Profile

1977年生まれ、兵庫県神戸市出身。2000年3月同志社大学法学部卒業、2000年4月東証1部上場の大手IT企業に入社。本社管理本部にて管理本部長室マネージャー、審査部マネージャー、経理部マネージャーなどを歴任。3年半の勤務を経て、2004年3月に株式会社groovesを代表取締役の池見幸浩と共同創業、取締役に就任。国内初となるクラウドソーシング型人材採用モデルの立ち上げ(現Crowd Agent)、ITエンジニア向け支援サービス「Forkwell(フォークウェル)」の立ち上げなど、HR×Technology領域での事業を展開。現在は国内事業を統括する。

※役職は、インタビュー実施当時(2018年11月)のものです。

 

◆株式会社grooves(グルーヴス)◆

2004年3月1日設立。「働くヒトの未来を創る『ワークシフトインフラ』の構築」をビジョンに掲げ、「働くヒトの価値を高めるワークシフト」を事業領域とし、テクノロジーを駆使したインフラを提供する各IT事業を展開。主な事業は、都市部を中心に独立した中小の人材紹介会社やヘッドハンティング会社をネットワーク化して、求人企業と人材紹介会社をつなぐ求人情報流通システム「Crowd Agent(クラウドエージェント)」、エンジニアのスキルと成長を可視化するプラットフォームを通じてエンジニアの転職・採用を支援する中途採用サービス「Forkwell(フォークウェル)」、都市部人材の業務スキルと地方企業をマッチングする地方貢献副業プロジェクト「Skill Shift(スキルシフト)」。スタッフ数は70人(2018年7月時点)。

株式会社grooves(グルーヴス)が手がける主要事業の一つである「Skill Shift(スキルシフト)」は、人材の確保に問題を抱える地方企業と、都市部でスキルをもって働きながらさまざまなチャレンジをしたいと考える人材を“副業”という形式の求人でつなぐプラットフォームです。人材難に悩む地方を支えるスキルシフトは社会貢献にもなり、働く人々に新しい働き方へのきっかけを提供するサービスとして期待されています。

そのグルーヴスでも「副業」という働き方の門戸は開かれており、スキルシフト事業を推進するSkill Shift事業部部長の鈴木秀逸さんは副業をもっています。後編でも鈴木さんに加わっていただきながら、「副業」という働き方を軸に、グルーヴスでの“働き方改革”や今後の世の中の働き方について、大畑さんにさまざまなお話をうかがいました。

 

副業で得た知見は本業の“資産”になる

御社グルーヴスは、副業をOKとしています。

大畑さん(以下、敬称略):会社として副業を解禁したのは2年ほど前からです。当社は、全従業員のうちエンジニアがおよそ3割弱を占めます。そのエンジニアから「副業をしてみたい」という声があがったのをきっかけに検討し、解禁しました。エンジニアやクリエイター系は副業しやすい職種で、当社で副業をしているのも現段階ではほとんどがエンジニアです。ビジネスサイドの人間では、Skill Shift事業部で部長を務める鈴木(秀逸)が副業をもっています。

自社のスタッフに副業を解禁することに懸念を覚える企業はまだまだ少なくありません。御社では、副業を解禁したことで何か変化はありましたか。

大畑:副業をしているエンジニアは、さまざまなエンジニアコミュニティに関わっています。彼らが「グルーヴス」という名前をもってあちこちで活動してくれているおかげで、エンジニア界隈で当社の認知度も高まりましたし、「グルーヴスは、エンジニアがこういう働き方を実現できる会社なのだな」と知ってもらえるようになりました。これは少なくとも、副業という働き方を可能にしたからこそ生まれたプラスの要素です。

鈴木さんは、ご自身でも副業をされている立場から見て、何かお気づきの点があれば教えてください。

鈴木さん(以下、敬称略):私の副業は、あるIT企業におけるマーケティング・広報領域のアドバイザー的な役割です。その会社に行くのは月1回で、グルーヴスでの業務終了後に出向いてミーティングに参加し、メンバーの進捗確認や翌月の予定などを打ち合わせます。そのほかにも、チャットツールで随時メンバーの相談を受けるといったような関わり方をしています。このミーティングを最初は月2回行なっていましたが、途中で月1回に変更しました。先方のメンバーには通常業務もあるなかで、私とのミーティングが負担になる部分もあり、1回ごとの内容が薄くなってしまうことが見受けられたからです。

私が本業のSkill Shift事業で人材を求めている地方企業とお話しすると、人材に求める条件として「週2回働いてほしい」「月4回来ていただきたい」といったことをおっしゃる企業が多いです。出社を求める回数が多くなれば、それだけ人材採用のハードルが高くなりますし、何より受け入れる企業の現場の方々の対応が大変になります。副業という働き方や副業人材という存在に慣れていない地方企業が、副業人材を本当の意味で受け入れるのは簡単なことではありません。最初からあまり頻繁に通っても現場が回らないのです。このことを、私は自身の副業経験からも実感しました。

そこで私は、企業に対して「まずは月1回から始めませんか」と提案するようにしました。そうして月1回の出社という条件で副業人材の受け入れをスタートしてみると、「実際、月1回でも十分だな」と実感される企業が多いのです。このように副業で得た“おもしろい”発見は、Skill Shiftの運営にも活かしています。

 

副業で活躍できる人材が本業にも貢献する

副業の経験が、本業での事業開発に役立っているというのはすばらしいですね。

大畑:僕は初めて聞きました。

鈴木さんは、会社ではそうしたお話はなさらないのですか。

鈴木:私自身には、「申し訳ない」という気持ちをもちながら副業させてもらっているという感覚があるものですから、あまり表立ってはアピールしていません。

「申し訳ない」というのはどうして?

鈴木:副業の話が持ち上がったとき、いかにして会社に迷惑をかけずに両輪をまわすかというところは十分考慮しました。その上で「この関わり方なら問題ない」と判断し、グルーヴスにも許可を得ています。それでも、企業の経営者の感情としては「副業をする余力があるなら本業をがんばってくれよ」と思っても不思議はありませんし、私自身にも自分のわがままというか、自分の知的欲求のために“させてもらっている”というような意識があるのです。

Skill Shift事業を推進する鈴木さんにもそういう意識がおありというのは、考えさせられるものがあります。大畑さんはどのようにお考えですか。

大畑:僕は働くスタッフに対して「副業する余力があるなら本業を」とは思いませんし、副業に就くスタッフをそんな目では見ていません。メンバーが副業などにチャレンジすると、いろいろな経験や学びがあります。それを会社にフィードバックしてもらえれば、会社の資産になります。実際、鈴木の経験もSkill Shiftに反映されているわけでしょう。そういうサイクルを世の中につくっていくほうが、会社も人も豊かになります。

それに今後は、優秀な人であればあるほど「この会社だけに貢献を」とはなりません。副業で仕事の幅をどんどん広げていけるような人でないと、本業への貢献も期待できないでしょう。実力のある人にジョインしてもらおうと考えるならば、本業に縛りつけるブロックをかけても意味がないのです。

会社が選ばれなくてはいけない時代になるのですね。

大畑:おっしゃるとおりです。

 

今の“副業”に求めるのは「報酬」より「経験」

Skill Shiftを介して求人に応募する人材は、副業・兼業というかたちで地方企業での仕事に携わることになります。そうした方たちは、どのようなものを求めていると?

大畑:副業というと「もう少しお金を稼ぎたいから」という理由をイメージするかもしれませんが、この理由で副業求人に応募している人は非常に少ないという印象です。「応募の動機」を拝見すると、多いのは「自分の地元に貢献したい」「地元を盛り上げたい」「自分も年齢を重ね、地方創生、地域貢献を行ないたい」というようなものです。裏の狙いとしては、「自分にもっと箔をつけたい」「もっと経験を積んでスキルを上げたい」という思いもあるでしょう。

鈴木:従来の副業は、本業で“すら”稼げない人がするものでした。しかし、今世の中で起こっている「副業解禁」の流れはそれとはまったく違い、大企業に勤めている人、本業でバリバリ仕事をして稼いでいる人が副業に乗り出しているという印象をもっています。Skill Shiftの応募データを拝見していても、今をときめく名を知られた会社の部長職、CXOといった方、年収にしても確実に700万円、800万円以上もらっているだろうなという人が応募していることが珍しくありません。

Skill Shiftはプロモーションなどの集客をまだしておりませんが、それでも自ら見つけて登録している人々とあって、いわゆるアーリーアダプター層だろうと考えています。応募する案件は月に3万円から5万円というレンジが多いのですが、これも本業で活躍している裏返しともみられます。そうした人材にとっては、副業で10万円、20万円という額を提示されると、本業に支障を来すような大きなコミットを求められるのではないかと懸念するのではないでしょうか。こうした方々が地方貢献、スキルアップ、実力試しといった目的で、あるいは“その地域に行ける喜び”という感覚で、副業という働き方に取り組んでいるものとみています。

副業を求める人材に対して、地方企業における副業求人の需要はいかがですか。

鈴木:地方で副業したいという人はたくさんいるのですが、いかんせん副業求人を出す企業がなかなか増えないのが実状です。今、通常の求人は「人がとれない」といわれている“求人難”ですが、副業として働く人を求める副業求人は“求職難”で、副業求人の需要は労働市場の求人状況とまったく逆転しています。

大畑:オーナー社長が経営している地方の中小企業では、「都市部のIT企業に勤める若い“にいちゃん”が副業で働く」というスタイルをイメージできない、なじまないということがまだまだあります。それでも、「副業人材を採用してみたらこんなによくなった」という事例は実際に出てきていますから、僕らがそういう事例をもっと周知し、副業人材の採用を広めるための活動を頑張る必要があります。今はリソースの問題で実現できていませんが、人材を採用してSkill Shift事業に投入することで、副業求人を増やしていきたいと考えています。

 

副業で貢献できる場所が増えれば八方ハッピーに

副業・兼業に従事する人が増えると、世の中の働き方はどう変わる?

大畑:これまで1つの会社で働いて成果を出してきた実力のある人が副業することによって、貢献できる場所が増えていきます。いろいろなところで喜んでもらえれば、「これが価値になるのだな」と実感できるでしょう。そうして、「次はここでもやってみよう」「あそこでやってみよう」となっていけば、その人がもつスキルがより多くの場で提供されることになります。こうなれば、日本経済全体にとっては非常にいいことであり、実際にそうなっていくのではないかと考えています。

そして、企業というある程度大きさのある組織では、働く個人ができること、影響を及ぼせる範囲は限られています。けれども自分で副業をしてみると、喜んでいる顔や、変化する会社や部署、仕事の成果といったものをダイレクトに見ることができるようになります。その経験が増えていくのは、八方にとってハッピーなことだと思うのです。

1つの会社でずっと働くこと自体を否定するつもりはまったくありません。ですが、長寿命化していく日本は「60歳で定年」という時代ではなくなっていくでしょう。そのとき、70歳、80歳になってもずっと同じ会社で働き続けて給与をもらえるという時代にはならないと思うのです。となれば、“収入の口”を1社に依存するのではなく、多くの“収入の口”をもつことが大切です。今はまだ、「会社に属していること」「所属企業にのみ貢献すること」が第一義になるととらえている人が多いと思いますが、そうでなくなっていくといいと思いますし、実際変わっていくでしょう。

他社さんからも、ベンチャー企業の経営に参画できるサービスなどが出てきています。そういうサービスが増えていけば、働く人が何らかの気づきを得る機会が増えるわけですから、歓迎すべきことです。そのなかでも、Skill Shiftでの副業は体験するハードルが非常に低いと思います。その体験をきっかけとして、未来に向けた気づきを、見聞きしただけの知識ではなく自らの体感として得る人が増えていってほしい——。これは、サービスにのせている願いです。

そうなれば今後は、副業・兼業での収入というのも大きくなっていくのでしょうか。

大畑:副業をする人がきちんと価値を提供し、それに対して報酬を支払うというサイクルが形成されていけば、副業マーケットは大きくなり、そこで生まれる報酬を収入の柱の一つとして食べていく人も増えていく可能性があります。それはとても意義があることです。その先には「副業」という選択肢ばかりではなく、御社みらいワークスに登録されているようなフリーランスになっていく方も出てくるかもしれません。

ただし、誰でも副業ですぐに活躍できるわけではありませんし、稼げる人と稼げない人というのはどうしても生じます。そこで収入格差が広がっていくのはやむを得ません。いろいろなことを知っている人がコミュニティに参加すれば、どんどん相談が舞い込み、「ちょっと手伝って」という話になります。1件成功すればまた1件と、仕事の話が次々と入るようになる。どんどん外に出ていろいろな人とつながり、知見やノウハウを得れば、さらに仕事が増える。金銭的にも稼げるようになっていくでしょう。かたや、外に出ていくことに及び腰になり、ネットワークもなければ知見ももっていないという人は、残念ながら稼げないままです。

前者のサイクルに入っていけば、会社に依存しなくてもよくなります。放っておいてもどこからか声がかかる、どこでも稼いで生きていけるという自信がもてる人は強いです。人生が安定します。その体感を、Skill Shiftを通して得る人が増えてほしいなとも思います。