諸外国の副業の現状・日本の労働市場における副業の位置づけ

2025年現在、副業はもはや単なる「個人の自由」や「許可・不許可」といった問題の枠を超え、企業の人的資本経営やキャリア自律支援において欠かせない戦略的な要素となっています。

来たる2027年の労働基準法改正は、企業がこの変化を単なる規制への対応として捉えるのではなく、自社の成長を加速させる最大の機会として活用するための大きな転換点となるでしょう。

本コラム特集では、未来志向の副業制度を構築し、企業と個人双方の可能性を最大限に引き出すための具体的なステップを解説します。

まずは、副業をめぐる社会的な現状や、企業が直面するメリットとリスクを体系的に整理し、戦略的な副業推進の必要性について掘り下げていきます。

本特集の1・2は、副業の時流の概観と具体例、制度構築のポイントについての内容でした。

今回は、企業での制度構築において参考になると思われる国外の副業の状況について考察し、副業制度をどう捉えればよいのかを考えたいと思います。2025年の現在、人的資本経営の実現やキャリア自律支援が企業に求められる中、副業・兼業は経営・人事面で重要な施策であると言えます。

加えて、2027年4月に施行が予定されている労働基準法改正では、副業・兼業時の労働時間通算規制の柔軟化が図られる見通しとなっています。雇用に関する制度が変遷する中で、特に副業に関しては「副業は欧米や諸外国、特に米国は副業が進んでおり、日本は遅れている。今後はギグワーク(単発的な業務の受託)の社会が到来する。副業やパラレルキャリアの進展こそが未来の働き方なのだ」というような論調をしばしば目にしますが、こうした情報は本当なのでしょうか。

結論として、「副業について日本は遅れており、副業が盛んになることこそが未来社会なのだ」というような認識は、必ずしも正確ではないのではないかと考えられます。副業の背景となる雇用制度は各国の文化や法令、社会の状態と不可分の事象であり、また決して日本が一方的に遅れているわけでもありません。国際的な情報を考察した上で、どのような部分について参考にする必要があり、施策立案の元となる認識をどのように持つのが良いのかを考えたいと思います。

 

欧米の副業の状況

副業・兼業の実態調査(諸外国における副業・兼業の実態調査-2019年4月JILPT)(*1)によれば、イギリス・フランス・ドイツ・アメリカにおける複数就業者の数はドイツを除いて近年は減少傾向であり、就業者全体に占める割合として4~7%の間であり決して高いものではありません。

日本において2025年現在、副業をしている人の割合は、全就業者に対する複数の仕事をしている人の割合、企業就業者の中での複数個の収入を持つ人の割合、などさまざまな集計の定義があり、調査によって割合も違いますが、それぞれの定義で6~10%程度の割合となることが多いため、現時点でも日本の方が高い可能性もあると言えます。

この事実だけを見ても「海外では副業が日本よりも進展している」という理解は正しくないということもできると思います。

欧米各国の副業に関する法令解釈や制度の状況

次に、欧米各国の副業に関する法制度についてみていきます。

この点、日本の法律では、副業は私的時間に行われるものであり、原則として企業の指揮命令権がおよぶのは業務に関してだけであることから、副業の一律禁止は認められないという判断が、判例においてはよく行われてきました。ただし、企業において副業禁止とする慣行があると言え、政策に基づいて、それを捉え直す過渡期であると言えます。

フランス、ドイツ、イギリスなどの大陸欧州諸国は、伝統的に手厚い雇用保護法制(EPL)を持つことで知られています。この法制の下では、労働者には本業の雇用主に対する忠実義務(Duty of Fidelity)が強く求められます。フランスでは労働協約や雇用契約により副業を基本的に禁止することが可能です。

ドイツやイギリスにおいても、競業避止などの合理的な根拠があれば副業を制限する条項を雇用契約に盛り込むことが可能です。理由を問わない一律の全面禁止は認められないものの、本業の雇用主の権限が強く働く構造があります。

日本の労働法制は、第二次大戦後に手厚い雇用保障が進展した結果、解雇法制の観点から見れば、フランスやドイツと同じくEPLが厚い国家の傾向を持つと評価されます。日本の判例は副業の一律禁止を認めない傾向にありますが、これはフランス型の強い規制と、ドイツ・英国型の制限付き許容の中間に位置するか、むしろ後者に近い「副業が促進されているタイプ」の法制度にあるという分析は引き続き妥当です。この分析は、日本が既に欧米と比較して制度的に遅れているわけではないことを示しています。

これに対して、アメリカについては特徴的で、副業・兼業の可否は法的に規制がなく、本人の判断で自由に行うことが法令上も実務上も当然に認められている状況です。また特筆すべきこととして、アメリカは労働時間の上限規制がなく、副業者の残業代についても副業者の労働時間の合算についても事実上運用されておらず規制がない状態です。しかしアメリカの副業者の割合は高いわけではなく、調査によれば5%程度(*1 p39)です。よって、自律決定を重んずる文化から、少数の例外的な働き方にまで規制を及ぼしていないのだという見方もできます。

以上から考察しますと、欧米では決して一律に副業を促進するような制度になっているわけではありません。現在の日本の判例や制は、欧米との比較においては、既にどちらかというと副業が促進されているタイプの法制度になっているのではないかとも言えます。アメリカは制度としては副業に対しての制限はありませんが、副業者の割合的が高いわけではありません。

欧米各国の副業を行う理由について

次に、副業を行う理由や就業の背景について見ていきたいと思います。

欧州各国での副業を行う理由については、複数就業者の本業と副業の平均賃金や、副業における職種等からの推測、さらに定性的な調査により、主として経済的な理由によって、収入補塡(ほてん)のために行われている副業が多いと推測されています。

やや古い調査になりますが、アメリカの2004年の調査(*1 p42)では「副収入のため」が38.1%、「支払いもしくは借金返済のため」が25.6%となっており、これらの経済的な理由が大きな割合を占めます。「起業もしくは別の仕事の経験のため」は3.7%とわずかであり、かつ、1997年の調査の7.7%から減っています。ただし、アメリカの別の調査(*2)からは、WEBを通じたギグワーク(単発的な業務の受託)に触れたことがある若い世代の割合は増えており、さらにそういう仕事を行う若い世代のITのスキルレベルが非常に高いという情報もあります。

副業推進において「技術の向上・イノベーション推進・キャリア形成の意味合いでの副業」は、欧米において多いとは言えず、数量的には収入の補塡としても意味合いが強いものが多いものであると言えます。

アジアにおける副業の状況

アジアの動向については、国や政府の施策についての資料は少ないものの、アジア関連のレポートやブログ記事などから、リアルな副業事情について予測は可能です。

アジア地域の動向をみると、フィリピンでは「現在の職場で追加の仕事をしたい、あるいは追加の職業を得たい、あるいはより長い労働時間で新しい仕事をしたいと望む人」と統計局から定義されている「不完全労働力」と称している人たちがギグワーカーとして仕事をしているとの情報がありますし、タイ・ベトナムなどでも副業をするのはごく自然なこととして捉えられているようです。中国などでは、会社員であると同時に自分の法人を持っているというビジネスマンも多いようです。また、各国とも副業への規制はあまりないようです。

どういう視点から副業を語るかにもよりますが、労働観や仕事観というところにも注目してみると、単なる収入増を見込む以上の仕事、つまりビジネスをすることへの積極性を見ることができます。アジアの国々では、さらに成長していくために、貪欲で仕事に対して積極性があり個人レベルでやれる事業を見つけてチャレンジしている印象が強いことが伺えます。(アメリカでもそういう意味では、その精神性は強そうです。)

ギグエコノミー・デジタルプラットフォームワークにおける働き方について

ライドシェアやフリーランスマーケットプレイスなど、デジタル労働プラットフォームは急速に成長しており、2033年までに市場規模は2兆1,450億ドルに達すると予測されています。こうした業務は、特に収入補塡的な意味合いでの副業において認識されることが多く、またギグエコノミーの代表例であるとされています。

こうした新しい働き方に対し、国際機関は規制強化の方向へと明確にかじを切っています。国際労働機関(ILO)は、2025年の第113回国際労働会議において、「プラットフォームエコノミーにおけるディーセント・ワークの実現」に関する基準策定を進めています。多くの加盟国および労働者団体は、強制力を持つ条約(Convention)と補足的な勧告(Recommendation)の採択を強く支持しており、デジタルプラットフォームワーカーが他の労働者と比較して「より不利ではない(no less favourable)」保護を受けるべきだと主張しています。

この議論は、プラットフォームワーカーの適切な雇用関係を確保するため、加盟国が法制度を見直し、必要に応じて適応させることを求めています。欧州連合(EU)においては、上記の方向性を完全に援用し、さらに厳格な「プラットフォームワークにおける労働条件改善指令(Directive (EU) 2024/2831)」を採択・施行しました。プラットフォームとワーカーの関係を「雇用関係」と推定する仕組み「反証可能な雇用推定の原則(Rebuttable Presumption of Employment)」の導入です。プラットフォームがワーカーに対して、報酬水準、外見や行動の規則、電子的手段による監視、労働時間やタスク拒否の制限、第三者との取引制限など、5つのコントロール基準のうち2つ以上を満たす場合、そのワーカーは従業員(Employee)であると推定されます 。   

現在進んでいる日本における労働基準法の改正議論でも同様の、労働者の保護範囲を広げる議論がなされており、 副業兼業・自律的な働き方については、単に自由を重視するだけではなく一定の保護基準を及ぼすべきという論点も重要なことが分かります。

総括と、日本の企業や個人としてわれわれが持つべき視点

今までに見た内容から「日本は副業について国際的に遅れている・副業が行われているのが未来的な社会だ」などということは、少なくとも海外の状況からただちに推測されるわけではないと思います。

また、副業の進展した国においては、それが発展途上であるからなのか、文化や政策なのかはそれぞれですが、一応共通した要素として、労働法制上の雇用保障についての制度整備があまりなされていないという特徴があります。現在の日本の労働法制は、全世界的に見た時には、第二次大戦後に雇用保障が手厚く進展したことにより、解雇法制が手厚くなった部分が大きく、フランスやドイツなどと同じ傾向を持つ国であると言えます。

しかし、それでは副業についての先進モデルが海外にはあまりないからといって、進める意義や価値がないのかと言えば、決してそういうことではないと思います。副業とは、上記のような国際的な状況を前提として捉えた時に、まさに過渡期だからこその社会的な「挑戦」であるという側面が一層見えてくるのだと思います。

経済産業省から2017年に発行された 「兼業・副業を通じた新事業創出に関する調査事業 研究会資料」によれば、日本国内においては、副業者から事業設立に向かう割合が高く、さらに産業の中で経済成長のもっとも著しいセグメントが新規開業された事業だとのことです。そのため、副業率を高める社会的な意味があるのだ、ということが最初に述べられています。また、2021年4月施行された高齢者雇用安定法では、70歳以上の方の個人事業主化の促進が、努力義務とされる選択肢の中の1つとされていますが、これも高年齢者の個人のキャリア形成上有効な働き方の1つの形態として、さまざまな事例の研究の上に作られた制度です。

日本においては、「高度成長期型の日本社会の働き方・生き方」の弊害が久しく指摘されています。これは、一社の企業に所属し、サラリーマンとして長時間労働を行うスタイルです。こうした中で、全世代がいつからでも主体的に労働に参画できる「多様な働き方」の実現が目指されています。副業も、その多様な働き方の一つとして位置付けられるでしょう。

本稿で既に確認したように、日本は国際的に見ても、社会的な雇用保障が比較的厚い制度を持っています。私たちは、そうした制度の長所は生かしつつ、新しいモデルを目指すべきではないでしょうか。アメリカやアジアの国々に見られるような、自身のキャリア形成やビジネスへの挑戦も可能とする新しい働き方です。このような姿を志向することが、日本の社会にとって良いと考えられます。

そして、副業も含めた、新しい多様な働き方の形が実現されていく中で、社会の発展と少子高齢化の構造的な解決があるのだと思います。副業制度についても、何かある決まった形を目指すのではなく、それぞれの企業や個人で工夫をし、最も効果の高く意味がある副業の制度や事例を創出していくことが必要なのではないでしょうか。

*1 諸外国における副業・兼業の実態調査-2019年4月JILPT
https://www.jil.go.jp/institute/siryo/2018/documents/201.pdf
*2 米国のギグエコノミー – 統計と事実
https://www.statista.com/topics/4891/gig-economy-in-the-us/#topicOverview

 

次回は、「副業の労働時間通算制度」について詳しく解説します。

<連載コラム>
第1回:副業制度の考え方
第2回:副業申請制度の考え方/作り方
第3回:諸外国の副業制度の実態 ★今回
第4回:副業の労働時間通算制度 ★次回
第5回:副業の社会保障制度等