「スポーツの熱狂が生み出す地域活性化」に欠かせない3つの要素
2024.8.13 Interview
世界中がパリオリンピック・パラリンピックの熱狂に包まれる今夏、スポーツの持つ力をあらためて実感している人も多いことでしょう。このスポーツの力を使って地域のファンづくりや土地への愛着づくりをすることで、関係人口を増やす取り組みが各地域で進められています。
「熱狂を生み出すコンテンツ」であるスポーツを軸として地域活性化を目指す取り組みについて、日本社会人アメリカンフットボールリーグ「Xリーグ」とクラブツーリズムのキーマンに聞きました。
(この記事は、2024年2月6日に開催した『プロフェッショナルの祭典2024』パネルディスカッション7「関係人口づくりの新戦略!スポーツと観光領域での「第2のふるさと副業」~先駆者の事例に学ぶ、地域ファンづくりの3つのポイントとは~」をもとに構成しています)
世界ランキング2位の日本アメフト
アメリカンフットボール(アメフト)はその名の通り、アメリカで盛んに行われているスポーツだ。当然、実力的にもアメリカが抜きんでているが、世界ランキングを見ると1位アメリカに続き日本は2位。今年1月に開催されたアメフト日米親善試合「Dream Japan Bowl 2024」では、全日本選抜チームがアメリカの大学・アイビーリーグ選抜チームに挑み、なんと10対5で勝利している。
日本アメフトの社会人トップリーグが「Xリーグ(エックス・リーグ)」だ。トップカテゴリーの「X1 SUPER」には現在、富士通フロンティアーズやパナソニックインパルスといった実業団、オービックシーガルズやIBM BIG BLUEなどのクラブチームあわせて12チームが名を連ねている。実は4年後の2028年開催のロサンゼルスオリンピックでは、アメフトからタックルやブロックといった激しい身体的接触をなくした「フラッグフットボール」が追加種目になっている。ここにはXリーグ出身者の代表入りが期待されている。
「現在、X1、X2、X3リーグに所属する総チーム数は55で、日本各地に2000人強の選手がいます。これらの選手のなかには数名プロとして活躍している人もいますが、そのほとんどは平日、フルタイムで仕事をしながら競技を続けています。各地域で副業・兼業人材の活用支援を行うみらいワークスさんと、事業領域が重なる部分があるように感じています」(一般社団法人 日本社会人アメリカンフットボール協会 理事長の渡部滋之氏)
スポーツと地方活性のシナジーに着目
Xリーグでは、自治体と連携した取り組みに乗り出している。たとえば川崎市では、ふるさと納税品としてスポーツ体験型返礼品を提供したり、富士通スタジアム川崎で開催されるリーグ戦で市民無料招待日を設けたりしている。
「今のところXリーグは、関東や関西で開催されることが多くファンも都市部に集中しています。競技人口やファンの拡大のためには裾野を広げる必要がある。胎内DEERSの運営会社であるDEERS FOOTBALL CLUBが新潟県胎内市と包括連携協定を結ぶなど、関東、関西以外の地域との連携も進み始めています」(渡部氏)
Xリーグが各地域でファンを拡大させていくことは、地方自治体にとっても大きなメリットがある。住民の結束を強めるほか、観戦のために訪れる交流人口を増やし関連消費の拡大につながれば地域が活性化するからだ。こういった「スポーツと地域活性はシナジーの可能性がある」と、クラブツーリズムで新規事業開発・アライアンスビジネスを担当する鈴木光希氏は言う。
クラブツーリズムには「地域共創事業部」という、地域の課題解決にあたる事業部がある。数十地域の自治体に社員が出向し密な連携を図っているが、そのなかの1つが山口市だ。山口市民と観光客が交流を楽しめる場として2025年開館予定の「湯田温泉パーク(仮称)」では、山口県を本拠地とするJ2所属プロサッカーチームであるレノファ山口FCをハブにし、レノファ山口のスポンサー企業や県内外の大学生、地元中学生など多様なステークホルダーを巻き込んで地域を盛り上げる取り組みが進められている。
「クラブツーリズムは、旅のなかで仲間をつくっていくといったコミュニティ領域に強みがあります。1度きりで終わらず繰り返しご参加いただけるようなプログラムは、旅とカルチャー教室が融合したようないわば大人のクラブ活動ですね。このわれわれの得意領域であるコミュニティをキーワードに地域を盛り上げたい。
繰り返しを促す仕組みづくりを検証するなかでいま、キーワードとなっているのが第2のふるさとです。出身地以外の、第2のふるさとと呼べる場所には繰り返し行きたくなるのではないか。そういった仮説を探究しながら地域活性化に取り組んでいます」(鈴木氏)
ポイントはファン化、継続性、拡大性
人口減少による地域衰退を止めようと、地方自治体では移住者や観光客を増やす取り組みを行なってきた。ここに新たに加わっているのが、「関係人口」という視点だ。都市部とは違う田舎暮らしに興味があるとはいえ、住み慣れた土地を離れ移住するのはハードルが高い。まずは移住せずに繰り返し、継続的に地域と関わる人を増やす。旅と移住の間の新しいライフスタイル「第2のふるさと」は、この関係人口を拡大させ、地方創生の新たな道筋をつくる可能性が出てきている。
「何度も行きたい、継続的に関わりたいと思ってもらうには、その地域に人々が熱狂して入り込めるコンテンツが必要だと考えています。そのコンテンツの1つがスポーツで、スポーツには言葉では説明できない感情的なものが湧き上がる瞬間がある。この熱狂的なものがつくれたときに、ただの旅行先がファン化して第2のふるさととなり、継続してその地域に関わっていきたいと思う。スポーツは、関係人口拡大の1つの重要な要素となりえます」(鈴木氏)
「ファン化、継続性、拡大性」をポイントに、スポーツチームと自治体、企業などが連携して進める地域活性化の今後に期待が集まる。
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