宮崎県北部に位置する延岡市では、自治体が中心となって積極的に副業・兼業人材を活用しており、全国からも注目されています。2024年8月には延岡市と副業プラットフォーム「Skill Shift(スキルシフト)」がタッグを組み、「延岡の水産業活性化プログラム」に関するワデュケーション(*)ツアーを実施しました。
今回の舞台は、延岡市南部にある漁業の盛んな土々呂(ととろ)地区。現在日本の水産業では、人手不足や気候変動による漁獲量の変化などさまざまな課題を抱えています。
そこで、副業・兼業人材が実際に延岡市を訪れ、現地の水産事業者へヒアリングする2泊3日のワデュケーションツアーを開催。ツアー最終日にはそれぞれの副業・兼業人材が水産業の活性化につながるアイデアを提案しました。
*ワデュケーションとは:Work〈仕事〉+Education〈地域のことを学ぶ教育〉+Vacation〈休暇〉を組み合わせた事業のこと。
https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20240124_05.html
水産事業者に直接課題をヒアリングする2泊3日のワデュケーションツアー
ワデュケーションツアーに参加したのは、30名以上の応募者の中から選ばれた5名の副業・兼業人材。ツアー1日目は延岡市内の内藤記念館や愛宕山に登り、延岡市の歴史や風土を体感し、地域の理解を深め、2日目は地元の漁師の方や水産加工事業者の方々を訪問し、現状をヒアリングしました。
古くから漁業で栄え、「ちりめん」や「メヒカリ」などの水産物を全国に出荷している土々呂地区。実際に地元の方々にお話を聞くと、「温暖化の影響で最近漁獲量が安定しない」「高齢化が進み、漁師や水産加工できる人材が減っている」といった課題があることがわかりました。
ヒアリングをもとに、5名の副業・兼業人材が水産業活性化につながるアイデアを発表。集まった約80名の観客の投票により、1名の方が優秀賞に選ばれました。2泊3日のツアーで具体的な活性化プランを立案するのは困難ですが、外部の副業・兼業人材ならではの新たな視点は地元の方々にとってヒントになったようです。
またイベントでは、延岡市の読谷山 (よみやま)市長とみらいワークス代表の岡本が対談。「地方企業の経営者がどう副業・兼業人材を活用できるか」というテーマで、トークが繰り広げられました。
「延岡を元気にしたい」という思いで、外部の副業・兼業人材が多彩なアイデアを考案
【アイデア1】自然と食の素晴らしさを満喫できるフードマラソン
5名の副業・兼業人材によるアイデア発表会の最初に登壇したのは、大分県でコンサルティング会社を経営する眞次(まつぐ)純一さん。学生時代に九州の食の素晴らしさに気づき、海外勤務を経て九州へUIJターン・起業したという眞次さん。九州の地方創生に関わりたいと考えツアーに参加したそうです。
眞次さんのアイデアは、フードマラソンというイベントです。「フランスで毎年行われるメドックマラソンをヒントにしました。これは参加者が仮装して走り、途中に地元のワインを楽しめるというイベントで、世界から多くの参加者が集まります。土々呂フードマラソンでも参加者が自然を楽しみながら走り、休憩所では地元の水産加工品を試食できるようにしたいですね」(眞次さん)
地域の魅力を知るきっかけ作りとして、フードマラソンを考えたという眞次さん。仮装することで若い世代も取り込めると言います。「土々呂地区で行われる浜まつりと連動できれば、より地域活性化につながると思います。誰が運営するかなどの課題はありますが、海外事例をもとにアイデアを出し合うというのも一つの方法だと思います。」(眞次さん)
【アイデア2】外部の人と地元の人が交流するための地域留学
次に登壇したのは、大学生の頃から地方活性化を研究していたという石川ひとみさん。「まず延岡市を知らない人たちがこの地に集まり、地元の方と交流することが活性化かなと考えました。」(石川さん)
そこで石川さんが提案したのが「地域留学」です。「延岡にゆかりのない方の場合、1日や2日では魅力を把握しきれません。そこで長期滞在をして、参加者が成長を感じられるプログラムがいいのではないかと思いました。」(石川さん)
「水産業を学びたい方やマリンスポーツを習いたい方など、ぞれぞれにあった地域留学プログラムを用意します。もちろん地元の方にとってもメリットのあるものにできればと思っています。例えば地域留学の中で漁船を貸し切りできるアクティビティを提供すれば、漁師の方にとって新たな収入源になります。」(石川さん)
【アイデア3】大規模イベントではなく街の賑わいを創出する
佐賀県で事業ディレクターとして働く井上真由美さんは、以前『Skill Shift(スキルシフト)』を通じて延岡市で副業した経験をお持ちです。「延岡で仕事した時は地域のことを知る機会が持てませんでした。そこでもう一度この地の魅力を深堀りしたいと思い、ツアーに参加しました。今回、こんなに美味しい魚があるところなんだなと気づきました。」(井上真由美さん)
そこで井上さんが提案するのが「土々呂で味わう究極の朝ごはん」です。「派手なことで人を集めるのではなく、商店街が賑わうようなイメージで考えました。地元の方も観光客も一緒においしい魚を味わうことで、賑わいができればいいなと思っています。大規模イベントではなく、地元の各所で朝食を出す形にすれば、地元の負担も少ないと考えています。」(井上真由美さん)
【アイデア4】地元の水産物を使ったおにぎり専門店のフランチャイズ展開
井上嘉文さんは、企業の広義なマーケティング・新規事業開拓の支援を得意としており、地方企業の商品開発や資金調達支援などを手掛けるプロ人材。延岡市の水産加工品「ちりめんアヒージョ」に2017年ごろに出会ったことが、延岡市に関心を持ったきっかけだったそうです。「美味しくいだけでなく、食品添加物が無添加でカラダに優しい。しかも地元の高校生と共同開発したことを伺い、地元の住民たちの情熱に感動しました。」(井上嘉文さん)
今回、井上さんが提案するのが「地元素材を使ったおにぎり専門店のフランチャイズ展開」です。「延岡の水産物で市場に出回らない魚もおかずにできること。美味しさを全国にPRしつつ、売上と人的リソースの確保のためにフランチャイズで店舗を展開する想定です。最近おにぎり専門店が増えている背景には、客の回転率、少人数で初期投資が少ない経営ハードルといったメリットがあるからです。初回はキッチンカーでPOCを行い、既存の延岡の水産加工品もご飯に合うおかずに適用できるため、おにぎり専門店を考えました。インバウンドも取り込めると思います」(井上嘉文さん)
運営体制や資金計画のほか、テストマーケティングなど具体的なビジネスプランにまで落とし込んだ井上さん。「例えば、「魚を切る人」では人材を募集しても集まらない。しかし、地元の高校生がやりたい仕事を用意したり、起業家の誘致が盛んな社長がFCオーナーになれば人材は経営者が揃えることができます。利得の目線を変えることが、人手不足の解消のポイントであり、地域の活性化につながると思います。(井上さん)
また水産事業者へのヒアリングで「維持費のかかる冷凍庫を有効活用できていない」という課題を聞いた井上さん。今回の活性化プランとは別に、冷凍庫の空きスペースをシェアリングするサービスを紹介しました。こうした内容が評価され、今回5名の中で優秀賞に選ばれました。
【アイデア5】具体的な施策の前に、まずは活性化に向けた土台作り
最後に登壇したのは、北は青森から南は鹿児島まで、自宅に戻る暇がないほど全国を渡り歩いているというY.Yさん。他の地域の事例をもとに、活性化に向けた土台作りを提案しました。「新しい人を受け入れることが活性化に近づきます。ですから、まず外部の人が来やすいよう、これまでの仕組みや習慣の見直しが必要だと思います。」(Y.Yさん)
また地方企業の団結も重要だと語ります。「例えば青森県ではりんご産業に関わる10以上の企業等が会社を作り、海外展開を実施し地域の産業を守ろうとした。1社でできないことでも、みんなで取り組めば、大きな動きになります。」(Y.Yさん)
地方の経営者はどう副業・兼業人材を活用すればいい?延岡市の事例と今後必要なマインドとは
今回は5名の副業・兼業人材の発表とあわせ、延岡市の読谷山 (よみやま)市長とみらいワークス代表の岡本による対談も行われました。
まずは読谷山市長から、これまでの延岡市の副業・兼業人材活用ついてお話しいただきました。「延岡市内の中小企業の方々が普段やっていることは、実は全国的に価値の高いことだと気づきました。そこを生かし外貨の稼げる延岡市にしたい、そのためには外の人とのつながりを持つべきと考えました。」(読谷山市長)
延岡市では2021年に事業の中核となる団体「延岡経済リンケージ機構」を立ち上げました。現在この団体では、地元の金融機関からも大きな支援を受け、『Skill Shift』のプラットフォームを利用して都市部の副業人材と地元企業のマッチングを行っています。「すでに38件のマッチングが実現し、成功事例も増えています。ある木工関係の会社では、副業人材と一緒にデザインした製品がコンテストで賞を取り、販路開拓につながったそうです。まさに外貨を稼ぐことが実現できています。」(読谷山市長)
最近ではPRや販路開拓だけではなく、経営の相談相手として副業・兼業人材を活用するケースも増えていると言います。「経営者の方々はさまざまな悩みを抱える一方、社員に相談できないことも多いのが現実です。そこで、外部の視点を持つ副業・兼業人材に壁打ち相手をしてもらうケースも増えています。」(読谷山市長)
こうした活用は地方企業にとって重要性が増していると語るのは、みらいワークス代表の岡本です。「外貨を稼ぐためには、国内の他の地域、あるいは海外に販路を広げる必要があります。ただしいきなり海外となるとハードルが高いですよね。まず国内でどのようなステップを踏むべきか外部人材に相談できれば、経営者の方も心強いのではないでしょうか。副業・兼業人材の方の中には、こうした分野に強い方も多くいらっしゃいます。」(岡本)
特に地元で長く続いてきた地方企業こそ、外部人材を活用することが今後ポイントになると市長は語ります。「新しい挑戦をする時、自分が全部責任取るからやってみようと声を上げるのが経営者の大きな役割です。でも長い歴史のある企業では、社内から心配の声が上がることもよくあります。
これをクリアするために必要なのは、やはり社長が自信を持つための裏付けです。そんな時に専門知識と経験を持つ外部の副業・兼業人材へ相談すれば、大きな裏付けとなるはずです。今後も地方企業にとって、副業・兼業人材活用の重要性は増していくと思います」(読谷山市長)
地方副業サービス『Skill Shift』
https://www.skill-shift.com/
実践型リスキリングサービス『みらRe-skilling』
https://mirai-works.co.jp/re-skilling/