株式会社日立システムズ
研究開発本部 サービスインキュベーションセンタ 研究員
森廣 恭平氏(写真中央)
京都大学卒業後、2013年に株式会社日立システムズへ入社。研究開発部門にて、クラウド、IoT、統計解析、機械学習を専門に、営業・マーケティング支援、製造、公共インフラなど幅広い領域の新規サービス創出に従事。2026年現在は、生成AIやフィジカルAIをはじめとする先端技術を活用し、新規事業・サービスの創出に取り組む。
研究開発本部 主管研究長 兼 サービスインキュベーションセンタ
飯倉 健氏(写真右)
2001年に株式会社日立システムズへ入社。介護・自治体向けシステム開発に従事した後、認証基盤、クラウド、IoT、AIなど幅広い分野の研究開発に携わる。現在は研究開発チームを率い、新規サービス開発プロジェクトの推進や、先端技術を活用した新規事業・サービスの創出、技術人材の育成に取り組む。
株式会社Algomatic
代表取締役CEO 鴨居 啓人氏(写真左)
慶應義塾大学/大学院修了後、新卒でアクセンチュアに入社し、データサイエンティスト兼AIエンジニアとして機械学習関連の案件に従事。その後、AI領域のシニアマネージャーとして、通信・EC・不動産領域における業務・組織改革をリード。2024年5月にAlgomaticに参画。AI Transformation(AX)カンパニーCEOとして、BtoB領域におけるサービスの立ち上げ・拡大に従事。2026年6月、株式会社Algomatic 代表取締役CEOに就任。
多くの日本企業にとって急務となっているDX人材の育成。こうした状況を踏まえ厚生労働省では、DXを推進できるコア人材の育成に向けたモデル事業を2024年3月にスタートさせました。この事業は、コア人材が他企業への在籍型出向を通じて「実践の場」に臨み、座学だけでは足りない実務を経験するなかで、技術力の向上と推進力の獲得を図るものです。
みらいワークスは、令和5年『デジタル人材育成のための「実践の場」開拓モデル事業(コアモデル)』を厚生労働省から委託され、DX人材を育成したい企業と受け入れ企業のマッチングの他、双方のサポートなどに取り組みました。
この事業を利用してDX人材のさらなるスキルアップを図ったのが、大手IT企業の株式会社日立システムズ。出向を受け入れたスタートアップは、生成AIを活用し、企業の業務・組織・システム変革を支援する株式会社Algomaticです。実は双方にとって、この事業は大きなメリットがあったと言います。
「いきなり他社へ出向して仕事ができるのか?」と「半年間の出向で本当に成果が出るのか?」という懸念を持つ方も多いのではないでしょうか。そこで今回は実際に出向された日立システムズ社の森廣さんとその上司である飯倉さん、さらに出向を受け入れたAlgomatic社の代表取締役CEOである鴨居さんにお話を伺いました。
スタートアップの「現場スキル」と「スピード感」を得るために参加

出向したのは、日立システムズ社の研究開発本部に所属する森廣さんです。これまでデータサイエンスによる新規事業に携わってきたという森廣さんは、今回は2つの目的で参加したと言います。
「1つは技術面です。日立システムズでは研究開発の部署におり、現場業務ではないため、顧客へ生成AIをどう浸透させていくかなど、ぜひ現場で知見を得たいと思いました。もう1つはマインドです。特にAI関連は技術の進歩が速いので、スピード感を持って業務を進めるためのマインドを持ち帰りたいと考えました。」(森廣さん)
短期間とはいえ社内のエース級人材を外部へ出向させるのは、会社として勇気のいることです。しかし森廣さんの上司である飯倉さんは、キーマンだからこそ成果につながると語ります。
「本業に支障が出る心配はありましたが、それだけ本事業に寄せる期待が高かった。出向で得たものを社内に波及させるには、影響力のある人でなければ難しい。そういう意味で森廣が適任だと考えました。」(飯倉さん)
一方でAlgomatic社の鴨居さんも、他社からの出向受け入れにはある目的があったと言います。
「創業当初からAI革命を通じて日本社会を変えたいという想いがありました。その実現には、まず大手企業の変革を後押しし、その変化を社会全体へと波及させていくことが重要だと考えています。一方で、私たちは創業間もないスタートアップであり、メンバーの多くも大手企業の出身ではありません。だからこそ、大手企業の第一線で活躍してきた方々とともに働くことで、その高い視座や実践知を取り込み、自分たちの成長へつなげたいという想いがありました。」(鴨居さん)
スタートアップの現場に入ったことで、今の自分に何が足りないかが見えてきた

Algomatic社の鴨居さんによると、半年間の出向中に2つの業務を依頼したそうです。「まずはお客さまがどのような課題を抱えているのかを肌で感じてもらいたいと考え、お客さまを支援するプロジェクトに参画いただきました。また、ご本人から『新規事業の作り方に興味がある』というお話を伺っていたため、ちょうど立ち上げを予定していたプロダクト開発にも加わっていただきました。」(鴨居さん)
新卒で入社後10年以上日立システムズに在籍する森廣さん。当初は出向に不安があったと言います。「すぐに不安は払しょくされました。Algomatic社の皆さんはいい意味で私を『お客さま扱い』しなかったんです。最初から仲間として迎えてくださったおかげで、組織に馴染むことができました。」(森廣さん)
すぐに組織には馴染めたとはいえ、仕事の進め方には戸惑いもありました。Algomatic社の鴨居さんは、当時の様子を次のように振り返ります。
「森廣さんは本当に優秀なエンジニアですが、出向直後は『自分はプロジェクトにどこまで踏み込んでいいのだろう』と迷われている様子でした。開発だけに集中すべきなのか、それともお客さまへのコンサルティングまで踏み込むべきなのか、といった感覚です。ただ、あるタイミングから、その迷いがなくなったように感じました。『課題解決のために必要であれば何でもやる』というスタンスに切り替わり、途中からは、いわゆる“落ちているボール”を自ら拾いに行くような動きが増えてきました。役割として定義されている仕事にとどまらず、お客さまや会社にとって必要だと思ったことを、自ら考えて積極的に取り組んでくださっていました。」(鴨居さん)
森廣さんもスタートアップの現場に入ったことで、大きな心境の変化があったと語ります。「スピードを維持するには、『落ちているボール』に気づいた人が拾っていかないといけないと気づいたんです。Algomaticさんは営業やエンジニアといった職種で仕事を住み分けていません。エンジニアの方も営業の手法を積極的に学び、全員営業のような体制で取り組まれていました。お客さまや事業にとって必要ならどんどん挑戦するというマインドがあり、これは大きな学びでした。」(森廣さん)
一般的な研修と違い「組織のために知見を持ち帰る」という視点が持てた
今回、厚生労働省から委託を受けたみらいワークスが事務局となり、森廣さんの出向中に毎月ミーティングを実施しました。「期間が半年間と決まっていたので、締め切りがある中で多くの成果を出さなければいけないと感じていました。そういう中で定期的にみらいワークスの方とお話しする場は、その都度どんな効果が出ているかを認識するいい機会だったと思います。この場があったおかげで、成果を意識しながら集中して取り組むことができました。」(森廣さん)
半年間の出向を終え日立システムズ社に戻った森廣さん。大きな成果を実感したと言います。「私は研究開発がメインのため、コンサルティング業務としてお客さまの現場に継続的に入り込み、日々の対話を通じて課題解決に伴走する機会は、これまで多くありませんでした。ですから今回お客さまと毎日話しながら課題をヒアリングして、どう生成AIを使うべきかをお客さまと一緒に考えるというのは、すごく新しい体験でした。課題を生で感じ、それに対する解決策を出していくプロセスを学ぶことができました。日立システムズには大手ならではのいいところもたくさんあります。それを活かしながら、スタートアップで学んだことを融合していければと思っています。」(森廣さん)
また森廣さんは、一般的な研修との違いについて、次のように振り返ります。「これまでの研修は、自分自身の成長にフォーカスしていました。しかし、今回の研修は半年という限られた期間で、スタートアップのスピード感や現場スキルなどの組織文化を持ち帰るという目標を定め、意識的に取り組みました。組織のあり方や全体像といった高い視座を持った考え方に意識が向くようになり、これまでとは違った学びがあったと思います。」(森廣さん)
一方で、出向を受け入れた側にも、多くの気づきがあったとAlgomatic社の鴨居さんは振り返ります。「まず、大手企業で活躍されている方のレベルの高さを、改めて実感できました。そして、私たち自身の組織を客観的に見つめ直す良い機会にもなりました。自分たちの強みは、意外と自分たちでは気づきにくいものです。森廣さんからもお話がありましたが、私たちはエンジニアであっても、開発だけでなくセールスやプロジェクトマネジメントまで担うことがあります。社内では、それが当たり前だったのですが、外部の視点を通じて、お互いに多くの刺激を得られたと感じています。もしまた機会があれば、ぜひ受け入れたいですね。大手企業の皆様にスタートアップのリアルを知っていただく機会にもなりますし、私たち自身にとっても学びの多い取り組みになると思っています。」(鴨居さん)
今の時代、成果を出すには既存の業務や組織を変えていかなければいけない

森廣さんの上司である日立システムズ社の飯倉さんも、今回のモデル事業に大きな成果を感じていると言います。
「出向から戻ってきた森廣は、これまでよりも視座が上がったという印象があります。現場のお客さまのことや、事業全体を考えて発言するようになりました。こうした行動は、他の社員にも少しずついい影響を及ぼしています。新しい技術を取り入れて成果を出していくには、既存の業務や組織そのものを変えていかなければいけないと考えています。今回のような取り組みは、社内の見直しを図るきっかけになる機会として、とても有効だと感じています。実はこれをきっかけに、今後もAlgomaticさんと一緒に何かできないか相談しているんですよ。例えばお互いの知見を共有する研修ですとか、一緒にプロジェクトをするなど、検討していきたいと考えています。」(飯倉さん)

