Profile

青山学院大学理工学部物理学科卒業。在学中に仲間とともにベンチャー企業・有限会社電脳隊を設立。モバイルインターネット黎明期において特に「WAP」の普及に尽力する。2000年8月、株式会社ピー・アイ・エムとヤフー株式会社の合併に伴い、ヤフー株式会社に入社。2006年6月ソフトバンク株式会社による買収に関連して、2006年6月ボーダフォン株式会社(のちソフトバンクモバイル株式会社、現ソフトバンク株式会社)出向。2008年4月モバイル事業部サービス開発室長。2011年ヤフー株式会社を円満退社し、モバイルベンチャーであるピド株式会社の取締役に就任。2012年4月ヤフー株式会社に入社、執行役員チーフ・モバイル・オフィサー(CMO)に就任してモバイル事業の企画戦略を担当。2017年11月LinkedIn日本代表(カントリーマネージャー兼プロダクトヘッド)に就任。パラレルワークとして、複数のスタートアップの戦略・技術顧問を務めている。

※役職は、インタビュー実施当時(2018年5月)のものです。

◆LinkedIn◆
2002年、リード・ホフマンをはじめとする共同創業者がアメリカ・カリフォルニア州で創業。2003年5月、世界最大のビジネス特化型SNS「LinkedIn(リンクトイン)」を正式リリース。LinkedInは世界各国で5億4600万人超のユーザーが利用しており、日本では200万人以上が登録している(2018年4月時点)。2016年12月、米・マイクロソフトが262億ドルで買収。現CEOはジェフ・ウィナーで、MS買収後も独立子会社として運営を続ける。「世界中のプロフェッショナルをつなぎ合わせ、それらの人に経済的機会を提供することを目指す」というビジョンを掲げ、「世界中のプロフェッショナルの仕事とキャリアを支援すること」をミッションに、事業を展開する。

Facebook、Twitter、Instagram……数あるSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のなかで、ビジネスに特化したSNSとして世界各国で広く使われているのがLinkedIn(リンクトイン)です。世界では5億人を超えるユーザーに“仕事用SNS”として重宝されているLinkedInですが、日本では200万人ほどが登録する程度と、その利用状況には大きな乖離があります。

「しかしLinkedInには、働き方の多様化を助け、“昭和”の価値観に縛られた日本の労働社会を打破する力が秘められており、LinkedInという会社も、ある種ウェットなまでに従業員との人間関係を大切にする会社である」——。そう話すのは、LinkedInの日本カントリーマネージャーに就任した村上臣氏です。村上さんに、LinkedInというSNSや、そのLinkedInを運営する会社の働き方についてうかがいました。

 

LinkedInはビジネスに幅広く活用できるプラットフォーム

村上さんが日本のカントリーマネージャーを務めていらっしゃる「LinkedIn」について聞かせてください。

村上さん(以下、敬称略):LinkedInはビジネスに特化したSNSとしてシリコンバレーで生まれました。現在は、アメリカをはじめとして世界各国のビジネスシーンで活用されており、ユーザー数は5億人を超えています。

ユーザーはLinkedInでプロフィールを登録し、SNSの中で繋がりを広げていきます。その繋がりから転職先を見つけるということももちろん可能です。僕のLinkedInへの移籍も、もとはといえば、LinkedIn経由でメッセージを受け取ったのがきっかけでしたから。でも、LinkedInでできることはそれだけではありません。ユーザー同士で仕事やキャリアに関する情報交換をすることもできますし、さまざまな情報をLinkedInのフィードで読むこともできます。ビジネスパートナーや商談相手を探してコンタクトを取るといった使い方もあります。さらに、その先のキャリアアップに向けて必要なスキルを見出すといったことも可能な機能を備えています。

 

そうした機能もあるとは存じませんでした。日本では、LinkedInの詳細についてはよく知られていませんね。

村上:おっしゃるとおりです。LinkedInというと「転職」というイメージが強く、特に日本では「特殊なスキルをもつ人を対象とした外資系転職サイト」「バイリンガルの人が使う転職サイト」といったイメージで認知されてしまっています。けれども、本来LinkedInは転職用途のためだけに、ましてや外資志向の方のためだけに存在しているのではありません。LinkedInは、ビジネス上のやりとり、求職者のキャリア形成やステップアップのために幅広く使っていただけるプラットフォームなのです。そのために必要となるさまざまな機能も備えています。eラーニングの機能を使ってスキルアップを図ることもできます。

そう伺うと、世界各国で普及しているのもうなずけます。それにもかかわらず、どうして日本ではあまり活用が進んでいないのでしょうか。

村上:日本における「仕事で使うSNS」のポジションには、すでにFacebookがいます。我々のプロダクトの魅力をどううまく伝えていけるのかが今後の課題です。

 

日本では「仕事はFacebook」。しかし、LinkedInの拡大余地はある

海外では、Facebookを仕事で使うことはないのですか?

村上:Facebookを仕事で使う世界唯一の国が日本です。一般的に海外では、Facebookは完全プライベートユースで、家族・親戚や学生時代の同級生といった「ファミリー+α」くらいの距離感の人たちとの間で使われています。ですから、Facebookのつながりは多くても数百人で、友達が1000人になることなどはほぼありません。日本でいうと、招待状が必要だった頃のmixiのようなイメージでしょうか。そういう感覚からいえば、仕事で一度名刺交換した程度の相手からFacebookの友達申請が送られてくるのは、“気持ち悪い”と受け取られることもあります。

日本におけるFacebookの使い方は、世界でみると特殊なのですね。LinkedInがあまり使われていないのとは対照的ですが、その違いはどのようにして生まれたのでしょうか。

村上:Facebookが日本にきたとき、日本にはすでにmixiがありましたが、LinkedInはなかった。そこで、「ちょっと仕事に使える」という新しい打ち出し方をしたら当たったのです。Facebookは日本のカントリーマネージャーを雇い、きちんとローカルにフィットしたかたちで参入したという点も賢かったと思います。そうして、ビジネスユースの大きなマーケットをFacebookにとられてしまったというのが、我々が今大きな存在感を出せてない背景でもあります。

確かに、LinkedInは最初は英語だけでしたね。英語を使える方をターゲットとしているSNSなのかなと受け取っていました。

村上:LinkedInは、産声を上げたアメリカでは、転職をはじめビジネスの場面に役立つということで成功してきました。そして、LinkedIn参入当時の日本はGDPで世界3位でしたから、「同じことをすればそれなりにマネタイズするだろう」と成功体験をそのままひきずってきたのです。カントリーマネージャーもいませんでした。ところが蓋を開けてみたら、日本では全然使われなかった。

その失敗をふまえ、カントリーマネージャーを雇ってきちんと日本に投資をしようと考えたLinkedInが、白羽の矢を立てたのが僕です。僕はヤフー在籍時からLinkedInのインターナショナルのビジネス開発責任者と個人的に近しい仲で、LinkedInの日本でのあり方についても相談に乗っていました。ですから、LinkedInの状況は承知の上でここに来ましたし、拡大の余地はまだまだあると思っています。

LinkedInのすぐれている点は?

村上:真剣に仕事で使おうと思ったら、LinkedInのほうが明らかに充実していると胸を張っていえます。これまでは使い勝手もよくありませんでしたが、多くの方に使っていただけるよう、この半年近くでさまざまな細かい調整を重ねに重ねてきました。使い勝手のレベルを上げるまではと、プロモーションも控えています。

その調整も形になりつつありますので、これからはLinkedInの姿を正しく伝えて認知を高め、ユーザーを増やして状況を変えていくというのが、直近でまず最初のチャレンジです。初期のFacebookもそうでしたけれど、クリティカルマスを超えれば、ネットワークが一気に広がりはじめますから。

 

離れた距離での協働を支えるのは「手伝うよ」という気持ち

LinkedInは世界30都市以上に拠点があり、全体のフルタイム従業員は1万1800人以上です(2018年4月時点)。今、日本オフィスでは何人ぐらいが働いていらっしゃるのですか。

村上:20人ぐらいです。僕と、ビジネス開発を担当するパートナーの2人以外は、ほとんどが営業です。LinkedInの主な収益源は、ダイレクトリクルーティングなどの人材採用支援、広告掲載、個人向けの有料プランなどです。人材採用支援の主なお客様はスタッフィングの会社か企業の人事、広告掲載では企業のマーケティング部門が多く、営業はそうした法人顧客の新規開拓と既存顧客のサポートを行っています。要は営業所のようなもので、一つの大部屋に僕もみんなと同じように席について仕事をしています。ヤフーの終盤に僕がみていた事業部には300人ぐらい在籍していて、僕も個室をもっていました。そうした雰囲気とは全く違いますが、このベンチャー感が楽しいです。

ローカライズなどの作業はどちらで?

村上:基本的にはメインの開発拠点であるカリフォルニアで行なっています。僕の正式な肩書きは「Country Manager and Head of Product,Japan」で、「日本のカントリーマネージャー」と「プロダクトチームのヘッド」という二足のわらじを履いているような状態ですが、日本オフィスでプロダクトチームは僕だけ。ですから、午前中はひたすらサンフランシスコとテレカン(電話会議)というような日々です。

そうすると、日本オフィス以外にも日本向けの仕事をしている方がいるのですね。

村上:そうです。もちろんプロダクトにもいますし、バックオフィス業務はシンガポール拠点で担当してくれています。日本にはまだPRやマーケティングの担当者がいないので、それもシンガポールからリモートでサポートしてもらっています。とはいえ、シンガポール拠点のメンバーは日本語がわからないですし、日本の媒体の記者で英語が話せる人もあまりいませんから、手伝ってもらうといってもなかなか難しいのですが(笑)。

ザ・グローバル企業という感じですね。日本でもテレワークなどの働き方が取り入れられるようになっていますが、グローバル企業だとそうしたソリューションなどもフル活用されているのでしょうか。

村上:そうですね。それに、プロダクトのメンバーもシンガポール拠点のメンバーもみんな「サポートするよ」「手伝うよ」という気持ちをもってくれています。物理的に離れている人と仕事をするためにはそれを支える仕組みも必要ですけれど、そういう気持ちで一緒に仕事しようとしてくれていることが、仕事をしやすくしてくれると感じます。

 

人が仲良く楽しく働けることを重視するカルチャー

外資系企業というと、1人ひとりが“個”で動くようなドライな雰囲気を想像しがちですが、グローバルでそうした意識で仕事されているというのは少し意外にも思えます。

村上:LinkedInはいわゆる外資系企業の雰囲気ではなく、どちらかというと人間関係に“ウェット”な社風です。ソーシャルネットワークのサービスを展開する会社だからというのもあるかもしれませんが、LinkedInはベイエリアでも独特のカルチャーで知られていて、僕はそのカルチャーが非常にすばらしいと感じています。

CEOのジェフ・ウェイナー氏も思いやりを大事にする方で、従業員の方から高い支持を得ているという記事を拝見したことがあります。LinkedInのカルチャーについて教えていただけますか。

村上:LinkedInが大事にしているバリュー(価値観)は、「Members first.(メンバーファーストでいよう)」「Relationships matter.(関係を重要視しよう)」「Be open, honest and constructive.(オープンで正直で建設的であろう)」「Demand excellence.(高みを求めよう)」「Take intelligent risks.(インテリジェントなリスクテイカーであろう)」「Act like an owner.(オーナーのように振る舞おう)」です。

この一つに「Relationships matter.」を置いていることからもわかるように、本当に関係性を大事にしている会社です。グローバル全体でも「従業員同士が仲良く楽しく働ける」というのをとても大事にしていて、そのための従業員イベントもたくさん開催されています。たとえば「InDay」といって、月に1回、仕事ではないことにメンバー全員で取り組む時間があります。InDayで取り組むテーマは月替わりで、グローバルで統一のテーマが設定されます。そのテーマに基づいて何をするかを各拠点で決め、実際にその企画を実行するというわけです。

仕事ではないことにみんなで取り組むというのは、昔の日本企業のようでもありますね。

村上:InDayには、自分自身やコミュニティに投資するという狙いがあるのです。4月のテーマは「Environment(環境)」でしたが、日本オフィスでは東京都の清掃施設をみんなで見学して説明を聞き、環境について議論を交わしました。陶芸のクラスにみんなで参加した月もあります。関連して「LinkedIn for Good」というものもあります。これはInDayのボランティア版のようなもので、従業員全員がさまざまなボランティア活動に従事します。高校を卒業したばかりの方たちに来てもらって、社員と交流するというようなこともありました。そうした活動は社会貢献になりますし、LinkedInと地域の方との理解を深める機会にもなります。

そして何より、従業員同士の関係を深めることにもう繋がります。みんなでわいわいしながらリレーションシップを盛り上げることが、いい仕事につ繋がり、LinkedInの力を高めることに繋がる。それがLinkedInの文化なのです。僕も、そのLinkedInのカルチャーのもとで、日本オフィスでの仕事を楽しんでいます(後編へ続く)。

◆◇後編:自分のキャリアは自分で考える時代。そして、従業員が気持ちよく働ける会社は強くなる◇◆