「都市×地方」と「IT×伝統産業」がキャリアを強くすると考えられる訳
2025.3.14 Interview

「会社員としての安定とフリーランスとしての自由」「便利な都市部と豊かに暮らせる地方」。選択肢が増えたことで、まったく違う働き方、暮らし方の間で揺れる人は少なくありません。会社員として3社を渡り歩き独立、東京から福島へUターン移住し農業にも携わる渡邉隆さんの実例から、これからの時代のキャリアアップについて考えました。
キャリアのスタートは「飛び込み営業」

3月初旬の午後、東京都・虎ノ門ヒルズにあるベイクルーズが運営するレストラン「RITUEL(リチュエル)虎ノ門」は、旬のイチゴを食べ比べできるアフタヌーンティーを楽しむ女性客でにぎわっていました。「ゆうやけベリー」「ふくはる香」「おいCベリー」「とちおとめ」の4品種の完熟イチゴを使用したデザートの数々は6,900円と高額ながら、訪日客の注目度も高いようです。このイベントで使用しているイチゴは、江戸時代から7代続く福島県伊達市のイチゴ農家・斎藤農園で作られたもの。渡邉隆さん(38歳)はこの斎藤農園で宣伝部長を務めながら、自身が立ち上げた会社で企業の営業支援、生成AI導入支援、地方創生事業を行っています。
渡邉さんのキャリアのスタートは、光通信系列企業での飛び込み営業でした。その後、ヤフーのYahoo!不動産広告の営業でデジタルマーケティングの知見を得て、AI・ビッグデータ解析系のベンチャー企業では支店の立ち上げを経験。満を持して2020年に独立、会社員からフリーランスへ転身しました。その後、2023年には自身の会社「Xenkai株式会社」を設立しています。

「福島県の実家で、母は英語教室を営んでいました。その影響もあるのか、起業したいという思いはずっとありました。AI・ビッグデータ解析系のベンチャー企業で福岡支店の立ち上げを一手に任され、認知されていないエリアでの顧客開拓、人、モノ、カネの調達や情報収集、予算取りなどをやることで実績が積み上げられ、自信ができた。当時の社長は経営者を輩出したいという考えの方だったのもあって背中を押してもらえ、会社とは業務委託契約を結び仕事を続けながら独立しました。コロナ禍でフルリモートで働けるようになり、これなら1社だけでなくさまざまな仕事に携われるなというタイミングにも後押しされましたね」(渡邉さん)
福島でパラレルキャリアを実践

渡邉さんは2年ほど前に福島県福島市に移住。現在は東京と福島を行き来しながら、パラレルキャリアを実践しています。会社員を辞め独立することのメリットを聞くと、「時間も報酬もコントロールでき、自分で好きな仕事を選べること」だと答えた渡邉さん。一方でデメリットは「収入が安定せず、時間のメリハリがつかない」ことを挙げました。実際、ゴルフなどの予定が入っていなければ土日関係なく朝9時から夕方6時ごろまで仕事。夕飯のあと夜10時ごろまでリスキリングの時間にあてていると言います。
斎藤農園では、ECサイトの構築やSNS運用、サッカーJ3チーム・福島ユナイテッドFCとの協賛で試合開催時の出店や「果物定期便」の販売のほか、冒頭のような飲食店とのコラボレーション等で販路開拓するなど農業のDX化やブランド価値向上に取り組んでいます。

「斎藤農園は名峰霊山のふもとに位置し、自然豊かな気候風土と代々受け継がれてきた知識と技術でどこにも引けを取らない、こだわりのおいしいイチゴを作っています。ただ、多くの人にこのおいしさを届けたいと考えたとき重要なのは、作るだけではなくどう売るか、どう価値を伝えるかなんですね。イチゴの品質やおいしさをストーリーやブランド価値に紐づけることが大事。福島県の新しい品種、ゆうやけベリーをはじめとする高品質なイチゴをプレミアムBOXとして販売することや6品種もの食べ比べができる特別セットで高付加価値化を図り、一般的なイチゴとは一線を画すブランディングを行っています。」(渡邉さん)
都市部で培った知見やスキルの生かし方

都市部と地域の情報格差は徐々に小さくなっているとはいえ、「まだまだアナログな部分が多くDX化は進んでいない」と渡邉さんは感じています。そのため、伊達市のインキュベーションの立ち上げ支援など、これまでの知見を生かして地元に貢献できる活動にも積極的に参加。東京での仕事のときは、経営者仲間と集まり新しい生の情報に触れるようにもしています。
「1社目の通信会社の営業では、何回でも粘って契約を獲得する根性スタイルを3年間で身につけました。前任者から与えられる営業先リストがあったのですが、そのリストを元に営業をかけても過去に誰かが売り込んだ先だから成約率が低いんですよ。そこでネット検索して設立したばかりの事務所や会社を探し出し、コピー機や電話回線など必要ないでしょうかと売り込みました。営業の突破力はここがベース、原点です。
これからはITに強くないとダメだと考え、2社目はデジタルマーケティングの分野を選びました。ここで、広告枠を売るにはいかに付加価値を付けるかが大事だと気づいた。たとえば、競合他社の成功事例や失敗事例などの情報を集め、お土産として営業先に持っていくんです。情報収集のスキルもここで磨きました。3社目のベンチャーでは、柔軟な経営体制だったので新規事業の企画がどんどん通るんですよね。自分が出した企画案が通り過ぎるので実行するしかない(笑)イベントや展示会出展など新しいことに取り組んで形にする力が身につきました。福島に移住して、こういったこれまでの知見やスキルを生かせる場がたくさんあることに気づいたんです」(渡邉さん)
「地方創生では、地元の人たちと一緒になって盛り上げることが何より大切。地域に足りないのはアイデアや熱量で、それらを持ち込むのが僕の役割」だと渡邉さんは考えます。都市部での会社員の経験を生かして自身のビジネスをつくり出し、農業など日本の伝統産業や地域ビジネスの課題解決、DXに貢献する。「会社や場所にしばられない働き方」を目指す人にとって、渡邉さんの生き方は、ひとつのロールモデルとなりそうです。
株式会社ベイクルーズ が運営する「RITUEL 虎ノ門」にて、
『 Strawberry Garden Afternoon Tea 』が期間限定で開催中。
詳細は、以下からご確認ください。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002019.000011498.html
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