サーキュラーエコノミーとは?企業が取り組むべき理由や課題、事例とともに解説

環境問題や社会問題を解決し、持続可能な社会を実現しようとする動きが広がる中、新たな経済システムとして「サーキュラーエコノミー(循環経済)」が注目されています。

サーキュラーエコノミーとは、リサイクルなどにより資源を効率的に循環させ、長期的な経済成長を目指す新しい経済の仕組みです。

本記事では、サーキュラーエコノミーの定義や企業が取り組むべき理由を解説しつつ、企業によるサーキュラーエコノミーの取り組み事例もあわせて紹介します。

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは?

まずは、サーキュラーエコノミー(循環経済)の概念から解説します。

サーキュラーエコノミーの基本的な概念

サーキュラーエコノミー(circular economy)とは、3R(リデュース、リユース、リサイクル)を視野に入れて製品を設計することで、資源を効率的に活用し、廃棄物を生み出さない経済システムです。

新たに使用する資源を減らすことで、資源不足やエネルギー不足などの問題解決につなげ、持続可能な社会の実現を目指します。

サーキュラーエコノミーへの取り組みはヨーロッパから広まり、現在は多くの国や企業がサーキュラーエコノミーへの転換を進めています。

 

リニアエコノミー(線形経済)からサーキュラーエコノミー(循環経済)へ

これまで、世界の主流な経済システムはリニアエコノミー(線形経済)でした。

リニアエコノミーは「直線型経済」とも呼ばれ、資源の採掘、大量生産、大量消費・破棄という流れの経済システムです。18世紀半ばの産業革命から始まり、リニアエコノミーにより経済と社会は発展してきました。

しかし、リニアエコノミーではリサイクルや再利用を考慮していません。そのため、大量生産と大量消費を繰り返し、その結果、環境破壊や社会問題が発生してしまったのです。

これらの状況を解決する方法として、サーキュラーエコノミーが注目されるようになりました。

 

サーキュラーエコノミーの3原則

「サーキュラーエコノミーの3原則」は、2010年にイギリスで設立された「エレン・マッカーサー財団」が提唱したものです。この財団は、サーキュラーエコノミーの推進を目的としています。

Eliminate waste and pollution:廃棄や汚染を出さない
Circulate products and materials (at their highest value):製品と素材の循環
Regenerate nature:自然の再生
引用:Circular economy introduction|Ellen MacArthur Foundation

この3原則は、サーキュラーエコノミーの本質とされる重要な考え方とされています。

「サーキュラーエコノミーの3原則」を図で表したものが「バタフライ・ダイアグラム」です。

この図は、リニアエコノミーの流れを中心に、左側には自然資源のサイクルである「生物的サイクル」が、右側には枯渇性の資源サイクルである「技術的サイクル」が描かれています。全体の形が、羽を広げた蝶のように見えることから「バタフライ・ダイアグラム」と呼ばれており、限りある資源をさまざまな方法で循環させることの大切さを示しています。

参考:The butterfly diagram: visualising the circular economy|Ellen MacArthur Foundation

サーキュラーエコノミーとリサイクルの違い

サーキュラーシステムとよく混同される言葉に「リサイクル(recycle)」があります。

リサイクルとは、廃棄物を資源として再生利用することを意味します。一方、サーキュラーエコノミーは経済全体の仕組みを表す言葉であり、リサイクルはその中の一つの解決策(ソリューション)です。

リサイクルは、3Rの一つとして知られています。3Rとは、リデュース(Reduce:ゴミを削減する)、リユース(Reuse:再利用する)、リサイクル(Recycle:ゴミを資源として再生利用する)の総称です。

ただし、3Rは廃棄物がある前提ですが、サーキュラーエコノミーは設計の段階で廃棄物を出さないことが前提となっている点が大きな違いです。

サーキュラーエコノミーとSDGsとの関連性

サーキュラーエコノミーはSDGsとも深く関連しています。

「SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)」は、2015年に国連で採択された、よりよい世界を築くために世界が取り組むべき目標です。環境問題や社会問題に関する17の目標と、それらを具体的に示した169のターゲットで構成されています。

サーキュラーエコノミーは、SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」や目標12「つくる責任、つかう責任」、目標14「海の豊かさを守ろう」、目標15「陸の豊かさも守ろう」など、いくつかの目標と関係しています。

このように、SDGsの目標を達成する方法の一つとして、サーキュラーエコノミーという経済システムがあるといえるでしょう。

参考:SDGsを事業に取り入れるべき理由とは? 導入のメリットや導入方法などを解説

サーキュラーエコノミーに取り組む企業へのメリット

企業が、サーキュラーエコノミーに取り組むことで得られるメリットは、次の3つがあります。

  • 製造過程や製品の見直しによるコストダウン
  • 企業イメージの向上
  • 新規顧客の獲得につながる

 

製造過程や製品の見直しによるコストダウン

一つ目のメリットは、製造過程や製品を見直すことでコスト削減が可能になることです。

サーキュラーエコノミーでは、資源やエネルギーを有効活用し、廃棄物の発生を抑制します。さらに、使い終わった資源も再利用するため、新たな資源の利用量が節約でき、その結果、コストダウンにつながります。

また、設備のメンテナンスや製品の見直しによって寿命が伸びることで、サプライチェーン全体でのコストダウンも期待できるでしょう。

企業イメージの向上

サーキュラーエコノミーへの取り組みは、環境問題に積極的に取り組む姿勢をアピールできるため、企業イメージの向上につながります。

また、投資家や顧客は、環境配慮への取り組みを、企業を選ぶ際の重要な項目としています。そのため、環境問題に関心が高い消費者からの支持も得られるでしょう。さらに、就職活動の際、社会貢献度に注目して企業を選ぶ人も増えているため、人材の確保にも効果的です。

特に、サーキュラーエコノミーが浸透していない業界では、他企業との区別化にもなるでしょう。

参考:【基本から解説】ESG経営とは?|メリットやデメリット、事例、企業価値を高めるポイントも紹介!

 

新規顧客の獲得につながる

サーキュラーエコノミーには、リサイクルやアップサイクル、リペアなどの新たなビジネスチャンスを生み出す可能性があります。これらのサービスは国内だけでなく、海外でも展開できるため、新規顧客の獲得につながります。

ただし、リニアエコノミーからサーキュラーエコノミーへの転換には、新たな技術が必要な場合もあるでしょう。一企業だけでは難しい技術開発も、国や他企業と協力することで可能になります。

 

サーキュラーエコノミー実現における課題

持続可能な社会のために重要なサーキュラーエコノミーですが、実現にはいくつかの課題があります。

企業規模や取り組む内容により課題は異なりますが、ここでは多くの企業に共通する主なポイントを2つ紹介します。

  • 広範囲のソリューションが必要
  • 社内の意識改革が重要

 

広範囲のソリューションが必要

サーキュラーエコノミーでは、3Rを取り入れながら、資源を効率的に活用し、廃棄物を生み出さない流れが必要です。そのため「原料の再利用」や「設備の入れ替え」などの部分的なソリューションだけでは、サーキュラーエコノミーは実現できません。

実際には、製品の設計、原料の選定、回収方法やリサイクル方法など、企業によってはソリューションが広範囲にわたる場合があります。また、製品寿命を延ばすことと品質のバランスの両立も重要です。

一方で、新たな技術開発やシステム導入など、検討内容の広さや初期費用などが課題となる企業も多いのが現状です。

社内の意識改革が重要

企業がサーキュラーエコノミーに取り組む場合は、会社全体が概念や必要性を理解することが重要です。

前述したように、サーキュラーエコノミーを実現するには初期費用が多いだけでなく、製品によってはすぐに利益が出ないこともあるため、社内の理解を得にくいこともあります。
そこで、サーキュラーエコノミーの重要性や自社の取り組み、今後の計画などを社内に積極的に発信する姿勢が大切です。このような発信は、社員のモチベーション向上にもつながるでしょう。

日本政府によるサーキュラーエコノミーへの取り組み

サーキュラーエコノミーへの移行は、企業の事業活動の持続可能性を高めるとしており、日本政府も積極的に推進しています。

ここでは、サーキュラーエコノミー推進のため、日本政府が行っている取り組みを3つ紹介します。

  • 循環経済ビジョン2020
  • 産官学パートナーシップの創設
  • 情報流通プラットフォームの構築

 

循環経済ビジョン2020

「循環経済ビジョン2020」とは、経済産業省が2020年5月に公表した、日本がサーキュラーエコノミーへと転換するための指針です。

このビジョンは、サーキュラーエコノミーに関する国際的な動向を踏まえた上で、1999年に策定された「1999 年循環経済ビジョン」との違いや今後の方向性をまとめています。具体的には、「循環性の高いビジネスモデルへの転換」「市場・社会からの適正な評価」「レジリエントな循環システムの早期構築」の3つの視点から方向性が示されています。

 

産官学パートナーシップの創設

「産官学パートナーシップ」とは、国や自治体、大学、企業などサーキュラーエコノミーに取り組む団体が参画するパートナーシップです。「産官学」とは、企業(産)・国や自治体(官)・大学や研究機関(学)が連携して、技術開発や新事業の創出、製品開発などを行うことを指します。

経済産業省は2023年、サーキュラーエコノミーに関する産官学パートナーシップとして「サーキュラーパートナーズ(CPs)」を創設しました。2025年6月時点では、700人以上が会員となっています。現在、サーキュラーエコノミーの実現に向けたビジョンやロードマップの策定などが検討されています。

参考:Circular Partners 公式サイト

 

サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォームの構築

「サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォーム」とは、サーキュラーエコノミー実現に向けて、製品や素材の情報を一元化するためのプラットフォームです。これにより多分野にわたるデータ流通が実現でき、規制・ルールや政策支援、産官学連携において貢献できるとしています。

現在、2025年を目途に立ち上げが検討されており、2025年6月時点で、4回のワーキンググループが実施されています。

参考:サーキュラーエコノミー情報流通プラットフォームの仕様の標準化に関する調査報告書

 

企業のサーキュラーエコノミーの取り組み事例

最後に、企業によるサーキュラーエコノミーへの取り組み事例を紹介します。

  • 【Loop】食料品・日用品を再利用可能な容器で提供
  • 【スターバックスコーヒージャパン】コーヒーかすを地域内リサイクル
  • 【ユニクロ】不要な服をリユース、リサイクル
  • 【ECOALF】環境負荷と着心地を両立するファッションアイテム
  • 【LEGO】リサイクル素材を活用したパーツ

 

【Loop】食料品・日用品を再利用可能な容器で提供

「Loop」は、食品や日用品の容器を再利用できる素材に変え、使用後に回収、洗浄、補充して再度販売するという循環型ショッピングプラットフォームです。

「捨てるという概念を捨てよう」というミッションを掲げ、使い捨てプラスチック削減だけでなく、リユースをより身近なものにする取り組みも行っています。

2019年1月から開始し、すでに5カ国(アメリカ、フランス、イギリス、カナダ、日本)で展開されており、国内では関東を中心にイオンなどで取り扱いがあります。

参考:Loop

【スターバックスコーヒージャパン】コーヒーかすを地域内リサイクル

「スターバックスコーヒージャパン」では、2014年よりコーヒー抽出後に出るコーヒーかすのリサイクルに取り組んできました。

全国にある約2,000店舗から出るコーヒーかすは、年間約4,000トンです。スターバックスジャパンでは、コーヒーかすを畑のたい肥や牛の飼料にリサイクルし、育てられた野菜やミルクをスターバックスの店舗で利用する取り組みを行っています。

コーヒーかすのリサイクルは、2025年3月末時点で約半数の店舗で実施されており、2030年までに全店舗での実施を目指すと発表しています。

参考:年間約4,000㌧の廃棄物削減へ、コーヒーかすリサイクル店舗が全国約1,000店舗へ拡大 2030年の全店リサイクルを目指し、地域コミュニティとの共創から生まれたリサイクルの取り組みも促進|Starbucks

【ユニクロ】不要な服をリユース、リサイクル

世界的なアパレルブランド「ユニクロ」は、「服のチカラを、社会のチカラに。」をビジョンとし、「People(人)」「Planet(地球環境)」「Community(地域社会)」の3つのテーマの課題解決に取り組んでいます。

2006年から、不要な服を回収して服を必要とする人々に届ける「服のリサイクル活動」を開始しました。現在は「RE.UNIQLO」として衣料支援に加え、リサイクルやリペアサービスなども展開しています。

また、2023年10月には、回収した古着に染色などの加工を施し、付加価値をつけて販売する「ユニクロ古着プロジェクト」を開始しました。服を長く着て、最後はリサイクルすることでサーキュラーエコノミーの実現を目指します。

参考:RE.UNIQLO|ユニクロ

【ECOALF】環境負荷と着心地を両立するファッションアイテム

スペイン発のブランド「ECOALF」は、「地球環境を無視した自然資源の活用をしない。」をビジョンに、「リサイクルされていない製品と同等の品質・デザインの製品をつくる。」をミッションに掲げ、サステナビリティと高い品質の両立を目指します。

ECOALFではペットボトルをはじめ、海洋ゴミやタイヤ、コーヒーかすなどを原料とした素材をこれまで600種類以上開発してきました。取り扱っているすべての商品には、リサイクル素材や天然素材が使われています。

参考:ABOUT ECOALF|ECOALF

【LEGO】リサイクル素材を活用したパーツ

これまで玩具メーカー「LEGO」のブロックは、プラスチックを原料にして作られてきました。しかし、2032年までに、持続可能な素材でブロックを作るための解決策を見つけることを目標に掲げています。実際に、タイヤパーツや植物パーツなどには、すでにリサイクル素材が使われています。

また、2015年には、デンマーク本社に約210億円をかけて「サステナブル・マテリアル・センター」を設立しました。このセンターでは、レゴブロックのサステナブルな代替素材の開発・検証、包装用の新素材の開発などが行われています。

参考:Playing our part in a sustainable future|LEGO
持続可能な素材の研究|LEGO

まとめ

サーキュラーエコノミーは、今ある資源を有効活用し、廃棄物をなるべく減らす経済システムです。サーキュラーエコノミーは、持続可能な社会の実現に必要不可欠といえるでしょう。

しかし、サーキュラーエコノミーに取り組むには、既存の設備やシステムの変更、製造工程の見直しなど広範囲のソリューションが必要になります。また同時に、社内の意識改革なども積極的に行うことが大切です。