Profile

インフォテリア株式会社 代表取締役社長/CEO
平野 洋一郎 氏

1963年熊本県生まれ、東京都在住。熊本大学を中退し、ソフトウェア開発ベンチャー設立に参画。ソフトウェアエンジニアとして、8ビット時代のベストセラーとなる日本語ワードプロセッサを開発。1987年ロータス株式会社(現:日本IBM)に入社、プロダクトマーケティングおよび戦略企画の要職を歴任。1998年インフォテリア株式会社設立と同時に現職に就任。本業の傍ら、青山学院大学大学院にて客員教授として教壇に立つ(2008年~2011年)など精力的に活動し、現在はベンチャーキャピタルFenox Venture Capital Inc. アドバイザー、ブロックチェーン推進協会代表理事、先端IT活用推進コンソーシアム副会長、XML技術者育成推進委員会副会長などの公職を務める。

※役職は、インタビュー実施当時(2018年5月)のものです。

◆インフォテリア株式会社◆
1998年、国内初のXML専業ソフトウェア会社として設立。「発想と挑戦」「世界的視野」「幸せの連鎖」を経営理念に掲げ、企業の多様なシステムやデバイス、データを「つなぐ」ソフトウェア・サービスの開発・販売を手がける。代表的な製品として、データ連携ミドルウェア「ASTERIA」、モバイルコンテンツ管理システム「Handbook」、IoTモバイルクラウド基盤「Platio」などがある。2007年6月東証マザーズ上場、2018年3月東証1部へ市場変更。日本を含めて5か国9か所に拠点をもち、連結従業員数は120名(2018年3月31日時点)。2018年10月1日付で社名を「アステリア」へ変更予定。これによりブランドを確立してグローバル展開を一層加速し、世界中に価値を提供する企業となるべく挑戦を続ける。

業務に用いるシステムやデバイス、情報やデータを「つなぐ」ソリューションの提供に注力するインフォテリアは、日本を含む5か国に拠点をもって海外へも積極的に進出、2018年3月には東証1部上場を果たしました。そのインフォテリアは、テレワークの導入をはじめとした働き方改革に積極的に取り組む会社としても知られています。また、2017年5月には弊社イベント「みらコミュ」にて広報の方がスピーチくださるなど、自社の枠を超えた社会への活動を精力的に行なわれています(詳細はこちら:https://mirai-works.co.jp/topics/news035/ )。

2017年12月にはテレワークの導入・活用を推進する企業として、総務省が認定する2017年度の「テレワーク先駆者百選」に選定され、2018年3月には次世代に残すべき企業を表彰する「第3回ホワイト企業アワード」(一般財団法人日本次世代企業普及機構)の「テレワーク部門賞」を受賞しています。そんなインフォテリアの働き方やこれからの社会について、平野洋一郎代表取締役社長/CEOにお話をうかがいました。

 

「個」が分散した社会で、データをつなぎ人をつなぐ

御社は、システム連携を行なう「ASTERIA」をはじめとして、システムと人をつなぐモバイルコンテンツ基盤「Handbook」、人とモノをつなぐIoTモバイルクラウド基盤「Platio」、システムとモノをつなぐエッジコンピューティング基盤「Gravio」など、「つなぐ」ためのソフトウェア製品を提供されています。その背景にある思いをお聞かせいただけますか。

平野さん(以下、敬称略):当社の中期経営計画で、前提となる「これから世の中に起こること」を挙げています。データのみが企業IT資産になる「Data(ビッグデータ&AI)」、デバイスが不可欠なインフラになる「Device(スマート&IoT)」、そして、分散して協調できる「個」の時代になる「Decentralized(分散)」の「3つの『D』」です。これらを具現化するのが当社のソフトウェアです。

当社では、[階層・規律・統制]で成り立つ従来型の組織を「20世紀型」と定義しています。この世界で示される組織の構成は、いわゆる企業の組織図のようなイメージです。チームや個人が常に固定された線でつながっている状態で、企業や社会が形成されていました。しかしこれからは、[自立・分散・協調]で成り立つ「21世紀型」の組織にシフトしていくだろうと考えています。この世界では、存在する最小単位は「個」です。20世紀型の組織の構成が常に線で結ばれていたのとは違い、「個」は独立した存在で、その「個」どうしはつながっていません。

「個」が分散して存在する社会というわけですね。

平野:はい、しかもそれぞれが「自律」している形です。とはいえ、「個」だけでできることはとても少ない。そこで、何かプロジェクトが始動するときなど必要が生じた際には、この「個」は必要なつながりを持つことになります。つまり「協調」です。たとえば、ブロックチェーンのプロジェクトであればこの「個」をつなぐ、AIの専門知識が必要であればこの「個」と「個」をこうつなぐ・・・という具合です。

クラウドやデータ連携の普及などにともなって、「個」が分散した世界であっても地球の裏側のプロフェッショナルともつながって仕事をすることができます。そうして「個」という形態を保ちつつ、必要に応じてつながれることで必要な働きを生み出す。そういう社会にどんどんなっていくだろうとみています。その「つながる」ためのソリューションを当社が提供します、当社が「個」と「個」をつなぎますというのが、開発の背景にある念いです。

さらにいえば、分散した21世紀型の世界、組織では、必要なときにつながるだけではなく、必要がなくなったらつながりを切ることができるというのも大事です。それができないと、組織は肥大化し続け、動きが遅くなる一方ですから。21世紀型の世界では、つなぐのも切るのも必要なときにすればいい。そのためのソリューションをクラウド上にのせて、数多の「個」をつないでいく。それが、僕らのやりたいことなのです。

 

個々の「違い」が価値になる社会へ

平野さんがそのように「個」に着目するようになったのには、何かきっかけがあったのですか?

平野:そもそも個人の能力にはばらつきがありますが、20世紀型の社会、特に日本は、みんなと同じことができるようにみんなで同じようにスキルアップしていく文化でした。学校も会社もそうです。その社会では、人の能力を計る物差しは1つだけ。その物差しを基準に、学力だとか成績だとかが評価されてきました。

しかし、今はもう世界中に多様な「個」があふれていて、かつ容易につながれる社会です。物差しは1つではないし、仮に皆と同じことができたとしても、逆にそれは仕事を依頼する理由にはならないでしょう。むしろ皆と違うちょっと光ったことができるから、仕事を依頼するのです。つまり21世紀型の社会では、「違う」ことこそが価値になります。その「違い」の源泉は個人です。

けれど、その違いの価値は、従来の20世紀型組織の物差しでは正しく評価できないまま、大きな組織のなかで「違い」が平均化されてしまい、違いを価値にして生かすことができません。「個」を生かすには個別の物差しを理解し、その基準において「個」の能力が卓越したものであることを評価しなければならない。そのためには、「個」側もいろいろな「個」につながりをもち、自分の価値をきちんと伝えていくというのも大事なことです。

僕は元エンジニアとして、個々の「違い」をたくさんみてきました。個人個人の得意なところは本当に人それぞれ違っていて、それをきちんと生かすことができれば全体のパフォーマンスに大きく貢献する。それが現実のものとなっていくのも見てきました。その体験が原点にあると思います。

御社の組織もまた、「個」の分散した社会を前提としたあり方を?

平野:もちろんです。こんな内容を提唱しながら、自分たちが大きくなって千単位、万単位の従業員を抱えるようでは、“紺屋の白袴”“になってしまいますから。当社もその小さな「個」の1つになろう、そのためにいかに小さいままで大きなことができるかということにチャレンジしています。

当社は5カ国に拠点を持っていますが、社員は120名だけと少人数体制を維持しています。そして、小さい「個」である自分たちが、必要に応じて周りのプロの「個」たちとプロジェクトを組んで仕事をしています。つながる「個」は企業であることもありますし、個人のプロフェッショナル人材であることも多いです。

 

生産性向上のために始めたテレワークの推進

御社はテレワークを積極的に導入されている企業として有名です。いつごろから導入なさったのでしょうか。

平野:当社では1998年の創業当時から、エンジニアのテレワークをOKにしていました。当時はまだ「在宅勤務」といっていましたが。

どうしてエンジニアを対象に?

平野:我々はソフトウェアを開発・販売する会社ですから、エンジニアの力を最大限生かし生産性を高める必要があります。けれども、エンジニアが集中して仕事ができ、よりよいアウトプットを出せるのはオフィスとは限りません。私もエンジニアだったのでわかります。

同時に私は「1フロアポリシー」を実践していて、開発も営業もサポートも管理も、全部顔が見えるところにいましょうという考えでオフィスを作っています。エンジニアも同じフロアです。そのなかで、エンジニアが本当に集中できる空間を作ろうということで、最初はエンジニアのデスクをパーティションで囲って見えないようにしました。それでも、電話がかかってくる音やふいの声かけといった集中を妨げる要素はどうしても排除できません。

エンジニアに在宅勤務を導入したのは、必要な時に集中してもらうため。そうしてテレワークの活用がどんどん進みました。その後、2011年の東日本大震災をきっかけにテレワークの対象を全社員に広げました。当社ではHandbookというスマホやタブレットで企業情報を共有するサービスを提供していたこともあり、ほかの職種にも展開できると考えたのです。

テレワークは出勤義務もなく、社員の方ご自身が使うかどうか選べるのですか。

平野:オフィスに出勤する義務はありません。仕事をする義務はもちろんありますが、その場所はどこでもかまわないということです。現実には、お客様に迷惑をかけてはいけませんから、営業メンバーはだいぶ出社しています。それでも、自分の家庭の都合などに合わせて、「この日は子供の予定があるから、午前中はテレワークにしよう」といったように自身で選択できます。テレワークにすると決めたら上司に連絡を入れるだけでOKです。

テレワークの活用を推進するための制度もあります。3年前の2015年から始めたのが「猛暑テレワーク」で、その日の最高気温が35度以上の猛暑日になると予報されたら、テレワークを推奨するメールが全社員に送られます、これは昨年からLINEでの通知になっています。朝5時に気象庁の予報発表があるので、その情報を当社のASTERIAで取りに行き、予報が35度以上であれば5時半ごろに「今日は猛暑日の予想なので積極的にテレワークを推奨します」とメールで伝えるのです。

2017年から開始した「ふるさとテレワーク」は、夏休みや年末年始の帰省時に2、3日早めに行き、実家や自分のホームタウンで仕事をするというものです。帰省のタイミングを少しずらすことで帰省ラッシュを避けることができますし、費用も少し抑えることができるのではないでしょうか。

 

テレワークの“実証実験”で課題解決、“提案”で利用促進も

テレワークの取り組みも、先にうかがった「個」の分散というお話につながるところがあるように感じます。テレワークを全社に導入され、さらにそれを推進するさまざまな取り組みをなさるようになったきっかけを教えてください。

平野:一番大きなきっかけは、2011年の東日本大震災です。地震が起こってさまざまなインフラがいつものようには使えなくなり、福島第一原発事故など懸念すべき事態もあった。そこで、震災後の1週間は出社禁止にして誰も会社に来ないようにしました。そこではからずも、全社員でテレワークをするという経験ができたのです。

震災以前のテレワークはエンジニアを中心にしたもので、ある種の特権のようでもありました。そこに震災が起こって出社できなくなると、オフィス以外で仕事をすることは、単純に必要なこととして目の前に突きつけられました。お客様がいらっしゃるなかで、オフィス以外でどうやってきちんと仕事を回していくか、少しでも前に動かしていくためにどうしたらいいかということを、1人ひとりがオフィス以外で考えて実行する必要に迫られたのです。それが、全社の共通認識になりました。このことはきっかけとしてとても大きな出来事でした。そして実際に出社禁止を解禁したあと、テレワークの対象を全社員に広げました。

最初の6カ月間は“お試し期間”。毎月「この日は必ずテレワークをする」という日を設け、その日は誰も会社に来ないようにして、みんなでテレワークを実行しました。取締役会もオンラインです。そうしたテレワークデイはいわば実証実験で、そこではやはり「これが難しい」「あれが難しい」という課題がいろいろ出てきます。その課題を1つひとつ解決していきました。6カ月後からはもう普通に回るようになりましたので、自由にテレワークを可能にして、自分の都合に合わせて使えるように整備してきました。

御社でテレワークが活用されているのは、どういったところにポイントがあると思いますか?

平野:こういう制度は、いくら「自由に使ってください」といっても、自分からは言いにくいところがあります。実際、全社への導入当初は、「自分が無理すれば、出社と自分の都合を両立できる」と、無理して出勤してしまっているようなシーンも見受けられました。社会には、そういう働き方を選びづらいという現実はまだまだあるのです。

そこで必要なのが、会社から積極的に活用を提案して呼びかけることです。当社における、テレワークを使いやすくするための会社からの提案が、「猛暑テレワーク」であり「ふるさとテレワーク」です。ほかにも「降雪テレワーク」「台風テレワーク」なども実施したことがあります。昭和的な感覚では、部下が「暑いから会社に行きたくない」などと言ったら上司は「何考えてるんだ」となるでしょう(笑)。でも、そうした日に出社しないで仕事をするというのは、どう考えても理にかなっているわけです。

特に東京では、出勤したら汗だくで疲れ果てているということが普通にあります。ちょっとした荒天で交通機関はストップし、駅から人があふれるような場面も少なくありません。そうした環境で通勤に奪われているエネルギーを仕事に向けてもらったほうが、はるかに生産性に寄与しますし、時間のむだも減ります。猛暑テレワークは社員から出た案が元になった制度ですが、考えてみればたしかにそうだなと。

本当の意味で多様な働き方のための制度を促進するには、単純にテレワークという制度をつくって「皆さん使ってね」というだけではなく、会社側が制度を使いやすい仕組みを提案することが大切です。(後編へ続く)