代表取締役 北野 真之 氏
2010年より株式会社ウェブレッジ(現デロイト トーマツ ウェブレッジ株式会社)に入社し、大手グルメ情報サイトでテストエンジニア・自動化業務に従事。その後リーダー、グループ長として人材サービスや通信企業等で自動化・効率化を推進。2016年に執行役員、2020年に取締役へ就任し、営業・経営に携わる。2025年より代表取締役に就任。
デロイト トーマツ ウェブレッジ株式会社
福島県郡山市に本社を置くIT企業です。「提供するサービスを通じて、IT社会の発展を支える」という理念のもと、独自の検証ノウハウと技術でソフトウエア品質向上・第三者検証サービスを提供し、クライアントの成長やIT社会の発展のサポートをしています。
https://webrage.jp/
地方に拠点を置く企業にとって悩ましいのが人材の確保でしょう。特にIT人材は、首都圏ですら引く手あまたであるため不足しがちで、さらにそのハードルは高いものです。しかし、福島県郡山市に愛着とこだわりをもって拠点を置き、ITコンサルティングやサイバーセキュリティー領域にて事業を展開するデロイト トーマツ ウェブレッジ株式会社は、外部パートナーを活用することで、その困難な状況を乗り切っています。同社代表取締役の北野真之氏に、地方拠点ならではの採用戦略についてお聞きしました。
地元・福島を大事に思っている人が多い会社
まずは会社概要からご紹介いただけますでしょうか。
北野:2009年に創業し、主にソフトウエアの検証事業を行っていましたが、今から2年前にデロイト トーマツ グループに入り、デロイト トーマツ ウェブレッジ株式会社(以下、ウェブレッジ)として再スタート。従来の事業に加えて、ITコンサルティングやサイバーセキュリティー領域の支援事業を手掛けるようになりました。
ありがたいことに、弊社事業に対する期待は高まっており、それに伴って対応領域も広がっています。例えば検証領域においても、従来であれば、クライアントから「これが欲しい」と直接、具体的なご依頼がありましたが、今では「解決しなければならない問題があるが、どうすれば解決できるかが分からない」という声をよく聞きます。そのため最近では、私たちから課題解決型のご提案を実施する機会が増えています。
ここ10年くらいで企業のIT活用が当たり前になりましたが、同時に情報過多になり、製品やサービスも溢れているため、自分たちの会社の課題を解決するためのツールを選ぶことが難しくなっています。そういった環境の中で私たちにアドバイスが求められるようになっています。今は、AI活用も進んでいるといわれていますが、情報があっても、自分たちの会社に適した活用法が分からないという方も多くいらっしゃいます。そのため私たちは、会社の状況に合わせた形で「AIをどう使えばどのように問題解決ができるか」をお伝えしています。
福島エリアに拠点を置いていらっしゃいますが、その理由について教えてください。
北野:創業者が福島県出身であったこと、そして雇用機会を創出することで震災の復興支援がしたいという思いから、震災の翌年、2012年に「郡山ウェブレッジラボ」を設立しました。そして、2015年に福島県郡山市の郡山駅前へ本社機能を移転、さらに2022年5月に旧郡山市立大田小学校へ本社を移転しています。本社を福島へ移転して10年が経過しましたが、私自身も福島のことが大好きになりました。長く勤めているメンバーの中には、福島を「第二の故郷」と言う人もいるくらいです。
福島に本社を移転した当初、福島出身者は創業者のみで、数名の東京からの移動者とともに稼働を開始しました 。そこから地元採用を進め、全体のおよそ3分の1が地元福島の人間という構成になりました。その割合は現在とあまり変わりませんね。地元福島を大事に思っている人が多いですし、採用をしていてもUターンを希望する人はとても多い印象です。東京にも拠点を残していますが、福島拠点は基本的に現地雇用なので、地元で働けるという安心感もあると思います。
また、福島にはIT企業はあまり多くありませんが、IT関連業務に従事したいと希望する人はたくさんいるので、その人たちがわざわざ東京に行くことなく、地元で安心して働けるようにしたいと考えています。
北野:以前は郡山駅前に本社がありましたが、ちょうど社会的にもそういった流れがあったので、郡山市と相談し、私たちも廃校に拠点を置くことにしました。もちろん業務的にもメリットがあるという判断もあります。検証業務はソフトウエアだけでなく、ハードとソフトの組み合わせも対象になります。例えば冷蔵庫やエアコンなど大型家電との組み合わせがありますが、それらは普通のオフィスで検証をすることはスペース的にも難しいです。中にはどのくらいの距離まで通信可能なのか距離をはかる検証もあり、そのためには部屋をまたぐ必要もあります。普通のオフィスでは難しくても、広さのある学校では実施可能なことも数多くあります。
また、教育関連事業を手掛けていたのも理由の一つです。文部科学省が「GIGAスクール構想」を推進していますが、実際の学校でパソコンをたくさん用意してインターネットに接続することは可能か、というシチュエーション検証も行っていました。実際に私たちが検証をしたときは、30台のパソコンをつないだらブレーカーが落ちてしまいました。そういうことも実際にやってみなければ分かりません。また、電子黒板は大きすぎて、分解をしなければ搬入ができませんでした。これはUXにあたりますが、それを受けて電子黒板を作っているメーカーは、分解ができるような設計にしなければならないということが分かります。これらを実際に体験することで、より実践的なアドバイスが可能となります。
福島の地元採用に一定のこだわりを持っている
北野:私たちは、これまでご説明してきた背景から、福島の地元採用に一定のこだわりを持っています。本社を福島に置いているだけでなく、私も含めて福島を盛り上げたいという気持ちも強く、その思いに賛同してくれる方もたくさんいらっしゃいます。廃校をオフィスにしたのも地域を盛り上げたいという気持ちからなので、やはり私たちの思いに共感してくださる方を集めたいと思っていました。
当初はエージェントにも依頼したり、自力で採用活動を進めたりしていましたが、エージェントを介すと、どうしても東京の人が多くなってしまいます。正直に言って、「福島の人材が欲しい」とお願いしてもなかなか難しい状況にありました。やはり東京に比べて圧倒的に母数が少ないですからね。ですから出身地にはこだわらず、福島に移住したいと考えている人材も視野に入れて採用したいと考えるようになりました。そこで、私が代表になってから、福島・郡山の良さをアピールすることに注力。私が発信することで、福島移住につながる人がいるといいなと考えました。
さらに、弊社がちょうどデロイト トーマツ グループに入ったタイミングだったため、グループ内にて相談をしたところ、地方創生事業を支援している株式会社みらいワークスの紹介を受けることになりました。現在は、みらいワークスに、エージェントに対する働きかけもお願いしていて、福島に限らず大阪や名古屋のオフィスでも採用実績が増えています。あれだけ困っていた課題が解決され、今ではコンスタントに採用できるようになりました。
地方に移住した方からよく聞くのは、静かで人の温かさを感じる地域で東京の仕事ができるという、穏やかさと刺激の組み合わせが良いということ。最先端の仕事をしながらも、地方なので生活費も抑えられるのでとても良いですね。貴社はどのような人材を求めていらっしゃいますか。
北野:“新しいことをやりたいと考えている人やチャレンジしたい人”というのが大きなポイントです。私たちの社風でもありますが、「チャレンジしたい」と自分から言ってくれなければ、これまで通りの仕事しか与えられません。反対に、自ら手を挙げればなんでも挑戦できます。“やる気がない”というのは話になりませんが、一生懸命に取り組んで、失敗しても誰も怒りません。チャレンジすることがその人の成長につながると考えています。昔のように終身雇用の時代ではないので、ウェブレッジで成長して羽ばたいていってくれたらいいと思っています。ウェブレッジを退社して、他の会社で活躍している話を聞くととてもうれしいですね。
少なくとも、検証業務のニーズは高まっているので、ウェブレッジで経験して獲得するスキルの市場価値は高まっていると感じています。これまでは検証を外注化する企業が多かったのですが、最近は内製化の動きがあります。それだけ検証の重要性を理解している企業が増えているのでしょう。
また今後、AI活用が進んでいくと、“AIが作ったものは大丈夫か”と疑問に思う人も増えます。そのため開発は減るかもしれませんが、反対に品質管理の重要性は増していくと考えられます。そのためウェブレッジで品質について深く学び、事業会社などにキャリアチェンジして活躍する人が増えていくことは容易に予測できます。
もちろん、もともと検証業務を専業で担当してきたという人材は少ないかもしれませんが、開発を担当してきたエンジニアであれば、検証自体の経験はあるはずなので、ポテンシャルを持っている方は少なくありません。そういった方々が弊社で検証業務を体験することで、自らの技術力が高まるはずです。
さらに、セキュリティー業務の重要性も高まっています。こちらも新しい領域なので、これまで専門的に担当してきたという方は少ないかもしれませんが、日々の興味関心が重要です。セキュリティー人材の優秀な人は、日々起こるセキュリティー関連のインシデントや事例を自分なりに調べたりしています。毎日新しい事故が起こるので、それに興味を持ってキャッチアップできる方が成長できる業務といえます。
最終的には東北全域までフィールドを広げたい
北野:デロイト トーマツ グループに入って、できることが増えました。これまでは例えば開発やコンサルティングをやりたいという人は、ウェブレッジから転職をしていました。しかし今では、グループ内にさまざまな企業があるため、出向という形を取ることが可能になりました。従業員のキャリアが広がるという意味では、とても良いことだと思うので、今後もグループインしたメリットを生かしていければと思います。また郡山でサイバーセキュリティーやITコンサルティング業務を提供できる会社は少ないので、さらなる事業拡大を目指して参ります。
現在は郡山に拠点がありますが、今後は会津や浜通り方面にも広げていければと考えています。そして最終的には東北全域までフィールドを広げ、「東北でITやるならデロイト トーマツ ウェブレッジ」と言われる存在になりたいですね。会社としては「福島から世界の品質を支える」と掲げているので、それに向けて頑張っていければと思います。