岡山市役所
政策企画課 デジタル担当課長 赤井清治 氏/プロモーション・MICE推進課 課長補佐 東勝美 氏
◆岡山市について◆
https://www.city.okayama.jp/
岡山市は、2021年4月に「第2期岡山市まち・ひと・しごと創生総合戦略」を策定し、多様化・複雑化する社会課題の解決や市民のニーズへの対応など、地方創生の実現に向けて取り組んでいる。そのなかで、既存の行政の考え方にとらわれない柔軟な発想、民間企業でのノウハウや経験、高い専門性をもって民間企業の最前線で活躍する外部専門人材を積極的に活用すべく、みらいワークスを通じて各プロジェクトの「戦略マネージャー」を募集した。
2020年6月には第1弾として、3職種の戦略マネージャーを募集。616名の応募から5名(3名は副業、2名はフリーランスの方の兼業)を委嘱。また、第2弾となる2022年には、5職種の募集に対して208名の応募があり、最終的に5名(2名は副業、3名はフリーランスの方の兼業)を選定し、2020年度から継続している1名を含めた6名を委嘱した。
※役職は、インタビュー実施当時(2022年10月)のものです。
現代の日本において、人口減少に伴う諸問題は喫緊の課題です。岡山市もそうした問題を抱える地方自治体のひとつ。人口が減少すれば地域経済の縮小を招き、地域経済が縮小すれば人口減少がさらに加速する……そうした“負のスパイラル”を食い止めるべく、「岡山市まち・ひと・しごと創生総合戦略」などを策定して取り組みを進めています。
そうした取り組みにおいて岡山市役所は、副業・兼業人材を前提とする外部専門人材を積極的に活用。2020年には3職種5名、2022年には6職種6名(うち1職種1名は2020年から継続)を「戦略マネージャー」として委嘱しています。
今回は、岡山市役所の政策企画課でDX(デジタルトランスフォーメーション)推進プロジェクトを担当する赤井清治デジタル担当課長と、プロモーション・MICE推進課で観光サイトプロジェクトを進める東勝美課長補佐に、副業・兼業人材の活用についてお話をうかがいました。
外部専門人材に求めたのは「専門的な知見」「行政の考え方に捉われない柔軟な発想」「人柄」
事業担当職員(以下、敬称略):多様化・複雑化する市民ニーズに的確に対応しながら、岡山市として目指していることを実現するには、行政の考え方に捉われない柔軟な発想とアイデアを持ち、専門的な知見を持った民間人材が必要と判断しました。
赤井:自治体の内部には、自治体ならではの考え方や仕事の仕方のようなものがあり、自治体内部での仕事が長ければ長いほど、そうしたものにとらわれてしまいがちです。そこを打破するためには、一つの考え方にこだわらないような存在を求めているというところもありました。
事業担当職員:委嘱にあたっては、ご応募いただいた方の書類を拝見して選考させていただくことになります。しかし書類を拝見するだけでは、我々岡山市が求めている人物像にマッチするかどうかの判断が難しい部分があります。そこで、今年2022年の募集では、一部の分野については事前に提案を考えていただき、最終面接でプレゼンしていただくような取り組みを行いました。
ほかの自治体さんでの業務経験をもとに我々が求めているようなことに応えてくださる提案をいただいたり、限られた予算のなかでできることを最大限に考えてくださった提案をいただいたりして、ご応募いただいた方々のことをより深く知ることができ、ありがたかったです。
東さん(以下、敬称略):私は観光分野のプロジェクトで、WEBサイトの制作ディレクション・運用に携わっていただく方の選考に入っておりました。非常に多くの方にご応募いただいたなかでどの方にお願いするか、実は内部でも意見が少し分かれました。ご応募くださった皆さんはそれぞれにいろいろなご経験をおもちでしたので。そのなかで最終的に決め手になったのは、人柄です。
外部専門人材の方と仕事をする際は、打ち合わせや諸般の調整ごとなどがどうしても多くなるため、「そうしたコミュニケーションを円滑に進めることができる方」というのは求める条件の一つにありました。私たちが最終的にお願いすることにした李さんは、その条件を十分に満たす方でした。
また、李さんのこれまでの仕事をうかがい、現場に近いところで仕事をされていらっしゃった印象をもちました。その点も、今回プロデューサー的な関与よりディレクター的な関与のあり方を求めていた我々の理想に合致した。こうしたことから、今後事業を一緒に進めていける方だなと考え、決めました。
内部の「当たり前」をスルーしないのは外部の方の視点だからこそ
赤井:2021年3月、岡山市は「岡山市DX推進計画」を策定しました。これは、デジタル技術の発展や市民の行動様式の変化などをふまえ、地域社会全体でDXを推進することにより、地域経済の発展と、市民の方一人ひとりの幸せを実現することを目指す計画です。
戦略マネージャーの長谷川さん、安井さんのお二方には、計画全体の構成をどうするか、どういった要素を盛り込むべきかといった点をはじめ、さまざまなアドバイスをいただいておりました。
お二方は基本的に一緒に動いてくださるようなかたちで、我々としても明確な役割分担というのは特には設けておりませんでした。ただ、強いて言えばですが、安井さんは本業でコンサルティングを手がけておられて、今回の計画策定においてもそうした視点からさまざまなご協力をいただきました。長谷川さんは、現場に近いところで仕事をされてきた知見から、細かい部分のお話をいろいろさせていただきました。
今年度は、岡山市役所の各職場に課題を洗い出してもらい、その課題解決を考えるワーキンググループを立ち上げました。メンバーは各職場の現場の職員と、我々DX担当と、それから20代・30代の若手職員で、このワーキンググループのファシリテーターを長谷川さんにお願いしています。そろそろ来年度の予算を立てる時期になりますので、このワーキンググループでの検討結果を来年度の予算要求につなげていければと考えています。
東:まず最初に、岡山市に関するプロモーション全体の企画立案を行うようなプロジェクトがありました。2020年の外部専門人材募集を通じ、「桃太郎のまち 岡山」プロモーションの戦略マネージャーとして2名の外部専門人材の方に参画していただいたのは、このプロジェクトです。
そのプロジェクトでは岡山市にある歴史遺産や観光資源の掘り起こしが行われ、次はその歴史遺産や観光資源についてWEBサイトで情報発信しようということになりました。現在我々が進めている「歴史担当コンテンツウェブサイト制作・企画業務」というプロジェクトでは、そのための特設サイトの構築を行っているところです。
サイトを新設するにあたっては、WEBサイト構築に関する技術や知識が必要ですし、我々としてはアクセシビリティに配慮したサイトにしたいという思いもありました。そこで、デジタル分野で実績のある方に、テクニカルな面を中心にサポートいただければということで、李さんに入っていただきました。
東:李さんにはディレクター的なかたちでお力添えをいただいておりますが、WEBサイトを制作する実務の部分は、デザインからシステムまですべて外部の事業者さんにお願いしています。
私たちは長年行政にいて、外部の視点、利用者の視点をニュートラルにもつことがなかなか難しいというところがあります。李さんは、ほかの自治体さんのWEBサイト制作に携わったご経歴もおありで、フラットな目線、利用者の目線をふまえたご助言をいただくことでよりよいサイトにできるのではないかと考えたのです。
また「観光」という観点でいうと、市外の方の視点だからこそ得られるものもあるのではないかと考えました。李さんには実際に岡山に来ていただいて、WEBサイトに掲載しようと思っている場所にご案内しました。すると、やはり私たちにはないような視点で、市にいる者としては当たり前すぎてスルーしていたようなところのよさなどを見出してくださった。そして「このよさを、あとはどう見せるかですね」と言って、プロジェクトに真摯に取り組んでくださいました。こうしたアドバイスは、外部専門人材の方にお力添えをいただく大きなメリットの一つだと思います。
外部専門人材の方の稼働時間は月20時間。その時間の“使い道”は
事業担当職員:戦略マネージャー全般に関して申し上げますと、最初の2020年度は、週何回オンラインで打ち合わせするとか、月何回岡山市に来ていただくといったことを決めず、進め方は各部署に一任していました。
そこでさまざまやりとりを重ねたあと、内部で振り返りをしたときに、「外部専門人材の方と直接お会いして話をし、お互いの理解を深める時間を定期的にもったほうがいいのではないか」「岡山市内を直接見ていただいて、『こういうところなんだ』と理解を深めていただいたほうが、よりよい協働になるのではないか」ということになりました。
そこで、以降の外部専門人材の募集においては、「月に1回程度は岡山市に来ていただく」という要件を加えました。2021年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、遠方から岡山市に来ていただくことが難しい状況が続き、オンラインでやりとりを進めていました。今は以前に比べて移動しやすい状況になっておりますので、今年度の戦略マネージャーの方にも月に1回程度岡山市に来ていただくことになっています。
事業担当職員:その20時間の使い方は各部署に一任しており、現場担当者が戦略マネージャーの方と調整して決めています。例えばミーティングにしても、週1回、数時間のミーティングをする部署もあれば、1時間ほどの打ち合わせを週3回行っているようなところもあります。
もちろん、戦略マネージャーとして活動していただくなかには、ミーティングに参加するだけでなく、資料を作成したり調べものをしたりといったことも必要になります。そうした活動も月20時間の中に含まれます。
赤井:戦略マネージャーにお願いしたい優先順位としては“頭と口を動かしてもらう”ことのほうが高いので、資料作成などの作業的な部分は指示をもらって市役所内部で対応するといったことも多いです。
観光分野ではいかがですか?
東:先ほど、李さんに岡山市に来ていただいたという話をしましたが、それは「岡山市に来ていただかないと見られないものを見ていただく」ためのもので、基本的にはメールでのやりとりが中心です。我々からデータや資料をメールでお送りして、その内容について必要なご指摘やアドバイスをいただく、といった流れが定着しています。
李さんには岡山市以外の仕事もありますので、ご本人のペースで進めていただいていますが、お忙しいなかでも迅速にレスポンスをくださるので、本当に助かっています。我々としては、決まったスケジュールの中で、限られた時間で進めていく必要がありますので、私たちはもちろん、制作業務などを受託してくださっている外部の事業者さんにとってもありがたいです。
やりとりという点では、事業者さんとの打ち合わせについてはZoomなども適宜活用しています。制作実務に関する打ち合わせではWEBサイトの仕様や画面構成などの話が多く、画面を共有して一緒に操作を確認することで話が進みやすくなることも多いです。
我々はWEBの制作に詳しくないので、利用者の方から見た使いやすさなどの点で気がつかないことなどもあります。そうした観点、例えば文字サイズであったり、スマートフォンでの表示などについても李さんがきめ細かく見てくださり、制作を担当する事業者さんに確認してくださる場面も多く、とても助かっています。
今回のプロジェクトでは、李さんのお力添えをいただきながら、岡山の歴史にまつわる6つのストーリーを紹介する特設サイトの公開に向けて進めているところです。
外部専門人材の活用を変化のきっかけにしていきたい
赤井:2020年度に長谷川さんや安井さんに入っていただいたとき、最初に職員を対象にDXの勉強会のようなものを開いていただきました。その時間を通じて、「DXというのは大事なことなんだな」という認識が、多くの職員にも浸透したように思います。
同じことを説明するにしても、我々職員が職員に言うのと、専門家と呼ばれる方が言うのとでは、受け取る側の心境が違います。もちろんそれは、専門的な知見や説明のわかりやすさなどによるところも大きいですが、何かを提案するにしても、戦略マネージャーからすることで「通りがいい」という面は少なからずありました。
東:今年度岡山市では、我々が特設サイトを制作している以外に、観光情報に関するWEBサイトのリニューアルも進められています。そちらは別の担当者が別の事業者さんと進めているのですが、情報の見せ方に苦慮するなど、担当職員が悩んでいる場面がありました。そこに対して、李さんがいいご助言をくださったんです。
これはもう本当にお人柄によるものだと思いますが、李さんのレスポンスはいつも本当に速く、焦点を絞って的確にメールを返してくださるので、わかりやすいですし助かります。その恩恵を、私たちだけでなくほかの関連分野の担当者も受けることができ、とても感謝していました。
事業担当職員:みらいワークスさんには、さまざまな働き方、スキルを持った方が登録されています。今回、その方たちを中心に、全国の専門スキルを持った方を多数紹介していただくことができました。岡山市が単独で募集しても、全国の優秀な人材の方々の目に留めていただける機会は少なかったかもしれません。その点がまずありがたかったです。
さらに、ただ紹介いただくだけでなく、岡山市が求めている人材像にマッチする方をある程度絞り込んでご紹介していただけました。これも非常に助かりました。
我々としては、できるだけ多くの方のことを知りお話をうかがうなどしたい気持ちはある反面、多くの方の情報のすべてに目を通して一から人選をしていくのは、時間の制約などを考えてもなかなか厳しい面があります。
岡山市が解決しなければいけない課題の分野に精通している方、真摯に課題解決に取り組んでくださる方、職員に伴走してくださるような支援をしてくださる方、そうした方をみらいワークスさんが絞り込んだうえでご紹介してくださったのです。そのおかげで我々としては、必要としている人物像により近い方にフォーカスして、面接などで話をおうかがいする時間をもつことができました。
当然、みらいワークスさんの評価選考に依存するだけでなく、我々もきちんと評価したうえで選考を行いましたが、みらいワークスさんの“目利き”力は確かなものであると確認できました。
赤井:自治体はどうしても現状維持のバイアスが強く働きがちな組織だと思います。職員どうしで集まって仕事をしていると、変化のモチベーションやきっかけをなかなかつかめません。
そういうなかで外部専門人材の方に入っていただき、いろいろなプロジェクトを推進してきたことで、職員の意識は少なからず変わったように思います。それが今後さらに広がっていけば、より大きな変化を起こすきっかけになり得ると思いますし、そうしないといけないだろうと思います。
組織としては最終的に、自ら課題を見出し、解決に向けて前向きに取り組めるような組織を目指す必要があるだろうと思います。課題解決に必要な知識やスキルは、外部専門人材の方にお願いすることで調達できるというのは、すでによくわかりました。あとは、変化や課題解決に向けて動くための意識の変化を内部でどう起こしていくか、というところが肝心だと思います。
岡山市役所 DX推進戦略マネージャー 長谷川氏のインタビュー:「副業人材の活用」と「プロフェッショナルの知見」の化学反応は、地方自治体変革のエンジンになる