地方企業の人手不足に次の一手「外部人材」活用のリアル
2024.7.29 Interview

「後継者、経営人材が不足している」「いい商材はあるがどう売っていいかわからない」「生産性を上げたいが優秀な人材がいない」ーー。地域経済、ひいては日本経済を支える日本各地の中小企業の方々から漏れ聞く言葉です。こういった地方企業の課題解決に向けて、みらいワークスは全国の100を超える地方銀行や信用金庫と連携し、都市部プロ人材とのマッチングを進めています。
地方企業の人材ニーズをどのように汲み取り都市部プロ人材と結びつけているのか、地域金融機関の事例をもとにお伝えします。
(この記事は、2024年2月6日に開催した『プロフェッショナルの祭典2024』パネルディスカッション8「都市部プロ人材活用と地方創生」をもとに構成しています)
TSMC進出で県内の課題に温度差

「つねに地元企業の相談を受けるなかで、人、モノ、カネといった経営資源をトータルでご提供できるのが地域金融機関の意義」だと、肥銀オフィスビジネス執行役員ビジネス開発本部長の建部博氏は説明する。肥銀オフィスビジネスは肥後銀行の子会社として、2020年4月に顧客向け人材紹介事業をスタート。2023年度(11月末時点)の成約件数は177と順調に拡大している。
熊本県といえば、世界的半導体メーカーであるTSMCが工場を建設したことでその波及効果に注目が集まっている。半導体産業だけでなく関連する台湾企業の現地法人設立があいつぎ、つれて人材の需要も増大しているのが現状だ。
「中国語版の人材紹介説明資料を作成するなど、対応に追われています。ただ一方で、TSMC誘致による経済効果は熊本県内の限定された地域にとどまっており、他県の過疎化地域と同じく人材不足は深刻化しています。これによって、県内地域ごとにまったく異なるアプローチを行わなければならない難しさがあります」(建部氏)
人材不足による地域中小企業の経営課題を解決するため、肥銀オフィスビジネスでは副業マッチングプラットフォーム『Skill Shift』を通して地方での副業を希望する都市部の人材を紹介している。

「お客様のなかには、副業人材の活用にどうしても踏み込めない方もいらっしゃいます。その理由を知りたいと思い、当社では2回副業人材を募集し、希望された都市部人材の方と業務委託契約を結びました。当社のお客様からのニーズが多い新規事業開発とSNSを活用した販路開拓の2つで進めたのですが、副業人材の方のアイデアから登録型人材派遣という新事業の開始につながり、現在はLINEやInstagramでの発信も行なっています」(建部氏)
この肥銀オフィスビジネスの成功事例を受けて、熊本県内自治体でも副業人材活用が進み住民向けアプリ開発につながっている。
「壁打ち相手」も「人事制度設計」も副業人材活用

京都と聞けば、清水寺や金閣寺、祇園や嵐山など人気観光スポットに観光客でにぎわう京都市を思い浮かべる人が多いだろう。京都北都信用金庫の本店は京都府宮津市。海沿いの京都北部に位置する地域で、ご多聞にもれず人口減少とそれにともなう経済・産業活動の縮小が課題となっている。京都北都信用金庫で常務理事を務める足立渉氏は、2015年から地元中小企業の本業支援を行うなかで「期間を定めず雇用される常用雇用は、移住や定住という条件が壁として立ちはだかり、なかなか成立しないという現実があった」と話す。
コロナ禍でPCさえあればどこでも商談ができるオンライン化が進み、常用雇用ではなく副業での人材活用ができるようになった。そこで2021年、宮津市はみらいワークスが運営する地方転職・副業プラットフォーム『Global Mission Jobs(GMJ)』を活用し、宮津市の未来をプロデュースする戦略アドバイザーを募集している。
「当時7人の副業人材の方々にお会いする機会があったのですが、名だたる企業にお勤めの経歴とスキルを使った活躍を目の当たりにして、副業人材活用の効果を実感しました。京都北都信用金庫では『Skill Shift』と『Global Mission Jobs(GMJ)』を通して副業人材の活用を進めており、2020年5件ほどだった成約件数は今年度30件に拡大しています」(足立氏)
足立氏が顧客をニーズを聞くなかでいま、副業人材やプロ人材に求められていると感じる役割のひとつが「社長の壁打ち相手」だ。地方の中小企業には、既存ビジネスには誰よりくわしい経営者や社員はいても新規事業立ち上げのノウハウや経験をもっていないという場合が多い。そこを補ってくれるのが専門家である副業人材やプロ人材との壁打ちだ。また、日本三景「天橋立」がある宮津市は日本を代表する観光地であることから、マーケティングやブランディングの人材不足に課題を抱える企業も多い。
「働いてくれる人がいないから部屋を稼働させられない、宴会も受け付けられないと話す宿泊業や飲食サービス業の方々もいらっしゃいます。観光業のある経営者は、売り上げを伸ばすことよりまず人が大事だということで、従業員の満足度を高める人事制度設計を副業人材の方に依頼していました」(足立氏)
都市部の大企業管理職2人に1人が興味あり

地方企業での人材ニーズが増え続ける一方で、都市部で働く人々は地方の企業で働くということにどういった考えを持っているのか。みらいワークスが行った「地方への就業意識調査」を見ると「地方の企業で働くことに興味あり・やや興味あり」の比率は、コロナ前の2018年時点で41%だったのが5年後の2023年49.9%と増えている。コロナ後の現在はコロナ渦中より減っているものの、2人に1人、地方で働くという選択肢を持つ人がいるということになる。
世代でみると、次のような結果もある。

新型コロナウイルス感染症の広がりからアフターコロナへ移行し、地方で働くことへの関心に変化はあったかどうかを聞いたところ「(関心が)とても強くなった」「(関心が)強くなった」と回答した人が、35~44歳でいちばん多く35.7%となった。
背景には、テレワークなど場所を選ばず働ける環境ができたことで居住地を変えることをポジティブに考えられる人が増えたことがあるだろう。子育て世代では移住によってライフスタイルを再設計できることが魅力だという声があり、50代になると親の介護などで地元に帰り働きたいという声もあるようだ。
正社員や常用雇用に固執せず、都市部のプロ人材や副業人材の活用も柔軟に組み合わせる。これが、地方中小企業の人手不足解決につながり、地方創生を着実に進める一手にもなる。
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