初対面の人と距離を縮めるのに「天気の話はNG」な理由
2025.6.17 Interview

リモートワークでのオンライン会議が当たり前となり、多様な働き方が広がる現代。初対面の相手との会話に悩むビジネスパーソンは少なくありません。アイスブレイクで無難に天気の話をし、名刺交換では肩書きを見て社名の話をするといった、かつての営業セオリーをいまもやり続けていないでしょうか。何度も対面で会えていた時代ならいざ知らず、今重要なのは短時間で関心を引くセオリーです。
『たった1分で相手が虜になる 世界標準の聞き方・話し方』の著者であり、レディー・ガガやヒュー・ジャックマン、渡辺謙といった2000人超のセレブや経営者などにインタビューしてきた国際インタビュアー、ジャーナリストの斉藤真紀子さんに、いまの時代に必要な対話術について聞きました。
見上げない、媚びない、でも敬意はある――相手に“憧れすぎない”という技術
初対面の社長や著名人、あるいは人生の大先輩。そんな人を前にすると、緊張して言葉がつまるのは自然なことだ。このように、相手を上に置きすぎることが関係性の構築を妨げていることがある。
「上の方にこんなことを聞いたら失礼かな、と思うと次の言葉が出なくなりますよね。私自身、もともとは口下手であがり症。対人関係で少し踏み込むのは摩擦がしんどいなと思うタイプなんです。仕事でもプライベートでも、傷つくのはこわいからひと一倍慎重になります。取材やインタビューで、相手に嫌な顔をされたり、怒鳴られたりしたこともありますが、それでも話したいと思うのは、人と話しているとおもしろい話が次々と出てくるから。好奇心でおもしろがるうちに、話し方の苦手意識がなくなっていきました。
相手と対等だという意識を持って、知りたい、話したい気持ちを全面に押し出すと不思議と相手の良さや本音を引き出せます。レディー・ガガにインタビューしたときも、あこがれではなく、プロとして対等に向かいあい、彼女の興味、関心のすべてにリスペクトを込めて耳を傾けました。対等じゃないと本音は出てこないんですよね」(斉藤さん)
「ホップ・ステップ・ジャンプ」深堀りの3ステップ

「相手の本音を聞きたい」と思っても、いきなり「なぜそれを大事にしているんですか?」と切り込んでしまえば、かまえられてしまう。そこで斉藤さんが実践しているのが、「ホップ・ステップ・ジャンプ」の3段階質問術だ。
「相手を知るための質問をして答えてもらって終わり、で次の質問に移ってしまうと表面だけの回答になってしまいがちです。たとえばスキューバダイビングの話をするなら、まず『どこの海に行きますか?』『いつ始めたんですか?』といったように場所や時間などすぐに答えられる質問をします。これが第一歩(ホップ)。次に、『どんなきっかけで始めたんですか?』『どんな人と一緒に行くんですか?』といった、相手の背景や経緯など少し広げます(ステップ)。そして最後に『それで人生変わったと思う瞬間ってありますか?』といったような価値観に迫る深い質問をする(ジャンプ)。徐々に深めていくと相手は本音を話しやすくなります」(斉藤さん)
これはビジネスの現場でも応用できる。相手の仕事内容にすぐに踏み込むのではなく、仕事のきっかけや背景、その仕事を通じて得たことといった「内側のストーリー」を引き出すようにする。相手に「自分に興味を持ってくれているのだな」という実感を持ってもらうことで、会話が自然と深まるのだ。
質問するだけでなく「自己開示」が信頼を生むカギ
取引先の責任者や上司などのなかには、本音を引き出そうにも話しがはずまず取り付く島がない状況になることもある。このようなときどうすればいいか。斉藤さんが勧めるのは「相手をよくみる」ことと「ギアチェンジで話しやすい空気をつくる」ことだ。
「初対面にも関わらず言いにくいことを聞き出さなければならないとき、相手は警戒することがあります。相手をよくみてみると、顔がこわばっていたり、嫌そうな表情だったり、目を合わせなかったりする。もし相手が話したくないわけではなく、緊張しているのかもしれないとと気づいた場合は、前のめりに『話しを聞きたいんです!』というより、『無理に答える必要はありませんよ』というゆるい空気感をつくるんです。話すときも前かがみにならず、心持ち距離をとる。質問せずに独り言のように語尾を『~ですかねぇ』というふうにして話しかけたり、共感を示すほうがいいときがあります」(斉藤さん)
一方で、初対面の営業先で「すごく話しやすい人だったな」という印象だったのに、肝心なことは話してもらえなかったということはないだろうか。
「相手が話す気まんまんのときは、受け身にならずに圧を強めて自分の存在感を出すようにします。そうすると、相手が話すモチベーションを下げることなく、あいづちやリアクションの合間のふとしたタイミングで質問ができ、本音を引き出しやすくなるんです。まず、初めの1分で『会えてうれしい』という気持ちを表情やあいさつで伝え、距離を縮めます。話しを聞くときは元気よく、“そうなんですね”と受け止めたり、“えっ!”と驚いたり、“なるほど”とうなずく。相手が印象に残る言葉を発したら繰り返してみて、手を広げたり目を大きく開けたりオーバーなほどのリアクションをする。自分の存在感を示し注意を向けてもらうことによって、話しの流れを自分が聞きたい方向に持っていくことができるんです」(斉藤さん)
名刺交換では本人にフォーカスを当てる
たとえば名刺交換で、部長以上の肩書きだとしたら腰を深く曲げて相手より下の位置に名刺を差し出す、アイスブレイクでは「今日は暑いですね」といった天気の話が鉄板……。こういった、社会人のマナーとして教えられてきた名刺交換やアイスブレイクでのあれこれも、「初対面で相手との距離をすぐに近づけたい場合は逆効果になる可能性がある」と斉藤さんはいう。
「会社名をみて、友人のAさんが働いていると思うのですがごぞんじですか? というように話をひろげる人は多いと思います。いったん、盛り上がるように思えますが、これではお互いの距離は縮まりません。自己紹介のときに心がけたいのは、あなたに関心を持っていますと伝えること。相手の名前の漢字から、生まれたのは夏ですか? とひろげたり、肩書きや部署名からどのような分野のご担当ですか? とひろげることで目の前の相手に興味があることを伝える。質問によってこうやって相手との距離が縮まれば、この人になら話してもいいかなという信頼感を得ることができます。
会議や商談で使われるアイスブレイクは、緊張を解いてリラックスするための時間を指しますが、相手との距離を近づけるにはアイスブレイクで雰囲気をなごませる必要はないと私は考えています。アイスブレイクでせっかく打ち解けたムードを壊さないようにしなければ……と、相手と本音で話すのがこわくなったら本末転倒だからです」(斉藤さん)
対等に、率直に話し、相手の話を引き出す。テンプレート的なアイスブレイクや当たり障りのない会話から抜け出し、互いの感情が動くような関係性を築く。そうやって初対面でも、互いに一歩踏み込めた瞬間に、「この人と一緒に何かできるかも」と、次の仕事や人脈に繋がるチャンスが生まれる。たった1回の会話が、その後のビジネスにおいて長く続く関係になる可能性もあるのだ。

『たった1分で相手が虜になる 世界標準の聞き方・話し方』(PHPビジネス新書)
初対面の1分で信頼をつかみ、深い関係性を築くための聞き方・話し方の技術を、豊富なインタビュー経験をもとに実践例に基づいて解説。会社員やフリーランスに関わらず、営業、広報、人事、あらゆる立場のビジネスパーソンに役立つ「世界標準」の対話術が学べる一冊。
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