを解説

みらいワークス総合研究所は2025年12月4日、新規事業に関する定例セミナーを開催しました。テーマは「経験者不足×アイデア創出の解像度を上げる!大企業社員1000人に聞いた『新規事業開発に必要な経験値とは?』」。調査結果から新規事業開発の課題を考察するとともに、良いアイデアの条件や組織の在り方を解説しました。合同会社サバティカルファーム 代表社員の岩本晴彦氏をゲストに迎え、COTO DESIGN, LLC代表の石森宏茂氏(みらいワークス総合研究所 研究員)がモデレーター・登壇者として、共に知見を披露しました。

 

みらいワークス総合研究所では、新規事業開発をテーマにしたセミナー(勉強会)を定期的に開催。これまで組織の作り方やエフェクチュエ―ションと呼ばれる意思決定理論の活用法、大企業が新規事業開発に取り組む際のポイントなどに関するセミナーを実施してきました。 

第4回となる今回は、大企業に勤める社員へのアンケート結果をもとに、新規事業開発に求められる「経験」とはどのようなものなのかにフォーカス。どんな業務に携われば「新規事業開発経験者」と名乗れるのか、「新規事業開発経験者」と呼ぶためにはどんなフェーズに最低限関与すべきかなどがアンケート結果から浮き彫りになりました。さらに結果をもとに、新規事業のアイデアをどう育むか、新規事業開発を加速させる仕組みをどう作るべきかも解説しました。

写真:モデレーター・登壇者のCOTO DESIGN, LLC代表 石森宏茂氏(みらいワークス総合研究所 研究員)


新規事業開発経験者の基準が曖昧な状況が浮き彫りに

セミナー冒頭、大企業に勤める社員に聞いたアンケート結果を発表。プロジェクトオーナー、プロジェクトマネージャー、プロジェクトメンバーといった役割別に、新規事業開発への関与度合いを数字で示していきました。

例えば、自分自身が「新規事業開発経験者」だと認識しているかどうかを質問(図1)。結果は「はい」と答えた割合が71.6%、「いいえ」が19.8%、「どちらともいえない」が8.6%でした。新規事業開発プロジェクトに関わった社員を対象とした調査ですが、自身を「経験者」と認識しているのは約7割でした。

図1:あなたは自分を「新規事業開発経験者」と考えますか(出典:みらいワークス総合研究所)

 

では、何をもって経験者だと認識しているのか。もしくは経験者ではないと考えているのか。その理由も聞いています(図2)。

図2:自身を「新規事業開発経験者」と考える理由/考えない理由(出典:みらいワークス総合研究所)

 

経験者だと認識している人の場合、「新規事業のプロセスに一定期間関与しているから(したから)」と答えた割合がもっとも高くなりました。一方、経験者ではないと認識している人の場合、「経験者かどうか判断が難しいと感じるから」と答えた割合がもっとも高くなりました。 

これらの結果を受けて石森氏は、「新規事業開発に携わってきた人を対象に調査したにも関わらず、約3割の人が自身を経験者ではないと考えている。新規事業開発は、何にどの程度関われば経験者となるのかの基準が曖昧なケースが少なくない。独自の基準を設ける企業も少ない。こうした状況が『経験者』の定義を曖昧にし、『社内に新規事業に関する経験がない』と思い込んでしまう要因の1つになっているのではないか」と考察します。

岩本氏は、「多くの企業が『当社には経験者がいない』という。これを理由に新規事業開発を進められないケースが目立つ。しかし調査から、7割の人が自身を経験者と認識している。このギャップに違和感がある」と指摘。さらに石森氏と同様、経験者の定義が曖昧であるため、経験者かどうか判断できない人が多いと推察します。「今回のアンケート回答者は新規事業に携わった経験がある人だが、『当社には経験者がいない』と嘆いているのは、経営者や人事、管理職など新規事業に携わった経験がない方が多いのではないか。新規事業の難しさがわからず、経験者と認めるレベルの定義が高くなってしまっているとも考えられる」「新規事業開発に携わる人の具体的な役割や業務内容を棚卸し、各自がどの経験レベルなのかを明確に把握できるようにするのが望ましい」(岩本氏)と強調しました。

写真:ゲストとして登壇した合同会社サバティカルファーム 代表社員 岩本晴彦氏

 

では具体的に、経験レベルを可視化するにはどんな指標を用いるべきか。セミナーでは5段階で定義した指標を岩本氏が紹介しました(図3)。

図3:経験レベルの定義:新規事業個別プロジェクトの推進者の例(出典:サバティカルファーム)

 

例えば、新規事業のアイデア創出から事業拡大までの全体を体系的に学習し、基本を理解している人なら「レベルA」、主要フェーズを1年以上主導し、アイデア創出や仮説検証、チーム運営などのフェーズを成立させた人なら「レベルC」、事業責任者としてアイデア創出からスケール戦略の策定、事業撤退まで経験した人なら「レベルE」といった具合に、自身がどの経験を有しているのか把握できるようにします。岩本氏は、「個人的にはレベルCの経験を積んだ人は『経験者』と呼べるのではないか」と見解を述べました。なおセミナー内では、企業内で新規事業開発の旗振り・運営を担う事務局担当者の経験レベルを表した指標例も紹介しました。


過去の失敗を共有して学べる環境づくりが重要に

セミナー後半はアンケート結果を受け、具体的な取り組みのポイントを解説しました。

まず、新規事業開発を支える「良いアイデアとは」を分析。石森氏は、既存のコア事業がある事業会社の場合、顧客ニーズを満たすアイデアであるとともにコア事業をもつ事業会社としての制約も考慮すべきと指摘しました。「顧客ニーズを満たすかどうかは、顧客が痛みを解消できるか、独自価値を得られるか、使い続けたくなるか、価値に納得して対価を払えるかに目を向けるべきだ。さらに変化するニーズを満たす解決策を練って運営し続けられるかどうかも重要な条件の1つとなる」(石森氏)と述べました。さらに、「新規事業開発によって自社の目的や目標、経営方針などが叶うのかも必ず両立しなければならない。これらの制約を満たすようブラッシュアップすることで、良いアイデアへ昇華する」(石森氏)と示しました。

岩本氏は「良いアイデア」について、「既存事業を展開する事業会社の場合、そのアイデアを本当に自社で事業化すべきかを考えるべきだ。既存事業とシナジーを見込めるのかを精査するのが望ましい。大企業なら売上見込み数億円の新規事業を打ち出しても全社売上目標に貢献できない懸念がある。これらを踏まえ、アイデアを本当に育むべきかを判断すべきである」と述べました。

新規事業開発に取り組むための仕組みづくりにも触れました。石森氏は、新規事業開発に携わったことのある経験者が少なければ、学習を通じて経験不足を補うのが望ましいと強調します。「多くの企業が、新規事業そのものの機会が少ないと考えている。さらに経営者をはじめ、多くの社員が新規事業開発の認識や理解も不足している。これらの要因から新規事業開発を諦め、経験を積み重ねられない状況に陥っている。こうした悪循環を断ち切ることが重要だ。そのために必要なのが学びである。企業は学ぶための仕組みづくりに目を向け、組織が継続して学べる環境を築くことに取り組むべきである」と述べました。

とりわけ、失敗から学ぶことが大切だと石森氏は指摘します。「さまざまな新規事業を見てきたが、成功事例に汎用性はほぼない。しかし、失敗には必ず共通点がある。多くの失敗事例を共有し、失敗した要因をヒントに事業化に向けた突破口を模索できるようにすべきである」と強調しました。例えば、なぜ撤退したのか、なぜ経営層は新規事業案を却下したのかなどを、後の新規事業担当者が振り返ることができる仕組みを用意しておくのが望ましいといいます。

さらに、「以前失敗したアイデアが現在も失敗するとは限らない。3年前に失敗したアイデアでも、現在のテクノロジーを駆使すれば経営層に受け入れられるかもしれない。当時の失敗要因は何か、どんな背景だったのかなどを学ぶことで、その教訓を未来に活かせるようにすべきだ。アイデアを未来に託せるかどうかは、学びを共有する仕組みにかかっている」(石森氏)と訴えました。

岩本氏も、新規事業に関するデータやノウハウを蓄積する土台づくりの必要性を訴求します。「新規事業のアイデアを募集していると、似たようなアイデアが集まってくる。これらを共有する仕組みを用意すれば、アイデアをブラッシュアップしやすくなる。失敗しそうな要因を解消する策も練れる。担当者が変わっても過去の取り組みを参照したり、失敗を新たなアイデアに活かしたりするサイクルを回し続けることが大切である」と指摘しました。