リスキリングで「稼げるまち」を目指す!北九州市の取り組みとは

北九州市長
武内 和久氏
1971年生まれ。東京大学法学部卒業後、厚生省(現:厚生労働省)に入省し、医療・介護・障害・子育て・少子高齢化対策に従事。2015年~アクセンチュア㈱、マッキンゼー・アンド・カンパニー、九州朝日放送コメンテータ、慶應義塾大学医学部非常勤講師、2019年~BLOOMIN’ JAPAN㈱代表取締役、㈱インターネットインフィニティー社外取締役、九州国際大学客員教授等を歴任し、2023年2月に北九州市長に就任。◆北九州市◆
北九州市は、本州の接点に位置し、日本四大工業地帯の一つとして日本の近代化を支えてきました。世界に誇る産業技術や、空港や港湾等国際時代にふさわしい都市基盤を構築し、工場やまちの光が、「日本新三大夜景都市」全国一位に認定されるなど、多くの魅力を有しています。

多くの地方自治体では、少子高齢化や都市部への人口流出など、人材に関するさまざまな課題を抱えている。こうした中、リスキリング(社会人の学び直し)を通じて地方経済の活性化を目指しているのが、福岡県北九州市だ。

2024年10月に、北九州市とみらいワークスでリスキリングに関する包括連携協定を締結。北九州市でリスキリングを推進する「リスキリング・イノベーションプロジェクト」を立ち上げた。

連携協定を締結するにあたり、リスキリング・イノベーションプロジェクトの狙いや今後の展開について、北九州市長である武内和久氏と、みらいワークス代表の岡本祥治が対談した。

地域経済を成長させるため、まず必要なのは人材育成

岡本:今回、市内人材のリスキリングを推進しようと思った背景を教えていただけますか。当社がリスキリング分野で自治体と提携するのは今回が初めてで、成功させてモデルケースにできたらと思っています。

武内氏:北九州市は、1963年、福岡県内の5市が合併して誕生しました。当初は100万人を超える人口を誇ったものの、その後は人口減少という課題に直面しています。こうした状況を変えるため、リスキリングに着目しました。人材育成こそが地域経済の活性化に欠かせないと考えています。

求められる技術やスキルが大きく変化する今、企業にとって人材育成はますます重要になってきました。人材育成が企業の成長につながり、企業の成長が地域全体の成長につながります。

個人の好きなことを学ぶ生涯学習とは違い、リスキリングには「知識や技術を学び新しい仕事につなげる」という狙いがあります。2020年行われた世界経済フォーラムでは「2030年までに全世界で10億人のリスキリングを目指す」と宣言され、世界的にも注目されている分野です。

北九州市の企業に勤める皆さまがリスキリングに取り組むことで、より地域経済を活性させる。そのために立ち上げたのがこのプロジェクトです。とはいえ地方自治体だけでは、リスキリングを推進するノウハウが不足しているのも事実です。そこで、人材マッチングサービスを始め地方創生事業やリスキリング事業を手掛ける、みらいワークス社との連携を決めました。

リスキリングを地域に根付かせるための四つのポイント

岡本:リスキリングを地域に根付かせるために重要視されていることを教えてください。

武内氏:研修会などを行ってリスキリングの機会を増やしただけでは、学んだスキルや知識を生かすことは難しいと思います。そこで本プロジェクトでは四つを重要視しています。

(1)実践型リスキリング

武内氏:インプットだけでは学びは完結しません。アウトプットをして、はじめて学びの効果を感じられますし、次の学びへの意欲が高まる。しかし現在北九州市には実践的なことを学ぶ機会も、実践できる場も少ないという課題があります。そこで多くの地域で実績を持つみらいワークスさんのノウハウを得たいと考えています。

岡本:北九州市といえば、やはり強いのは製造業だと思います。こうした分野でこれから重視されるのは、デジタルに関するスキルではないでしょうか。最近では、ロボットやAIなどの活用を含め、生産管理業務をデジタル化して生産性を高めるケースも増えています。こうしたビジネスに直結するスキルを得る機会を設け、実践できる場を提供できればと考えています。

(2)副業・パラレルワークの普及

武内氏:最近はリスキリングで学んだことを生かし、副業やパラレルワークに取り組むというケースも増えています。従業員がリスキリングで得た知識を、社内だけではなく他社でも生かすこと。こうした動きが広がって人の交流が活発になれば、新しいイノベーションにつながると考えています。

しかし、北九州市は、全国平均と比べて外部人材導入や副業解禁する企業の割合が低い現状です。外部人材の受け入れ企業においては、全国平均40%に対して北九州市は20%。副業解禁企業では、全国平均70%に対して北九州市は30%にとどまっています。ただしこれは、伸び代があるとも言えます。

今後、このプロジェクトを通じて、リスキリングで得たスキルを副業やパラレルワークに生かす、という流れを北九州市でも作っていきたいと考えています。

そのためには、北九州市内の企業において、副業やパラレルワークに対するマインドセットを持っていただくことが第1歩となります。この辺りを本プロジェクトで取り組みたいと考えています。

(3)首都圏などの外部人材の交流

岡本:人の交流の活発化においては、北九州市内だけではなく、都市部人材との交流も本プロジェクトのポイントのひとつと考えていますが、どのように思われますか。

武内氏:首都圏など、都市部の人材との交流も大きな意味があると考えています。スキルや情報を豊富に持つ都市部の人材の方のノウハウをシェアしていただくことで、より北九州市内の人材育成につながると思っています。今までと同じことをしていても、北九州市の経済は大きく発展しません。経済を成長させるためにも、他地域の人材を取り入れていくことが大事だと考えています。

岡本:リスキリングで得たものを生かすには伴走者が必要です。リスキリングや副業などになじみがない場合、従業員の方も企業も最初はどう進めたらいいかわからないということもあります。そこでわれわれはリスキリングを実践する場において、都市部のプロ人材にサポートしていただく形を考えています。

都市部の人材が副業という形で北九州市内の企業さまなどに加わり、リスキリングした方のフォローアップを行います。こうした伴走者がいることで、リスキリングで学んだことがより生かせるというわけです。また都市部の人材と交流することで新たな気づきがあると思いますし、外部と交流するという文化が浸透するのではないかと思っています。

結果として北九州市内の企業さまも、市内に住む方も、活躍できる場が広がる。このように地域全体に変化を起こすようなプロジェクトにしていきたいですね。

(4)拠点の開設

岡本:四つ目に重要視されていることを教えてください。

武内氏:リスキリングにおいては、学びを提供する場としての拠点が必要だと考えています。拠点は人々が交流できるコミュニティーの場としても重要な役割を担うため、本プロジェクトでは、拠点となる「リスキリングキャンパス」を北九州市内のコワーキングスペースなどを利用して開設する予定です。

また九州工業大学さまなどの地元の教育機関とも連携しながら、リスキリングのコンテンツを提供することを考えています。

リスキリングを通じて、北九州市を「稼げるまち」にしたい

岡本:最後に、今後のプロジェクトの進め方についてのお考えをお聞かせください。

武内氏:まずはリスキリングキャンパスを起点に、リスキリングを広めながら実践できる場作りに注力します。それから北九州市内の企業に副業やパラレルワークの普及を進めていく。このような流れでプロジェクトを展開していきたいと考えています。

人材のポテンシャルが生かされ、人の動きが活発化して、企業の価値が向上していく。この好循環によってさまざまな人を呼び込みイノベーションが促進される。最終的には北九州市をこれまで以上に「稼げるまち」にしたい。これがリスキリング・イノベーションプロジェクトに込められた思いです。

特に重視しているのは、リスキリングで得たスキルを実践する場づくりです。実践によってリアルな成功体験を得ることが、次の変化につながっていくと思います。

具体的な目標としては、初年度は社員数50~300名規模の企業さまを主なターゲットとして、年間50社参加、250名受講という数字を目指しています。

岡本:北九州市民の方が、座学等でインプットしたことを実践でアウトプットして、自分のスキルとして身に着けるために、さまざまな経験を持つみらいワークスのご登録プロフェッショナル人材と共に伴走支援させていただきます。われわれはこれまで、3省26都道府県95市町村や114の地域金融機関や登録プロフェッショナル人材と、地元企業での副業人材活用、DX推進、オープンイノベーション、地方転職、シティープロモーションなど、さまざまな取り組みをおこなってきました。本プロジェクトでも、われわれの持つリソースと経験を生かし、北九州市のリスキリングや副業・パラレルワークの普及を推進させていただきたいと思っています。

 

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