Profile

東京大学文学部卒業。「フリーランスを実験し、世に活かす」という活動ビジョンを掲げて自分自身を実験台にしているフリーランス研究家。新しい「事業」と「働き方」を推し進めることを生業としている。「事業推進」の分野では、スタートアップ企業から大企業まで、新規事業のディスカッション・パートナー(プロの“壁打ち”相手)として、年間30社の事業立ち上げを支援。思考の枠組みを提供したり、逆に壊したり発想を転換させたりするのが役目。また、文系フリーランスに関する実験結果を発信するメディア「文系フリーランスって食べていけるの?」を運営し、登壇も実績多数。約2,000人の日本最大級フリーランスコミュニティ「FreelanceNow」発起人であり、多彩なメンバーがディスカッションで繋がる約160人の会員制サロン「議論メシ」代表も務める。

※役職は、インタビュー実施当時(2018年6月)のものです。

FreelanceNow◆
約2,000名が所属する日本最大級の実名制フリーランスコミュニティ。さまざまなジャンルのフリーランスが集結しており、依頼できる仕事も多様。企業もフリーランスも紹介料や仲介料を完全無償で提供するセルフサービス型で、短時間で適切なパートナーにマッチングすることが可能。「仕事とつながる、仲間とつながる」というビジョンを掲げて、フリーランスにとっての新たな拠点となることを目指す。
< FreelanceNow webサイト https://freelancenow.discussionpartners.net/

◆議論メシ◆
多彩なメンバーがディスカッションで繋がる約160人の会員制サロン。課題解決の体験を通じてスキルを高め、メンバー同士のコラボで新しい仕事やプロジェクトを生み出し、キャリアの発展と自己実現をサポートする実践型のコミュニティ。オンラインだけではなく、オフラインでの活動も重視している。創設当初の名称「議論でメシを食っていく人が集まるサロン」から転じて「議論メシ」。企業向け無償ディスカッション実施中。
< 議論メシ webサイト https://www.gironmeshi.net/

※弊社、プロフェッショナル人材へのインタビュー「プロフェッショナリズム」にもご登場いただきました。
『日本最大のフリーランスコミュニティの発起人が語る「フリーランスの未来」』

2,000人のフリーランスを抱えるコミュニティ「FreelanceNow」を率いる黒田悠介さんは、フリーランス研究家を名乗り、フリーランスの働き方を考えています。その根底には働き方の多様性を高めたいという思いがあります。一方で、「ディスカッション・パートナー」の肩書で、考えが煮詰まった企業経営者の「壁打ち」相手として自分の知見を提供し、ディスカッションに自信のある人を集めたコミュニティ「議論メシ」でチームでの企業訪問も行なっています。

ユニークな肩書と働き方を実践する黒田さんは、どのように仕事をしてきたのでしょうか。キャリアとフリーランスのコミュニティについてお話をうかがいました。

 

経営者を経験後、「フリーランス研究家」に至ったわけとは

黒田さんはいわゆるサラリーマンをされたこともあるようですが、なぜフリーランスになられたのでしょうか。

黒田さん(以下、敬称略):東大を卒業後、まず社員数100名くらいの会社に入社しました。大学で「行動心理学」を学んでいたのですが、これを「購買心理学」に置き換えたらモノを買う人の心の動きがわかるのではないかと思い、マーケティングの会社を選びました。ある時、新規プロジェクトが立ち上がることになり、その立ち上げメンバーに手を挙げました。そのプロジェクトでは、今でいうバズマーケティングのような業務を担当しました。2年半くらい働いたのち、退社しました。

2社目に入社した会社は、10名くらいの規模の企業でした。そこでもマーケティングを担当していたのですが、26歳の時にweb予約システムを事業とする子会社を立ち上げることになり、その代表を務めることになったのです。当時、レストラン予約では「一休」、旅行予約では「楽天トラベル」などがありましたが、その子会社ではゴルフなどのアクティビティに関するサービスを予約できるプラットフォームを開発しました。結果的に、年間で百数十万人もの方々に利用していただけるモデルに成長させることができました。その後この会社は売却したのですが、正味2年くらいのこの期間、会社経営を経験したわけです。

この時会社を経営して感じたのが、「お金があっても人がいなければなんともならない」ということです。人がいないと事業が拡大できないのです。「カネ」よりも「ヒト」なのだと思いました。そこで、ベンチャースタートアップの企業に新卒の人材を送る会社で、キャリアカウンセラーを2年間ほど行ないました。「できたばかりの会社を大企業にするのが優秀な人の仕事だ」という考え方を就活生に説いて回りました。2年間で2,000人近いと話し、それが自分の中での転換点となりました。

彼らとの会話の中でフリーランスについての話題もよく登場しました。でも「フリーランスってどうですか?」と聞かれても、自分はフリーランスのことを知らないし、わからないのです。会社員も会社経営もベンチャーでの事業も経験したけれど、フリーランスの経験はなかったので「まずい!」と思いました。これではキャリアカウンセラーとしては完全体にはなれないと感じ、2015年の8月に会社を飛び出してフリーランスになりました。

だからフリーランス研究家を名乗っていらっしゃるのですね。

黒田:フリーランスの研究がしてみたかったのですが、実際に自分でやってみないとわかりませんよね。私を含めた皆さんに言えることですが、自分の立場から良し悪しを話しますからね。じゃあ自分がフリーランスになってみようと。

私もみらいワークスを立ち上げる前は、一人会社を立ち上げて、フリーコンサルタントとして活動していました。「日本を元気に」というテーマで起業したのですが、どんな事業で日本を元気にするかを試行錯誤しており、フリーコンサルタントとして稼いだお金を新規事業に費やし、失敗してはまたフリーコンサルタントとしてお金を稼いでの繰り返しでした。そのうちに、フリーランスになる人が増えている一方で、仕事を獲得できていない人も多いと気づき、自分が営業して獲得した案件をその人達にパスして参画してもらう事が増え、事業モデルが出来上がっていきました。

黒田:フリーランスになってみてわかったことが多いですね。今、私がやっていることは経営者の壁打相手みたいなもので、肩書は「ディスカッション・パートナー」にしています。顧問や相談役に近いのですが、イマドキっぽくしたかったのでこのように名づけました。

もともとwebディレクターのお仕事が多かったのですが、フリーランスでwebディレクターとして活動するのは自分には向いていないと思いました。上流工程のディスカッションだけが好きで、ディレクションは得意ではなかったからです。そこで、上流工程だけを仕事にしてしまおうと思って「ディスカッション」を選択しました。また、一緒にディスカッションして答えを見つけましょうという意味で「パートナー」としました。

誰かが勝手に名乗ったものが職業として成立し得るようになるまでの過程を実験してみたくて、まず自分で名乗ってみたのです。コミュニティをつくったのはその延長線上で、1人だと自分が名乗っているだけで終わってしまいますが、100人、あるいは1,000人となれば肩書っぽさが出てきますし、

エージェントが「フリーランスのディスカッション・パートナーがいるんですよ」と言うようになれば、その時点で仕事として認知されているといえます。それで発案者として名乗り始めたのです。いま、同じようなスタンスで仕事をするような人も出てきていますが、まだ数十名といった段階です。ただし、マーケティング、人事など、それぞれ得意領域のマーケティングパートナーを名乗ってそれを価値にしている人は増えてきています。

 

雑談で課題を解決し次の仕事につなげる

私がコンサルタントをやっている時は壁打ち相手が必要だったので、そこにいない専門家を呼んできてディスカッションをしていました。プロジェクトの構想などを考える時には必要な人材です。けれども、世の中にその必要性を訴えるのは難しいとも感じます。

黒田:この肩書で食べていけるのか、と時折聞かれます。営業はどうするのかといったことも課題として出てきます。そのあたりの話は避けて通れません。そこで、一緒に食事に行って雑談の中で自然に相手の課題を解決する、といったことを意識的に行なうようにしました。そうすると雑談がいつのまにかディスカッションになり「黒田さんと話していたら問題が解決しました」となるのです。そういった機会を一度作ってしまってから、仕事でもやっているということを伝え、「ではお願いします」と次回以降につなげます。ですから、すべての会話が実は営業でもあり無料体験版になっているのです。雑談から始まってそこから自然とディスカッションになり価値を感じてもらうことで、2回目以降は「じゃあ黒田さんお願いします」というように、本格的な受注につなげているのです。

マーケティングやプロモーション活動を行うことで効果が上がる仕事ではないので、地道に人に会ってアピールしまくって「価値があるかも」と思ってくださった方からお仕事をいただきます。もったいぶらずに、最初から全力を出します。課題との相性もあり、事前に価値が出せるかどうか不安な時もありますよ。それでもとりあえずやってみることにしているんです。それで「もう一度希望されますか? 希望されるならこういう仕事もしているので」とお話ししてみます。仕事としては、1時間2万円~4万円で、大体2時間ワンセットくらいで承っています。「●●ディスカッション・パートナー」という肩書が認知されてくるようになったので、ぜひ増やしていきたいと思っています。

みらいワークスでも、ランチや懇親会など、ラフな会で親睦を深めていた方と、しばらく経ってから弊社のお手伝いをしてくれるようになった経験があります。

黒田:私はヒアリングをして資料を持ち帰って、というタイプではありません。あまりそこに価値を感じませんし、得意でもありません。瞬発力を武器にして、短時間で妥当な問いと答えを出すのが得意です。リアルタイムで頭の中にフレームワークを作り、構造化して「こうですね」と問いかけてお互い一緒に考え、終わる頃には結論が出ているのです。事前のリサーチはせずに、その場で考えてやっていきます。

 

多面性のあるキャリアがディスカッション・パートナーを作った

今までのキャリアで経験してきたことは今の仕事にどのように活きていますか。

黒田:新規事業の開発の部署に入った時は、メンバーとして事業に携わりました。そこから転職を経て経営者として事業を立ち上げた経験、そのあとキャリアカウンセラーとして採用コンサルを経験したので、人的な問題点について考えたこともあります。ファイナンス以外の色々な立場から事業を見た経験があるので、大体のことはお話しできるということで、相談役的な立場になっていました。

最初は新規事業の話をしに行ったつもりが、実は新規事業のアイデアが出てこない組織だという話だったか・・・と思えば、新規事業のアイデアが出せるような人が出てくる制度や採用の話になるなど、話題がどんどん変わります。今は組織についてのさまざまな話の壁打ち相手にはなっている状態です。「新規事業ディスカッション・パートナー」と名乗っていた時期もありましたが、現在は「新規事業」は外しました。

私は、年間で30社くらいとお取引させていただいています。現在は7、8社並行しています。相手は会社の代表の方で、大手企業の場合は事業の代表や子会社の社長さん、プロジェクトのオーナーさんです。3、4割が大手企業ですね。ITソリューション系の企業では「シーズ発信で物を作っても、高い精度でこんなことができる、でもニーズはどこだろう」という相談があり、「じゃあこういう現象が世の中で起きているので、そこにはこれが使えるのでは?」と事例を挙げながらお話ししました。

 

「マネタイズ」ではなく「トラスタイズ」するコミュニティ

ご自身でフリーランスとして活動されながら、フリーランスのコミュニティも作っていらっしゃいますが、これはいつ頃からですか。

黒田:去年の2月からなので1年半くらいになります。「フリーランスを紹介して欲しい」と言われることが増えて対応が大変だったので、「フリーランスのプールを作るので案件を投げて探してください」という感じで作ったのが「FreelanceNow」です。誰でも登録はできるのですが、念のため私がフェイスブックアカウントを一人ずつ確認し、審査しています。依頼はGoogleフォームからいただいて、それがグループに載る仕掛けですので、私は何もしていません。企業が投稿したものに「『FreelanceNow』で見ました」とフリーランスの方が直接連絡をします。

最初はほぼ知り合いが登録していて、約100人程度でしたが、とても速いペースでメンバーが増え、もうすぐ2,000人に達します。広がり方はすごくシンプルです。お金は取っていません。仕事が集まるところにはフリーランスが集まり、フリーランスが集まっていると企業の方が案件を発注できると考えます。雪だるまを転がしたようにどんどん人が増えており、案件と人がループし続けていますね。案件も依頼が来たものがほぼ自動的に投稿されるシステムなので、手を掛けなくてもコミュニティが広がり続けてくれます。

コミュニティではマネタイズをしていませんが、トラスタイズ(trust:信用を獲得し絆を深める)している感じですね。色々な人からの信頼と感謝のためにやっています。年間250件くらい依頼があるので、マッチングして企業とフリーランスからの感謝、“信頼残高”をためて、なにかあれば手伝ってくれるフリーランスをたくさん獲得している、といったような状態です。

フリーランスの選別は企業側が自己責任でやるということですね。

黒田:その点は、今後ブロックチェーンで自動化されたり、個人で情報提供したりするものになっていくと考えています。企業が行なうか、フリーランスがブロックチェーン上に情報を記録させて「これです」と出すようになるでしょう。ですからそこは全て企業におまかせしています。

フリーランスのコミュニティによって、意味のある仲介者だけに残ってほしいと思っています。仲立ちするだけの業者さんもいますが、その人たちは価値を出さなければ淘汰されるでしょう。また、この活動は自分の研究欲を満たすためでもあります。ここの状態を見て、「フリーランスはこういう風にマッチングするのだな」とか「こういうことが起きるのだな」という事例を目の当たりにできるので、研究の材料となっています。

< 後編:フリーランスコミュニティは壮大な実験 あえて法人化しない理由がある