スタートアップと大企業との協業を成功させる重要な視点

スタートアップの技術や知見を活用して、新規事業を生み出そうとする取り組みが大企業に広がっています。ただ、親和性があるスタートアップと大企業が連携しても、新たなサービスを立ち上げてみたら失敗に終わったという事例があるのも事実です。スタートアップと大企業の協業を成功させるには何が重要なのか。

スタートアップと支援者をつなぐプラットフォームを運営するSMBCグループと東京都の事例をもとに、スタートアップを支援する際の課題とその乗り越え方についてお伝えします。

(この記事は、2024年2月6日に開催した『プロフェッショナルの祭典2024』パネルディスカッション5「スタートアップと各プレーヤーが果たすべき役割~様々なプレーヤーが連携して推進するスタートアップへの実戦的な成長支援とは~」をもとに構成しています)

「霧がかかった黄金の国」状態の東京都

「日本のマーケットにも、東京のスタートアップにも興味がある。ただ、どういったスタートアップなのかが具体的にわからないから投資しづらいという海外の投資家の声が多い」と、東京都スタートアップ・国際金融都市戦略室スタートアップ戦略推進担当部長の片山和也氏は話す。

東京都はスタートアップが育つポテンシャルがある。たとえば、GDP都市ランキングは世界でもトップクラスに位置し、2021年Fortune Global 500企業の本社数ランキングは世界3位、2022年世界の都市安全性指数ランキングは世界1位、2022年ミシュラン星獲得店舗数ランキングは世界1位だ。渋谷、新宿、本郷、虎ノ門、品川など多数のエリアに、経済団体や金融機関、投資家、大学などスタートアップエコシステムを構成するさまざまなプレイヤーがいる。加えて、金融分野におけるフィンテックや広告分野のアドテックなど、既存産業とテクノロジーを掛け合わせたクロステック スタートアップも出現している。

「それぞれのエリアでエコシステムが構築されていて、独立して運営されているので全体像が見えないんですね。海外から見ると、“霧がかかった黄金の国ジパング”状態。これを見える化する必要があると考えています。見える化の第一歩として2024年5月、点在するエコシステムをつなげていく場所としてTokyo Innovation Base(TiB)を有楽町にオープンしました。ここに大企業や大学、行政とスタートアップが集まり、情報を持ち寄ってネットワークを広げていくことができたらと考えています」(片山氏)

スタートアップが加速度的に成長する条件

三井住友銀行の成長事業開発部企画開発グループ上席推進役の滑川広治氏もまた、片山氏と同様に「手にした情報を広げるときに、見える化することが大事だ」と言う。

三井住友銀行、SMBCベンチャーキャピタル、SMBC日興証券というSMBCグループでは、スタートアップを中心に産官学金で運営するスタートアップエコシステムプラットフォーム「未来X (mirai cross)」を2021年8月に設立している。スタートアップの成長支援は、資金調達だけではうまくいかない。そこで、協業サポートや取り組みをPRする事業会社パートナー、新サービスやソリューションの開発・提供を行う連携パートナー、国や地方公共団体・アカデミアなど約600社、1200人超(2022年12月時点での未来X Eventhub登録者)を巻き込む形で支援できる形を構築した。

未来X(mirai cross)で具体的にやっていることは3つある。アクセラレーションプログラムと協業サポートプログラム、セミナー・イベント開催だ。なかでも2016年に開始して8年ほど継続しているアクセラレーションプログラムは、ディー・エヌ・エー創業者の南場智子氏による「志・リーダーシップ研修」など年々、工夫しながらアップデートしてきた。

アクセラレーションプログラムを提供して終わり、ではなくスタートアップと、事業会社パートナーをつなげるところまで目指す。未来X(mirai cross)の事業会社パートナーには、キーエンス、シスメックス、新日本空調、東急不動産ホールディングスなど名だたる大企業が並ぶ。これら事業会社がどういったキーワードで新規事業創出したいと考えているのか聞き、ニーズにあったスタートアップと引き合わせる。

「協業サポートプログラムをやってきて実感していることがあります。それは、1スタートアップと1事業会社ではなく、1スタートアップと複数の事業会社という掛け合わせが事業を拡大させるということです。たとえば、建設業の事業会社がすでに投資しているスタートアップで進んでいる事業の話を聞いた不動産業の事業会社が、それなら僕たちは別の部分で支援できるかもしれないと考え協業する。違う切り口から次々とアイデアが出てくることで、スタートアップは加速度的に成長していく可能性があるなと感じているところです」(滑川氏)

エコシステム構築の大きな壁

スタートアップと事業会社を結びつけるだけでなく、事業会社パートナー同士も横串を刺してつなげていく。そのなかで滑川氏が難しいと考えているのが次のようなことだ。

「どういうことをやっていて、どこに強みがあって、どういった業種の方々と組めばシナジーが具体的に発生するスタートアップなのか、これを広げていく必要があります。ただ、伝言ゲームでやっていくと途中で情報が止まったり、曲解されたりする。どうやって客観的な視点を持ちつつ、みんなで共有できるかが重要だなと感じます」(滑川氏)

この「情報発信と共有の難しさ」を片山氏も実感中だ。

「スタートアップも大企業もビジネスをやる以上、すべてを包み隠さず公表するのはリスクもあるんですよね。自社内に抱えておかなければならない情報ももちろんあります。出すデメリットとメリットを秤にかけて、これは出す、これは出さないという判断をしていただき、スタートアップエコシステム全体をとりまとめて、東京都としてポテンシャルを世界にアピールする難しさを日々感じています」(片山氏)

この課題を乗り越えた先に、“世界と伍する”スタートアップエコシステムがある。

 

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