会社人間にならなかった団塊ジュニアの「やりたいことをやりまくる」ストレスフリーな働き方

2023.9.28 Interview

考えてみてください。1日8時間働く人は、起きている時間のおよそ半分を仕事にあてています。暮らしの半分をあてている仕事でストレスを抱え体調を崩したり、苦しい思いをして昇進や生産効率アップを目指して働き続け、死ぬ間際には「出世街道を歩くデキる社員で良かった!」「会社の業績が上がって良かった!」と思うでしょうか?
数多くの患者を看取り続け、世界的なベストセラーを出版されたブロニー・ウェアさんによれば、死ぬ瞬間の後悔は5つに集約されるそうです。そのなかには、「もっとお金を稼げば良かった」「もっと出世すれば良かった」など一般的に「成功の証」と思われているものはありません。最も多い後悔は、「もっと自分に正直に生きれば良かった……」。自分に正直に自由に生きる、自由に働き死ぬときに後悔しない会社員を増やすために『会社員3.0』を書いた猪原祥博さんに「仕事の邪魔をしている声のなくし方」「本当にやりたい仕事の貫き方」を聞きました。
自由に働く会社員「会社員3.0」とは?
自分に正直に、会社の中で自由にやりたいことをやっていく会社員を、私は「会社員3.0」と定義しています。一方で、できるだけ会社に行きたくないなと思いつつ、他者の期待に沿って自分の時間を切り売りしながら生活のために働いている人は「会社員1.0」。高給や権限を求め出世競争に身を置いている人は「会社員2.0」。
会社員として働きながら楽しくやりたいことをやるなんて会社員2.0をやり遂げた人、つまり一般的に「デキる社員」だけだろうと考える人も多いかもしれません。ですがNTT西日本の新規事業の創出組織に所属し、国内最大級の電子コミック配信サイト「コミックシーモア」などを立ち上げた私自身、上司から毎日のように怒鳴られていた時期があったり、何度も昇進試験に落ちたり、人事評価もけっして良いとは言えない落ちこぼれです。会社員としてデキるデキないは、「自分に正直に生きる人生」の選択には関係ないと私は考えています。
本当に「やりたい仕事」の目的地には大義がある
「会社からやるように言われたから、本心ではやりたくないけれどやっている」という仕事ほどもったいないことはないと私は思います。会社のためになる、世の中のためになる、と思えば自然と成果を出せるしやっていて楽しい。そのため、どのような仕事でも私は仕事に「大義・ビジョン」を描くようにしてきました。簡単に言うと大義は「なぜその仕事をやる必要があるのか」、ビジョンは「その仕事をやった先にどういう未来が待っているか」です。
たとえば総務部門にいた頃、新規事業部門立ち上げのため「机などを10mほど西側に移動させる」といった業務を任されました。横に移動するだけならよくあることなので、粛々とやることはできました。ただ、それは「作業」で創造性がないんですよね。それでオフィスリニューアルプロジェクトにして新規事業の予算も獲得しました。通常の業務ですでに大忙しなのに、あえて「悪ノリ」して業務を増やす。結果、現場社員のモチベーションアップにつながり感謝され、予算を投じた以上の効果が出ました。私自身これまでやったことがなかった執務スペースデザインの経験ができて、仕事の幅が広がる。実際、自分で新規事業を立ち上げたときに生かすことができました。
楽しいと感じるセンサーを人は装着しているはずなのに、会社員人生が長くなるといつのまにかスイッチをオフにしている人が多い気がします。センサーがいちばん楽しいと感じるところを仕事に変えていきましょう。楽しくないものを続けていても成果にはつながりません。とはいえ、そこには「大義・ビジョン」が存在しなければなりません。大義というのは言い換えると「なぜそれをやる必要があるか」で、ビジョンは「その先にどういう未来が待っているか」ですね。オフィスリニューアルプロジェクトでいうと、私自身が楽しい、経験を積みたいと思うだけでなく、雑然としたオフィスをなんとかしたいという大義のもとオフィスフロアが刷新され、新規事業創出にかかわる人が創造性を発揮できるようになるというビジョンがありました。
「共感の扉」を開く企画者の情熱や本気度の醸成の仕方
「楽しいと感じることを仕事にする」と言葉にするのは簡単ですが、上を説得し企画案を承認してもらうのはなかなか難しいのが現実です。「会社員3.0」は企画立案にあてる何倍もの時間を、大義とビジョンの設計に費やします。それは承認者の「共感の扉」を開くためです。承認者もひとりの人間である以上、意思決定には感情がつきまといます。この感情を動かすのが大義とビジョンなのです。高い志や崇高な目的に人の心は揺さぶられます。それを承認者がイメージできるようにストーリーとしてつくりあげるのです。ここで注意したいのがキーワードだけを端的に説明するようなことはせず、自分自身が大義とビジョンを実現したいと強く思っている状態で語ること。企画者の情熱や本気度をストーリーにのせて語るのです。
そのためには、関連する書籍を5~10冊読み込んだり、専門家の話を聞いたりして情報をとことん集め、体系的に整理する必要があります。少なくとも承認者と比べて2~3倍の知見を持ち、その分野については承認者に教えられるレベルとなることを目指しましょう。現状の問題点、課題の根深さ、現実と理想のギャップなどの理解を深めると、自然と企画者の言葉に熱意が加わっていきます。
承認者を「良いことを本気でやろうとしている人を応援したい」「邪魔はしたくない」という気持ちにさせたらこっちのもの。企画案について説得する必要はありません。共感の扉を開いた時点ですでに企画案は受け入れられているのです。あとはやること前提で実行プランの話に移れます。実行フェースでもこの大義とビジョンは大きな力となります。大義・ビジョンの実現にコミットした以上、責任があるからしんどいときでも踏ん張れる。自分以外のためになることには、強い気持ちで取り組むことができます。
生産効率を下げる「マルチタスク」の危険
「会社員3.0」の働き方で気をつけたいこと。それは、2つ以上の物事を並行して行う「マルチタスク」です。マルチタスクは認知能力を低下させます。インタビューを受けているこの瞬間、メールを書いていたらうまく言葉をまとめて説明することなどできませんよね。あるいは職場のコミュニケーションツールとして導入されているSlack。集中しているときにポップアップ通知が届くと集中が中断され、元に戻るのに時間がかかります。マルチタスクが得意と思っている人でもある程度の認知能力の低下を余儀なくされるはずです。そのため私は、SNSなどのポップアップ通知をオフにし、メールも届いた瞬間に見て返信するようなことはしていません。急ぐときは電話でと仕事先には伝えてあります。
同様に「悩みごとを抱えながら仕事をしている」人も非常に非効率な状態で仕事をしていることになります。とくに変えられない過去の事実に対して「ああすればよかった」「あの人のせいでこうなった」などといった思考が浮かんでいたら、仕事の生産性が落ちてしまいます。このとき、「会社員3.0」は「仕事の邪魔をしているその心の声が、あなたの助けになるか? あなたの人生を豊かにするか?」を考えます。腹落ちした大義を達成するためにその悩みが役立たないようなら「変換」を試みる。過去に起こった出来事は変えられませんが、自分の受け取り方は変えられるのです。
私自身は腹が立って仕方がないとき、起きた事実とイライラの感情をそのまま言葉にして紙に書き出します。そうすると、書き出した時点で気持ちが落ち着くんです。上司から理不尽な注意をされたら、「どうしてあんなことを言うんだ!」といったん怒りを吐き出す。落ち着いた時点でそのネガティブ感情をポジティブ感情に変換します。「自分にはそういう面もあるかもしれないな。一面を知ることができて良い勉強になったな」と。頭の中でグルグル渦巻いているネガティブ感情はそのままにしていると増幅していきます。書き出すことで増幅を止め、ポジティブに変換しネガティブ感情は「成仏」させましょう。
猪原祥博(いのはら よしひろ)
1973年広島生まれ。連続社内起業家。500万人に1人しか持ち得ない社内ベンチャー実績を持つ日本でただ一人の現役会社員。NTT西日本の新規事業の創出組織に所属。国内最大級の電子コミック配信サイト「コミックシーモア」を運営するNTTソルマーレをはじめ、子会社を3社連続して立ち上げた。社内ベンチャー・新規事業創出のプロフェッショナルとして、NTTドコモ、NTT東日本、オムロン、旭化成、アサヒビールなど複数の企業社員に対して講師を勤め、慶應義塾大学、大阪市立大学などでも講演を行なっている。
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