副業の学びを本業へ「還流」させる ── 200社を支援した「副業プロ人材」が語る、AI時代を生き抜くキャリア戦略
2026.8.18 Interview
AIの進化によって、これまで通用してきた専門性がいつ陳腐化するかわからない——そんな危機感を抱くビジネスパーソンは少なくないでしょう。今回インタビューしたのは、内閣府『プロフェッショナル人材活用ガイドブック』に3度掲載、大手IT企業に勤務しながら200社を超える中小企業を支援してきた砂川大輔さんです。研究者としての挫折とAIへの危機感から一歩を踏み出し、副業で得た知見を本業へ「還流」させることで自身の市場価値を高めてきた戦略に迫ります。
「世界初」を競う土俵から逃げるように選んだ就職
砂川さんのキャリア選択の原点は、大学院時代の経験にあります。早稲田大学大学院で生物分野の研究に打ち込んでいたものの、「世界初」を競うアカデミアの厳しさに直面し、「この土俵では戦えない」と就職の道を選びました。今振り返れば視野が狭かったと感じつつも、当時は逃げるように就職していったことが、どこか後ろめたさとして心に残っていたといいます。
選んだ就職先は、新卒採用人数が少なく成長著しいIT市場で腕を磨けると考えたアマゾンジャパン合同会社でした。マーケティング部門でキャリアをスタートさせ、大手メーカーを担当するマーケティングコンサルタントとして信頼を積み重ねる一方、データ活用やAIによる自動発注が高度に進み、AIの判断が人間の指示より優先される現場を目の当たりにし、危機感を募らせていきます。
「AIが自分で考えて価格などを設定していくと、データがたまるスピードが速い。これは人間を圧倒するアドバンテージなんです。『人間にできることは何なのか』『AIでは出せない価値をどう出すか』という疑問に、10年近く前からぶつかって戦ってきました」
危機感をバネに、砂川さんは「個人としても必要とされる存在になろう」と、知人の事業を無償で支援することから動き出します。その後、さらなる成長機会を求めて富士通株式会社へ転職し、副業として複数の中小企業を支援するパラレルキャリアを本格的に歩み始めました。
「とにかくなんとかする」姿勢が支援領域とスキルを広げていった

富士通で全社・事業戦略に携わる一方、砂川さんは自身の強みであるデジタルマーケティングを軸に副業を進めていきました。中小企業の現場では、一つの課題が解決すると、すぐに次の課題が現れます。
「マーケティングがうまくいって受注が増えると、今度は生産能力の限界にぶつかり、現場の負荷が増して離職の問題が生まれる。それを解決するために業務効率化や社内規程の整備、採用戦略の再定義が必要になる……。お客さまの移り変わるボトルネックに合わせて価値貢献を続けた結果、支援できる領域がどんどん広がっていきました」
自分の得意分野に閉じこもらず、目の前のクライアントの困りごとに「とにかくなんとかする」姿勢で向き合い続けた砂川さん。網羅的な学習機会として数多くの資格を取得しながら支援領域と提供価値を広げ、200社を超える中小企業と関わる「プロの副業人材」へと成長していきました。
「力になりたいと思えるすばらしいお客さまに恵まれたからです。支援を続ける中で感情は、危機感→無力感→反骨心→喜び→共感→使命感と変化をたどりました。 依頼に応えようと創意工夫するなかで、支援技術が磨かれます。そうしてようやくお客さまと本当のコミュニケーションができるようになるのです」
また、副業人材ならではの価値は「企業の自立」を支援できる点にあると砂川さんは指摘します。
「事業会社やフリーランスは顧客を囲い込む動機が働きがちですが、本業で安定した収入を得ている副業人材はそれが薄く、企業の自立支援に手応えを感じる人が集まります。事業会社の専門性、フリーランスの柔軟性、ボランティアの貢献意欲を組み合わせ、自立を支援してくれる存在なのです」
大企業の流儀をそのまま押し付けるのではなく、一度の失敗が倒産に直結する中小企業のシビアな環境を理解し、実利で貢献できるよう腕を磨くこと。それが競争の激しい市場で選ばれる「副業のプロ」のスタンスです。
組織の壁を越え、社外の学びを本業に「還流」させる

副業での経験は、社外への価値提供にとどまらず、本業でのパフォーマンス向上にも直結します。砂川さんが提唱するのが、副業で得た知見や視座を本業の事業部門へフィードバックする「還流」という考え方です。
例えば、本業の新規プロジェクトでリスクを洗い出す場面で、砂川さんは「中間成果物をマメに残す」「重要なパートナーは早い段階から巻き込む」といった施策を提案したことがあります。中小企業の現場で「パートナー企業の担当者が突然いなくなる」「依頼が後回しにされる」といったトラブルを経験し、リスクや死角を察知する視座が得られたからです。
ただし、副業の経験を本業に還元しようとする際には「本業組織への徹底的なリスペクト」が最も重要だと砂川さんは指摘します。
「大企業には長年かけて問題を解決してきた歴史があります。社外の知見をもとに社内で提案する際は、『自社には過去にこういう成功体験や経緯があった』と敬意を払い、文脈を踏まえたうえで発言することが重要です。そして何より、本業側に還元できるほどの視座を得るためには、副業であっても一流を目指さなければなりません」
本業の組織をリスペクトし、目の前のステークホルダーのために集中する。この切り替えが、両立を成功させるポイントです。本業と副業、両方で結果を出し続けることこそが、還流という好循環を生む土台になっているのです。
「よいものが正当に評価される社会」を目指し、発信者として活動を強化

砂川さんが掲げるビジョンは、「よいものが正当に評価される社会をつくる」こと。優れた商品やサービスを持ちながらも、デジタル上の発信力やノウハウ不足で埋もれてしまう中小企業に力を貸し、内製化の支援を続けてきました。そして2026年夏、砂川さんは初の著書『副業人材活用の戦略 参画企業200社超の専門家が実践から見出した企業経営者の思考と技術』を出版。活動を現場支援にとどめず、オウンドメディアの運営や大学での講義、自治体との協働などを通じて、社会的な仕組みづくりへと活動の幅を広げています。
「一つとして同じ企業はありません。AIの進化によって専門知識や技術は大衆化していきます。プロに求められるのは、お客さまに成果を提供し続けられるだけのアップデート速度を自分が保っていること。現場で泥くさく場数を踏み続けることこそが、プロとして最も重要な要件だと思っています」
インタビューの最後に、これからのキャリアにおいて「真の自立」を模索する読者に向けて、力強いメッセージをいただきました。
「私たちは、年齢によってピークを迎える能力が異なるといわれます。例えば、短期記憶は25歳前後、プロジェクトマネジメントは40歳前後、相手の感情を理解する能力は50歳前後、語彙(ごい)力は70歳前後まで伸びる、といった具合です。能力のピーク年齢を知り、適切な時期から修業を積み、適齢期を迎えたときのピークをより高くする。今は情報化の社会ですから、鍛えた能力は外部からも見つけてもらいやすい。その時々の優位性を使い尽くして、高みに登っていきましょう」

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