人口半減への危機感が生んだ「移動最適化都市」への挑戦。自治体初の Uber 連携スキームに見る、持続可能な新規事業の作り方

加賀市
政策企画部 企画課 課長 兼 国家戦略特区室
細野 幸司 氏

加賀市
政策企画部 企画課 企画調整グループ リーダー
松木 俊彦 氏

石川県加賀市
石川県南西部に位置する加賀市は、山代・山中・片山津からなる「加賀温泉郷」を擁する有数の観光都市です。2024年3月には北陸新幹線加賀温泉駅が開業し、広域からのアクセスが向上しました。「デジタル田園健康特区」の認定を受け、公共ライドシェアの導入や貨客混載の実証、行政手続きのDX化や顔認証による「スマートパス」、医療データの利活用、ドローンなどの新産業創出など、デジタルと規制緩和を武器に「暮らし」と「産業」の両面から地域存続に先駆的に挑んでいます。

新規事業の立ち上げにおいて、多くの自治体が直面するのが「既存事業者との調整」と「スピード感」の両立です。石川県加賀市は、北陸新幹線の加賀温泉駅の開業という節目に合わせ、世界最大のモビリティ配車プラットフォーム「Uber」を活用した「加賀市版ライドシェア」をわずか3カ月で社会実装しました。

新駅開業という期限に加え、能登半島地震への対応も重なる中で、いかにしてプロジェクトを前進させたのか。立ち上げを主導した細野幸司氏と、現在の運用を担う松木俊彦氏に、現場のリアルな葛藤と「移動最適化」への展望を伺いました。

タイムリミットは3カ月後。新幹線延伸と能登半島地震、二つの困難に立ち向かった舞台裏

まず、お二人の役割とプロジェクトの立ち上げ時期について教えてください。

細野(写真左):立ち上げ当初は私が関わっていましたが、2024年度は別のプロジェクトに移っていたため、実際の運用フェーズは松木が担当していました。企画が動き始めたのは「移動最適化都市、加賀市」を掲げた2023年11月頃、サービス開始は2024年3月です。

11月に検討開始で3月導入とは、スピード感がありますね。

細野:背景には、2024年3月16日の北陸新幹線延伸・加賀温泉駅開業という明確なタイムリミットがありました。お客さまをお迎えするにあたり、「観光二次交通(駅から観光地への移動手段)」をどう担保するかが市の大きな課題でした。当時、市内のタクシー台数は不足しており、いかにして観光客の足を確保するかという課題解決のため、このライドシェア導入に踏み切りました。

ただ、その準備期間中の2024年1月1日に能登半島地震が発生しました。われわれも被災対応に追われ、結果的に観光客の出足は想定より静かなスタートになりましたが、新幹線開業に合わせて「お迎えできる体制」だけは何とか整えた、というのが実情です。
改めて、事業の概要と背景にある課題について教えてください。

松木(写真右):一番大きな背景は、多くの自治体と同様に「人口減少・少子高齢化」です。1985年頃は約8万人いた加賀市の人口は、2040年には約4万人強になると予測されており、50年間で半減してしまう危機的な状況です。高齢化が進むと、マイカー依存が高い地方都市でも、より利便性の高い公共交通が求められます。しかし一方で、担い手となるドライバー自体が不足し、減っているのが現状です。

加賀市にはJR、乗り合いタクシー、路線バス(観光用・幹線用)、そしてタクシー事業者4社が存在しますが、新幹線開業で観光客が倍増するという予測がある中、既存の交通だけでは受け入れきれない「オーバーツーリズム」的な問題が懸念されていました。当初は、こうした「観光目線での足の確保」が大きな目的でした。

そこで、2023年12月に国の制度改正(自家用有償旅客運送の規制緩和)があったタイミングを捉え、市の課題解決と国の動きを掛け合わせて公共ライドシェアに取り組むことになりました。

兵庫県養父市や京都府京丹後市の事例を参考にしながら、事業スキームを設計しました。事業主体の加賀市観光交流機構がドライバーと委託契約を結び、タクシー会社の加賀第一交通が運行管理を行い、利用者は Uber のアプリで手配します。

「民業圧迫」の懸念を受け止め「地域共創」へ。タクシー事業者のノウハウと市民の力を掛け合わせた独自モデル

Uber Japan が初めて自治体と提携するという点で注目されました。

細野:短期間での立ち上げと安定稼働は、 Uber なしでは成り立たなかったと思います。

松木:既存のアプリをそのまま使えるため、開発の手間が省けたことも短期間で実現できた理由です。実績あるシステムなので、大きなトラブルもなく運行できています。

細野:運行管理は加賀第一交通に委託していますが、第一交通グループで、すでに Uber を導入していた実績があり、システムへの親和性が高かったことも、スピード感を持って進められた要因の一つです。

プロセスとして、地元の交通事業者との調整は大変だったのではないでしょうか。

細野:「ライドシェア」というと、事業者さんからすればいわゆる「白タク」行為にあたるため、懸念されることを想定していました。私どもは「タクシーが撤退してはそもそもの市の課題が解決しない」という前提のもと、「あくまでタクシーを補完するものとして導入する」と丁寧に説明を重ねました。事業者さんもドライバー不足や配車不能の課題は持っていらっしゃるので、一定のご理解をいただいた上で、加賀市版(公共)ライドシェアとしてスタートしました。

ドライバーはどんな方々がいらっしゃるのでしょうか。

細野:当初は50名を目標に募集し、面接を経てスタート時は25名、現在は追加募集を経て35名が登録しています。多くは一般の「一種」の運転免許を持つ方なので、国が定める講習を受けていただきました。

もちろん手当は発生しますが、単なる「副業」の意識だけではなく、「自分たちの地域をなんとかしないといけない」という地域貢献への思いのある方に、ご協力いただけていると感じています。

利用状況はいかがですか?

松木:当初は月数十件でしたが、現在はコンスタントに月200件以上利用されており、順調に伸びています。特徴的なのは、利用者の約4割がおそらくインバウンド(訪日外国人)である点です。自国で使っている Uber アプリをそのまま日本で使えるため、ハードルが低いんです。

運行エリアや時間の拡大についても教えてください。

細野:利用者の要望を受け、金・土曜日は深夜2時まで運行時間を延長しました。また、隣接する小松市の小松空港からのアクセス需要に応えるため、運行エリアを拡大しました。

「人も郵便も運ぶ」新たなインフラへ。日本郵便と連携した貨客混載実証が示す、ドライバーの隙間活用術

2025年度は「貨客混載(人と郵便物を運ぶ)」の実証実験も行われたそうですね。

細野:国土交通省の「ドライバーシェア推進協議会」の実証事業の一つとして、日本郵便と連携し、2025年3月から6月末まで実証運行を実施しました。ドライバーがお客さんを乗せていない「隙間時間」に郵便局の荷物を預かって配送するという仕組みです。この間は、日本郵便と契約したドライバーとして活動します。

課題はありましたか?

細野:料金設定の問題や、今回は実施しませんでしたが「人と荷物を同時に運ぶ場合」の課題が見えてきました。例えば、もし大きな郵便荷物が積まれていたら、インバウンド客のスーツケースが載らないといった物理的な問題や、個人情報管理の問題などです。これらの課題を解決していくために継続して三者で協議を重ねています。

目指すは「移動最適化都市」。市民も観光客も「どこへでも簡単・便利に移動できる」社会の実現へ

今後のビジョンをお聞かせください。

細野:加賀市版ライドシェアは定着しつつありますが、拡大ありきではなく、タクシーなどの民業圧迫にならないよう、需給バランスを見ながら調整していく必要があります。目指しているのは「移動最適化都市」です。市民や観光客の誰もが、どこへでも簡単便利に移動できる交通体系を実現したいと考えています。

最後に、他の自治体や新規事業に取り組む方へメッセージをお願いします。

細野:加賀市のスキームが成功している要因の一つは、 Uber アプリを活用することでランニングコストを抑え、持続可能な仕組みを作れたことです。独自アプリを開発・運用すると年間数千万円規模のコストがかかり、自治体の負担になりますが、この方式なら実装コストを抑えられます。新しいことを始めるには苦労もありますが、地域の住民のための課題解決という軸をしっかり持っていれば、やりがいはあります。

松木:視察や取材を受けることも多く、内外からの期待に応えていかなければいけないと感じています。これからもよい道を探して進んでまいります。