2025年2月初旬、岡山市が実施している「外部専門人材活用事業」の成果を共有する報告会が開かれました。岡山市がプロジェクトを立ち上げたのは2020年6月、コロナ禍まっただなか。みらいワークスに登録している、おもに都市部で働くDXや広報、脱炭素など各分野の専門家を「戦略マネージャー」として迎え、テレワークも活用しながら4年超にわたって課題解決や業務改善を進めてきました。
戦略マネージャーと市の担当職員が、それぞれの活動成果、課題、今後の展望を共有した報告会で出てきたリアルな声をお伝えします。
教育DX分野は「自走できる体制を整備」

「今年度で私の活動が終了となったことが、成果だと言えます」と、教育DX戦略マネージャーの梅本哲平さん(インタビュー参照 https://mirai-works.co.jp/media-career/interview/career-freelance/)は口火を切った。報告会では教育DXのほか、脱炭素、動画プロモーションと広報活動、DX推進、企業誘致の戦略マネージャーと担当課が、それぞれの視点で活動内容と成果や課題を振り返った。
まず教育DX分野では、岡山市立学校にAIドリルや授業支援ツール、自動採点支援ツールなど、効果的なデジタルツールを導入した。実現に一役かったのは、戦略マネージャー梅本さんの現状課題分析や将来像提案だ。この施策は、子どもたちの情報活用能力の向上と教職員の働き方改革に貢献。岡山市教育委員会事務局内に教育DX推進プロジェクトチームが立ち上がり、「改革の火を絶やさないようにする自走体制を確立した」(梅本さん)。3年間の支援を経て、岡山市は外部専門人材がいなくても自走できる体制を整えた。この成果を背景に、教育DX分野は外部専門人材活用を終了する予定だ。
脱炭素分野は「専門知識の不足を補う」

脱炭素戦略マネージャーの河野有吾さんは、2023年から支援にあたっている。脱炭素関連の最新技術や政策に関する知見、ノウハウを持つ人材が岡山市職員内に不足しており、外部専門人材に力を借りることにした。河野さんは、脱炭素ロードマップの策定の際には岡山市の一員として現状を踏まえて助言。廃棄物発電の活用やEV充電設備の更新といった具体的な事業推進にも貢献した。2026年度に地球温暖化対策実行計画の策定が控えていることから、脱炭素分野では引き続き河野さんの専門知識を必要としている。河野さんは、活動を通して見えてきたことを次のように話す。
「岡山市の戦略マネージャーの業務と本業が重複する場合に、戦略マネージャーとして継続的、機動的に支援するのがいいか、本業として請け負うほうがうまくいくのではないか、と判断に悩むことがありました。自治体としてのスタンスをしっかり決めておくことが、戦略マネージャーの業務が明確になり、依頼する範囲も定まってくるように思います。地球温暖化対策は、周辺自治体と共同で取り組む必要があります。岡山市が外部専門人材を活用し、周辺の連携市町のサポートするような形ができたら理想的ですね」(河野さん)
動画プロモーションと広報活動は「伝わる広報」に転換

動画プロモーション戦略マネージャーの佐方一紀さんと、広報活動戦略マネージャーの谷浩明さんの支援により、岡山市の広報活動は大きく変化した。動画制作や動画での周知方法のノウハウを持つ佐方さんのアドバイスによって公開した動画「わかるかわる岡山市」は、3年間10本でYouTube総再生回数が約360万回。「街歩き」「防災」「子育て」など市の取り組みを市民に理解してもらうことを目的とした動画制作でしっかりとした数値を達成した。あわせて、職員の動画制作スキルの向上にもつながった。
広報活動分野の谷さんは毎月庁舎を訪れ、情報発信の個別相談会「広報クリニック」や広報研修を実施した。「広報クリニック」では、たとえば消防企画総務課の相談を受け、消防団員募集チラシをインパクトのあるデザインや共感ワードを入れるなど受け手を意識したつくりに改善。消防団員の新規入団者数が前年同期比140%と増加した。広報広聴課の担当者は、「職員のマインドセットの変化は感じられたが、情報発信のクオリティ維持が課題」と指摘。今後は、ショート動画の活用など、より市民に届く広報手法を模索していく。
DX推進と企業誘致も外部専門人材で強化

岡山市のデジタル推進課は、DX推進戦略マネージャーの片桐新之介さんと協力し、北区役所の窓口業務のDX化を推し進め、窓口支援システムの一部導入(214の手続きのうち60をデジタル化)。そのほか2月には、コンビニに設置されている端末と同様の操作で、住民票の写しなどの申請書を書かずに簡単に取得できる「らくらく窓口証明書交付サービス」を庁舎内に導入した。
「岡山市の職員が行政の立場ではなく、営業の視点を持つことが重要だ」と話すのは、企業誘致戦略マネージャーの加藤直之さんだ。岡山市産業振興課と東京事務所は、加藤さんの支援を受け、IT・デジタルコンテンツ企業の誘致活動を強化。加藤さんの人脈を生かし、従来の市のアプローチではリーチできていなかった経営層に、より具体的な交渉を展開した。

「岡山市の強みを的確に伝え、企業の課題解決にどう貢献できるかを職員自身が強く意識する必要があると考えました。IT企業の大きな関心ごとは、交通の利便性ではなく人材確保なんですね。もちろん、交通の結節点として主要都市から岡山駅へのアクセスは大変便利ですが、IT企業にそこは刺さりづらい。岡山に来れば優秀な人材が確保できるという強みを打ち出すことが鍵を握るのだということをお伝えしています」(加藤さん)
意見交換で分かった各分野の課題

報告会では、各戦略マネージャーが各部門の課題について言及する場面もあった。多くの戦略マネージャーが指摘したのが、職員の異動による知見の喪失についてだった。教育DX戦略マネージャーの梅本さんは、「3年間の取り組みを通じて、ようやく職員の意識改革が進んできたと感じるが、異動のたびに新しい担当者がゼロから学び直す形で進めてきた。これでは持続的な改革が難しい」と述べた。また、組織間の連携不足も大きな課題として浮上した。DX推進戦略マネージャーの片桐さんは、「DXを進めるうえで、各課が独自のシステムや手法を導入してしまい、統一的な戦略が取りづらい」と指摘。「本来であれば、庁内横断的に進めるべきなのに、各部署が独自路線を進むことで、結果的に効率が落ちる」と懸念点を挙げた。これに対し、市のデジタル推進課の担当者は、「DXに関しては全庁的な戦略が必要であることは認識しているが、各課の業務特性や個別の課題もあり、調整が難しい」と現場の苦労を語った。
企業誘致戦略マネージャーの加藤さんは、「行政の内部からでは言いにくいことを代弁できるというのが、外部専門人材を活用する大きな利点だ」と語った。戦略マネージャーの多くが「目の前の仕事だけで忙しい職員だけで変革するのは難しい。外部専門人材が代弁者として改革を進める役割を果たすこと」を外部専門人材活用の利点として挙げている。市職員の意識改革には、市長や副市長レベルでの強いトップダウンの発信が求められるという意見も戦略マネージャーの多くが指摘した。
外部専門人材を「活かしきる」ための環境整備

一方で、外部専門人材がどこまで踏み込めるかという問題もある。脱炭素戦略マネージャーの河野さんは、「外部専門人材として助言を求められるが、最終的な意思決定は市側にある。そのため、どこまで関与できるのかがあいまいになりがちだ」と述べた。
意見交換のなかで最終的に浮かび上がったのは、「外部専門人材をどう活かしきるか」という課題だった。広報活動戦略マネージャーの谷さんは、「外部専門人材が持つ知見を、市全体で共有し、活用する仕組みが不足している。特定の課でのみ知識が活かされるのではなく、庁内全体で共有される体制が求められる」と強調。また、脱炭素戦略マネージャーの河野さんは、「環境政策のように短期間で成果が見えにくい分野では、長期的な視点での取り組みが必要。外部専門人材の関与を1〜2年で終わらせるのではなく、より継続的な関与を可能にする仕組みが求められる」と伝えた。

大森雅夫市長も参加し、各戦略マネージャーや市職員とともに、外部専門人材の活用における課題や今後の展望について議論が交わされた報告会。大森市長も「外部専門人材の支援を受けることにより、職員のレベルの向上、物事を見る際の切り口の変化を感じている。今後も、岡山市を外から見た視点でのアドバイスをいただくことにより、職員、ひいては岡山市が変わっていくための仕掛けづくりをお願いしたい」と期待を寄せる。今後は、各分野で得られた知見を横断的に活用し、市全体の改革を進めるための組織的な取り組みが必要となるだろう。岡山市は、この外部専門人材活用の経験を生かし、より効果的な行政運営を目指していく。


