先日開催いたしましたオンラインセミナー「雇用政策が決定!『自律的で多様な働き方』とAI協働はどうなるか」では、骨太の方針2026と日本成長戦略で定まった雇用政策の方向を、社会・戦略・施策という3つの層で整理し、経済産業省の「2040年の就業構造推計(2040年を見据えた働き手や職種の将来予測データ)」から、職種の間で大きなミスマッチが生じていく見通しを確認しました。
その上で、政策が進めようとしている「自律」を4つに分け、それぞれについて調査データで企業の現在地を見て、すでに手を付けている各社の取り組みを公開情報から読む、という組み立てにしました。
前回の記事では、その4分類のうち、①時間の自律と③キャリアの自律を取り上げました。労働時間の管理と、その時間をどこに向けるか。評価や処遇への反映と、その基準をどう自社で定義するか。どちらも、自社の中の制度をどう組むかという論点です。
今回は残りの2つ、②所属の自律と④仕事の進め方の自律です。あわせて、セミナーでは時間の都合で詳しくお話しできなかった、社外の人材を受け入れる側の制度面についても、膨らませて書きたいと思います。
自律の4分類の再掲 ― 発注する側の設計にあたる2つ
いつ働くかを本人が決める時間の自律、どこで働くかを本人が決める所属の自律、何になるかを本人が決めるキャリアの自律、どうやるかを本人が決める仕事の進め方の自律。この4つです。
今回の②と④は、社外の人材やAIに何をどこまで任せるのかという、発注する側の設計に近い論点になります。
それぞれ、みらいワークス総合研究所の調査で現在地を確かめた上で、すでに手を付けている企業を2社ずつ見ていきます。
② 所属の自律 ― 社外での労働の位置づけと、経験の活用先の明示
まず調査から見ます。この設問は、副業・兼業について、自社の従業員を出す側と、社外の人材を受け入れる側の両方を聞いたものです。制度として認めているかと、実際に受け入れているかを、それぞれ分けて聞いています。意向ではなく、現在の運用です。
出す側と受け入れる側の両方を聞いている点が、この調査の特徴だと思います。副業・兼業は自社の従業員の話として語られることが多いのですが、実務としては、受け入れる側の設計のほうが先に必要になる企業も多いところです。
その上で、副業を認めている企業のうち77.3%が、社外で得た経験を何らかの形で自社に活用しています。活用の中身として最も多いのは、副業で得たスキルや人脈を新規事業やプロジェクトに登用することで、49.0%です。社外に出すことと、戻ってきた経験をどこで使うかが、同じ設計の中で考えられていることが分かります。
社外の人材を受け入れる側の制度 ― フリーランス新法と、労働者性の線引き
ここからは、セミナーの内容から少し膨らませて、受け入れる側の制度面を整理します。
2024年11月に施行されたフリーランス新法(特定受託事業者に係る取り引きの適正化等に関する法律)によって、社外の個人に業務を委託する企業には、いくつかの義務が生じました。
1つ目が、取り引き条件の明示です。業務の内容、報酬の額、支払期日などを、書面または電磁的方法(電子メールやチャットツール、PDF等)で示します。2つ目が、支払期日の設定で、発注した成果物などを受け取った日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を定め、その期日までに支払います。3つ目が、募集情報の的確表示です。4つ目が、育児・介護等への配慮で、6か月以上の継続的な業務委託では義務となります。5つ目が、ハラスメントに関する相談体制の整備です。6つ目が、6か月以上の継続的な業務委託について、中途解除や不更新の場合に原則30日前までに予告することです。
あわせて、受領の拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、物の購入やサービスの利用の強制といった行為が禁止されています。
ここで実務として効いてくるのは、5つ目のハラスメント相談体制だと考えています。自社の従業員向けの相談窓口は整備されていても、業務委託で入っている方からの相談をどう受けるかまで決めている企業は、これから整えていく段階かと思います。窓口の対象範囲、受けた後の調査の進め方、委託元としてどこまで関与するか。このあたりは、就業規則ではなく業務委託契約や社内規程の側で設計することになります。
もう1つ、受け入れる側で避けて通れないのが、労働者性の線引きです。業務委託として契約していても、実態として指揮監督のもとで働き、時間的な拘束を受け、報酬が労務の提供そのものへの対価になっていれば、労働者と判断される可能性があります。判断は契約の名称ではなく実態で行われます。
実務上、線が曖昧になりやすいのは、業務の進め方を細かく指示する場面、始業と終業の時刻を指定する場面、そして自社の従業員と同じように会議や朝礼への参加を求める場面です。社外の人材と一緒に仕事を進めようとするほど、自社の従業員と同じ扱いに寄っていきます。だからこそ、どこまでを依頼し、どこからは相手の裁量に委ねるのかを、契約の段階で想定しておく必要があります。
このことは、②の所属の自律が進むほど重みを増します。社外に開くことと、労働者性の線を引いておくことは、同じ設計の両面です。
ここで問われているのは、社外での労働を自社にとってどう位置づけ、その経験をどう活用するのか、という点です。すでに手を付けている2社を、以下、開示情報から説明します。
なお、これらは筆者が開示情報をもとに解説しているものです。事実情報と解釈や意見は分けて書いていますが、あくまで筆者の見立てによるものであることをご了承ください。
オリエントコーポレーションは、ジョブポスティング制度(社内公募制度)を本格的に始動させ、営業店の管理職や本社の全部署を対象とした社内公募、国内外トレーニー、スタートアップ企業へのレンタル移籍、副業経験まで、社内外での挑戦機会を並べて拡大しています。
注目したいのは、帰任後に社外で培った経験や知見を活かし、社内での活躍の幅を広げる、と書かれている点です。社外に出ることを、社内での活躍につなげる前提で設計されています。経験の活用先を先に決めてから、出す仕組みを作っている形だと読めます。
高知銀行は、人的資本経営に基づく人事制度改革の一環として副業制度を導入し、副業で得た社外の知見や高度なスキルは当行の業務に還元する、と有価証券報告書に明記しています。社外での労働の意義を、業務への還元という形で定義しているところが特徴です。副業を認めるかどうかではなく、認めた上で何を得るのかが、先に言語化されています。
2社とも、社外での労働を自社にどう位置づけ、その経験をどこで活かすかを、制度の文面に書いています。人事の言葉に置き換えれば、これは要員計画と育成の接続の問題です。社外に出た期間を、どの職務に戻すための時間として扱うのか。ここが決まっていると、本人も上長も見通しを持って判断できます。
出す側の制度としては、副業に関する規程の整備が土台になります。許可制とするか届け出制とするか、どの範囲の副業を認めるか、秘密保持と競業避止(自社の不利益となる競合他社での副業禁止)をどう定めるか、そして労働時間をどう申告してもらうか。労働基準法の改正では、副業・兼業の割増賃金について、日単位・週単位の通算を廃止し、健康を確保するための月単位の通算を維持する方向で議論が進んでいます。割り増しの計算から外れても、健康確保のための把握は残りますので、申告のルールは規程に書いておくことになります。
④ 仕事の進め方の自律 ― AIへの分担と、人に残す価値の定義
こちらも調査から見ます。この設問は、「AIの進展により定型業務が自動化される一方、人にしかできない専門性や創造性の価値が高まる」という前提から始まります。AIが働き方を変えることを前提に、その影響の大きさを聞いている設計です。
8割以上が、影響を認めています。
4つ目を他の3つと並べて書きましたが、性質は少し違います。4つ目は、他の3つの中身を動かします。定型の作業に充てていた時間が空けば、その時間を何に向けるかが問われます。社内で担う仕事と社外の人材と組む仕事の切り分けも動きます。何の専門性を持つのかという問いも変わります。
ですから、AI協働を独立した施策として扱うより、時間・所属・キャリアのそれぞれに、AI協働の進展をどう織り込むかを想定するほうが、実務には合うと考えています。
ここで問われているのは、何をAIに任せ、人にどういう価値を残すのか、という点です。AIをよく使う人ほど週の残業が長いという調査結果もあり、任せ方の設計がそのまま労働時間に表れてきます。すでに手を付けている2社を見ます。
ウェザーニューズは、社内AIエージェント「WNI Intelligence Core」を全社で運用しており、全社員の約8割が月1万回使っています。エンジニアだけでなく、営業、カスタマーサクセス、予報部門、人事・総務まで広がっており、顧客向け報告書の作成は数時間から約15分になったとされています。
設計として読み取れるのは、会社全体の業務単位で分担を決めた上で、なるべく1つのプラットフォームに集めていく、という形です。複数のLLMを社内環境で安全に使える基盤に集約しています。分けることと集めることが、同時に行われています。
そして、AIが定型的な対話を担うことで、カスタマーサクセス1人が支援できる顧客数が5〜6社から30社、100社へと広がっています。その上で、最終的な意思決定と責任は人間が担う、と明記されています。任せた分だけ人の担当範囲を広げる、という設計です。
コニカミノルタは、熟練者の判断の手順と勘所をAIに学習させ、他の担当者が現場で使えるようにする取り組みを進めています。熟練者の判断プロセスを、現場で活用可能な知として定着させる、と有価証券報告書に書かれています。
人の経験や勘所を単に可視化するにとどまらず、実践に活かせる形で知を拡張する、とも書かれています。AI協働によって、属人化していた業務を共有化していく設計だと読めます。技能伝承の課題に、AI協働の側から答えている形です。
2社とも、AIに任せる前に、人に残す価値を先に決めています。ウェザーニューズは最終的な意思決定と責任、コニカミノルタは熟練者の判断です。何を残すかが決まっているので、残りをどう任せるかの設計ができます。
4つの現在地と、自社での進め方
4つとも、必要は認識されています。そして4つ目が、他の3つの中身を動かしています。
自社で考えるとすれば、四つのどこに手を付けていて、どこがまだ想定の段階なのかを並べてみることから始められます。その上で、②であれば社外に出た経験をどの職務に戻すのか、受け入れる側では契約と相談体制をどう整えるのか。④であればAIに任せる範囲と人に残す価値を、それぞれ想定してみる。先行している各社も、この順序で進めていると読めます。
いずれの取り組みも、就業規則や業務委託契約、評価制度といった文書に反映されて運用に乗ります。副業の規程、委託契約のひな型と相談窓口の範囲、職務の定義、評価項目。どこに書き込むかまで含めて想定しておくと、社内での合意が作りやすくなります。
セミナーの内容は、今回で一通りお伝えしました。4つの分類は、今後の連載でも基礎に使っていきます。
出典・注記
※労働政策研究・研修機構 資料シリーズNo.299(2026年3月18日公表)、パーソル総合研究所「生成AIとはたらき方に関する実態調査」(2026年2月3日公表)、経済産業省「2040年の就業構造推計」を参照しています。
※各社の記述は、公開されている統合報告書・有価証券報告書・ニュースリリースからの引用です。該当ページは各図に記載しています。オリエントコーポレーション 統合報告書2025 p.51、高知銀行 2026年3月期 有価証券報告書 p.13、ウェザーニューズ ニュースリリース(2026年8月13日)、コニカミノルタ 2026年3月期 有価証券報告書 p.62。
※取り組みの読み方には、公開情報からの筆者の推定を含みます。各社の見解ではありません。法令の記述は2026年10月時点のもので、労働基準法の改正に関する部分は現時点での見通しを含みます。
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