【特集】大企業担当者に聞いた!リスキリング実態調査2026 これからどこへ向かい、何が壁になっているか 〜実態調査2026・特集の総括として〜

はじめに|「動こうとしている企業」が見ているもの

2026年5月、新年度がスタートして1カ月。多くの企業で、新年度のリスキリング施策が動き出す時期です。厚生労働省の2026年度人材開発統括官予算は2334億円(*1)で前年比微増、人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)も2026年3月の制度改正で「事業展開に伴う訓練」に加え「人事・人材育成計画に基づく訓練」も助成対象に拡張されました(*2)。政府の「5年で1兆円」の人への投資は、制度の継続的拡充という形で2026年も続いています。

制度は整備され続けている。では、現場の大企業はこの流れに乗ってどこへ向かおうとしているのか。そして、その前進を阻んでいるものは何か。本特集の最終回となる今回(第13回)では、これらを正面から扱います。

■ 第11回・第12回の発見(要約)

第11回では、大企業の64.5%が「リスキリング実施中」と答える一方、その61.0%は職種転換を前提としない学習提供型の取り組みをリスキリングと呼んでいることが分かりました。各社の捉え方は5段階に分かれます。

捉え方の類型(Q2件数比率
学習機会の提供(職務・役割の転換は前提にしない)11629.0%
現職での活用まで(職務・役割の転換は前提にしない)12832.0%
社内公募・マッチングまで(異動するかは応募と選考結果による)8220.5%
学習と配置転換を一連の流れで運用(政府定義相当)389.5%
先に配置転換、後に学習させる297.2%
その他71.8%

第12回では、生成AIの影響を78.5%が認識する一方、「内部人材転換の必要性が高まった」と答えたのはわずか7.5%(最下位)。変えた内容を見ると、「スキルテーマ更新」はどの定義の企業でも50%前後で均一だったが、「配置転換の仕組み変更」「成果指標変更」はQ2の定義が職種転換に近づくほど高くなる。外部変化は内部の定義の枠の中でしか吸収されない——これが第12回の核心でした。

■ 今回の問い

ここまで「現在地」と「変化への対応」を見てきました。最終回では、各社が今後12〜24カ月でどこへ向かおうとしているか(Q13)、そしてその前進を阻む阻害要因は何か(Q14)を分析します。Q2の捉え方とのクロス、そしてQ13とQ14の組み合わせから、「動こうとしている企業」と「動かない企業」が見ている世界の違いを浮かび上がらせ、特集3回の総括とします。

第13回から読まれる方は、上のQ2類型表を参照しながらお読みください。

Q13:今後12〜24カ月の方針——最多は「中規模改善」、その意味

【設問Q13】今後12〜24カ月の方針として最も近いものはどれですか。(単一回答、n=321)

Q13はリスキリングを実施中・検討中等の321名への設問です(Q1=「過去も含めて実施していない」「わからない」の79名は対象外)。

選択肢(全文)件数比率
現状維持である(大きな見直しを行わない)6821.2%
小幅改善である(主に研修テーマ・教材更新が中心である)6620.6%
中規模改善である(業務適用やKPI、ガバナンスを強化する)7924.6%
抜本的再設計である(ターゲット職務・評価・配置まで含めて作り直す)3811.8%
規模拡大である(対象者・対象領域を広げる)3210.0%
縮小である(領域を絞り込む)61.9%
中止/終了である10.3%
未着手だが新規に立ち上げる(24カ月以内)41.2%
未定である165.0%
わからない113.4%

最多は「中規模改善」(24.6%)、次いで「現状維持」(21.2%)、「小幅改善」(20.6%)。「抜本的再設計」は11.8%(38件)にとどまります。

整理すると、45.8%の企業は「微調整」(小幅+中規模改善)の方針、31.5%は「動かない」(現状維持+縮小+未定+わからない)方針、「大きく動く」(抜本的再設計+規模拡大)と決めている企業は21.8%——これが大企業の今後12〜24カ月の全体像です。

ここで注目すべきは、最多の「中規模改善」の選択肢内容です。 「業務適用やKPI、ガバナンスを強化する」と書かれています。

第12回で明らかになったQ6(施策の組み込み要素)の分析を思い出してください。

施策の要素(抜粋)整備率(n=321
研修・eラーニング等の学習機会の提供がある58.6%
生成AI利用環境の提供がある(社内ツール、ライセンス等)19.9%
生成AIガバナンスがある(利用規程、審査、ログ管理等)15.3%
成果指標の設定・測定がある(例:転換人数、配置成立、業務成果等)14.0%

最も整備が遅れている3要素——生成AI利用環境、生成AIガバナンス、成果指標——これらは、まさにQ13「中規模改善」が強化対象として挙げる「業務適用」「KPI」「ガバナンス」と一致します。

つまりQ13のトップ回答は偶然ではありません。現場の担当者は何が足りていないかを認識しており、その方向に動こうとしているのです。研修コンテンツの更新(小幅改善)でもなく、制度の作り直し(抜本的再設計)でもなく、「足りていないインフラを埋める」中規模改善が最多の方針として選ばれています。これは大企業のリスキリング担当者が、第12回で見えた「現状の不備」を踏まえて現実的な次の一手を選択していることを示しています。

Q13×Q2:定義によって、未来の選択は分かれる

【Q2の捉え方 ×Q14今後の方針(分母は各Q2グループのQ14回答者数)】

Q2の捉え方n現状維持小幅改善中規模改善抜本的再設計規模拡大縮小中止新規立ち上げ未定わからない
学習機会の提供8829.5%19.3%20.5%13.6%9.1%1.1%0.0%0.0%5.7%1.1%
現職での活用まで11916.8%23.5%25.2%12.6%10.1%3.4%0.0%0.8%4.2%3.4%
社内公募・マッチングまで7413.5%17.6%36.5%10.8%9.5%1.4%1.4%1.4%5.4%2.7%
学習と配置転換(政府定義相当)2733.3%25.9%11.1%11.1%11.1%0.0%0.0%7.4%0.0%0.0%
先に配置転換、後に学習1323.1%7.7%7.7%0.0%15.4%0.0%0.0%0.0%15.4%30.8%

①と④——両極にあるグループが、ともに「現状維持」の最高率(29.5%・33.3%)を示しているのが、この表の最重要発見です。

しかし、この同じ「現状維持」が、二つのグループでは全く異なる意味を持っています。

①(学習機会の提供型)の29.5%が「現状維持」を選ぶ意味。 第12回で見た通り、①は生成AIの影響を「目的・制度設計の見直しが必要」と最も強く感じていたグループ(27.3%)でした。にもかかわらず最多が「現状維持」——これは「変える必要を感じても、学習提供型の枠の中ではこれ以上変える余地がない」という袋小路を示唆しています。研修コンテンツを生成AI対応にアップデートし、eラーニングの提供範囲を広げる——これらの打ち手は出尽くしている。けれど、職種転換まで踏み込む定義変更には踏み切れない。だから「現状維持」になる。

④(政府定義相当)の33.3%が「現状維持」を選ぶ意味。 こちらは別の文脈です。第11回で見たように、④を選んだ38社のうち実施中は22社(57.9%)。すでに作り込んでいる企業は、向こう12〜24カ月で安定運用に入るという、ポジティブな現状維持と読めます。

③(社内公募・マッチング)の36.5%が「中規模改善」を選んでいる点も意義深い。第12回で③は「ガバナンス整備が必須」と最も強く感じていたグループ(44.8%)でした。「業務適用やKPI、ガバナンスを強化する」という中規模改善の方針は、その課題認識と整合的です。動いている制度(社内公募)があるからこそ、その精度を上げる方向の投資が見えやすい。

定義の違いは、「未来の選択肢の見え方」そのものを規定しています。

Q9× Q13:「変えた企業」と「これから変える企業」の構造

第12回のQ9(変更状況)と、Q13(今後の方針)をクロスすると、各社の「過去の変更」と「未来の方針」の関係が見えます。

【Q9×Q13クロス:すでに変更したか × 今後の方針(n=321)】

Q9の変更状況n現状維持小幅改善中規模改善抜本的再設計規模拡大縮小中止/終了新規立ち上げ未定わからない
変更済み(全社反映済み6435.9%26.6%20.3%6.3%9.4%1.6%0.0%0.0%0.0%0.0%
変更済み(一部試行中)9311.8%28.0%30.1%14.0%14.0%2.2%0.0%0.0%0.0%0.0%
変更決定済み(未実行)456.7%15.6%31.1%31.1%13.3%2.2%0.0%0.0%0.0%0.0%
検討中(未決定)5619.6%21.4%33.9%10.7%3.6%1.8%1.8%1.8%5.4%0.0%
変更していない3935.9%7.7%10.3%2.6%10.3%2.6%0.0%7.7%23.1%0.0%
わからない2425.0%4.2%4.2%0.0%4.2%0.0%0.0%0.0%16.7%45.8%

このクロス分析から、リスキリングをめぐる5つの異なる立ち位置の企業群が見えてきます。

Aグループ(変更済み・全社反映済み 64件):「すでに変えた、これからは安定運用」 35.9%が現状維持を選び、抜本的再設計は6.3%にとどまります。「縮小」を選んだ企業も1社(1.6%)のみで、それ以外は全社反映を踏まえた前向きな方針が並びます。変更を全社展開した企業は、当面その運用を回すフェーズに入る——これは合理的な判断です。

Bグループ(変更済み・一部試行中 93件):「動かしながら広げる」 30.1%が中規模改善、28.0%が小幅改善、14.0%が抜本的再設計、おなじく14.0%が規模拡大。一部試行を本格運用に育てながら、業務適用やKPIを強化する方向が中心です。「未定・わからない」は0%で、明確な方向性を持っているグループです。

Cグループ(変更決定済み・未実行 45件):「これから本気で動く」 31.1%が中規模改善、同率の31.1%が抜本的再設計を選択。後者は全Q9グループの中で最も高い割合です。決めたが未実行——彼らはまさに今、抜本的な再設計に踏み出そうとしている段階です。本特集の中で最もアクティブな次の動きが期待されるのがこのCグループです。

Dグループ(検討中 56件):「踏み切れない」 33.9%が中規模改善を選ぶ一方、「未定」が5.4%、「縮小」「中止」「新規立ち上げ」が各1.8%ずつ。意思決定の方向性が拡散しており、踏み切れない層であることがわかります。

Eグループ(変更していない 39件):「これからも明確な方針が立っていない」 35.9%が現状維持、23.1%が「未定」、7.7%が「新規立ち上げ」、2.6%ずつが「縮小」「抜本的再設計」。「未定」の高さが目立ちます。生成AIの影響に対し変更しなかった企業の多くは、今後12〜24カ月でも方針を決められていない状態にあります。

Fグループ(わからない 24件):「方針を答えられる状態にない」 45.8%が「わからない」、16.7%が「未定」を選択。Q9で変更状況に「わからない」と答えた企業は、Q13の今後の方針も同様に答えられていません。組織として施策の現状把握自体ができていないグループです。

特に重要なのは、Cグループ(45件)の存在です。彼らはすでに変更を決めており、その約3割が抜本的再設計に踏み出します。本特集が示してきた「定義の枠を超える変革」の主役候補は、ここにいる可能性が高い。一方でEグループとFグループ(合計63件)は、リスキリング推進が事実上停滞している層として、別の支援アプローチが必要です。

Q14:阻害要因——トップ3が示す「学習提供を超えるインフラ」の不在

【設問Q14】リスキリングを推進するうえでの最大の阻害要因は何ですか。(複数回答可、n=321)

選択肢(全文)件数比率
指導者・メンターが不足している83件25.9%
人材・スキルデータが整備されていない78件24.3%
学習・業務適用の時間が確保できない69件21.5%
評価制度と接続できない68件21.2%
将来必要な職務・役割の定義が不十分である63件19.6%
配置転換の受け皿がない/席が作れない56件17.4%
生成AIガバナンス/セキュリティー/法務の壁が高い55件17.1%
予算・人員が不足している46件14.3%
現場上司の関与が弱い44件13.7%
従業員の動機づけが難しい/学習が続かない36件11.2%
生成AIの変化が速く、前提が定まらない29件9.0%
経営の優先順位が上がらない/事業戦略と接続できない24件7.5%
わからない20件6.2%

トップ3は、「指導者・メンター不足」(25.9%)・「スキルデータ未整備」(24.3%)・「学習時間の確保不可」(21.5%)。「予算・人員が不足」は14.3%(8位)にとどまります。

この順位は重要な意味を持ちます。 第12回のQ11(変更していない企業の理由)では「人員・予算不足」が32.6%でトップでしたが、リスキリング推進全体の阻害要因では大きく順位を下げます。変更をちゅうちょさせているのは予算問題ですが、リスキリング推進全体を阻んでいるのは予算ではないことになります。

ではトップ3が示しているものは何か。これら3要素の共通点を考えてみてください。

「指導者・メンター」「スキルデータ」「業務適用の時間」——いずれも、研修を受けさせるだけのリスキリング(学習提供型)には不要で、職種転換型のリスキリングを回すために初めて切実に必要になるインフラです。

研修を提供するだけなら、教える人は外部講師でいい、誰が何を持っているかは把握しなくていい、業務時間外の自己学習でいい。しかし、社員に新しい職務へ転換してもらうとなれば話は変わります。社内に教えられる人材プールが必要、誰が何を持っていて何を学ぶべきかを把握できるデータ基盤が必要、業務時間内で実践しながら学ばせる仕組みが必要。これらがそろわなければ、本来のリスキリングは機能しません。

つまりQ14のトップ3が示すのは、「学習提供型を超えて職種転換型へ進もうとした瞬間、これらインフラ不在の壁にぶつかる」という構造です。 第11回で見た「言葉の普及と本来のリスキリングの普及は別」という事実、第12回で見た「変化は定義の枠の中でしか吸収されない」という構造の延長線上に、この阻害要因のトップ3があります。

【Q14阻害要因 × Q2の捉え方(n=321)】

Q14の阻害要因①n=88②n=119③n=74④n=27⑤n=13
1.将来必要な職務・役割の定義が不十分27.3%16.0%13.5%29.6%15.4%
2.評価制度と接続できない26.1%21.0%16.2%18.5%23.1%
3.配置転換の受け皿がない/席が作れない21.6%18.5%14.9%7.4%15.4%
4.現場上司の関与が弱い13.6%11.8%18.9%14.8%0.0%
5.学習・業務適用の時間が確保できない26.1%17.6%23.0%22.2%15.4%
6.指導者・メンターが不足している19.3%28.6%29.7%22.2%30.8%
7.人材・スキルデータが整備されていない15.9%26.1%29.7%37.0%7.7%
8.生成AIガバナンス/セキュリティー/法務の壁11.4%18.5%21.6%25.9%0.0%
9.予算・人員が不足している9.1%14.3%18.9%14.8%23.1%
10.経営の優先順位が上がらない/事業戦略と接続できない6.8%10.1%8.1%0.0%0.0%
11.従業員の動機づけが難しい12.5%8.4%14.9%7.4%15.4%
12.生成AIの変化が速く、前提が定まらない8.0%10.1%5.4%18.5%7.7%
13.その他0.0%0.0%0.0%0.0%0.0%
14.わからない5.7%3.4%6.8%7.4%30.8%

このクロスは、定義によって「壁」の質が異なることを明確に示します。

1(学習機会提供型)で目立っているのは「将来職務定義不十分」(27.3%)「評価制度接続不可」(26.1%)「配置転換の受け皿なし」(21.6%)。学習提供で止まっている企業ほど、その先の「学んだ人がどこへ行くか・どう評価されるか」の不在を阻害要因として認識しています。学習提供を続けながら、その先の出口の不在に直面している——この自己認識が①にはあります。

④(政府定義相当)が突出しているのは「人材・スキルデータ未整備」(37.0%)、次点で「将来職務定義不十分」(29.6%)、「生成AIガバナンス」(25.9%)。 職種転換型を本格的に運用しようとする企業ほど、「誰が何を持っているか」のデータと「将来必要な職務」の解像度が壁となります。これは本気で取り組んでいるからこそ見える壁です。

②(現職での活用まで)と③(社内公募・マッチングまで)は「指導者・メンター不足」「スキルデータ未整備」が共通して高い。学習だけでなく実践運用に踏み込んでいるグループにとって、教える人と把握データの不足が共通の壁です。

Q13×Q14:5つの方針が見ている、それぞれの世界

最後に、Q13(今後の方針)別にQ14(阻害要因)のトップ要因を見ます。これは今後どこへ向かう企業が、どんな壁を見ているかを示すクロスです。

【Q13方針別の阻害要因トップ5】

Q13の方針n1位2位3位4位5位
現状維持68将来職務定義不十分(36.8%)動機づけ難(22.1%)評価制度接続不可(20.6%)スキルデータ未整備(20.6%)指導者メンター不足(19.1%)
小幅改善66評価制度接続不可(31.8%)指導者メンター不足(28.8%)スキルデータ未整備(28.8%)
※同率2位
配置受け皿なし(22.7%)将来職務定義不十分(19.7%)
中規模改善79指導者メンター不足(29.1%)配置受け皿なし(27.8%)時間確保できず(22.8%)現場上司関与弱(21.5%)AIガバナンス壁(21.5%)
※同率4位
抜本的再設計38時間確保できず(36.8%)スキルデータ未整備(34.2%)指導者メンター不足(26.3%)評価制度接続不可(23.7%)将来職務定義不十分(18.4%)
規模拡大32指導者メンター不足(37.5%)時間確保できず(34.4%)スキルデータ未整備(31.2%)AIガバナンス壁(25.0%)予算人員不足(21.9%)

ここから見えるのは、今後の方針によって阻害要因の質が明確に分かれるという事実です。

「現状維持派」が最も悩んでいるのは「将来職務定義不十分」(36.8%)と「動機づけ難」(22.1%)——いずれも、リスキリングを始める前提となる「何のために、どこへ向けて、誰のために」という設計の不在です。動かないのではなく、出発点が見えないから動けない、という状態です。

「抜本的再設計派」が最も悩んでいるのは「時間確保できず」(36.8%)と「スキルデータ未整備」(34.2%)——具体的に動かそうとしているからこそ見える、実行レベルのリソース・インフラ問題です。

「中規模改善派」と「規模拡大派」は「指導者・メンター不足」がトップ——制度を回しながら広げようとする段階で、教える側の人材プールが最大の壁になります。

つまり、抜本派は「実装の壁」、現状維持派は「設計の壁」の前で止まっています。 これは決定的な違いです。同じ「動けない」「動きにくい」と感じていても、その原因が全く異なる。打ち手も当然変わります。

まとめ——3回の特集が貫いた「グラデーション構造」と、明日からの3つの問い

第11回から第13回までの3回を通じて、リスキリング実態調査2025のデータを分析してきました。3回を貫いて見えてきたのは、Q2の①〜⑤が単なる選択肢ではなく、「学習提供」から「職種転換」へと深まるグラデーションを成しているという構造です。そして、現在地・変化への応答・未来の方針・阻害要因——調査が問うたすべての側面が、このグラデーション上のどこにいるかで規定されている、ということでした。

第11回(現在地)第12回(変化への応答)第13回(未来と壁)
①学習提供型全社実施が容易「変える必要」を強く感じる「現状維持」が最多/出口の不在に直面
④政府定義相当実施が困難・実施率57.9%制度の根幹まで変える安定運用へ/データ・職務定義が壁

特集回全3回をお読みいただいた読者の皆さまへ:本特集の発見が示す3つの問い

特集を通じてデータを見続けてきた立場から、人材開発・育成担当の皆さまに、明日から自社で問い直していただきたい3つの問いを提示します。

問い1:「自社のリスキリングは、Q2のどこにいるか」 ①なのか、②なのか、③なのか、④なのか。これを言語化することが、すべての出発点です。本調査が示したのは、定義を曖昧にしたまま「リスキリング」という言葉を使い続けることの限界でした。来週の社内会議で、自社の取り組みをQ2の①〜⑤のどこに位置づけるかを議論してみてください。これだけで、関係者の認識のずれが可視化されます。

問い2:「自社の現在地に応じた壁は、何か」 あなたの会社が「現状維持派」に近いなら、最初に取り組むべきは「将来職務の定義」と「動機づけ」——つまり設計レベルの議論です。あなたの会社が「動こうとしている派」(決定済み・未実行・抜本的再設計)に近いなら、最初に取り組むべきは「指導者・メンター育成」「スキルデータ整備」「業務時間内学習の枠組み」——つまり実装インフラの構築です。同じ「動きにくさ」でも処方箋は逆です。

問い3:「自社のリスキリング施策は、何で測れているか」 本調査で最も整備が遅れていた要素は「成果指標の設定・測定」(14.0%)でした。Q11で「効果測定が弱く根拠不足」が25.3%(第12回)であったことと一体です。測れないものは議論できず、議論できないものは変えられません。来週から、自社のリスキリング施策の「KPI」を見直してください。研修受講者数や満足度ではなく、「業務適用率」「職種転換成立件数」「配置後の成果」など、リスキリングの本来目的に近い指標を一つでも設計することが、来年度以降の議論を可能にします。

 


< 参考文献・出典 >
*1 厚生労働省「令和8年度概算要求の概要」令和7年8月 人材開発統括官
https://www.mhlw.go.jp/wp/yosan/yosan/26syokan/dl/gaiyo-14.pdf

*2厚生労働省「人材開発支援助成金」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/d01-1.html

*3 本記事中の調査データはすべて、みらいワークス総合研究所「リスキリング実態調査2026」(対象:従業員500名以上の日本企業の人材開発・人事研修担当者、有効回答:400名)による。本調査の正式リリースは後日を予定。各設問の有効回答数は設問ごとに異なり、本文中に記載の通り。