雇用政策が進める「自律」の必須の対応施策 ~時間とキャリアの自律をめぐる制度設計と、NTT・リコー他の先行事例~

9月29日にオンラインセミナー『雇用政策が決定!「自律的で多様な働き方」と「AI協働」はどうなるか』を開催しました。多くの方にご参加いただき、ありがとうございました。
本稿では、当日お伝えした骨組みをさらに深掘りし、企業が取り組むべき実務施策と先進事例について解説します。

まずは、これから社会や企業に何が起きるのかという前提の構造から整理していきます。

経産省「2040年の就業構造推計」が示す職種間ミスマッチと、働き方の質的転換

図1(2026年9月29日 セミナー資料より)

経済産業省の「2040年の就業構造推計(2040年を見据えた働き手や職種の将来予測データ)」が、いま検討されている雇用政策の基礎資料になっています。

これまで、人手不足は深刻な前提として語られてきました。2040年に1,100万人不足という推計が通説のようになっており、就業者数が6,000万人台であることを考えると、1~2割ほどが足りなくなるとも言えます。一説によれば、たとえば東京圏でも周辺部では生活を維持するインフラの保守が難しくなる、といった水準の労働力不足のイメージではないか、とも言われています。

それに対して、上記の通り経産省の推計で示されたのは、AIの導入と活用が進むことで、その不足がおおむね回避できる見通しが立つ、ということでした。ここはかなり大きな前提の変化だと受け止めています。

図2(2026年9月29日 セミナー資料より)

その上で、職種の間で大きなミスマッチが起きるとされています。

事務職や企画職はAIが担いやすく、供給が過剰になっていきます。一方で、AIを使いこなす人材と、現場を担う人材が不足します。現場については、人手が足りないというより、AIやロボットと一緒に現場の業務を進める人材、いわば高度化したエッセンシャルワーカーの創出が重要になる、という形で示されています。物流、建設、介護などがその領域です。自律的に動くショベルカーを1人で何十台も扱って工事を進める、ロボットやAIと一緒に何十人分もの介護にあたる、といった姿です。

事務や企画の職種に関わらない会社はほとんどありませんし、そこに現場の労働も影響を受けるとなると、ほぼすべての会社と業界に関わってくることになります。これは「将来の話」ではありません。採用難やAIとの協働があらゆるところで話されている、現在進行形の、現在起こっている内容となります。

骨太の方針2026・日本成長戦略が確定させた雇用政策の三層構造

図3(2026年9月29日 セミナー資料より)

骨太の方針2026と日本成長戦略が7月に決まり、雇用政策の方向が定まりました。根本に置かれているのは、社会と産業構造の変化、そしてAI協働の進展を前提とした「自律的で多様な働き方」です。

労働基準法の改正は、その中でいちばん具体的な各論にあたります。目的ではなく、目指す働き方を実現するための道具という位置づけです。法案は2027年の通常国会に付議され、施行は2028年4月ごろと見ていますが、いずれも現時点での予測です。

雇用政策は、社会・戦略・施策の三つの層で構成されています。施策や現象だけを見ていると迷子になりますが、社会と自社の把握ができていると、法令もAI協働も道具として使えるようになります。実務的にも、社内で働き方の施策を進めるときに「雇用政策がそうなっていて、法令にも反映されそうです」と言えると、合意を作る力をかなり持ちます。

雇用政策の根本にある「自律的で多様な働き方」の位置づけ

職種の構成が動き、職務の中身も流動的になっていく。そうなると、働く1人ひとりが、自分はどうするのかを決める場面が増えます。会社の側も、どの仕事を誰がどう進めるのかを、その都度決め直すことになります。

雇用政策が「自律的で多様な働き方」を根本に置いているのは、このためだと理解しています。

ただ、「自律的な働き方」という言葉は、そのままでは大きすぎて、自社の施策に落ちにくいところがあります。何から手を付ければよいのかが見えません。そこで、政策が進めようとしている自律を分けてみました。

自律の四分類 ― 時間・所属・キャリア・仕事の進め方


図4(2026年9月29日 セミナー資料より)

いつ働くかを本人が決める、時間の自律。労働基準法の改正、裁量労働制、テレワーク、フレックスタイム制がここに関わります。

どこで働くかを本人が決める、所属の自律。副業・兼業、社外人材の活用、フリーランス新法です。

何になるかを本人が決める、キャリアの自律。リスキリング、社内公募、キャリア面談が入ります。

どうやるかを本人が決める、仕事の進め方の自律。これはAI協働で新しく出てきた方向です。定型の作業をAIが引き受けたぶん、何をどうやるかを、その場で本人が決める場面が増えました。

4つとも進んでいます。そして4つ目が、他の3つすべてに絡んできています。

自社の施策を考えるときも、この4つに分けると整理しやすくなります。4つのうち、どこに手を付けていて、どこがまだなのか。

4つを一度に書くと長くなりますので、今回と次回に2つずつ分けます。
今回は、①の時間の自律と③のキャリアの自律です。この2つは、自社の中の制度をどう組むかという論点になります。次回は、②の所属の自律と④の仕事の進め方の自律です。こちらは、社外の人材やAIに何をどこまで任せるかという、発注する側の設計に近い論点になります。

それぞれ、みらいワークス総合研究所の調査(*1)で現在地を確かめた上で、すでに手を付けている企業を2社ずつ見ていきます。

① 時間の自律 ― 労働時間管理の前進と、時間の向け先の制度設計

まず調査から見ます。

図5(2026年9月29日 セミナー資料より)

この設問は、副業・兼業をしている従業員の労働時間を、どう管理しているかを聞いたものです。2025年と2026年で同じ設問を使っているので、意識ではなく、管理の手段が実際に動いたかどうかが分かります。

副業の時間管理に限った設問ですが、測っているのは、自社の外で働いている時間を自社として把握できているか、という点です。これは人事の方にとっては新しい問題ではなく、要員計画や健康管理の精度の問題と地続きだと思います。

なお、労働基準法の改正では、副業・兼業の割増賃金について、労働時間の通算の簡略化が議論されています。こうした対応の方針を今から決めておくのは重要なことだと言えます。

その上で、見直しにともなう懸念として最も多く挙がったのが「従業員からの自己申告の正確性・客観性を担保できない」でした。仕組みが入ったあとに出てくる問いです。制度を作る段階から、運用と信頼性の段階に移ってきている、と読めます。

自社で考えるとすれば、副業に関する規程と、勤怠の実際の運用を、合わせて見直す想定が必要になりそうです。

ここで問われているのは、より価値の高い活動に人の時間をどう向けるのか、という点です。向ける先の想定がないまま、時間だけを測ることはできません。すでに手を付けている2社を見ます。

※なお、以後取り上げる事例については、人的資本の公開情報からの事実の抜粋となります。事実情報はそのままお伝えしていますが、筆者による解釈が入る可能性がありますのでご留意ください。

図6(2026年9月29日 セミナー資料より)

NTTグループは、グループ内公募の「Job Board」と、社内副業の「ダブルワーク」を整備しています。
公募のほうは、旧制度では2022年度に応募179名・合格86名でしたが、新制度では2024年度に応募1,520名・合格819名になっています。旧制度の約8倍の応募です。向ける先を、まず社内に用意した形になります。

その上で社内副業の制度があり、所属している組織の業務を続けながら、勤務時間の一部を他の組織の業務に充てられるようにしています。勤務時間の内側で、向け先を制度にしているところが特徴だと読めます。

図7(2026年9月29日 セミナー資料より)

山田コンサルティンググループは、削減できた時間を、社員が成長し続けるための自己投資に充てると書いています。

同じ節に、フレックスタイム制の全社導入、工数管理ツールの導入、そして深夜残業の時間帯にPCへのログインを制限することが並んでいます。向ける先を自己投資と定めた上で、上限を同じところで決めている形です。

二社とも、時間を測る前に、人の時間を何に向けるのかを制度で想定しています。労働時間の管理を整えることと、その時間をどこに向けるのかを決めることが、同じ設計の中にあると読めます。

③ キャリアの自律 ― 評価・処遇への反映と、自社による基準の定義

こちらも調査から見ます。

図8(2026年9月29日 セミナー資料より)

この設問は、現状ではなく今後の意思を、三つまで選ぶ形で聞いています。自律的な働き方を自社の力に変えるために、何を強化すべきだと考えているか、です。

上位に来たのは、社外で得た知見や人脈を社内に還元する仕組みと、副業や社外経験を評価や処遇に反映する人事制度でした。

このうち、評価・登用への反映を実際に行っている企業は17.3%です。必要だと考えている企業が37.0%ですので、必要を認識した企業のうち、半分近くがすでに制度にしていることになります。先に意思があり、そこから制度化が進んでいる段階だと見ています。

人事の言葉に置き換えれば、これは評価の納得性の問題です。社外での経験を評価に入れるとき、何をもって評価するのかが決まっていないと、運用で止まります。先行して着手している企業が何を基準にしているかは、次回以降の記事で具体的に見ていきます。

ここで問われているのは、評価の方法です。新しいスキルが次々に生まれ、これまで希少とされてきたものが入れ替わりました。何をもって評価するのかが決まらないと、制度は動きません。すでに手を付けている2社を見ます。

図9(2026年9月29日 セミナー資料より)

リコーの「スキルアップグラム」は、プログラムの前後にスキルアセスメント(スキル測定・客観評価)を実施し、就業時間内に100%の工数をかけて4〜12か月間受講した上で、事前に確保した異動先へ移る仕組みです。

対象はIT人材、AI人材、SE人材、プロセスDX人材(業務プロセス全体のデジタル化・効率化を主導する人材)の4職種で、2024年度に94人が修了しています。あわせて、プロセスDX人材の認定はブロンズ・シルバー・ゴールド・プラチナの4段階になっており、ブロンズは国内グループの社員全員が対象で、2024年度に98%が完了しています。

測って、育てて、また測る。異動先を先に決めてから育成に入るところまで含めて、1つの仕組みになっています。

図10(2026年9月29日 セミナー資料より)

大光銀行は、「スキルポイント」と「社外経験割合」を、第13次中期経営計画の計数目標(具体的な数値目標)にしています。
何をもって評価するかを、外から持ってくるのではなく、自社の言葉で定義し、経営計画の数値目標まで上げている形です。

2社とも、評価の基準を自社で定義しています。評価の方法が定まらないという課題に対して、先に基準を決めるところから始めている、と読めます。

次回予告 ― ②所属の自律と④仕事の進め方の自律:発注する側の設計

次回は、社外の人材やAIに何をどこまで任せるのかという、発注する側の設計に近い二つを取り上げます。副業で得た経験を自社にどう還元するか、AIに何を任せて人に何を残すか、という論点を詳しく解説します。

 

出典・注記
*1 2026年「副業・兼業に関する人事制度」の実態調査
https://mirai-works.co.jp/mwri/report/report-humanresources/9615/

※各社の事例は、統合報告書および有価証券報告書等の公開されている情報から引用しています。出典は各図に記載しています。紹介しているのは記載されている事実のみですが、どう読むかの部分は講演者の理解によるものですので、その点はご留意ください。
※本文中の法改正の時期に関する記述は、現時点での予測を含みます。

 

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