堀川諒(ほりかわりょう)氏
株式会社TearExo 代表取締役CEO
神戸大学出身。竹内俊文研究室の卒業生として、神戸大学発の技術を社会実装するプロジェクトにCEO候補として参画。2022年4月に株式会社TearExoが設立され、創業メンバー最年少として代表取締役CEOに就任。同社が開発する「TearExo法」は、エクソソーム(細胞外小胞)を超高感度に検出できる技術。あらゆる細胞が放出するカプセル状の物質であるエクソソームの違いを捉えることで、がんの有無を調べることができる。微量しか採取できない涙を検体に使える高感度性が最大の強みであり、現在は乳がんの早期発見をターゲットに事業化を推進している。事業会社からの出資も得ながら、研究開発と事業展開の両立に取り組んでいる。
木下渉(きのしたわたる)氏
株式会社TearExo CMO候補
株式会社ヘルツレーベン代表取締役。医療機器・製薬業界で10年以上にわたり、営業企画、販促戦略、市場調査、フィールド営業など、現場に根ざした業務を一貫して担ってきた。製品の導入・普及を着実に推進してきた実績を持つ。みらいワークスが運営する経営人材マッチングプログラム(*1)を通じて、株式会社TearExoのCMO候補として参画。CEOの右腕として販路開拓や戦略策定から実行までを担い、技術の価値をより多くの患者へ届ける支援に取り組んでいる。女性特有の疾患へのアプローチという点に強い関心を持ち、涙液検査単体のサービスにとどまらず、女性の健康や社会的活躍を支える総合的なプラットフォームへの発展を見据えている。
株式会社TearExo
神戸大学・竹内俊文研究室の技術を社会実装するために2022年に設立。あらゆる細胞が放出する微小なカプセル状物質「エクソソーム(細胞外小胞)」を超高感度に検出する独自技術「TearExo法」を開発し、涙を検体としたがんリスク評価技術の事業化を進めています。従来の免疫測定法の1,000倍の感度を達成しており、シルマー試験紙を目尻に当てるだけで痛みなく自己採取が可能。現在は乳がんの早期発見を第一ターゲットに、検査の入り口を変える新たな選択肢の実現を目指しています。
https://tearexo.jp/
マンモグラフィーの痛みや通院の手間から、乳がん検診を避ける女性は少なくありません。日本における乳がん検診の受診率は諸外国と比べて低く、早期発見の機会が失われているケースも数多くあります。もし涙を検体にした簡便な検査で、がんのリスクを把握できるとしたら。神戸大学・竹内俊文研究室の技術を社会実装するために設立された株式会社TearExoは、エクソソーム(細胞外小胞)を超高感度に検出する独自技術を武器に、検査の入り口そのものを変えようとしています。
このエピソードでは、TearExo法の技術的な特徴と涙を検体に用いる独自性、乳がんを第一ターゲットに据えた背景、そしてCEOの堀川諒氏がなぜ経営人材を必要としたのか、CMO候補の木下渉氏が技術にひかれた理由、二人がチームとして歩み始めた原点に迫ります。
TearExo法とは:エクソソームを超高感度で検出する技術
細胞が放出するカプセルに着目する
人間の体を構成するあらゆる細胞は、エクソソーム(細胞外小胞)と呼ばれる微小なカプセル状の物質を絶えず放出しています。このカプセルには、放出元の細胞の特性がそのまま引き継がれるという性質があります。つまり、正常な細胞とがん細胞では、放出されるエクソソームにも違いが表れるのです。
TearExo法は、このエクソソームの違いを超高感度に検出する技術です。がん細胞に由来するエクソソームを見つけることで、体の中にがんがあるかどうかを調べることができます。現在は乳がんのエクソソームをターゲットにした検出技術の開発が進められています。
乳がんを第一ターゲットに選んだ理由
検査のソリューションを提供する以上、その疾患が「きちんと治せる病気」であることが重要な条件になります。乳がんはステージ1あるいは2の早期で発見できれば、5年生存率や10年生存率が90%以上に達する、治療方法が確立された病気です。
一方で、現在の検診はマンモグラフィーが主流であり、検査に伴う痛みや病院への通院が必要であることから、検診から遠ざかっている女性も多くいます。こうした課題に対して、涙を使った簡便な検査がソリューションになるのではないかということから、乳がんの早期発見が最初のターゲットと設定されました。
確定診断ではなく検査の入り口として
TearExo法は、この検査単独でがんの確定診断ができるものではありません。がんの診断にはさまざまな検査を多角的に行う必要があり、そのプロセスは変わりません。TearExo法が担うのは、そのプロセスへの最初の一歩です。
たとえば、薬局やクリニックのような身近な場所でキットを購入し、涙で検査をしてリスクを把握する。その結果が検診へのきっかけとなり、早期発見へとつながっていく。そのような検査の入り口として、技術が広がっていくことを目指して事業化が進められています。
なぜ「涙」なのか。微量検体を武器に変える独自性
世界でもほとんど報告例がない検体
涙を検体に用いるという発想は、堀川氏がTearExoに参画する以前の研究段階から始まっていました。神戸大学・竹内研究室では、すでに涙を検体にしたデータの蓄積が進められており、涙液を用いた検査は世界的にも極めて報告例が少なく、珍しい検体であるとされています。
この希少性そのものが、TearExo法にとっての独自性と競争優位につながっています。
量が取れない、弱点を高感度で逆転する
一般に、検査に用いる検体には血液や尿のようにある程度の量が必要です。しかし涙はごくわずかしか採取できず、検体としては不向きとされてきました。
ところが、TearExo法はここで強みを発揮します。薄い状態からでも物質を検出できる超高感度な方法であるため、微量の涙を薄めて量を増やした上で測定に用いることが可能です。通常であれば弱点となる涙の少量性を、技術の高感度性によって逆に武器に変えているのです。
痛みも通院も不要。自己採取できる検体としての強み
もう一つの重要なポイントは、採取のしやすさです。血液検査では注射の痛みがあり、病院への通院も必要になります。一方、涙の採取にはシルマー試験紙というドライアイのチェックで使われる濾紙(ろし)を目尻に当てるだけで済みます。
痛みがなく、時間も場所も問わずに自己採取が可能。検査のハードル、つまりアクセスのしやすさを最大化したいと考えた時に、涙は理想的な検体だったのです。

経営人材を求めた理由と、二人の出会い
研究開発から事業化へ、壁に直面したCEO
株式会社TearExoは2022年4月に設立され、堀川氏は創業メンバー最年少として代表取締役CEOに就任しました。以来、研究開発とデータの蓄積を進め、事業会社からの出資も得ながら事業化に向けた歩みを進めてきました。
しかし、技術を社会に出していくフェーズに差しかかった時、「やはり自分だけの力では限界がある」と感じるようになります。必要だったのは、事業戦略や営業戦略を一緒に考えてくれる仲間でした。みらいワークスが運営する経営人材マッチングプログラム(*1)の存在を知ったのは、まさにそのタイミングだったといいます。
求めたのは「教える人」ではなく「一緒に考える人」
堀川氏が経営人材に求めた条件は、大きく2つありました。1つ目は、医療あるいはヘルスケア領域での業務経験や知見を持っていること。2つ目は、一方的に答えを示すのではなく、ともにアイデアを出し合いながら事業を前に進められる人物であることです。
共同創業者とともに自分たちの技術を社会に届けようと奮闘する中で、外部から指導を受けるよりも、同じ目線で議論しながら道を切り拓いていける相手を必要としていたのです。
CMO候補・木下氏が感じた「届ける価値」
木下氏がTearExoの技術に興味をひかれた理由の一つは、女性特有の疾患にアプローチしている点でした。会社員として10年以上のキャリアの中で、女性とチームを組む機会が多く、女性特有のキャリアや健康に関する悩みが根深いものであることを実感していました。大学発の確かな技術でその課題に向き合っている点に、大きな可能性を感じたといいます。
TearExoが掲げるミッションは「がんのステージに関係なく治療の選択肢を増やす」というものです。木下氏はこのミッションを、「間口を広げて適切に専門医へ接続する」という役割に読み替えました。治療の選択肢がある段階で医療の専門家につなげること。そこにこそ、この技術の社会的な意義があると確信したのです。
涙液検査を超えたプラットフォームへの展望
木下氏は、TearExoの事業を涙液検査単体のサービスにとどめるべきではないと考えています。検査の結果を知らせるだけでなく、それ以外の付加価値をつけていくことで、女性の健康や社会的活躍を支える総合的なプラットフォームとして飛躍できる可能性があると見ています。
CMO候補として参画した木下氏は、まず堀川氏が何を目指しているのかを丁寧に聞き取ることから始めました。大きな目標を理解した上で、限られたリソースの中でどこに優先順位を置くか、どのような見せ方をしていくかを一緒に考え、方向性を定めていきました。
まとめ
TearExo法は、涙という微量な検体を超高感度技術で武器に変えることから生まれた検査アプローチです。世界的にもほとんど報告例がない涙液を検体に用いて、従来の免疫測定法の1,000倍の感度でエクソソームを検出する。マンモグラフィーの痛みや通院の負担を理由に検診から遠ざかっていた女性たちに、薬局やクリニックで手に取れる「検査の入り口」を届ける可能性を秘めた技術です。
堀川氏は木下氏との初対面を振り返り、「本当に思いやり深い方なんだろうなと思いました」と語ります。一方、木下氏は堀川氏と竹内教授に初めて会った際に、「このビジネス、この技術にすごく愛のある方だ」と感じたといいます。技術への愛情と、相手を思いやる姿勢。互いの専門性とリスペクトを基盤に結ばれたこのチームが、涙を使った検査という新しい選択肢を社会に届ける挑戦を始めています。
*1 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2024年度「大学発スタートアップにおける経営人材確保支援事業」に採択
https://mirai-works.co.jp/news/news11801/



