クラブツーリズム株式会社
マーケティング本部 営業企画部 兼 ふじみ野分室
課長 兼 分室長
アライアンスビジネス開発担当
井原 優 氏 (写真左)
2004年に近畿日本ツーリストへ入社し、約10年間、団体旅行営業を担当。その後、未来創造室で新規事業開発を推進し、2020年よりクラブツーリズムに出向。自社の強みを活かし、アライアンスを軸に地域や企業との共創による事業開発を手がけている。
クラブツーリズム株式会社
マーケティング本部 営業企画部
新規事業開発・アライアンスビジネス推進担当
鈴木 光希 氏 (写真右)
クラブツーリズム入社後、長く「趣味クラブコミュニティ型」ツアーの企画運営に従事。2016年頃より異業種企業や自治体とのアライアンスビジネス開発へ異動し、アクティブシニア層を中心とした顧客LTV向上施策やマーケティングを経験。その後は旅行軸に留まらない新規事業開発およびアライアンスビジネス開発を軸に業務に従事し、テレビ通販型旅行番組やサブスク型オンラインサービスなどの立ち上げを担当。直近は、地域とコミュニティのサステナビリティをテーマに各種実証を進めている。
クラブツーリズム株式会社
旅を通じて様々な出会いや感動、発見、学びといった「経験価値」を提供している旅行会社です。日帰りツアーから世界一周クルーズまで多岐に渡る旅を企画販売し、特に「テーマのある旅」を得意としています。
近年は、地域社会の課題解決を目指す「地域共創事業」にも注力しています。旅行事業で培ったネットワークとノウハウを活かし、地域活性化のパートナーとして貢献しています。「旅」と「文化」を通じ、豊かな人生の実現をサポートします。
https://www.club-tourism.co.jp/
企業が成長を続けるうえで必要不可となる新規事業。ビジネス環境の変化が激しい時代において、新たな事業を創出し、軌道に乗せるために必要な条件は何か、どのようなアイデアをカタチにして、どのような体制で事業化していったのかを深堀する本企画。今回は、クラブツーリズム株式会社の新規事業に注目します。近畿日本ツーリストからクラブツーリズムに出向し、新規事業を担当する井原氏と、クラブツーリズムのプロパーとして現場経験も豊富な鈴木氏。コロナ禍で旅行需要が落ち込む中、新部署が立ち上がり、既存の旅行事業を超える成長を目指す「旅行外事業」の開発を進めるお二人に、その戦略と思いを伺いました。
「旅」を手段に、アクティブシニアの生きがいと仲間づくりを支援

井原:私は元々、近畿日本ツーリストとKNT-CTホールディングスでグループシナジーを目的とした新規事業を担当していました。現在はクラブツーリズムに出向し、2020年から鈴木と一緒に新しい事業開発に取り組んでいます。私の役割は、どのような企業と何をやるのか、そして会社のリソースを活用しながら、どう発展させていくのかを描くことです。プロジェクト一つずつアジャイルで進めています。
鈴木:私はクラブツーリズムのプロパーで、現場で企画や添乗業務に携わった経験があります。異業種の方とサービス設計をする中で、もっとグループシナジーを出したいと考えていたときに井原と合流しました。旅行需要が減っていたコロナ禍で新部署が立ち上がり、新規事業開発を進めています。
具体的に、どのような新規事業に取り組んでいるのでしょうか。
井原:クラブツーリズムの事業はアクティブシニアの方々の「生きがいづくり」です。旅はそのための手段の一つと捉えています。その根底には、「仲間づくり」を大切にするクラブツーリズムの姿勢があります。子育てや仕事がひと段落すると、孤立しがちな環境にあるからです。
旅を通して好奇心を刺激し、行きたい場所へ行く中で、サークルのように同じ趣味や目的を持つ人たちが集まります。いわゆる「旅仲間」ができ、彼らとセカンドライフを楽しむ環境を社会に提供しています。私たちはお客さまとのエンゲージメントが非常に高いと自負しています。名前で呼び合えるような関係性を築いている旅行会社は多くありません。
お客さまの生涯価値(LTV:ライフタイムバリュー)を高めるためには、健康でいるために身体を動かすこと、好奇心を抱くこと、そして誰かとコミュニケーションをとることが重要です。この事業を継続すれば、私たちのプラットフォームはいずれコミュニティになっていきます。
ただし、私たちが求められているのは、旅の延長線上のビジネスモデルで収益化することではありません。それ以外の方法で収益を生み出し、「旅行外事業」を興し、成長させることが求められています。
鈴木:私が15年前に入社した頃には、すでに現在のコンセプトがありました 。もともとパッケージ旅行を買う方は、時間とお金に余裕がある方なので、理にかなっています。元々やっていたことと、社会の流れが合致してきたのだと思います。
今は「パッケージ旅行会社」として、それを作る以外に何ができるかを考えています。私は当初、自社の利益拡大のためではなく、お客さまのLTVを上げるためにできることを考えた結果が新規事業開発だったという感覚です。
日常軸や地域軸へと展開する「コミュニティの価値」

井原:クラブツーリズムでは、登山や歴史などテーマ性のある旅を企画していますが、これをどう新規事業に生かすか考えました。私たちの強みは「旅」と「シニア」をターゲットにした「趣味や旅先が共通のテーマ」です。
今回はこれを「日常軸」に変えたり、ターゲットをシニア以外の世代に広げたり、旅先ではなく「地域性」でのつながりをテーマにしました。私たちのコミュニティの価値が社会に広がり、都市部と地方のつながりにも生かせると考えています。
私たちはつながりを作ることを得意としています。企業や自治体の魅力や関係性を見聞きし、それらをつないでプランにしたり、テーマを設けてコミュニティを作ったりすることで、希薄になった地域のコミュニティを再生させたり、都市部と地方を行きかう人を作りたいと考えています。そして、地域に愛着を作りながら、地域で活躍する人ともつながり、一緒に活動していきたい。このような“共感資本を作りたい”という思いから、新しい事業を始めています 。
コミュニティの価値は社会関係資本と定義され、生きていくうえで欠かせません 。これまで私たちは「目的型」のコミュニティを作ってきましたが、コロナの影響もあり、「地域型」のコミュニティ活動は社会課題となっています。地域活性化や関係人口増加のために、いきなり移住や定住は難しい。だからこそ、旅行で一度訪れ、体験や地域の人々とのふれあいで魅力を知り、そこに行きかう人になるという点に私たちの需要があると考えました。
オープンイノベーションと「ハブ役」としての挑戦

井原:事業を加速させるため、私たちはオープンイノベーションのスタイルをとっています。自社リソースの使用や人材育成には時間がかかり、意思決定も遅くなるためです 。自分たちの強みを理解してもらったうえで、この課題を一緒に解決できないかとアライアンス企業が集まってくる状況を目指しています。
私たちは3年ほど、虎ノ門のインキュベーションセンター「ARCH」で企業や地域の方々との関係性を作り、共感を集め、そのメンバーと社会・地域課題の解決に取り組んでいます。
例えば、イオンタウンさまと連携し、商業施設内の交流スペースを運営・プロデュースしています 。旅行事業で培った企画力や、ホスピタリティの高い社員が地域の方々とのつながりを作っています。私たちがハブとなって、地域の病院やスポーツクラブなどとのつながりを作り、買い物客と体験を通して課題解決への共感を醸成する。ゆくゆくはボランティアや障害者雇用、応援購入などで支え合い、発展する社会を目指したいと考えています。
井原:クラブツーリズムは、顧客をしっかりと見ています。顧客に満足してもらうための体験を企画し、社員全員が常に顧客満足を考えている。アライアンス企業の方々はそのBtoCへの落とし込みを苦手としています。鈴木はクラブツーリズムで顧客を満足させるところまでしっかりやってきましたし、その力のある仲間も多くいます。鈴木は特に、地域内コミュニティ作りや関係性作りといった地方創生を多くやってきた力があると思っています。
鈴木:一つには、井原と私の特性によるところもあると思います。正直、オープンイノベーションは人のつながりに大きく左右される属人的なものだと、他企業との協業を重ねる中で実感しています。
私たちは、クラブツーリズムの価値をしっかりと言語化できていることが土台にあります。その価値を高めることに社会的な意味があると思っています。プロパーである私は、ずっとクラブツーリズムの中でそのようなスタンスで仕事をしてきたので、“そういうものだ”と当たり前に思っているだけです。今はそれを新しい事業に重ね合わせている感覚です。
旅行を作ることではない、「今やるべき事」

鈴木:私の場合は、まずは“形にしてみる”ことを大切にしています。もちろん無理はしませんが、取り組むからにはきちんと意味を見つけて、前に進めていくことが大事だと思っています。
井原:経営幹部との合意形成を図りながら、採算性を考えて着実に進める必要があります。
クラブツーリズムは“旅とコミュニティの力”で“シニア世代の生きがいづくり”という社会的意義のある企業活動をしてきました。さらにこの力を生かしながら、アライアンスによって企業や地域と共創し、複雑な社会課題を解決していきたい。そして自社の利益だけを追求するのでなく、社会的な価値も創出しながら、企業価値も高めるような姿勢を示していければと思っています。
鈴木:会社として、今の時点でできることにしっかり取り組んでいるというのが実感です。その中で私たちが担当しているからこそ、自然と自分たちらしい進め方になっているのだと思います。そうした意味では、ある程度“人”による部分もあります。社内でも長くクラブツーリズムに関わってきた人たちにとっては、それが当たり前の感覚として共有されていたため、あえて言葉にする機会はあまりありませんでした。
つまり、「新規事業をつくっている」というよりは、「今の自分たちにできること、やるべきこと」に取り組んでいる感覚です。今の私たちに求められているのは、単に旅行をつくることではないと理解しており、明確な答えがない中でも、手探りで形を探しているところです。
「競争」から「共創」へ。社会全体に広げるマインドセット

井原:今までは旅行サービスがあくまで一つの手段で、シニアの生きがいづくりをしてきました。しかしコアにはコミュニティがあるので、この力を活用しつつ、旅だけではない領域も含めて専門性や独自性のある企業団体とパートナーシップを組みながら課題解決をしていきたい。コミュニティを前面に出し、そこを強みに生かせるビジネスができればと考えています。
地域側と都市側、どちらも課題が複雑に絡み合っており、単独での解決は難しい。そこで、これまでの「競争」から「共創」へと変わりゆく中で、私たちは仲間とチームを作り、ベクトルを合わせて課題解決をしていきます。
私たちはハブ役として入り、地域を好きになる人やそこで何かをしたい人のコミュニティを作ったり、地域の中でもつながりを作ったりすることで、地域社会のために何ができるかを考えます。その活動には楽しさやワクワクがあり、これまでのシニア向け事業の経験が生かせると考えています。
クラブツーリズム社内には顧客満足度の高い企画力や顧客に寄り添ったサービスを提供できる人がたくさんいるので、もっと全社的に「自分事」にしていきたいですね。私たちだけでは限界があるので、いかに会社全体のリソースで社会に広げていくかという点に注力していきます。
鈴木:私は「事業をつくる」というよりも、「どのような方法で地域のファンを育てていくか」を考えています。井原はそれを仕組みとして整え、戦略的に進めているので、全体としての構造ができあがっているのだと思います。役割は異なりますが、目指している方向は同じです。
この会社の特徴でもあり、ある意味で強みでも弱みでもありますが、社員全体のマインドセットはしっかりと共有されています。大きな企業で一体感を持つのは難しいものですが、クラブツーリズムはプロパーが多く、入社時から会社の考え方を自然に受け継いできました。その一方で、頭でっかちになってしまう面もあります。
だからこそ、新しい発想を生み出すことは簡単ではありませんが、これまでのビジネスモデルと仕組みがうまく機能していたのは、やはり「創業者の存在」が大きかったと思います。多くの人がその理念に共感し、支えられてきました。
ただ、30年以上事業を続けてきた今、社会の価値観や環境に合わせて、やり方を少しずつ変えていく時期に来ています。私たちなりの“2.0”ともいえる新しい形を模索しているところです。業界全体が変化する中で、「私たちは何者なのか」を改めて問い直している最中だと感じています。


