コニカミノルタ株式会社
プロフェッショナルプリント事業本部
AccurioDXコミュニティマイスター
本谷 昭博(ほんや あきひろ)様
1982年生まれ、茨城県出身。大学卒業後コニカミノルタへ入社、複合機や産業用デジタル印刷機に用いられる機能部品の材料開発を担当。社内有志団体「LETS」を立ち上げ、社内外を横断した共創活動にも従事する。2023年1月より現職。
※役職は、インタビュー実施時点(2024年8月)のものです。
<コニカミノルタ株式会社>
https://www.konicaminolta.com/jp-ja/index.html
写真フィルムメーカーのコニカとカメラメーカーのミノルタが2003年に経営統合。長い歴史の中で培った技術を生かし、オフィス向け複合機やプロ向けのデジタル印刷機を扱う情報機器事業を主軸に、産業用材料・機器やヘルスケアなど幅広い事業を手掛ける。世界50ヶ国にグループ拠点を持つグローバル企業であり、海外売上高比率は80%を占める。
多くの大企業が今直面しているのが「新規事業をどう成長させるか」という課題です。
こうした中、コニカミノルタ社の取り組みに注目しました。
電器メーカーである同社は、2022年に新サービス「AccurioDX(アキュリオディーエックス)」(https://accuriodx.konicaminolta.com/)を開始しました。これはデジタル印刷が得意とするバリアブル(1枚1枚異なる文字や写真を印刷すること)をマーケティングに活用した1to1コミュニケーションを提供するサービスです。サービス開始後2年で共創参画企業は300社をこえています。
メーカーである同社が、新規サービスをどのように立ち上げたのか。今回は同社のAccurioDXコミュニティマイスターとして活動している本谷昭博さんに、お話を伺いました。
紙の良さを生かした1to1マーケティングを提供

簡単に言うと、マーケティングや販促において、顧客とより良い関係を構築するためのコミュニケーションツールとしてデジタル印刷を活用していただく、またその支援をするというサービスです。
私たちは、メーカーとしてデジタル印刷機を世界中のオフィスや印刷所に提供することで社会のコミュニケーションを支えていると考えています。印刷物は「誰かに情報を届ける」ためのツールです。オフィスであれば情報共有のための資料として、印刷所で刷られるチラシやカタログパンフレットは企業がお客様に情報を伝える手段として活用されています。ペーパレスと言われて久しいですが、後者である販促・マーケティングの分野においては今でも多くの印刷物が利用されています。
印刷物が利用されるシーンは、「誰かに情報を届ける」という何かしらのコミュニケーションが発生する時です。この時、紙には「質量のあるコミュニケーションが取れる」というメリットがあると考えています。
今では紙以外のデジタルメディアも増えています。例えばメールマガジンは大量に送られてきますが、全てに目を通す方は少ないでしょう。印刷物であれば、郵便物や宅配便で届けることでほぼ確実にお客様の目に触れることができます。この点は、紙として実体を持っていることの大きなメリットだと考えています。
結婚式の招待状も印刷物ですが、手元に届いた時、「デザインや質感が素敵だな」と感じることも多いと思います。こういうワクワク感や親近感は、紙ならではだと思うのです。こういう紙の持つ価値を、あらためて幅広く知っていただきたいという思いがまずあります。
もうひとつは、紙によって企業と個人のエンゲージメントを高めていくことを実現したいと考えています。その時、一人一人に適切な情報を伝えるパーソナライズが重要になります。基礎化粧品を例にして考えてみます。気に入った商品が見つかり何度も購入し続けてくれるユーザーがいたとした場合、初めて購入する方と同じメッセージを届けていいはずがありません。お礼の言葉は「いつも購入していただきどうもありがとうございます」となるはずですし、レコメンドする商品も違うはずです。このように、顧客の性別や年代によっても伝え方は変わります。
デジタル印刷はデータさえあれば、1枚1枚異なる文章や写真を印刷することが可能です。実は多くの印刷利用者がこの事実に気づいていません。視認性の高い紙を活用してパーソナライズしたメッセージを1to1に届けることの効果が高いことは、これまでの活動で証明してきました。このように、紙の良さを生かしたコミュニケーションを提供しています。
※AccurioDX価値共創事例
https://accuriodx.konicaminolta.com/case
ものづくりをメインにやってきた会社ですので、形のないものを商材にすることは、比較的新しい取り組みです。
もともと弊社は写真フィルムを扱うコニカとカメラを扱うミノルタの2社が合併してできた会社です。写真事業は売却したため、現在は印刷事業がメインです。
印刷事業の中にオフィス向けと印刷会社などのプロ向けの事業があり、私たちが所属しているのは、プロ向けの印刷機を製造販売するプロフェッショナルプリント事業部です。印刷機の冠ブランド名が「Accurio」(アキュリオ)で、この名前がついた商材がいくつかあります。その商材のひとつという位置づけで、「AccurioDX」というサービス名にしました。
プロフェッショナルプリント事業は、デジタル印刷機を製造・販売することがこれまでの事業範囲です。しかしながら、印刷会社は印刷を受注したい。私たちはそれには貢献できていませんでした。そこで、私たちはブランドオーナー起点で新たなコミュニケーションを創出する活動を始めました。ブランドオーナーにとっては、パーソナライズによるエンゲージメント向上だけでなく、デジタルツールを活用することでリアルタイムにお客様のリアクションを確認することができ、生産性を高めることができます。印刷会社にとっても、営業の負担を軽減しながら受注を獲得する子ができますし、私たちにとってもデジタル印刷機が稼働することによる収益が得られます。まさに、ビジネスモデル変革、DXです。
ですので、実は私たちは独立した新規事業部門ではなく、プロフェッショナルプリント事業部という既存組織のど真ん中にいながら、スタートアップのように新しい事業に取り組んでいるというユニークさがあります。
真のDXを実現するには「泥臭い伴走」が必要と考えた
ただコンサルするのではなく、「伴走する」というのが私たちの事業の根幹にあります。お客様に寄り添いながら対話的に、時には手足も動かしながら活動していくことを「泥臭い」と呼んでいます。なので、DXコンサルティングと表現していただきましたが、コンサルとは違うんだぞと思っています(笑)
「デジタルツールができたので買ってください、あとは知りません」ではどんなにいい商品・サービスでもお客様はうまく使えません。これでは何も生まれないし、DXも遠のいてしまいます。
私たちが実現したいのは変革・トランスフォーメーションですから、企業が顧客とのコミュニケーションを変革するところをお手伝いしたいと考えています。そのためには泥臭く伴走しながらサービスを提供することが大切だと考えています。
既存事業ではあるものの、新たなビジネスモデルの新規事業としてスタートしており、まだカチッとしたサービスではなく、今まさに作っているところです。お客様の事例を活用させていただきながらサービスを作っていきたい、という想いで「共創プラットフォーム」と呼んでいます。
既成概念に捉われない行動指針が成長につながった

もともとは、社内の研修プログラムがきっかけです。この研修はコニカミノルタのアセットをどう活用して新規事業につなげるか、というテーマがありました。ここで、現在もチームメンバーである楠貴大と山口真広の2名が構想したものが土台になっています。
楠と山口の2名はもともと新規事業の立ち上げを経験していたわけではありません。どうアプローチしていけばいいのか、試行錯誤しながら進めていった感じです。その後、他のメンバーがジョインし、お客様と事例をつくりながら仮説検証をしてきました。
私は元々エンジニアで、複合機内にある機能部品の開発を行っていました。エンジニアとして楽しく仕事に取り組んでいましたが、社内に閉じこもっているだけでは面白くないなと思っていて、社内にコミュニティを作り外部とつながる活動を5年ぐらい続けていました。
そういうところを見ていた、現在のグループリーダーから声をかけてもらい、異動の手続きを経てこのチームに参加しました。研修から立ち上がった取り組みですが、現在は12名のチームとなりました。
チームリーダーの宮木俊明の存在が大きいですね。彼は数年前にコニカミノルタに入ってきた転職組です。起業したり、ビジネスモデルイノベーション協会の理事をやっていたり、いろいろなキャリアを持っています。社外に広い人脈を持っているため、いろいろなところにアプローチできたというわけです。
私たちには「出ろ」「行け」「やれ」という3つの行動指針があります。会社に閉じこもっていては世の中の課題に気づきにくい。また、外に出たとしても会社の既成概念に捉われていては価値観の違うものを受け入れられず答え合わせだけして終わってしまいます。「出ろ」というのは、外に出ることにとどまらず、違った意見や価値観を受け入れるというスタンスが必要という意味です。
外に出たら、想定するお客様のところへ行って話をしようというのが「行け」です。話して興味を持ってくれた方がいたら、小さくてもやってみよう、それで実績が得られればラッキーというのが「やれ」という意味です。
このような行動指針を作れたのも、グループリーダーが外部出身で、社内のしがらみにとらわれにくいところが大きかったと思います。この行動指針は、事業を進める上でとても重要な考え方です。行動指針のおかげでチームに人が集まりますし、他の部門を巻き込むことができています。今後はチームの活動を通じて、もっと社内にこの考え方を広めていきたいと思っています。
それはあると思います。特に大企業では役割分担が明確なので、担当する業務だけになりがちです。でも新規事業ではひとりひとりが何でもやらなければいけない。そういう意味では、新規事業をきっかけにスキルも人脈も広がると思います。
私自身、新規事業に関わる前から外部とコミュニケーションをとるようにしてきました。ただ新規事業に関わってから、さらに視野が広がった気がします。
実は今キャンドルづくりに取り組んでいます。出張で行った淡路島でたまたま知り合った業者さんと意気投合し、一緒にエコキャンドルワークショップを企画・開催したりするまでに至りました。これをプロモーションする際にはやはり紙を使うことになりますし(笑)、こういう「人とつながる機会」は大切だと感じます。
※夏至の夜を灯す、廃油キャンドルをつくろう【東京ミッドタウン八重洲】
外部スタートアップとの協業にもチャレンジ

私たちは普段、チャットツールでコミュニケーションを取っているのですが、思いついたことや悩みごとなどがあれば、24時間いつでも書き込んでいいことになっています。夜でも休日でも何か聞きたいことを載せると、数分後には他のメンバーがどんどん反応してくれます。
仕事に直結しないことでも書き込んでいいことになっていますので、メンバーであらゆることを共有している感じです。何でも言い合える関係があることは、事業を進める上でものすごく安心感があります。
チーム以外にも、いろいろなところに協力をお願いしています。例えば弊社のグループ会社にはキンコーズというプリントショップがあります。彼らがいることでフットワークよくサービスを提供できています。また弊社は販売会社が別にあるので、販社の営業メンバーとも連携しています。
外部のスタートアップとの協業も行っています。例えば、東京都港区が行った起業家支援プログラム「港区アクセラレータープログラム2023(※)」に参加したスタートアップと、紙を使った新たなサービスの開発も進めているところです。
※東京都港区による起業家支援プログラム
https://minato-sansin.com/minato-accelerator/
※シニア向けウェルビーイングコンテンツシート「おとなレポート」の提供のためコニカミノルタ株式会社と業務提携を締結
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000007.000121171.html
今後は紙の可能性を広げつつサステナブルな社会を目指す

デジタルメディアには多くのメリットがありますが、Webマーケティングは、どちらかというとマス向けだと思います。
個人個人にメッセージを届ける場合はパーソナライズが有効で、印刷とパーソナライズは非常に相性がいいと考えています。しかし、まだほとんど認知されていません。ですから、紙の持つ新しい価値をもっと知っていただくために、活動していきたいですね。
また、私たちのチームではメンバーごとにミッションを持っています。私のミッションは「印刷を通して社会に新たな価値観を生み出し、サステナブルな社会を実現する」というものです。やはり私としては、紙を扱う上ではサステナブルでなければいけないと考えています。
一般的なアナログ印刷で刷ったチラシは5000部でも1万部でもそれほど大きく費用は変わりません。元となる版を作るのにそれなりのコストがかかるからです。
そのため「足りなくなるのは困るから多めに1万部発注する」ということになるのですが、そうなると、どうしてもチラシが余りゴミになってしまいます。まったくサステナブルとは言えません。私たちのプロフェッショナルプリント事業部は、サステナブルな印刷の実現を目指しています。使われずに捨てられてしまう紙を撲滅するためにも、デジタル印刷とAccurioDXを広めていきたいですね。
サービスを通じて、紙を使ったコミュニケーションの可能性を広げつつ、社会がよい方向に向かっていくよう取り組んでいきたいと思っています。


