三井物産、三菱商事、伊藤忠、住商、丸紅、双日のアルムナイ会から考える「アルムナイネットワーク構築」に必要な視点
2024.11.6 Interview

「アルムナイ」という言葉を耳にする機会が増えてきました。多くは「アルムナイ採用」という形で、人事分野で使われています。アルムナイは英語のalumniで「卒業生」「同窓生」という意味。企業では、定年以外で退職した、元従業員を指す言葉として使われています。
最近では、企業主導でアルムナイを立ち上げる動きが活発化していますが、元従業員主導で6大総合商社出身のアルムナイ約170人が集うイベントが9月に開催されました。このアルムナイイベントに参加し、人材リソースとしてのアルムナイについて探ってみました。
20代、30代も多い総合商社アルムナイ

ひと世代前なら、平均年収が1500万円を超える総合商社を20代、30代で辞めることなど考えられなかったことだろう。企業のOB・OG会と言えば定年後の60代以上の人が多い印象を持つ。だが、9月に開催された総合商社アルムナイ合同イベントの会場では、20代、30代と思われる人々の姿が目についた。
実際の来場者の分布をみると、2005~2024年入社(大卒入社の場合23~42歳)が約6割、在籍年数では10年以内が約6割だった。入社3年目で伊藤忠商事を辞めた男性は「自分のまわりでは、チャレンジ精神にあふれたタイプは3年以内で転職するかこのまま残るかを決断していました。ただ、直近の商社は好業績。若いうちから日本企業のなかでもトップクラスの年収を手にできるため、辞められないと感じている人も多いですよ。安定を求めて10年以上勤務すると辞められなくなる印象ですね」と話す。
三井物産を2年で退職し、11年が経った上野なつみさんは「キャリア形成を考えて辞めることを決めました」と当時を振り返る。
元商社パーソンのキャリアの描き方

「サービスや商材を売るために販売チャネルの開拓や物流ネットワーク構築、金融・保険、国際的なプロジェクトなど幅広い分野を学びたいと考えて、三井物産に入社しました。入社して経験を積むなかで、2年ごとに事業部を異動し10年経ったらようやく一人前という総合商社のキャリア形成をあらためて見つめなおしたんですね。
10年経って社内で一人前と認められ、いろいろと任せてもらえるようになったとき、子どもがいるかもしれない。今ほどがむしゃらに仕事に取り組む時間がないかもしれない。体力も気力も時間もある今、最大限に力を発揮してやれるだけのことをやりたい。そう考えて大学時代のインターン先のベンチャーに転職しました」(上野さん)
上野さんは現在、東京とシリコンバレーに拠点を構えるベンチャーキャピタル、DNX Venturesで働いている。DNX Venturesの投資・支援先の企業の人々がこのイベントに参加しているというつながりがあり、上野さんはこの場に来た。
4年ほど前、入社10年目で丸紅を辞めた播川直毅さんは、在職中に建設機械ビジネスのM&Aや事業会社の経営など3つの事業部門を経験したあと、「ここだ!と感じた」タイミングで退職。米国へのMBA留学、PEファンドを経て2022年から、M&A事業を軸とするforestでブランド投資部の部長を務めている。西澤領太さんは、海外発電事業に関わるM&A、PMI、資産管理業務に従事したあと、入社8年目ごろに「キャリアの危機を感じ、自分でキャリアを切り拓きたいと考え」丸紅を辞めたと語る。現在は投資ファンドを運営するMCPキャピタルのディレクターを務める。
参加者の現在の業種は、IT・ソフトウェア・通信が約3割を占めるが、サービス・コンサル・インフラも約2割、続く金融ほか、商社・小売、メーカーなど幅広い。独立系ベンチャーキャピタルOne Capitalの北村貴寛さんは、「面識はあったけれどじっくりしゃべったことがない方々と協業の可能性について、あらためてゆっくり話をさせてくださいと伝える機会を得られました。元商社というバックグラウンドがあって、この場にこられたのはありがたいことです」と言う。
「三田会」との比較で考えるアルムナイ

「卒業生」を意味するアルムナイだが、大学の卒業生を中心に組織されるネットワークで最初に浮かぶのは慶應義塾大学の同窓会組織「三田会」だろう。アルムナイイベント内のトークセッション登壇者の1人で、Sansan代表取締役の寺田親弘氏は元三井物産で、慶應義塾大学出身。そこで、三井物産のアルムナイ会「元物産会」と三田会のネットワークの違いについて聞いたところ次のような言葉が返ってきた。
「三田会は多種多様なメンバーが集まっていて、元物産会はビジネスでの繋がりというバイアスがかかっているという前提の違いがあるように思います。商社アルムナイは、元商社としての共通言語で話せるので、ビジネスの話はすぐに通じる」(寺田氏)
みらいワークス代表の岡本祥治は、慶應義塾大学の卒業生で創業社長の集まり「ベンチャー三田会」の会長だ。岡本は、アルムナイ会が一過性のイベントで終わらず続いていくには、「ビジネスに対するベネフィットだけでなく、個人へのベネフィットも必要だ」と持論を語る。
「ベンチャー三田会の会長として、組織の活性化について考えていて思うのが、仕事に対するベネフィットしかない人脈ネットワークは長続きしないということです。慶應には全塾員を包括する同窓会組織として慶應連合三田会があり、慶應卒業生が世代を超えて集まる連合三田会が年に1度開催されます。それ以外にも北海道や東北、九州など地域別の三田会があり、ニューヨーク三田会など海外にもある。企業内にも三田会が存在する。慶應卒業生であることに加えて、住んでいる地域や所属する企業というつながりがあるから結束力が強くなるんですね。その結束力の強さで地域の活性化や慈善活動が推進されるわけです。
連合三田会の運営方法にも結束力を高める仕掛けがあるんですよ。たとえば、年に1度の会の運営は卒業から10年目、20年目、30年目の人たちが中心となって行います。卒業から10年目にあらためて同級生たちのつながりができるし、世代を越えたつながりもできる。卒業25年を迎える年の卒業式に招待され、旧交をあたため絆を深める三田会の卒業25年記念事業というものもあります。こういった結束力を高める仕掛けが、アルムナイ組織がうまく機能するためには必要なのではないでしょうか。人とのつながりが続いていけば、自然とビジネスも生まれていくものです」(岡本)
大手総合商社6社が合同で開催したアルムナイは、まだ第1回目が開催されたばかり。日本の大手企業では、アルムナイネットワークや再雇用制度を立ち上げるところが出てきてはいるがまだうまくまわっているとは言い難い。総合商社アルムナイ合同イベントが第2回、第3回と続いていくかどうかは、日本にアルムナイが根付くかどうかの試金石となりそうだ。
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