Profile

サイボウズ株式会社
代表取締役社長 青野 慶久氏

1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立。2005年4月代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得。また、2011年から事業のクラウド化を進め、売り上げの半分を超えるまでに成長。総務省、厚生労働省、経済産業省、内閣府、内閣官房の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーや、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、3月に、新刊『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)を出版。 ※役職は、インタビュー実施当時(2018年2月)のものです。

◆サイボウズ株式会社◆
1997年創業。「チームワークあふれる社会を創る」を企業理念に掲げ、グループウェアをはじめとするビジネスソフトウェアの開発・販売・運用事業を展開する。主力製品であるグループウェア製品「サイボウズ Office」「サイボウズ ガルーン」は国内で高いシェアを獲得。現在は、製品開発の国際化とグローバル市場への販売を進めるとともに、インターネット上でサービスを提供するクラウド・コンピューティングに事業領域を広げ、クラウドサービス「cybozu.com」や業務アプリ構築PaaS「kintone」などを提供する。2000年東証マザーズ上場、2006年東証一部上場。2017年8月に創業20周年を迎えた。

「働き方改革」といえば真っ先に名前が挙がる、そんな企業の一つがサイボウズ株式会社です。働く人々の多様性をいち早く受け入れ、さまざまな働き方を可能にする制度の策定を行なうほか、働き方改革に関する“お詫び”広告の出稿、育児と仕事の両立を考えるアニメやドラマ動画の公開など、働き方改革について考えるきっかけを次々と発信。働き方に関するコンテンツを中心に掲載するオウンドメディア「サイボウズ式」も多くの読者に支持されています。

そんなサイボウズにも、かつてはIT業界の「7K」が常態化し、離職率が28.5%まで上昇した時代がありました。そこから先進的な働き方に舵を切ったサイボウズの働き方改革や、それを可能にしたサイボウズの企業風土などについて、代表取締役社長の青野慶久氏にお話をうかがいました。

「100人いれば100通り」の人事制度で多様な働き方を実現

サイボウズでは「100人いれば、100通りの働き方がある」という考え方で、働くメンバーの多様性を受け入れてさまざまな人事制度を構築されています。たとえば、「選択型人事制度」では、働く場所の自由度と時間の長短を軸にかけ合わせた9種類の選択肢から、希望する働き方を月単位で選択することができるそうですね。

青野さん(以下、敬称略):オフィスで長時間働きたいという人もいれば、在宅で短い時間しか働けないという人もいます。同じ「産休・育休から復帰した人」でも、1日フルタイムで働きたいという人もいますし、限られた時間しかないが働きたいという人もいるのです。同じ1人の人でも、自分で思っていたほど働けないときもあるでしょうし、タイミングによっては思っていたより働けるときもあるかもしれません。そうしたさまざまな人、さまざまな状況に対応できる環境を整備しています。朝から1日働くか、午前中だけ働くか、それともお昼すぎから働くか、どこの場所で働くか、どのぐらい在宅勤務をするか、といったいろいろな選択肢からパターンを用意しています。そのパターンのどれを選ぶか、あなたはどのパターンで働きますかというのを、自分で決めて宣言してもらいます。

給与形態の選択肢も、裁量労働制をとった月給制もあれば、働いた時間に応じて給与が支払われるスタイルもありますよね。

青野:多様な状況に合わせて、気持ちよく、無理せず働くには、お給料のもらい方というのも大切な要素です。「どの選択肢が一番気持ちよく給料を受け取れますか」ということです。そこも本人の希望で選ぶかたちをとっています。

35歳以下で、転職や留学などで環境を変えて自分を成長させるために退職する人が、最長6年間サイボウズに復帰できる「育自分休暇制度」も非常にユニークな制度です。この制度を利用して、何人くらいが戻ってこられたのでしょうか?

青野:これまでに10人弱が戻ってきました。

その方々は、サイボウズを退職してから戻ってくるまでの間に、異なる環境でさまざまな経験をしてこられたのでしょうね。

青野:色々な人がいますよ。転職して他社で経験を積んでくる人もいれば、アフリカのボツワナ共和国で青年海外協力隊としてボランティア活動に従事した人もいます。

サイボウズに戻られてからは、退職前の仕事に就くことになるのですか?

青野:ケースバイケースですね。技術職の人がさらにスキルや経験を積んで戻ってきて、再び技術職として活躍しているケースもありますし、営業職で退職した人がプロダクトマネージャーとして戻ってくることもあります。フルタイムで完全に戻るのではなく、軸足を少しサイボウズに移すだけでどっぷり戻ってくるわけではないという人もいます。

「100人100通り」は「バイネーム」で考えることから生まれる

ここまでのお話だけでも、サイボウズの働き方はかなり多様であることをうかがい知ることができますね。

青野:望む働き方は本当に人それぞれです。だから、Aさん、Bさん、Cさんといった1人ひとりを個別にみていかないと、「100人100通り」の働き方は実現できません。サイボウズの働き方改革の起点はここです。「この制度は、Aさんのために設けます」「Bさんの希望を実現できるように、制度のこの部分を変更します」という考え方で、社内の仕組みを変え続けているのです。

「100人100通り」という言葉通り、制度の方を人に合わせて変化させるのですね。新しい方が会社に入ったり、新たな要望が生じるごとに制度をどんどん変えていかれたのですか。

青野:いわばそういうことです。それでもまだまだ「100人100通り」にしきれていないところがあって、ある課題への対応を考えたときに、実は存在していた制限が表面化することもあります。僕としては、もっともっと社内の仕組みを解放していきたい。今も変化を続けている最中です。

サイボウズの働き方改革は、成功事例として拝見する機会が多いことからもわかるように、実にうまく進んでいらっしゃいます。ほかの会社では、残念ながらそのようにスムーズに進まないことも多いでしょう。サイボウズが実現できたポイントはどこだと思いますか?

青野:まず、「みんな違うんだ」ということの理解が必要だと思います。そこにいるのは、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんという個々人であって、「30代男性」とか「総合職の女性」というような、ある属性をもつ集団の中の1人ではないのです。日本では意外と、このことを理解できていない人が多いと感じます。

僕はいろいろなところで話をしたり聞いたりしていますが、たとえば議論のときなども、すぐに「男性はこうだよね、女性はこうだよね」「総合職はこうだけど、一般職はこうだ」といったカテゴライズをしがちです。けれど、そうしてカテゴライズしているうちは議論も進みませんし、100人100通りにはなり得ない。「100人100通り」の働き方を実現しようと思ったら、カテゴリ分けしたものを1回全部クリアしなければいけません。そして、目の前にいるAさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんに対して、Aさんはどうする、Bさんについてはどうするんだという議論にするのです。性別や年代といったカテゴリではなく、個人の名前、バイネームで考える。僕らはそれをやってきたのです。

これまでそうして新しい制度をつくってこられて、よくない面が出てきたことはあったのでしょうか。

青野:それはもう、日々出ます。

よくない面についてはどのように対応されるのですか?

青野:そのつど、議論して変えていくだけのことです。

自由な選択に不可欠なのは、「理解・信頼・責任」

「個人個人に合わせて制度をつくる」という取り組みは、社内でスムーズに進んだのでしょうか。

青野:いえいえ、そんなことはありません。たとえば、働く時間の長短を自分で選択できるということひとつとっても、結構反発がありました。「残業できないという人がいるから、残業しなくても済む制度をつくろう」と言ったら、「青野さんはみんなに残業代を払いたくないのですか」という反応があったのです。経営者が信頼されておらず、社員を犠牲にするための制度変更だと受け取られたのでしょう。

その誤解は、なんとも苦しい行き違いですね・・・。どのように対応されたのでしょうか。

青野:ひとつひとつ説明してきました。「ちょっと待って、落ち着いてください。これは、社内に残業できないという人がいて、その人が残業しなくて済むようにする制度です。ほかの人の希望する働き方を妨げるものではありません。もし同じように残業したくないと思う人がいれば、もちろん制度を利用できますが、もしあなたが残業したいと考えるならば、それは自由にどうぞ」と。

そうすると、「私の選択肢は維持されるのだ、誰かに何かを強制されるというわけではないのだ」ということを理解してもらうことができます。その理解が信頼につながります。そういうことを積み重ねていくうちにだんだんみんなの中に信頼が芽生えていき、制度変更も進めやすくなっていきました。

そうして、働く方々からの経営に対する信頼を得てきたのですね。同時に、経営も従業員の方を信用しなくては働き方改革は成り立たないでしょう。働き方を選択する、自由を得るということと、責任をとるというのは表裏一体ですから、従業員の方には責任も生じるということですよね。

青野:自由と責任はまさに表裏一体、セットです。働き方を自分で自由に選んでそれを宣言したら、今度はその自由を生かしてきちんと働き、自分の責任を果たさなければなりません。

それでも権利ばかりを主張して、義務・責任を負わない人が出てくるというのは、一般論として十分考えられます。その点について、サイボウズさんではどのように考えていますか?

青野:それを防ぐためのわかりやすい対策としては、ルールで縛るというものがあります。在宅勤務であれば報告義務を細かくつけるとか、そういうことです。そうしてルールをどんどん細かく設定していけば、抜け道を防ぐことはできます。ただし、とめどなく管理コストがかかると思います。もう一つ、従業員にとっては、ルールで縛られると“やらされ感”が出てきてしまいます。そうなると、仕事や新しいワークスタイルを全然楽しめなくなります。ですから、ルールで縛るよりも、目的をちゃんと理解してもらうことで自律を促すという考え方をとっています。

会社も人事制度も、「ルール」ではなく「共感」が人を動かす

その目的というのはどのようなことでしょうか。

青野:企業が果たしたい目的、「この会社は何のためにつくったのか」ということです。サイボウズという集団が存在するのは、「チームワークあふれる社会を創る」という企業理念の実現のためであり、それ以外のことはこの会社ではやりません。そこをはっきりさせます。このことは入社前から明確にしていて、「この企業理念に共感する人だけがサイボウズに入社してください。共感しなくなったら出ていってください」とはっきり言っています。そのうえで、さまざまな人事制度についても、その制度をつくった目的、その制度を活用して実現したいミッションをはっきり伝えます。在宅勤務制度しかり、選択型人事制度しかり、何のために制度があるのか。サイボウズが「100人100通り」の働き方を可能にする理由は、理念に向かって、みんなにもっともっと活動してもらえるようにするためです。決して、あなたの私利私欲のためにこの制度があるわけではない。そのことを、社内に、メンバーに、日々浸透させていくのです。

そうはいっても、在宅勤務の方とはオフィスで顔を合わせる機会も少なく、実際のところ気になるというところもあるのではありませんか?

青野:たとえば、野球チームを作ったとします。チームを強くしたいと思ったら、練習メニューを作ってチームメンバーにたくさんの練習を課し、さらに、その練習を本当に実行しているかどうかチェックして……という方法をとることもできます。でも、メンバー自身が「野球がうまくなりたい」と思っていたら、放っておいても練習するのではありませんか。そうしてみんなで切磋琢磨していけば、チームはみんな上手になっていきます。基本はこのやり方のほうが効率がいいと思うのです。企業も、共感してもらうことが大事だと思います。野球チームのメンバーがみんなで野球がうまくなりたいね、強いチームにしたいねと思うように、サイボウズで、チームワークあふれる社会を創っていくという理念に共感して、そこに貢献したいと思ってくれる人は、自分の仕事をサボっている“暇”はむしろないと思います。

なるほど。働き方改革を始めたときから、その姿勢を貫いてきてらっしゃるのですか。

青野:僕も、経営者になって悩んだ時期もありました。しかしあるとき、「人間というのは、欲望に素直に生きる生き物だ」ということに気づいたのです。それなら会社の舵も、会社がどこを目指すのかを決めて、働くみんながそこに対して欲望をもってくれたら、自然にそこへ向かっていくことができるはず。働く1人ひとりが、企業の目指す方向に対して「私もそうなりたい」「そこへ行きたい」と思ってくれたら、あとは放っておいてもうまくまわるわけです。ミッションへの共感、お互いに嘘をつかないという風土、各自が責任をまっとうすること。これがベースになっていれば、相手のことを信頼できます。在宅勤務したいと言われても「どうぞどうぞ」と言えます。サイボウズの働き方改革は、そういう土台の上に成り立っているのです。

<後編へ続く:日本企業を変えるのは「危機感」「新しい成功」そして「人の力」>

岡本s eye ~対談の前半を終えて~

日本中で進む「働き方改革」。大切なことは表面的に変えるのではなく、本質的なところも含めて変わらなければ一時的な取り組みとして終わってしまう。当たり前のようでとても難しいことに改めて向き合わなければならないと思わせていただいたお話でした。働き方改革の本質は、杓子定規に残業を減らす、リモートワークするということではなく、一人一人がそのライフステージや状況に合わせて選択できる社会となっていくことです。その最先端を走る企業として、これからもどのような取り組みを仕掛けるのか、今から楽しみです。後編もお見逃しなく。