副業の社会的な現状・メリットとリスク整理・可能性と今後の対応の必要性

2025年現在、副業はもはや単なる「個人の自由」や「許可・不許可」といった問題の枠を超え、企業の人的資本経営やキャリア自律支援において欠かせない戦略的な要素となっています。

来たる2027年の労働基準法改正は、企業がこの変化を単なる規制への対応として捉えるのではなく、自社の成長を加速させる最大の機会として活用するための大きな転換点となるでしょう。

本コラム特集では、未来志向の副業制度を構築し、企業と個人双方の可能性を最大限に引き出すための具体的なステップを解説します。

まずは、副業をめぐる社会的な現状や、企業が直面するメリットとリスクを体系的に整理し、戦略的な副業推進の必要性について掘り下げていきます。

副業をめぐる時代の変化

副業は特殊なケースから「標準的な選択肢」へと変化してきています。特に2025年現在、副業・パラレルワークは単なる「許可・不許可」の問題を超えて、人的資本経営やキャリア自律支援の重要な要素として位置づけられています。

現在も「副業は個人の自由だが、会社として積極的に支援するものではない」という消極的な姿勢の企業は存在しますが、こうした対応は時代の要請に合わなくなってきています。みらいワークス総合研究所の調査でも、企業側で副業がキャリア自律支援や多様な働き方の促進、モチベーションの向上など、さまざまな観点を重視して推進されることが明らかになっています。

2027年に予定される労働基準法の大幅改正では、副業・兼業時の労働時間通算規制の柔軟化が検討されており、この変化を見据えた戦略的なアプローチが求められています。特に重要なのは、副業という現象を多面的に理解し、自社の人材戦略と整合する形で活用する視点です。企業の事業特性、組織文化、人材戦略との整合性を考慮した現実的なアプローチが求められています。企業と個人双方にとってのメリットとリスクの正確な把握と、それに基づく戦略的な制度設計が不可欠だと言えるでしょう。

副業をめぐる法令の対応や政策環境の進化、新たな展開

政策面では、2017年の「働き方改革実行計画」において、副業兼業の推進が明記されました。「労働者の健康確保に留意しつつ、原則副業・兼業を認める方向で、 副業・兼業の普及促進を図る。 副業・兼業のメリットを示すと同時に、これまでの裁判例や学説の議論を 参考に、就業規則等において本業への労務提供や事業運営、会社の信用・評価に支障が生じる場合等以外は合理的な理由なく副業・兼業を制限できないことをルールとして明確化する」という記載があり、副業の推進につながっていきます。

2018年の厚生労働省モデル就業規則改訂、2020年の副業・兼業の促進に関するガイドライン改訂、2021年の労災保険法改正による副業者の保障拡充、同年に改正された高齢者雇用安定法における70歳以上の個人事業主化の促進など、副業を促進する制度の整備も進んでいます。

税制面でも副業促進に向けた環境整備が進んでいます。2024年からの所得税制改正により、副業所得に対する必要経費の範囲が拡大され、個人事業主としての副業がより取り組みやすくなっています。社会保険制度においても、複数事業所での勤務に対応した適用関係の明確化が計られており、副業者の社会保障の充実が進んでいます。

そして、2027年とそれ以降に施行が予定される労働基準法改正では、デジタル化や働き方の多様化を踏まえ、副業・兼業時の労働時間通算規制の柔軟化、裁量労働制の対象拡大、テレワーク時の労働時間管理制度の整備などが議論されており、さまざまな箇所が副業にも適合する形に階梯がされる予定となっています。

さらに、地方自治体レベルでも副業促進策が展開されています。東京都の「副業・兼業人材活用支援事業」、大阪府の副業を含む「中核人材雇用戦略デスク」など、地域の産業振興と連動した副業支援制度が各地で立ち上がっており、企業の副業活用を後押ししています。これらの政策的な追い風を受けて、企業においても副業への取り組み方針を見直す動きが広がってきています。

こうした政策的な変化の背景には、人的資本経営の推進、オープンタレントエコシステムの構築、産業構造転換への対応といった、より大きな経済社会の変化があります。副業は単なる個人の「働き方の選択」から、国家的な人材戦略の一環として位置づけられているのが現状です。

副業の類型と典型的な事例・副業の効果

現在の副業は、その性質と目的から以下の3つの類型に整理することができます。

①キャリア自律・イノベーション推進型副業
②ワークシェアリング・収入補完型副業
③オープンタレントエコシステム型副業

キャリア自律・イノベーション推進型副業

人的資本経営の文脈で最も注目される類型です。従業員が副業を通じて獲得する「越境経験」「社外学習」を、企業の価値創造に生かすアプローチです。従来のITエンジニアによる個人開発などに加え、現在では新規事業創出、デザイン思考の獲得、異業種との協業プロジェクトなど、より戦略的な活用が進んでいます。

先進企業では、副業経験者比率を人的資本指標として設定したり、兼業経験を通じて獲得した知見を社内イノベーションに活用する仕組みを整備したりするなど、副業を組織能力の向上に直結させる取り組みが見られます。また、社内起業制度や新規事業コンペティションと副業経験を連動させる事例も出てきています。

(典型的な事例)
【本業】商社 【副業】地方自治体
地方自治体の地域創生プロジェクトに副業として参画。過疎化に悩む山間部の町で、地域資源を活用した観光事業の企画・運営を担当。都市部での事業経験を地方の課題解決に応用する一方で、地域コミュニティーとの関係構築や限られたリソースでの事業推進手法を習得。この越境経験により、本業での新興国事業展開において、現地コミュニティーとの協働アプローチを提案・実施し、従来の投資主導型から共創型のビジネスモデルへの転換を実現。

ワークシェアリング・収入補完型副業

労働市場の流動化や雇用の不安定化に対応する類型です。経済変動、産業構造の変化により、一つの企業に雇用を完全に依存するリスクが顕在化した結果、収入源の多様化や技能の汎用性向上を目的とする副業が増加しています。
この類型では、個人のリスク分散と企業の人件費最適化が同時に実現される構造が特徴的です。

(典型的な事例)
【本業】出版社 【副業】コンビニエンスストア
出版業界の売上減少により給与水準が低下する中、生活費確保のため深夜のコンビニエンスストアでアルバイトを開始。純粋な収入補完目的だったが、深夜時間帯の客層や消費行動を観察する中で、夜間の消費者心理に関して、副業先での実体験が、従来のデスクワーク中心では得られなかった現場感覚を提供。

オープンタレントエコシステム型副業

外部人材を戦略的に活用する類型で、従来の顧問制度やフリーランス活用の発展形です。「スポットコンサル」「副業人材マッチング」などのサービスが普及し、企業が必要な専門性を必要な期間だけ確保する柔軟な人材活用が可能になっています。

この類型の特徴は、雇用関係によらない「プロジェクト型」「成果型」の協働関係であり、企業にとっては固定費化しない専門人材の確保、個人にとっては複数の収入源の確保という双方のメリットがあります。AI・データサイエンス、デジタルマーケティング、ESG・サステナビリティなど、急速に変化する専門領域での活用が特に活発です。

(典型的な事例)
【本業】広告代理店・デジタルマーケティング 【副業】地方の製造業
大手広告代理店出身の専門家が、地方製造業のデジタル化支援を副業として展開。各社月数日の業務委託により、Webマーケティング戦略の策定から実行支援まで一貫してサポート。固定費を抑えながら高度な専門性を確保したい中小企業と、多様な業界での経験を積みたい専門人材のニーズが合致した。

企業にとっての副業兼業制度の具体的なメリットとリスク

副業を行うことによる企業側のメリットとしてはまず、イノベーション創出の加速があります。社員が副業を通じて獲得する多様な知見、人脈、経験が本業にフィードバックされることで、既存事業の改善や新規事業の創出が促進されます。人材のキャリア自律性の向上も重要な要素です。副業を通じて市場価値を客観視できるようになることで、社員のエンゲージメントが向上し、離職率の低下、優秀人材の獲得競争力向上といった効果も期待できます。

また外部人材の活用により、自社では確保困難な専門性を効率的に取り入れることも可能になります。特にデジタル化やサステナビリティ対応といった新しい課題への対応力が向上します。従来の採用や外部コンサルティング活用と比較して、コストを抑えながら必要な専門性を確保しやすいという声も多くあります。

また、経済環境の変化に応じた人件費の柔軟性確保という観点でも、副業・兼業制度は有効な選択肢となります。固定給与労働者だけでなく、プロジェクトベースでの人材活用を組み合わせることで、事業環境の変化に迅速に対応できる組織運営が可能になります。

一方、リスクとしては、まず情報漏えいや競業避止の問題があります。社員が副業先で自社の機密情報を活用してしまったり、競合他社での副業により利益相反が生じたりするリスクです。

労働時間管理の複雑化も大きな課題です。2027年の労働基準法改正で通算規制が柔軟化される予定とはいえ、企業には引き続き健康確保義務が課される見込みであり、副業先での労働実態を把握する仕組みの整備が必要になります。また、長時間労働による健康被害が発生した場合の責任の所在が曖昧になりがちで、安全配慮義務の履行方法についても明確化が求められています。

社内求心力の低下や組織運営上の課題も発生し得ます。副業に集中するあまり本業への関与度が低下したり、副業での成功体験により本業への不満が高まったりするケースが報告されています。副業制度の導入時にマネジメント層からは「部下が副業に時間を割いていることで、チームワークに影響が出ている」という懸念の声も上がることがあります。

給与計算や社会保険の適用関係も複雑になります。複数の勤務先がある場合の社会保険の適用関係、雇用保険の取り扱い、所得税の源泉徴収方法など、人事労務の実務負担が確実に増加します。特に中小企業では、こうした事務負担の増加が副業推進の阻害要因となっているケースも見られます。

戦略的副業推進のための包括的整備課題

副業を戦略的に活用するためには、以下のような課題を体系的に整備する必要があるものと考えられます。

経営戦略・人材戦略レベルでの整備

人的資本経営における副業の位置づけの明確化が最優先課題です。副業推進が単なる「働き方の多様化」にとどまらず、企業の価値創造ストーリーとどう連動するのかを明確にする必要があります。具体的には、副業経験者比率、副業由来のイノベーション件数、副業経験者の本業での成果向上率などの指標を設定し、人的資本の開示項目として位置づけることが重要です。

また、副業推進と既存の人事制度との整合性確保も重要な課題です。評価制度、昇進昇格制度、教育研修制度において、副業経験をどう評価・活用するのかを明確化し、副業を行う社員と行わない社員の間で不公平感が生じないような制度設計が求められます。さらに、副業推進のためのKPI設定と定期的な効果測定の仕組み構築も行うとより効果があるものであると言えます。単に副業者数を増やすことが目的ではなく、副業を通じた価値創造をいかに測定・評価するかが重要になります。

制度・運用・システム関連の整備

2027年労働基準法改正を見据えた準備も必要でしょう。従来の「副業禁止」から「条件付き許可制」を経て、「戦略的活用制」への転換を図る企業が増えています。具体的には、副業の類型に応じた承認基準の明確化、情報管理・競業避止に関する具体的なガイドライン策定、健康管理・安全配慮義務の履行体制構築などが含まれます。

社会保険・労災保険の適用関係の整理も重要な課題です。複数事業所勤務に対応した適用関係の把握、給付基礎日額の算定方法の理解、複数業務要因災害への対応準備などについて、理解向上と適切な運用体制の構築が必要です。

副業管理のためのデジタル基盤整備も重要な課題となっています。副業申請・承認のデジタル化、労働時間の統合管理システム、健康状態のモニタリングシステムなど、副業管理に必要な情報を効率的に収集・分析するためのシステム整備が求められています。

外部連携・人材のエコシステム構築レベルでの整備

副業人材マッチングサービスとの戦略的連携も重要な課題です。自社社員の副業先紹介だけでなく、自社が必要とする外部人材の確保、業界内での人材流動化促進などの観点から、副業マッチングサービスとの包括的な連携関係を構築することが有効です。

他企業との越境施策のなどもよく行われるようになってきています。同業他社や関連業界の企業との間で、相互に人材を派遣・受け入れする枠組みを構築することで、業界全体での人材活用の効率化を図る取り組みが見られます。副業推進のベストプラクティス共有、共通課題の解決に向けた連携を通じて、副業推進のためのエコシステム構築を行うことで、さまざまな効果が期待できます。

副業の未来展望と企業への提言

本稿で見たような整備を通じて、副業を「個人の自由な選択」から「組織の戦略的な人材活用」へと発展させることが、2025年以降の企業競争力向上にとって重要な要素となると考えられます。

特に重要なのは、副業という現象を単なる働き方の多様化として捉えるのではなく、人的資本経営、オープンイノベーション、キャリア自律支援を統合した新しい人材戦略の核心として活用していくことです。2027年の労働基準法改正は、こうした戦略的副業活用のための制度的基盤を提供するものであり、企業はこの機会を生かして競争優位を構築していくことが求められているものといえます。

本特集では、今回まとめた視野をもとに、今後、副業制度の社内整備方法・諸外国の副業のあり方・副業の労務管理や労働時間管理・社会保険や税務関連の総括・副業関連の制度などの各領域について情報を提供してまいります。

次回は、「副業申請制度の考え方/作り方」をお届けし、具体的な改正内容と企業への影響について詳しく解説します。

 

<連載コラム>
第1回:副業制度の考え方 ★今回
第2回:副業申請制度の考え方/作り方 ★次回
第3回:諸外国の副業制度の実態
第4回:副業の労働時間通算制度
第5回:副業の社会保障制度等