2027年、労働基準法の大改正が予定されています。
この内容は、「ただのルール変更」を超えた、企業の未来を左右する大転換期となると言えるものです。近年は、社会的な雇用関係の変化のニーズに対応するために、多くの法改正が行われています。
「法改正への対応は複雑で、どう進めればいいか分からない…」
「働き方の多様化に対応しつつ、どうやって従業員のエンゲージメントを高めればいいのだろう?」
もしかしたら、そんな悩みを抱えていませんか?
この2027年の労働基準法の法改正は、単なる「遵守すべき義務」ではありません。
従業員の自律性を高め、組織全体を機動的にすることで、企業の成長を加速させる最大のチャンスなのです。
そこで、みらいワークス総合研究所では、全6回の連載コラムをスタートします。
「法改正への対応」という守りの視点から、「企業価値を向上させる攻めの経営戦略」へと視点を転換し、具体的な活用事例を交えながら、2027年労働基準法大改正の核心に迫ります。
第3回のテーマは「副業・兼業制度の戦略的設計:人材流動化時代の競争優位構築」です。本コラムは、まず動画をご覧いただいてからお読みいただくと、より深くご理解いただけます。
副業制度が人的資本経営の中核となる時代
2027年に予定されている労働基準法の大改正において、副業・兼業に関する規制の柔軟化は最も注目すべき変革の一つです。特に、副業・兼業時の割増賃金算定における労働時間通算ルールの見直しは、企業の副業制度に対する考え方を根本から変える可能性を持っています。
現在、多くの企業では副業を「個人の自由だが、会社として積極的に支援するものではない」という消極的な姿勢で捉えています。しかし、こうした対応は急速に時代の要請に合わなくなっています。人的資本経営が求められる現代において、副業は単なる「働き方の選択肢」ではなく、従業員のキャリア自律を支援し、組織の人的資本価値を高めるための戦略的施策として位置づけられるべきなのです。
2027年の労基法改正は、副業を「規制対応」から「戦略創造」へと転換する歴史的な機会となります。この機会を生かし、副業制度を人材獲得・育成・活用の戦略ツールとして再設計することで、企業は持続的な競争優位を確立できます。

2027年労基法改正における副業関連の変革ポイント
割増賃金通算規制の柔軟化
現行制度では、副業・兼業を行う労働者の労働時間を通算し、法定労働時間を超える部分について割増賃金を支払う義務が課されています。この通算制は運用が煩雑であり、企業が副業を認めることへの大きな障壁となっていました。
2027年の改正では、この割増賃金算定における労働時間通算ルールが見直される予定です。これにより、企業は副業・兼業の推進に対する制度的な負担が大幅に軽減され、より柔軟な副業制度の設計が可能となります。
ただし重要なのは、割増賃金算定の負担が軽減される一方で、健康確保のための労働時間管理の重要性は変わらないという点です。むしろ、企業には従業員の健康管理への責任がより明確に求められるようになります。
「働き方を自由にする」方向性との連動
労基法改正全体が目指す「働き方を自由にする」という方向性において、副業・兼業の促進は「一社専属的拘束からの解放」という重要な役割を果たします。これは単なる規制緩和ではなく、働く人と企業の双方が価値創造に集中できる環境を構築するための戦略的な制度変革なのです。
副業の推進により、企業は「人材の囲い込み」から「人材の価値最大化」へと戦略を根本転換できます。優秀な人材の部分的な活用、フルタイム雇用では獲得困難な専門人材との協働が容易になります。また労働者は複数の価値創造活動に参画することで、多様な経験とスキルを蓄積し、自らの市場価値を継続的に向上させることができます。

副業を「リスク」から「機会」へ:発想の転換が競争力を生む
多くの企業が副業に対して抱く懸念は、情報漏洩、競業避止、労働時間管理の複雑化、本業への関与度低下などです。確かにこれらは無視できないリスクですが、適切な制度設計とマネジメントにより管理可能なものです。
重要なのは、これらのリスクを恐れるあまり、副業がもたらす戦略的価値を見逃してしまうことの方が、長期的には大きな機会損失となるという認識です。2027年の法改正は、こうした発想の転換を後押しする制度的基盤を提供するものと言えます。副業を戦略的に活用することで、企業は以下のような具体的なメリットを得ることができます。
| イノベーション創出の加速:社員が副業を通じて獲得する多様な知見、人脈、経験が本業にフィードバックされることで、既存事業の改善や新規事業の創出が促進されます。 人材のキャリア自律性向上:副業を通じて市場価値を客観視できるようになることで、社員のエンゲージメントが向上し、離職率の低下、優秀人材の獲得競争力向上といった効果が期待できます 外部人材の戦略的活用:自社では確保困難な専門性を、副業人材として効率的に取り入れることが可能になります。特にデジタル化やサステナビリティ対応といった新しい課題への対応力が向上します。 柔軟な人材戦略の実現:固定給与労働者だけでなく、プロジェクトベースでの人材活用を組み合わせることで、事業環境の変化に迅速に対応できる組織運営が可能になります。 |
副業の3つの類型と戦略的活用法
副業を戦略的に活用するためには、その性質と目的に応じた類型化が有効です。現在の副業は、以下の3つの類型に整理することができます。これは、副業制度特集でも詳しく説明しています。
- キャリア自律・イノベーション推進型副業
- ワークシェアリング・収入補完型副業
- オープンタレントエコシステム型副業
キャリア自律・イノベーション推進型副業
人的資本経営の文脈で最も注目される類型です。従業員が副業を通じて獲得する「越境経験」「社外学習」を、企業の価値創造に生かすアプローチです。
たとえば典型的な事例として、商社の社員が地方自治体の地域創生プロジェクトに副業として参画し、過疎化に悩む山間部での観光事業企画・運営を担当するケースがあります。地域コミュニティーとの関係構築や限られたリソースでの事業推進手法を習得し、この越境経験により、本業での新興国事業展開において現地コミュニティーとの協働アプローチを提案・実施し、従来の投資主導型から共創型のビジネスモデルへの転換を実現しています。
先進企業では、副業経験者比率を人的資本指標として設定したり、兼業経験を通じて獲得した知見を社内イノベーションに活用する仕組みを整備したりするなど、副業を組織能力の向上に直結させる取り組みが見られます。
ワークシェアリング・収入補完型副業
労働市場の流動化や雇用の不安定化に対応する類型です。この類型では、個人のリスク分散と企業の人件費最適化が同時に実現される構造が特徴的です。
たとえば、出版社の社員が業界の売上減少により給与水準が低下する中、生活費確保のため深夜のコンビニエンスストアでアルバイトを開始したケースでは、純粋な収入補完目的だったものの、深夜時間帯の客層や消費行動を観察する中で、夜間の消費者心理に関する実体験が本業に生かされた例もあります。
オープンタレントエコシステム型副業
外部人材を戦略的に活用する類型で、従来の顧問制度やフリーランス活用の発展形です。「スポットコンサル」「副業人材マッチング」などのサービスが普及し、企業が必要な専門性を必要な期間だけ確保する柔軟な人材活用が可能になっています。
たとえば、大手広告代理店出身の専門家が、地方製造業のデジタル化支援を副業として展開するケースでは、各社月数日の業務委託により、Webマーケティング戦略の策定から実行支援まで一貫してサポートしています。固定費を抑えながら高度な専門性を確保したい中小企業と、多様な業界での経験を積みたい専門人材のニーズが合致した好例です。
副業制度の戦略的構築:必ず押さえるべきポイント
副業制度を戦略的に整備する上で、人的資本経営の観点からも、不可欠な3つの制度構築のポイントがあります。下記の3点です。
- 経営方針としての明確な位置づけ
- 組織力向上の前提整備
- リスクマネジメントの明確化
経営方針としての明確な位置づけ
副業制度が成功している企業に共通するのは、組織のトップがコミットして、副業制度の方針や目指すものを明確に言語化していることです。特にキャリア自律や越境学習、イノベーション推進を目的とする場合、副業先で働いて成長した上で、さらに本業である自社でその経験や知見を生かして業務に変革を起こしたり提案をしたりすることが目標となります。
これは、通常求められる以上に、社員の主体的な行動が必要となります。そのためには、制度の目的やその実現のイメージが明確で、それが分かりやすく伝えられている必要があります。人的資本経営の観点からも、「キャリア自律なくして人的資本経営なし」と言われるように、副業制度は単独の施策ではなく、組織全体のキャリア支援体系の一部として位置づけることが重要です。
リスクマネジメントの明確化
副業によるリスクである情報管理や競業避止などについて、方針や各論の判断基準を明確に設け、現場や個別の判断任せにしないことが重要です。厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では、安全配慮義務・機密保持義務・競業避止義務・誠実義務等、企業が定めるべき具体的内容の考え方や基準が提示されています。
また、「企業と労働者の双方が納得して副業を進めるために、十分にコミュニケーションをとることが重要である」ということが強調されています。各人の業務や生活の状態・副業を行いたい理由などの個別の把握ができ、把握した情報に基づいて判断するような制度を構築することが求められます。
組織力向上の前提整備
本業である自社の組織力がない場合、副業で得たものを活用しようという意識も高くはなりにくいでしょう。副業制度を設ける場合は、まず自社の方針を明確にし、組織力を向上させる必要があります。
副業制度の効果を最大化するためには、理念浸透や人事施策などの実行により、外部で副業を行った人のスキルや視野を生かせる環境を整えることが前提となります。より本質的に言えば、自社の価値の中核をどこに置き、従業員との関係をどう捉えるか、その上でどこに向かうのか、ということを明確にすることです。
2027年改正を見据えた今すぐ始めるべき準備
2027年の法改正までに、企業は以下の整備を進める必要があります。まず、副業経験者比率、副業由来のイノベーション件数、副業経験者の本業での成果向上率などの指標を設定し、人的資本の開示項目として位置づけられるかどうか、KPIとしての有効性の検討が必要であると思われます。
また制度設計や基盤の整備の必要があります。従来の「副業禁止」から「条件付き許可制」を経て、「戦略的活用制」への転換を図る必要があります。具体的には、副業の類型に応じた承認基準の明確化、情報管理・競業避止に関する具体的なガイドライン策定、健康管理・安全配慮義務の履行体制構築などが含まれます。副業申請・承認のデジタル化、労働時間の統合管理システム、健康状態のモニタリングシステムなど、副業管理に必要な情報を効率的に収集・分析するためのシステム整備が求められます。
副業人材マッチングサービスなど外部のサービスとの戦略的連携も重要な課題です。自社社員の副業先紹介だけでなく、自社が必要とする外部人材の確保、業界内での人材流動化促進などの観点から、副業マッチングサービスとの包括的な連携関係を構築することが有効です。また、同業他社や関連業界の企業との間で、相互に人材を派遣・受け入れする枠組みを構築することで、業界全体での人材活用の効率化を図る取り組みも見られます。特にIT業界や地方公共団体と連携した多数のコンソーシアムの取り組みが見られます。
まとめ:副業を人的資本経営の核心に据える
2027年の労基法改正は、副業・兼業を「個人の自由な選択」から「組織の戦略的な人材活用」へと発展させる歴史的な転換点です。この機会を生かして競争優位を構築できるかどうかが、今後の企業の成長を大きく左右します。
重要なのは、副業という現象を単なる働き方の多様化として捉えるのではなく、人的資本経営、オープンイノベーション、キャリア自律支援を統合した新しい人材戦略の核心として活用していくことです。
副業制度の構築は、副業を行う従業員に対して個人として自立してキャリアにおいて自己決定し主体的であることを求めますが、同時に企業の側においても、自社をどう定義しどこに向かうかという意思決定を求めるものです。2027年の法改正を前に、今こそ副業を戦略的に活用する準備を始めるべき時なのだと思います。
次回は、「先進企業の人的資本経営実践例:労働基準法改正を成長エンジンに変える方法1」を通じて、労基法改正を成長エンジンに変える方法を詳しく解説します。
<連載コラム>
第1回:2027年労働基準法改正:規制対応から戦略創造への大転換
第2回:2027年労働基準法大改正の全体像:企業が知るべき23以上の改正と4つの変革ポイント
第3回:副業・兼業制度の戦略的設計:人材流動化時代の競争優位構築 ★今回
第4回:先進企業の人的資本経営実践例:労働基準法改正を成長エンジンに変える方法1 ★次回
第5回:先進企業の人的資本経営実践例:労働基準法改正を成長エンジンに変える方法2
第6回:2030年の組織と働き方:労働基準法改正がもたらす構造変革への準備


