【実施レポート】「越境」がもたらすキャリア自律の原体験。NECビジネスインテリジェンスの若手が挑んだ、異業種での課題解決実証

~スポーツ・農業・地方創生。3つの「アウェー」な現場で見いだした、仕事への熱量と当事者意識~

人的資本経営が加速する昨今、企業には従業員の「エンゲージメント向上」と「自律的なキャリア形成」を同時に実現する施策が求められています。従来の座学中心の研修では補いきれないこの課題に対し、NECビジネスインテリジェンス株式会社(以下、NBI)が選択肢の一つとして2025年度に導入したのは、未知の環境に身を置く「越境学習」でした。

若手・中堅社員の視座を高め、行動変容を促すため、同社は株式会社みらいワークスが提供する実践型リスキリングサービス『みらRe-skilling』を活用しました。本プログラムの特徴は、2日間集中の越境体験に加え、研修後も「事業化の際にはプロボノとして継続的に関われる可能性がある」という点です。「自らが事業に関わり続ける未来」をリアルに想像しながら参加することで、当事者意識と主体性が自然と引き出されます。

日常業務や自社の看板が通用しない完全なる「アウェー」な環境――農業、地方創生、プロスポーツという3つの現場で、社員たちは何を感じ、どのような変化のきっかけをつかんだのか。その軌跡をレポートします。

 

1.現場のリアリティーに打ち砕かれた「机上の空論」:JAL Agriport(農業×事業開発)

テーマ:現場のリアリティーと向き合う。持続可能な農業のマネタイズ戦略

JALグループの一員として、千葉県成田市で農業事業や収穫体験、レストラン運営を行う「JAL Agriport株式会社」には、若手社員4名が参加しました。普段、ルールが整理されたオフィスで社内システムや予実管理を担う彼らが直面したのは、物理的な「土」とビジネスの「制約」でした。

1日目は、代表取締役社長の花桝健一氏による事業説明と農場視察からスタート。先端技術の実証実験をしているスマート農業の現場を目の当たりにしたチームは、「空港という立地」を生かしたアイデアとして「訪日観光客向けの空港内いちご狩り体験」を提案しました。

しかし、花桝社長からのフィードバックは鋭いものでした。「空港という特殊環境における土や植物の持ち込み規制(植物防疫法等)」「運用にかかる人件費と場所代」。ビジネスとして成立させるためのクリティカルな要件が、リサーチ不足により抜け落ちていたのです。

「形にする」難しさが、プロ意識を覚醒させる

2日目、チームは前日の反省を生かし、「インフォメーションカウンターでの予約導線設計」や「農園への直接送迎スキーム」など、実現可能性を高めた具体策を再提案しました。
結果は「要検討」。即採用とはなりませんでしたが、次につながる結果となりました。

最後に花桝社長は「この企画に、ワクワクしていますか?」というシンプルな問いを投げかけました。「普段自分の部下に対しても、企画を持ってきたときには必ず聞くようにしているんです。中身がどれだけ立派で、理屈が通っていたとしても、作っている本人がワクワクできていないものは、通さないことにしています。次の提案のときには、この視点もぜひ大切にしてみてください」。異業種の壁を越えて挑戦する花桝社長からの重みのある言葉が、参加者の心に強く響きました。

参加者からは「普段の業務では、ここまで『完結した成果物』として企画を形にする機会が少なかった。ビジネスを構築することの難しさと、詰め切る責任感を痛感した」といった声が挙がりました。現場のリアリティーに触れ、自分の不足している視点や思考の癖に気づく。これこそが越境学習の第一歩です。

 

2.デジタルの常識が通用しない「ローカルの壁」:みらいワークス(地方創生×組織変革)

テーマ:顧客解像度を高める。大企業人材を地方へ送り出す仕掛け

東京都港区の株式会社みらいワークス本社での実践には、3名の社員が参加しました。課題は、当社の副業マッチングサービス『Skill Shift』において、「いかにして大企業人材を地方副業へ送り出すか」というもの。これは、参加者自身がターゲットユーザーでもあり、自分たちのキャリア観を問われるテーマでもありました。

参加者はヒアリングを通じ、「人材の送り出し」にはまず「受け皿となる地方企業の開拓」が必要であると定義。「Webサイトでの活用事例インタビュー掲載による認知拡大」を提案しました。

デジタルネーティブ世代らしい合理的な提案でしたが、代表取締役社長の岡本祥治からのフィードバックは、彼らにとっては盲点を突くものでした。

「地方の中小企業経営者は、Webの情報だけで意思決定することはまれです。彼らが動くのは、信頼できる紙媒体や、顔の見えるリアルな場での推奨がある時。もっとアナログなアプローチの重要性と、地域特性への解像度を高める必要があります」

自身の「強み」と「弱み」の再定義
「データ分析やシステム構築は得意だが、顧客の感情や行動様式への想像力が足りていなかった」。リサーチ不足と顧客理解の重要さを感じた参加者たちでしたが、同時に「データ分析スキル」という自らの武器が、地方創生の現場でも強力なツールになり得ることも再確認しました。「今後は自分の強みを生かしつつ、現場の手触り感を大切にしたい」。次のアクションに向けた指針を明確にしました。

 

3.「調整役」から、自ら核となって動く「変革者」へ:湘南ベルマーレフットサルクラブ(スポーツ×地域共創)

テーマ:熱量を波及させる。クラブと地域をつなぐ新規事業

神奈川県小田原市を拠点とする「湘南ベルマーレフットサルクラブ」での実践プログラム「B-SPARK」には、NBIからの3名に加え、他社からの参加者も含めた計8名の異業種混合チームが挑みました。 課題は、地域のパートナー企業(鈴廣かまぼこ)とクラブのアセットを掛け合わせ、「小田原の食と観光」を盛り上げる新規事業の創出です。2つのチームが組成され、それぞれ異なるアプローチで代表取締役社長 佐藤伸也 氏へのプレゼンテーションに臨みました。

【Aチーム】推し活×地域産品(条件付き採択)
Aチームは、若年層のファン心理(推し活)に着目。アウェー戦のパブリックビューイングを地域の拠点で開催し、そこでの購入が選手への応援(差し入れ)につながる「推し差し」システムの進化案を提案しました。佐藤社長からは「単なる物販ではなく、集まったファンの熱量をコミュニティー化し、深いマーケティングデータを得る場として価値を置いたほうがよさそう」とのフィードバックがあり、方向性の修正を条件に採択されました。

【Bチーム】食べ歩き文化の醸成(不採択)
Bチームは、観光客が通過しがちな小田原を「食の目的地」に変えるべく、食べ歩き専用の商品開発を提案しました。 しかし、佐藤社長の評価は厳しく、不採択に。「単なる商品開発にとどまっている。小田原駅周辺には座って食べる場所がないという課題に対し、行政や商店街に働きかけて『食べ歩き公認エリア』を作るなど、ベルマーレが持つ『地域を動かす調整力』を活用できる提案ができたはず」と、クラブの社会的価値(ローカル・ゼブラとしての機能)への理解不足と、リサーチの甘さが指摘されました。

参加者の変化:「調整役」から「変革者」へ
採択・不採択という明暗は分かれましたが、参加したNBI社員の1人は、自身の仕事観に変化があったと語ります。 「普段の業務はシステムと制度をつなぐ調整役で、地域課題解決の仲介役となっている湘南ベルマーレフットサルクラブの役割と近いのかなと最初は感じたのですが、湘南ベルマーレフットサルクラブは自らが核となって地域を動かしています。私も『自分が変革するぞ』という当事者意識で仕事をしたいと思うようになりました」


今回の3つの実践に共通するのは、「日常業務や居住地を離れ、全く異なる環境(アウェー)に身を置く」という点です。

それぞれの現場で、参加者は「NBIの社員」という看板を下ろし、「一人のビジネスパーソン」としての実力を試されました。経営者からのリアルなフィードバックや、社外メンバーとの共創を通じて得た悔しさや達成感は、座学では得られない、新鮮な体験となります。

この経験を持ち帰った彼らが、今度は自組織の中で新たな「熱源」となり、周囲を巻き込んでいく。これは、実践型リスキリングが目指す人的資本経営の本質的な成果と言えるでしょう。

みらいワークス総合研究所では、今後もこうした事例を通じ、個人の自律と組織の活性化をつなぐヒントを発信してまいります。

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