リスキリングを成功に導く3つの大切な視点
2024.7.22 Interview
技術革新による製品やサービス、ビジネスモデルの変化に対応するため、企業主導のリスキリングに注目が集まっています。ただ、「どのように社員のスキルアップを支援したらいいのか」「リスキリングで身につけた新しい知識やスキルを、どうやって新しい職種や業務で生かしてもらうのか」……。モデルケースが少なくリアルに描くことができないという声も少なくないようです。
ここでは3社の施策や事例をもとに、リスキリングに取り組むうえでのポイントを探ってみましょう。
(この記事は、2024年2月6日に開催した『プロフェッショナルの祭典2024』パネルディスカッション6「リスキリング推進・設計の重要なポイントとは」をもとに構成しています)
50代でも手遅れなんかじゃない
「ビジネス共創番組」としてテレビ東京と日本IBMが2022年に立ち上げた『田村淳のTaMaRiBa』。TaMaRiBaは、日本を元気にしようという共通目的を持った異業種が集まるコンソーシアムだ。昨年は、みらいワークスも参画し島根県江津市にある公園のリブランディングプロジェクトを推進した。この番組のなかで新たに始まったのが「50歳からのアップスキリング」という取り組みである。企画・総合プロデューサーを務める今井豪氏は「自分が50代なので」と笑いながら、新たなプロジェクトについて次のように説明する。
「日本の各地域を元気にする取り組みをカメラで追い続けるなかで、その地域に役立つスキルや知識を身につけた人々が育つことが必要だと考えました。地域を元気にしたいと考え動いている人のなかには、若い人以上に熱い思いを持った50代の人々も数多くいます。50代でも新しい活躍の場があるのではないかと考え、このプロジェクトを始めました」(今井氏)
50代にもなれば生活のために今の仕事を続けるしかないと考えている人や、やりたいことがあっても心の奥底に閉じ込めて見ないふりをしている人が多いだろう。50歳からのアップスキリングでは、「50代で動き出すのは全然手遅れなんかじゃない!新しい活躍の場はあるはずだ!」と考え、自分の夢をしゃべる場や仲間づくりができる場を虎ノ門ヒルズに用意。TaMaRiBa独自設計のカリキュラムでスキルや知識を学ぶほか、実践とアウトプットの機会もつくっていく。
震災とコロナ禍で内省する人が増えた
若者のテレビ離れが進むテレビ業界では、新しい柱となる事業の創出は喫緊の課題だ。入社後20年以上やってきた番組制作だけでは間違いなく先細りしていく。変革が求められる業界で「いま自分は何をすべきなのか」を今井氏はこの10年ほど考え続けてきた。
「東日本大震災、コロナ禍を経て、自分は日本のために世界のために何ができるのかを考えるようになった人は多いと思います。私自身、今まで誰のために何をやってきたか、今の自分に足りないピースは何なのか、誰と組めばそのピースを埋められるのかを考えるようになりました。これは世代関係なく共通の課題だと思います」(今井氏)
課題認識は同じでも、年を重ねた分、生きてきた時代背景や会社員として刷り込まれてきた常識にとらわれることがある。終身雇用を前提とした教育を受けてきた40代、50代はとくに会社員の枠から外れること、新しいことを始めることに「いまさら」感を抱きがちだ。そういった人々には、「新しい出番をつくるための新しい学びと仲間が必要」だということで立ち上がったのが、「ライフシフトプラットフォーム」。企業から独立して自立の道をうながすためのマインドセットや新しいビジネスを行ううえで欠かせないスキルセット、生き方・働き方に関する教養などライフシフトを成功させるための学びを体系化して個人や企業に提供している。
「学び」と「仲間」をセットで提供
ライフシフトプラットフォームを運営するニューホライズンコレクティブは電通100%子会社で、元電通社員226人をメンバーとして2021年1月に設立された合同会社だ。立ち上げメンバーはそれぞれの思いとやりたいことの実現のために電通を辞め、個人事業主や法人としてここに集った。ニューホライズンコレクティブ共同代表の野澤友宏氏は、「独立に向けて一歩を踏み出せたのは、ともに切り開く仲間がいたからだ」と早期退職した当時の心境を振り返る。
「会社を定年退職した人は孤立しやすいとよく言われますが私は、元電通を中心とした仲間たちとそれぞれの興味関心に応じたコミュニティを形成し、お互いに刺激を与え合い活動することができています。ただ、ライフシフトプラットフォームを立ち上げる前には、会社辞めたあとまで元同僚たちと集まることに消極的な人も一定数いました。週1度、月1度、情報交換することは有益ですよと言って口説き落としたんです。蓋を開けてみたら、定期的に許せる仲間たちと話す時間がなかったら孤独だった、誘ってくれてありがとうと感謝されました。だからこそライフシフトプラットフォームでは、経歴の違うメンバー同士が集い協働できる場づくりを重視しています」(野澤氏)
Willを具現化するための手段
「社員の内発的動機を刺激し、新たなチャレンジをうながしていく」ことを1つの目的に、コーポレート・ベンチャーキャピタル(CVC)を設立しているのが、大丸や松坂屋など百貨店事業を核とするJ.フロントリテイリングだ。「JFR MIRAI CREATORS Fund」は、2030年に新規事業をたえず創出し続ける企業集団になるための中長期的な取り組みで、短期でのキャピタルゲインは求めない。グループ従業員約1万人のうち2030年までに約4800人の社員に参画してもらうことを目指し、出資したスタートアップ企業の革新的な技術やビジネスモデルなどの情報をメルマガで発信。約4800人のうち約200人は変革をリードする社員と位置付け、ベンチャーキャピタルやスタートアップへの出向の機会も提供している。
経営戦略統括部 事業ポートフォリオ変革推進部 JFR MIRAI CREATORS Fund 担当の下垣徳尊氏は、このCVC活動を「何を実現したいか、従業員1人1人のWillを具現化するための手段のひとつ」だと考えている。
「リスキリングを進めるときにまず浮かぶのが、どうやって進めたらいいのか、何をやればいいのかということだと思います。でもリスキリングも当社のCVC活動も大事なのは、なぜこれをやるのか、なぜこれをやりたいのかなんですよね。リスキリングを通して、自分の考えや言動、行動について深く省みることが重要で、そういった機会が与えられることで自分が何を実現したいかが見えてくるのではないでしょうか」(下垣氏)
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