人的資本経営の観点で見る、2027年労働基準法大改正の全体像:企業が知るべき23以上の改正と4つの変革ポイント

2027年、労働基準法の大改正が予定されています。
この内容は、「ただのルール変更」を超えた、企業の未来を左右する大転換期となると言えるものです。近年は、社会的な雇用関係の変化のニーズに対応するために、多くの法改正が行われています。

「法改正への対応は複雑で、どう進めればいいか分からない…」
「働き方の多様化に対応しつつ、どうやって従業員のエンゲージメントを高めればいいのだろう?」
もしかしたら、そんな悩みを抱えていませんか?

この2027年の労働基準法の法改正は、単なる「遵守すべき義務」ではありません。
従業員の自律性を高め、組織全体を機動的にすることで、企業の成長を加速させる最大のチャンスなのです。

そこで、みらいワークス総合研究所では、全6回の連載コラムをスタートします。
「法改正への対応」という守りの視点から、「企業価値を向上させる攻めの経営戦略」へと視点を転換し、具体的な活用事例を交えながら、2027年労働基準法大改正の核心に迫ります。

第2回のテーマは「2027年労働基準法大改正の全体像:企業が 知るべき23以上の改正と4つの変革ポイント」です。本コラムは、まず動画をご覧いただいてからお読みいただくと、より深くご理解いただけます。

目次

総説:「働き方を自由にする」ための戦略的ツールとしての労働基準法改正

2027年に予定されている労働基準法の大改正は、働き方の変革を目指して行われる多面的な制度改正です。この改正を全体的に捉えると「働き方を自由にする」方向性があると言え、時間的・場所的・一社専属的な拘束性を段階的になくし、働く人と企業の双方が価値創造に集中できる環境を構築することにあるのだと考えられます。(本内容は、前回の第1回目において総括しました)

改正される法令と根本的な政策の方向性として「多様な働き方の実現」という目的があります。これは、個人の価値観や生活スタイルの多様化、技術革新による働き方の可能性拡大、人材獲得競争の激化といった現代的課題に対する対応策ということが根本的な制度趣旨です。

また、労働基準法改正において人事系IT技術の活用は必須の要素となります。勤怠管理システム、人材情報基盤、労使コミュニケーションを視野に入れたコミュニケーション系のツールの統合により、自由化された働き方を適切に管理・支援する基盤が求められます。これらを通じ、個別の働き方の情報取得や管理を行うことによって、「働き方を自由にする」ことによる価値の向上が目指されるものとなります。

企業にとって重要なのは、労働基準法改正の全ての要素を「働き方を自由にするための戦略的ツール」として捉え、どこまでどのように進めるかを自社の人材戦略と連動して判断することです。今回は、上記のような制度の全体像の認識のもとに、個別の法制度について捉えていきます。前回も提示した分類に基づいて解説します。

多様な働き方:拘束からの解放による価値創造の最大化

多様な働き方に関する改正群は、従来の働き方を制約していた三つの拘束性【①時間的拘束 ②場所的拘束 ③一社専属的拘束】からの解放を通じて、企業と労働者の価値創造を最大化するツール群です。これらの改正により、企業は人材を「拘束する」発想から「能力を最大限に引き出す」発想への根本的転換が可能となります。

時間的拘束からの解放により、労働者は生活やライフステージに応じた最適な働き方を選択でき、最もパフォーマンスが上がりやすい働き方で仕事の価値に集中できるようになります。場所的拘束からの解放により、地理的制約を超えた優秀な人材へのアクセスが可能となり、組織の多様性と創造性が根本的に向上します。一社専属的拘束からの解放により、組織の境界を越えた知識とスキルの流通が促進され、イノベーションの源泉が拡大します。

事業概念の検討:場所的拘束からの解放

「事業」概念の見直しは、場所的拘束からの解放を制度面で支援する重要な基盤となる改革です。現行法の場所的概念としての「事業場」単位の制約により、テレワークや複数拠点での働き方が制度的に制限されていましたが、改正により企業は働く場所に縛られない統合的な労務管理が可能となります。

具体的には、労使協定の複数事業場での一括締結、就業規則の統一適用、労働時間管理の一元化などにより、物理的な場所に依存しない働き方を制度的に支援します。企業は事業場を超えた労働時間の最適配分、プロジェクトチームの柔軟な編成などにつなげていけるものだと言えます。専門人材の戦略的配置を統合的に管理できるようになり、場所の制約を気にせず戦略が構築できるものだと言えます。

副業・兼業の割増賃金:一社専属拘束からの解放

副業・兼業における割増賃金通算の廃止は、一社専属的な拘束を低減させ、働き方を自由化するツールだと言えます。現行制度の労働時間の通算制は煩雑な運用になり、副業・兼業への制度的な弱点でした。副業・兼業の推進により、「人材の囲い込み」から「人材の価値最大化」へと戦略を根本転換でき、優秀な人材の部分的な活用、フルタイム雇用では獲得困難な専門人材との協働が容易になります。また労働者は複数の価値創造活動に参画することで、多様な経験とスキルを蓄積し、自らの価値を継続的に向上させることができます。

賃金決済方法の柔軟化:働き方自由化のインフラ整備

この論点は「労働基準関係法制研究会報告書」に載っているものではないのですが、重要度が高く並行して検討がされているため図に入れています。賃金のデジタル払い制度は、働き方の自由化を支える重要なインフラストラクチャーです。多様化する働き方、グローバル化する人材、デジタル化する社会に対応した給与支払い手段の提供により、働く場所や働き方に関係なく、労働者が最適な形で報酬を受け取ることができます。

管理監督者等の健康確保・年次有給休暇・つながらない権利・家事使用人:自由な働き方の持続可能性確保

これらの制度群は、働き方の自由化が持続可能で健全なものとなるよう支援するセーフティーネットとしての役割を果たします。自由化された働き方においても、労働者の健康とウェルビーイングを確保することで、長期的な価値創造を実現します。

管理監督者の健康確保措置により、自律的な働き方をする管理職の健康を保護し、年次有給休暇制度の改善により休息の確保を促進します。つながらない権利は労働時間外のアクセスを禁止する権利です。これにより時間的な不拘束の保証がより進むものといえます。また、家事使用人への保護拡大により、家内での契約労働者の働き方の労働条件が保護されます。これらにより、自由な働き方が健全で持続可能性が推進されるものだと言えます。

労働時間法制:時間的拘束からの解放と、労働の質的向上の実現

労働時間法制の改正群は、時間的拘束からの解放を通じて、労働時間の「量的管理」から「質的管理」への根本的転換を実現するツール群だと捉えられます。従来の「決められた時間に決められた場所にいる」というモデルから脱却し、「成果と価値創造に集中する」知識労働モデルへの転換を制度面から促進するものだと言えます。

企業による労働時間情報の開示、フレックスタイム制の改善、勤務間インターバル制度、連続勤務制限、週44時間特例措置の撤廃は、いずれも時間的拘束を柔軟化し、労働者の健康と創造性を確保する統合的なアプローチを構成しているものだと言えます。これにより、企業は労働時間の長さではなく、労働の質と成果に焦点を当てた経営が可能となり、労働者は時間に縛られることのない価値の向上を図ることができます。

企業による労働時間情報開示:時間的拘束の可視化による自律的改善

労働時間情報の開示義務化は、ルールとしては残業時間の開示が検討されています。ただし、開示された時間の説明には、労働時間の工夫や実態の説明も伴ってくることが考えられます。こうした開示により労使双方が時間的拘束の現状を正確に把握して改善策を検討できます。企業は労働時間データの戦略的な経営資源としての活用も進められるのではないでしょうか。

採用に生かすことで優秀な人材の獲得も可能となることが考えられ、また上場企業においては投資家からの評価向上を実現できます。労働者は企業の働き方の実態を正確に把握して就職・転職の判断ができ、労働市場全体で時間的の柔軟性が増すことが期待されます。

フレックスタイム制の改善:時間的拘束からの部分的解放

フレックスタイム制について、特定日だけを固定的な労働時間制と両立させる制度が検討されています。従来の全日程一律のフレックス制から、日によって選択できる柔軟な制度設計により、業務の性質と個人のニーズを両立させた働き方が可能となります。テレワークと出勤の組み合わせ、会議や研修などの必要な協働時間の確保、個人の生産性リズムに応じた時間配分など、時間的拘束を最小限に抑えながら組織としての機能を維持する働き方が工夫できるでしょう。個人の能力を最大化する労働時間設計が一層求められるものといえます。

勤務間インターバル制度・連続勤務制限・法定休日特定・週44時間特例措置撤廃:健全な時間的自由の確立

これらの制度群は連動して、労働からの解放が健全で持続可能なものとなるよう支援するものだと言えます。11時間の勤務間インターバルの確保、13日を超える連続勤務の禁止、法定休日の明確化、週44時間特例措置の撤廃により、時間的拘束からの解放と労働者の健康確保を両立させます。

勤務間インターバル制度により、働く時間の自由化と休息の確保を両立し、長期的な価値創造を支援します。連続勤務制限により、時間的拘束の解放が過度な労働につながることを防ぎ、持続可能な働き方を保障します。法定休日の特定により、休日労働に関する予見可能性を向上させ、計画的な働き方を支援します。

労使コミュニケーション:自由な働き方を支える対話基盤の構築

労使コミュニケーションの改善は、働き方の自由化を実効的に推進するための対話基盤を構築する位置づけのものです。従来の上意下達型の労務管理から、労使の対話と合意に基づく働き方の設計への転換が、自由で自律的な働き方のために不可欠となります。

過半数代表制の改善により労働者の意見を経営に反映させ、人的資本経営のストーリー化により働き方の自由化と企業価値創造の関係を明確化し、賃金上昇率の開示により企業の人材投資姿勢を透明化することで、働き方の自由化を労使が協力して推進する基盤を形成する位置づけだと捉えられます。

これらの改正により、企業は階層的な指示命令型組織から、対話と合意に基づく自律的組織への転換が可能となります。労働者の主体的な参画により、組織全体のイノベーション創出力や適応力の向上を目指すことができるでしょう。

過半数代表制の改善:働き方自由化の労使合意基盤

過半数代表制の改善により、労働者代表や組合との意見形成や合意の手続きがより実質的な内容が目指されることになります。これは働き方の自由化を進める、労使の実質的な対話と合意形成を促進するものだと言えます。36協定を始めとする労使協定の締結、就業規則の作成・変更における意見聴取などを通じて、具体的な働き方の自由化の内容と範囲を労使で決定する仕組みが強化されます。

適正な選出手続き、情報提供義務、活動支援、権利保護の制度化により、過半数代表が労働者の真の意見を集約し、働き方の自由化に関する建設的な提案を行うことができます。企業は労働者のニーズを正確に把握し、働き方の自由化を労使双方にメリットのある形で設計する視点が重要でしょう。

人的資本経営のストーリー化・賃金上昇率の開示:働き方自由化の価値創造

この論点は「労働基準関係法制研究会報告書」に載っているものではないのですが、重要度が高く並行して検討がされているため図に入れています。

人的資本の情報開示について、有価証券報告書の情報記載箇所が変更となり、ストーリーが強く求められるようになりました。これにより、働き方の自由化が企業価値創造にどのように貢献するかを明確に示すことができます。働き方の自由制や自律性を価値向上のストーリーとして確立することにより、優秀な人材の獲得、従業員エンゲージメントの向上、イノベーション創出の促進が可能となります。企業価値向上につながる一連のストーリーを構築し、投資家、労働者、顧客などすべてのステークホルダーに対して、人材戦略の効果を説得力をもって説明することが求められます。

また、人的資本の情報開示において、従業員平均給与の前年比増減率の開示が予定されています。企業が創出価値を従業員に適切に還元しているかが明確になります。競争優位性や収益向上を、人材への投資として還元することで、さらなる働き方の自由化を推進する好循環を創出できます。

中長期課題:働き方の自由化完成に向けた根本的制度転換

中長期的な課題群は、働き方の自由化を完成させるための根本的な制度転換を目指します。労働者性判断基準の見直し、柔軟な働き方制度の拡充、時間外労働上限規制の再検討、年次有給休暇制度の全般的整理、テレワーク時みなし労働時間制の導入、割増賃金制度の見直し、労使コミュニケーション将来像の構築、労働契約と集合的合意の関係整理は、働き方の柔軟性を制約している根本的な要因への対応を目指すものです。

これらの改革による、従来の雇用関係を前提とした労働法制から、多様な働き方と価値創造を支援する新しい労働法制への転換が期待されます。労働者と使用者の関係は、従属的な雇用関係から対等なパートナーシップへと進化し、時間・場所・一社専属などの拘束を低減した、価値の高い働き方の基盤となるものです。

労働者性判断基準・柔軟な働き方制度:働き方の境界線の自由化

プラットフォームワーカーやギグエコノミーの拡大に対応した労働者性判断基準の見直しにより、働き方の形態による制約が根本的に解消されます。雇用、請負、委任といった契約形態の違いによる働き方の制約を取り除き、働く人が自らの価値観と目標に応じて最適な働き方を自由に選択できる環境を構築します。昭和60年労働基準法研究会報告の40年ぶりの全面見直しにより、AIやアルゴリズムによる労務管理、プラットフォーム経済、デジタルノマドなど、現代の多様な働き方の健全化が進んでいくことが考えられます。

時間外労働上限規制見直し・年次有給休暇制度全般整理・テレワーク時みなし労働時間制:時間的拘束のいっそうの柔軟化

時間外労働上限規制の段階的強化により長時間労働への依存からいっそうの脱却を図り、年次有給休暇制度の抜本的見直しにより休暇取得時の賃金関連の制度見直しにより休息の権利を保障し、テレワーク時のみなし労働時間制導入により時間管理の概念を柔軟化します。これらは全て、時間的拘束や負荷を低減していく方向性を持っているものといえます。

特にテレワーク時のみなし労働時間制は、在宅勤務における仕事と私生活の融合という新しい働き方に対応し、時間ではなく成果に基づく働き方を制度的に支援する方向性の制度が目指されています。制度では合意が重視され、労働者の自律的な選択を尊重しながら健康確保措置により安全性を担保することが目指されています。

割増賃金制度見直し・労使コミュニケーション将来像・労働契約と集合的合意:自由な働き方を支える新制度基盤

割増賃金制度の見直しにより時間ベースの報酬体系から成果ベースの報酬体系への転換を支援し、労使コミュニケーションの将来像として働き方の自由化を継続的に推進する対話制度を確立し、労働契約と集合的合意の関係整理により個人の自由と集団の利益の最適化が目指されているのだと言えます。企業と労働者が対等なパートナーシップの下で、相互の価値を最大化する新しい労働関係が確立されます。

結論:「働き方を自由にする」ことによる価値向上の進展

以上のように、2027年労働基準法大改正は、「働き方を自由にしていく」方向性を持つ包括的な変革ツールでとして機能するものだと言えます。企業にとって重要なのは、この改正を規制対応として受動的に捉えるのではなく、働き方の自由化による競争優位性確立の機会として能動的に活用することです。

多様な働き方の推進、労働時間法制の見直し、労使コミュニケーションの深化、またITツールの活用の推進という柱は、すべて働き方の自由化と高付加価値化を多面的に支援するツールであり、どこまでどのように活用するかは各社の人材戦略次第です。労働基準法改正を戦略機会として活用することにより、労働生産性の飛躍的向上、イノベーション創出の活性化などが促進されていくことは十分に考えられることです。2027年労働基準法大改正は、持続可能な発展や経済成長の強力な戦略ツールであり、変革の鍵であると思います。

次回は、「副業・兼業制度の戦略的設計:人材流動化時代の競争優位構築」をお届けします。副業兼業制度は現代におけるもっとも効果性の高い組織変革の戦略を含むものだと言え、法令上、一貫して積極的な位置づけが与えられてきています。具体的な改正内容と、法令の活用の可能性について詳しく解説します。

<連載コラム>
第1回:2027年労働基準法改正:規制対応から戦略創造への大転換
第2回:2027年労働基準法大改正の全体像:企業が知るべき23以上の改正と4つの変革ポイント ★今回
第3回:副業・兼業制度の戦略的設計:人材流動化時代の競争優位構築 ★次回
第4回:先進企業の人的資本経営実践例:労働基準法改正を成長エンジンに変える方法1
第5回:先進企業の人的資本経営実践例:労働基準法改正を成長エンジンに変える方法2
第6回:2030年の組織と働き方:労働基準法改正がもたらす構造変革への準備