NTT東日本からみらいワークスへ「社外留学」1年で得られた財産

NTT東日本では、専門的知識・経営視点をあわせ持ち、将来の経営環境の変化や事業フィールドの拡大に即応して自らイノベーションを牽引できる人材を育成することを目的に、社外へ若手社員を1年間派遣する「社外派遣プログラム」を運営されています。このプログラムに参加し、みらいワークスを派遣先に選んで1年間働いた仲間がいます。土嶋悠太さんに社外派遣プログラムの1年を振り返ってもらいました。

「まったく新たな環境で学びたい」がスタート

土嶋悠太さん(32歳)は東日本電信電話株式会社(NTT東日本)の10年目社員です。NTT東日本には、若手社員育成のための「社外派遣プログラム」があり、土嶋さんはこのプログラムに応募。これまでとは異なる人材業界での活動を希望して、みらいワークスを派遣先に選びました。

3年ほど採用・育成の業務にあたるなかで、地域社会の活性化に向け、多くのスキルやノウハウを持った人材をどのように流動させたらいいのか、人材業界で学んでみたいと考えるようになりました。変革する人材 経営的視点を持った人材 自らイノベーションを起こせる人材 を育成するのが仕事ですが、自分自身もそのような人材になりたい。そのために新たな環境で学んでみたいと思ったんです」(土嶋さん)

「社外派遣プログラム」を経験したNTT東日本の土嶋悠太さん

土嶋さんは人材の流動性を高めることにより地域社会の活性化に貢献したいという想いを持ち、そのために柔軟に人材をつなぐ仕組みやノウハウを身につけることを目的として社外派遣プログラムに応募しました。業界を人材業界に絞ったなかで、派遣・転職メインの会社、人材と企業をWeb上で自動マッチングする会社ではなく、あえてアナログで仲介しながら人材と企業を高精度にマッチングする会社を選択したのはそのためです。

「自動マッチングのWebプラットフォームでは、より深くまでノウハウを吸収するのは難しいのではないかと感じました。みらいワークスでは、人材と企業双方の意見を聞きながら人材をマッチングさせているので、身につけられるものが多いだろうと思ったんです。大都市から地方へプロ人材を流動させることで地方を活性化する取り組みに力を入れているというのもポイントとなりましたね。NTT東日本ではICTを活用した地域課題解決や新たな価値の創造に力を入れていて、親和性があると考えました」(土嶋さん)

やりたいことの「解像度の低さ」に気付けた

みらいワークスを派遣先に選んだ土嶋さんですが、当時、みらいワークスは「社外からの研修生」の受け入れはおこなっていませんでした。土嶋さんは、人脈形成や採用・転職などで活用できるビジネス向けSNSであるLinkedIn(リンクトイン)を通じてみらいワークスの採用担当者と繋がり、今回の派遣に繋がったとのことです。このような経緯で「NTT東日本やみらいワークスに新しい価値を生み出す」ことを目指した土嶋さんの活動が2022年8月スタートしました。

参画したのは、みらいワークスの新規事業開発・推進部イノベーション推進チームです。

「人材マッチングに限らず、企業の課題解決や価値創造を進める上で大切にすべき伴走支援がどういったものか、実務を通じて学ぶことができました。また、人材と企業や組織をつなぎ合わせる仕組みをつくることで地域の活性化に繋げたいという想いを持っていましたが、つくりたい仕組みの解像度が低かったことに気付かされました。人的リソースを割いていく必要があるところはどこなのかという観点を持つことができるようになりました」(土嶋さん)

たとえば、みらいワークスのイノベーション推進チームでは2022年から2023年にかけて半年間ほど、仙台市主催のアクセラレーションプログラムの運営を実施しました。そこで土嶋さんは、スタートアップ企業の担当として話を聞き、事業をブラッシュアップするには何が課題でどういった支援が必要なのかを深堀りし、解決できるプロ人材とつなぎながら、資金調達につながったこともあります。

「会社員として働いているとなかなか出会わない、遠い世界の人だと思っていた起業家の方々と対話することができたのは良い経験でした。右も左もわからない自分が担当につき、初めの頃は信用してもらえないこともありましたが、目の前の困り事に真摯に向き合うことで、終盤は信用してもらえるようになれたのではないかと感じています。これもNTT東日本ではなかなかできない経験だったかもしれません」(土嶋さん)

大企業とは比べものにならない意思決定スピード

みらいワークスには、フリーランスで活躍する約2万人のプロ人材の方々が登録しています。土嶋さんは人材を必要とする事業会社側だけでなく、こういったプロ人材と関わるなかで柔軟な働き方のリアルも知りました。

「社員が産休や育休、介護などで会社を辞めなくてもいいような環境を整えることの重要性は知っているつもりでした。ですが、例えば育休に入り、仕事から離れた後も業務量を調整しながら無理のない範囲で働いたり、少し余裕ができたタイミングで業務時間を徐々に増やすなど、ライフステージに合わせた働き方を実践している人と実際に話をして、柔軟な働き方がどういったものかしっくりきたんです」(土嶋さん)

NTT東日本とみらいワークスでは従業員数も異なることから、仕事の進め方も大きく違います。一般的に多くの大企業では、1つのプロジェクトを進めるのに直属上司から更にその上の上司、部門と部門の間などさまざまな交渉や調整が必要です。そういった大企業で必要とされるスキルとはまったく別のコミュニケーションがみらいワークスでは必要でした。

「意思決定スピードがとにかく早い。役員も社長も含めたコミュニケーションが活発なので、大きな意思決定が必要な案件も、直属の上司に相談しながらもすぐに社長のアドバイスをもらうことができ、次々と物事が進んでいくんです。このようなスピード感で色々なことに挑戦しました。プロポーザル(公募型企画提案)の提案書を書き、プレゼンで勝ち取った案件にみんなで喜び合うという貴重な経験ができたのもいい想い出です」(土嶋さん)

一方で社外からの研修生を受け入れるのは、みらいワークスにとっては初めてのこと。歴史ある大企業のように整備されていないため、自ら動かなければ何も得られません。そのような中、土嶋さんは自ら会社や事業の理解に取り組むなど主体的に活動し、チームに加わって3カ月ほどでチームの戦力になれてきたのではないかと感じたそうです。

「通常の採用のように最初の1週間、1カ月間で研修を行うといったプロセスがなかったので驚きました。みらいワークスの事業は、都市部企業向けフリーランスマッチングサービスや地方企業の経営課題を解決する副業マッチングサービスなどがありますが、企業、自治体、人材など関わるところが多岐にわたり、全体像を理解するのがなかなか難しい面があります。習うより慣れろでいきなりミーティングに出席させてもらい、体系的な知識は社員用の研修素材を使って勉強、わからないところはその都度聞いて、事業全体や部・チームの取り組みを概ね理解するのに3カ月かかりました。1年という限られた期間をムダにしないよう、必死でしたね」(土嶋さん)

NTT東日本でこれから実現したいこと

左・みらいワークス執行役員の久野芳裕、右・土嶋さん

左・みらいワークス執行役員の久野芳裕、右・土嶋さん

1年経って「働く側にとってキャリア満足度を高める人材流動化についても、ずいぶんと解像度が上がった」と話す土嶋さん。これからやりたいことは、山のように浮かんでいます。

「短期的には、社外派遣プログラムに応募したときの目標である、人材流動化を高めるモデルを作りたい。NTT東日本から外に出て活躍できる場を作ったり、社内に外部人材を活用できる場を作ったりすることを描いています。また中期的には、地域を盛り上げるための価値創造プラットフォームのようなものをつくりたい。仙台市のアクセラレータープログラムのプロジェクトでスタートアップの創業支援、創業後の成長支援に関わり、NTT東日本でも地域のスタートアップなどと組んで共創する形ができないかなと考えるようになりました。NTT東日本が目指している地域の未来を支えるソーシャルイノベーション企業の形にも近いように思うんです」

新規事業開発・推進部の部長でみらいワークス執行役員の久野芳裕は「一緒に仕事をした仲間としての関係性が持続する」ことを、他社での活動で得られることのひとつとして挙げます。自社との事業シナジー効果が期待できるベンチャーに出資を行うCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)は増えていますが、おカネだけではなく最近では人材に投資するという考え方もあるようです。次世代もリーダー候補をベンチャーに派遣し、育成する。派遣した企業へのリターンはその人材が他社で得た経験のほか、社内にいてはできない人脈も貴重です。

土嶋さんも次のように話します。

「1年間、みらいワークスの仲間たち、起業家、自治体、プロ人材などさまざまなバックボーンを持った方々と接するうちに社外の人と話す際、必要以上に身構えなくなりましたね。社外の人をまきこんで何かをやるということのハードルが下がった気がします。2022年8月から出会った方々は200社400人上。1度でも話した人のことはすべてメモしていて、今後に繋がる財産を得ることができたと思っています」(土嶋さん)

1年間の社外派遣プログラムで得たものをどのように形にしていくのか、土嶋さんの今後が楽しみです。