日立製作所の好業績を牽引する「Lumada(ルマーダ)」に隠された成長戦略
2024.7.17 Interview
企業がDXによって競争優位性を確立するため、重要な要素のひとつとなっているのがデータ利活用です。日立製作所の成長戦略の柱である「Lumada(ルマーダ)」では、データ分析やAIといった日立の先進的なデジタル技術を活用し、まさにその「データ」から新たな価値を創出することで顧客のビジネスの成長をサポートすることに主眼を置いています。とはいえ、ルマーダはただのサービス名や商品名を指すわけではありません。
「ルマーダとは何か?」
従来のモノづくり企業から脱皮しDXとグローバル化で躍進を続ける日立の、ルマーダを軸とした成長戦略に迫りました。
(この記事は、2024年2月6日に開催した『プロフェッショナルの祭典2024』パネルディスカッション2「DX/BX促進のカギとなるLumada(ルマーダ)戦略~企業のデータに“光”を当てた先に日立が見ているビジョンとは~」をもとに構成しています)
ルマーダは舵を切るための「コンセプト」
「日立のさまざまなアセット(経営資源)を1つにして、顧客に価値提供を行うための旗印がルマーダ」だと、Lumada Innovation Evangelistを務める澤円氏は説明する。日立では、顧客が求める仕様に沿って言われた通りに設計、開発し、PDCAを回して品質のよいものを提供するモノづくりを得意としてきた。だが今、顧客が求めるものは大きく変わり、経営課題の解決や事業を成長させるためにどうしたらいいか、デザイン主導で「協創」する必要がある。
「IoTプラットフォームとして2016年に立ち上がったルマーダですが、目の前に見える形として実体のない、これまでとはまったく違うやり方を社内外に浸透させるのはなかなか難しかったようです。そこで3年前、カンフル剤として投入されたのが私です。デジタル戦略の中核を担う日立デジタルに所属し、エバンジェリストとしてルマーダの情報提供を行うなかで、ルマーダって何ですか?とよく聞かれます。
1つの商品やサービスを指すわけではないので、これがルマーダですというものはなく、ルマーダはコンセプトなんです。照らす、解明する、輝かせるという意味を持つ英語のIlluminateとData(データ)を組み合わせた造語で、お客様のデータに光をあて、輝かせることで新たな価値に変えるという意味が込められています。何年もかけて粘り強く、コンセプトの浸透に時間をかけていこうという気概で取り組んでいます」(澤氏)
ルマーダを旗印に「総力戦」で挑む
日立の連結の従業員数は約32万人。しかも「鼻毛カッターのような小さな家電製品から、発電所のような巨大プラントまで」(澤氏)幅広く事業を展開している企業で、全員が同じ方向を向いて進むのは簡単ではない。一方で、経済学者ヨーゼフ・シュンペーターのイノベーションの定義「まったく新しい生産要素の組み合わせ、つまり新結合による価値の創造」で考えると、約32万人の組み合わせ、幅広い事業の組み合わせによるイノベーションの可能性が追求できる企業だということになる。
「エバンジェリストとして日立の人々と話すようになってよく耳にしたのが、日立は縦割り組織だから……という言葉でした。ルマーダを旗印にすることで、僕はこの前提を取っ払うことができると考えたんです。お客様が直面する課題を解決しイノベーションを創出するルマーダ事業を進めるには、1つの事業のリソースで完結することは難しく別の事業部門から人を借りてくる必要があるからです。ルマーダを旗印にすればさまざまなビジネスユニットから人が集まり、日立のアセットを1つにして顧客に価値提供を行う、つまり総力戦で挑むことができるというわけです」
大赤字からの復活劇の背景にあるもの
いまや日立製作所の海外売り上げ比率は6割を超える。従業員数も日本より海外のほうが多いグローバル企業だ。当然、ルマーダは世界展開を視野に2016年の記者発表はアメリカ・シリコンバレーで行っている。2021年にはルマーダの世界展開を加速させるため、DX支援を行うアメリカのGlobalLogic(グローバルロジック)を約1兆円で買収した。
「日立製作所は約1兆円でスイスの重電大手ABBから送配電事業も買収しています。このABBの幹部と話す機会があったのですが、すでに彼らにもルマーダの価値は伝わっているようで、日立にはルマーダがあるからこれまでABBができていないことがこれからできるようになるだろうと言っていました」(澤氏)
「白物家電の日立」から、世界大手と肩を並べる鉄道事業や上下水道ビジネスなど社会インフラを支える日立、グローバル企業の日立といったように変化を続けられる企業はなかなかない。大きな変革を遂げられた転換点は、2009年3月期に巨額の赤字を計上したときだった。
「当時の日立を知っているわけではないのですが、経営層に聞いたところによると社会的な責任をまっとうするために、とにかく凝り固まっていてはダメだと、社員全員が危機感を持って変化していったそうです」(澤氏)
遠慮せず変わっていく文化をつくる
しかも経営層の大号令によって変わっていったわけではなく、自然と振る舞いが変わっていった。これができた背景には、「日立のルーツ、変人というキーワードがあるのではないか」と澤氏は考えている。
「ルマーダのエバンジェリストになって感じるのが、日立の社員はみんな日立が好きなんですよ。好きだからとにかく大事にしたい思いが強く、だからこそ堅くなっている人が多くてまじめにやらねばと考える人が増えてしまったのではないでしょうか。まじめだから、別の事業部門から人を借りてきて、自分たちの仕事に巻き込んじゃっていいのかな、と遠慮する人も多い。
日立の中央研究所には正門の先に返仁橋という名の橋があり、博士号の学位を持った現役社員やOBが在籍する返仁会という組織があります。もとは変人橋、変人会、と呼ばれていて、日立創立者の1人である馬場粂夫博士の持論、凡人、才子にあらず変人たれ!という言葉から名付けられています。もともと、変人を尊ぶカルチャーが日立にはあったんですね。このルーツがあるから異分子としての変人も大きな変化も受け入れられる。ルマーダは、その原点に立ち戻ろうということでもあるような気がします」(澤氏)
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